フェアリーテイル 生命の唄   作:ぽおくそてえ

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どうもです。今回は初じゃないかというくらい書きました(四千字超え)
中身は薄いかもしれませんが、どうぞよろしく。


第17の唄 本心

「マスター、どうして…」

「退け。これから醜い争いになる。皆を連れて退いてくれ」

「で、でも!」

「心配しなさんな。ワシは大丈夫じゃ、ナツもな」

 

その言葉を証明するように、ギルド全体が揺れ、次第に崩壊していく。サラマンダーの全力の炎に瓦解しはじめたギルドのその様は、勝利がどちらにあるかを示しているようだ。

 

「ふふふ、私と貴方が戦えばどうなるか分かっていないとは言わせん。だが、貴様を殺すのが先のようだ」

「手だしはさせん。全てのガキどもに感謝する、ようやった。ギルドの魂、胸を張って誇れ!」

 

マスター同士、聖十大魔道同士の直接対決だけあって、魔力の衝突は激しいものである。地は揺れ、空は裂け、雷が轟く。まさしく天変地異と言った様だ。

 

「デッドウェイブ!」

「はぁっ!」

 

雲は渦巻き、空を闇が包む。頂上決戦を表すにはこれ以上の荒れ模様はない。

 

「何故ルーシィを狙った。その若さでその魔力、聖十大魔道としては十分な力があるというのに」

「あの家族の財産ですよ。ハートフィリア財閥の金さえあれば我々はもっと発展できますからね」

「短絡的な。彼女は彼女なりに悩み、苦しみ、笑い、戦って、そしてともに過ごしてきた。今はただの1人の少女であり、仲間であり、ワシの娘も同然」

 

ジョゼの心無い言葉は親心を持つマカロフの逆鱗に触れた。彼は怒り、そして巨人となったマカロフはその怒りをもって思い一言を放つ。

 

「お主はもう、捨て置けぬ。これより妖精の尻尾(フェアリーテイル)のしきたりに則り、貴様に3つ数えるまでの猶予を与える。跪け」

「は?何をいうかと思えば……跪けだ?ふざけるな!我々は貴様らなんかよりも上を行く!貴様らハエごときに屈服してなるものか!」

 

ここまで来て、まだ事態を飲み込めないジョゼはプライドに任せて虚勢を張り、咆哮する。

 

「3…2…」

「消えるのは貴様らだ!今ルーシィを差し出せば良いだけのこと!消えろ、フェアリーテイルゥゥウ!」

「1…そこまでだ。どうやら手遅れのようじゃな。消えよ…妖精の法律(フェアリーロウ)、発動!」

 

だが、その言葉はこの光の前では無力となった。マカロフの放った審判の光は、敵を葬り、仲間を守る妖精三大魔法の1つ、妖精の法律(フェアリーロウ)。その光はギルドどころか町中に轟き、フェアリーテイルのギルド前で戦っていたシェイドたちも悉く一掃していく。光が弱まり、空が晴れた頃に、そこに立っていたのはフェアリーテイルの者達だけだ。

 

「戦争は終結した。これだけの事をしでかしたんだ、これから評議会が騒がしくなろう。手前のことを心配していろ、お互いにな」

 

振り返り、勝利宣言をあげながら歩くマカロフの背中に現れたのはシリルに倒されたはずのアリアだった。戦争には負けたものの、せめて大将だけでも道連れにしようという魂胆だ。だが、それも失敗に終わる。マカロフの拳が見事なまでに直撃し、その小さな野望を打ち砕いた。

 

「去れ、さもなくば更なる闘争、終焉をもたらすぞ。ジョゼを連れて去れ。二度目はねぇと思えよ」

 

戦争は妖精達に軍配が上がって、終幕した。皆はお互いの無事を確認するや、大いに喜んで騒ぐ。自分たちの誇りと、仲間を守れたことへの何よりの嬉しさがあった。

 

====

 

全ての戦いが終結し、皆が集まったのはフェアリーテイルのギルド前。全壊はしていないもののかなり派手に壊されていた。

 

「おお、これはまた派手にやられたのう。修復するのにどれくらいかかるかのぅ」

「あ、あの…マスター」

「なんじゃルーシィ?」

「私のせいで…あの…」

「気にしなさんな。ワシらは皆、仲間を守るために戦ったんじゃ。そんな暗い顔は似合わんぞ?」

 

