今回は能力の説明を兼ねたものとなりますので戦闘はサクッと終わります、というか2技で終わりました。
それでもいいよという方はどうぞ。
シリルが『フェアリーテイル』に入ってから早くも一週間が経とうとしていた。仕事もまだ始めたばかりで、五日前と三日前に採取系の仕事を終えたくらいだ。そんな彼女はまた一仕事やろうとギルドまで足を運んだ。
「おはようなのです」
「お、シリルか。仕事か?」
「はい。あとグレイ兄さん、服きてください」
「うおっ!?すまん」
彼女を出迎えたのは服を脱いでしまう癖のあるグレイだ。彼はこのギルドを代表するような優秀な魔導師なのだが、この癖が玉に瑕である。
「初めてで怖いですけど、魔物討伐に行こうかなって」
「そういえばまだお前の魔法、まだ一回も見たことねえな?どんなのなんだ?」
「血を固めたり生命に流れる気功を使ったりです。グレイ兄さんの魔法ほど綺麗じゃないのです」
「いやいや、十分凄えだろ」
掲示板の前であれこれ話していると横からやって来たのは鎧に身を包んだフェアリーテイル女性魔導師最強と謳われる『
「仕事に行かないならそこ代わってもらっても良いか?」
「エルザ!?」
「エルザさん?この人が?」
「ん、そういえば君とは初めて話すか?私はエルザ・スカーレットだ、よろしく頼むよ」
「シリル・L・ゼウスティアです。初めまして…エルザ姉さん」
初めて会うエルザに少し緊張しながらも急いで一つの紙をボードから取っていく。そこには『黒き魔獣討伐』とあった。
「魔物退治か?1人で大丈夫か?」
「多分…いけると思います」
「あまり自信がないなら私もついて行こうか?少しは力になれるだろう」
どうやら今回の仕事に興味を持っているようだ。彼女の言った言葉に隣にいるグレイは驚きの表情を見せ、周りにいた仲間たちも口をあんぐりと開けている者もいればあれこれ口にする者もいた。
「おい、あのエルザが誰かと仕事だって?」
「かなり珍しいよな?」
「いくら新人とはいえなんでそこまで…」
「何か文句でもあるのか?」
「「「いえ、全く」」」
エルザの小さな怒気を含んだ鶴の一声でその場は収まり、そそくさとそれぞれのやっていたことへと戻っていった。
「それでどうだ?シリルさえ良ければ私も同行しよう」
「お願いしてもいいんですか?私、正直不安なので」
「分かった。それでは後でマグノリア駅で落ち合おう」
そう言い残し、エルザは先に準備に向かっていった。残された2人は少し呆然としながらその姿を見送るしかできなかった。
「……頑張れよ、色々と」
「はい!もちろんです!」
そして1時間後、マグノリア駅で落ち合おうとシリルは少し緊張しながら一人、エルザの到着を待っていた。
「遅いなぁ…もうそろそろ来るはずなのに」
「済まない、遅くなった。待ったか?」
「大丈夫です…よ?ってなんですか、その荷物量?」
「これか?全部服だ。まあこの量を使ったことは一度もないがな」
エルザの引いてきた台車には十数個のスーツケースがあり、二、三日もあれば終わるだろう仕事に相応しいとは言いにくい量がそこにはあった。
「とりあえず急ぎましょうか?(あんまりこの荷物について聞かないほうがいいかな?)」
「そうだな」
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それからというもの、目的地に着くまで数時間かかり、依頼者の元へと着いた頃には日が暮れかけていた。
「お待ちしてましたよ、お二方とも」
「遅くなって申し訳ない」
「今回の黒い魔獣ってなんですか?」
「ええ、実はそれ、普通の魔物じゃないんですよ。詳しく説明すると…」
彼が語るには、その魔獣は黒い蒸気を身にまとい、木々を枯らす何かを撒き散らすそうだ。評議会に調査を依頼したら、『ゼレフ書の悪魔』というものだと発覚し、その調査隊からの応援要請でもあるそうだ。
「ゼレフ書?昔の人だって聞きますよ、ゼレフって」
「まさかゼレフとは…これは捨て置けん状況になったな」