マスターの明るくも優しい言葉をかけられてもルーシィの顔は晴れない。自分の責任で、そんな言葉が心を反芻する。

 

「マスターの言う通りだよ、ルーちゃん」

「俺たちも、みんなも、誰もお前を責めやしねえさ」

「なんたって俺たちは仲間なんだ、家族なんだ。そうだろ?」

「うい。そう自分を責めなくていいんだ」

「レビィちゃん、ジェット、ドロイ、リーダス…」

 

皆の暖かい心はこのギルドにはあった。太陽より眩しい絆があった。だからこそ、皆が皆、家族であり仲間である者のために手を差し伸べる。そんな優しさがルーシィの心に染みて、涙を流させる。

 

「ありがとう、みんな…」

「それで良い。一人の喜びはみんなの喜び、一人の涙はみんなの涙、どんな苦楽も分け合えばいい。それがワシら、ギルドというものじゃろう?」

 

明けない夜はない。枯れない涙はない。皆で一緒に過ごせばどんな蟠りや悲しみでも、いつか晴れる。なんだって、それが人間というものなのだから。

 

 

それからというもの、フェアリーテイルはギルド間抗争禁止条約、器物破損などの罪状ですぐさま現れた評議会に取り調べを受けることとなった。

 

「だから、仕掛けたのはあっちでこちらはむしろ被害者なんです。そこのところ、どうにかなりませんか、ラハールさん」

「私としても貴女への恩があります。出来ることはしたいのですが、規則は規則、法律は法律です。上の判断を仰がねばどうにも…」

 

シリルの取り調べを行なっているのは以前の仕事で出会ったラハールだ。今回の事件で取り調べる人数が多いため、こうして部隊のものを従えて捜査に協力しに来ていた。

 

「そうですか……私から話せることはもうありません。そろそろ解放してもらえると助かるのですが」

「ご協力感謝します。ヤジマさんにはこちらからも口添えしましょう。今の私にはそれくらいしかできませんがね」

「そうして貰えれば十分。これ以上は望めませんから」

 

一週間以上にも及ぶ聞き取りを終え、取り調べ用のテントを出た頃にはもう既に日は高く昇っていた。

 

「お、シリルもようやく終わったか」

「顔の効く相手なだけマシでしたけど…ナツ兄さん、怪我は大丈夫です?」

「なんの心配もねえさ。ほら、この通りちゃんと動くしよ」

「良かったです。それにしてもルーシィ姉さん、見かけませんね」

「そういやそうだな。よし、エルザとか誘ってアイツん家行ってみるか!」

 

一度決めれば聞かないナツの行動力に半ば呆れ、半ば感心しながらもいつものメンバーを連れて早速ルーシィの家へと向かうことにした。そんなナツを見送り、シリルはユリアの元へと向かった。

 

「おーっす!ルーシィ、元気してるかー!」

「してるかー!」

「また不法侵入かよ。まぁ、いいか」

 

だが、周りを見渡しても彼女の居るはずの部屋はどこももぬけの殻。ルーシィの姿はどこにも見られない。

 

「あれ、居ないね?」

「どういうことだ?もしかして風呂か!?」

「いや、居ねえ」

「何先に確認してんだ!?」

 

2人のデリカシーのない言動にエルザは呆れるが、居ないとなっては目的の半分は達成されない。

 

「ふむ、心配になってきたな…ん?」

「どうしたんだ、何か見つけたのかよ、エルザ」

「実家に帰る、だそうだ」

「何!?マジかよ、アイツ何考えてるんだ!」

「分からん、急ぐぞ!」

 

====

 

ルーシィの部屋で慌てふためく3人が駅へと向かう頃、ルーシィは自分の実家であり、苦手な父親のいる仕事場へと久し振りに帰って来ていた。

 

「る、ルーシィお嬢様!?」

「久し振り、スペットさん。ごめんね、突然…」

「いえ、無事に戻ってこられただけで私は…」

「うん。ごめんね、それと…ありがとう」

 

久し振りに帰った実家では彼女を慕う使用人達が笑顔で出迎えてくれた。そんな中でも相変わらずだったのは彼女の父、ジュードだった。彼に伝言を託された使用人がすぐに会いに来るようにと伝えに来たのだ。