「地図のここに評議会の部隊がいます。合流することを勧めますよ。気をつけて」
思ったより厳しい仕事になりそうだと2人は腹をくくり、評議会の部隊が壊滅していないことを信じ、森の中にある彼らのテントへと急いだ。
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「皆さん、無事ですか!?」
「おお、救援か!君たちが手伝ってくれるのか」
「例のゼレフ書はどうなっている?」
「ジリ貧だな。あっちも弱っているが、こっちも疲れがね」
後方支援も限られており、評議会からの追加の兵隊も時間がかかるからか、今回フェアリーテイルの魔導士に仕事が回ってきたようだ。
「時間もありませんね。分かりました、案内してください」
「こっちだ。仕事次第で法律違反に少し目を瞑るとのことだ、気を引き締めてくれよ」
1人の評議員に連れられてやって来たのは魔物によって木々がなぎ倒され、黒い蒸気によって草が枯れはてている広場だ。何人かが既にやられていて、残りの数人も距離を詰めかねている。
「グルルル、ごあぁぁあ!!!」
「でかい。これが…」
「怯んでる暇はない、換装『天輪の鎧』!」
「ガオァアアァ!」
「行け、剣たちよ!」
先に動いたのはエルザだ。こちらに気づいて突っ込んできた魔物に先手を打って剣で四方八方から斬っていく。
「あれだけ血が出れば…『血縛鎖牢』!」
「グォオオ!」
「よくやった、これでそう易々と動けまい!」
魔獣から出た血を使い、そこから鎖を作って雁字搦めにしていく。
「こっちも封印の準備ができたぞ!そいつの何処かにある玉みたいなのを捕縛できればそれで良い!」
「一度倒したほうがいいな。シリル、追い討ちをかけてくれ!」
「は、はい!あまり傷つけることは好きじゃないけど……『気功掌』!」
「換装『黒羽の鎧』…『黒羽・一閃』!」
シリルの巨大な気の攻撃とエルザの鋭い一太刀により、魔物の纏っていた邪気が吹き飛び、気を失ってその場に倒れ伏した。
「ウゴ、ガッ…ぐぁああぁあ…」
「ふう、疲れたです…」
「後は封印をすれば…なっ!?」
「うわぁ!?」
「きゃっ!」
数人の評議員が封印を施そうと近づいた瞬間、黒い光を強く発しながら一点に纏まり、そして数分に及ぶ発光の末に一つの小さな球となって空中に浮き始めた。
「びっくりしました。えっと、これが例の?」
「間違いない、これを封印すれば終わりだ」
「助かったよ。正直このままじゃジリ貧だったしな。報酬はこれだ、後さっきの件、上に報告しておくよ」
無事に封印も施し、解散を言い渡された2人は依頼人にこの一件の顛末を伝えようとゆっくりとした足取りで戻っていく。
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「…という訳で、仕事は終わりました」
「そうか、ご苦労様です」
「それにしても評議会関係の仕事を貴方が間接的に私たちに回してくるとは、普通ではないことですが?」
エルザの疑問もごもっともで、普段評議会から各ギルドに仕事が行く場合はマスターや評議会に所縁のあるメンバー、あるいは聖十大魔道に直接依頼することがほとんどだ。
「でしょうな。しかし今回は私の独断です」
「独断?ということは…」
「ええ、評議会に連絡していては時間がかかると思いまして、各ギルドに直接依頼する形になりました」
「なんてリスクのある方法を…今回我々が受けなければどうなっていたか…」
「申し訳ない。ただ、こうするしかありませんでしたので」
「まあまあ、今回は仕方ないのです」
頭を下げる男をなだめ、お礼を言いつつエルザを連れて駅まで戻ってきたのだ。
「今回の仕事、一緒に来てくれて助かりました。ありがとうございます」
「気にしなくていい。ただ、今回みたいにいつどこで『ゼレフ書の悪魔』と戦うか分からん。気をつけてな」
「はい!ありがとうです!」
シリルにとっての初の大仕事は少しの波乱を含みながらも無事に終えてみせた。
今後他作品の技が出そうなのでクロスオーバータグ念のためにつけとこうと思います