 

「相変わらずだな、あの人も。分かった、ちょっと待ってて」

「承知いたしました。折角ですから着替えていかれては?」

「そ、そうね」

 

別の使用人に連れられ、奥に進んでいく。ルーシィが館の中へと姿を消した頃、別の客人たちがこの館にやって来た。

 

「突然の来訪、失礼します。ここはハートフィリア家で間違いありませんか?」

「あの、どちら様ですか?」

「失礼。ルーシィ・ハートフィリアの友人です。それと…」

 

突然の来訪者は腕の甲にある『とある物』を2人揃って見せてみた。それには使用人も驚き、すぐに屋内へと案内した。

 

「ルーシィさんは今どちらに?」

「あちらの奥の部屋です」

「そうですか。申し訳ないですが、案内はここまでで十分です。後は私たちが」

「かしこまりました」

 

====

 

「遅くなりました。勝手に家を出たこと、申し訳ありません」

「よく戻ってきたな、ルーシィ。お前は自分の立場をわきまえたまえ」

 

ルーシィのいるそこは、厳粛なる主人の部屋、ジュード・ハートフィリアの執務室だ。2人は緊迫感のある部屋で対面していた。

 

「失礼しました。して、話とは?」

「うむ。お前もそろそろ結婚するべき年だ。そこで、我が社と協力してくれているある国の王子と結ばれてもらう。相手は分かるな?」

「はい…」

 

政略結婚というものだ。財閥の令嬢と国の御曹司が繋がれば、より一層財を成せるという考えから、ジュードは勝手ながらにも決めていた。

 

「もう話は終わりだ。下がれ」

「お父様…私は…」

「何をしている。下がれ!」

「話を聞いてみれば…勝手が過ぎませんか?ジュード・ハートフィリア」

「なっ!?誰だ貴様ら!」

 

ジュードの激昂が轟く中、その少女たちは悠然とルーシィたちの間に割り込んできた。

 

「この紋章を忘れさせたとは言わせませんよ。『冥府』と『生命』の紋章を…」

「し、シリル!?ユリアまで!」

「お姉ちゃん、びっくりしたよ。突然出ていっちゃうんだから」

「何故に神々の使いが私の娘を庇う?その子は私の娘だ、口出しは無用に願いたい」

「そうもいきません、我々は彼女を連れ戻しにきたのですから。友として」

 

家のことに干渉するな。その言葉に真っ向から反対する。それが何故かわからないとジュードはシリルの瞳を見る。

 

「彼女には彼女の本心があるんです。それを押さえつける権利は貴方にはない」

「本心だと?私は私なりにルーシィのことを思って…」

「ならば何故…傷つけるような真似を?そこが許せないのですよ」

「ルーシィ…お前は、お前の本心は…」

 

しばらくの沈黙が流れた。そうだ、自分の心はどこにあるのか。その答えを伝えにきたのだ。決意を秘めた瞳は毅然と見つめ返す。

 

「私は、私は今度は自分の言葉を伝え、この家を出させていただきます!貴方は私の大切なものを傷つけた。例えどんなに心配してくれようとも、どんな言葉をかけられようと、この決意は変わりません!」

「る、ルーシィ…」

「もしもママが生きていたなら、『自分の行きたい道を進みなさい』って言ってくれるだろうから。ありがとう、そしてさようなら」

 

それが別れの言葉となった。これまでの自分と決別し、自分の拠り所となる本当の家族と生きること。それが彼女の答えだった。

 

「そうか。私はどこか勘違いをしていたのかもな。神々の使いたちよ、貴女たちに感謝する」

「私たちは何もしてないよ。ただ、言わせてね。私たちを信じてほしい」

「そうか。本当に済まない」

 

山の向こうに落ちゆく夕日はどこか晴れやかな光を放っていた。これから進む妖精たちを導くように。墓参りを終えた3人はただ静かに歩いていた。

 

「2人とも、ありがとね」

「私は生命の巫女。人の意志が私にとって大事なんです。それを引き出したまで」

「みんな心配してたからね。だから、勝手だけど、ついてきちゃった」

「ううん。さ、帰ろ!みんなのいるギルドに!」

 

途中で合流したナツたちと共に満面の笑みを浮かべたルーシィは、本当の自分を見つける冒険へと向かうのだった。


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