折角なのでユリアを話しに絡ませようとしたらこのザマだよ。とりあえずロキの話です。
それでは本編どうぞです!
ルーシィの実家騒動から数日、ギルドの改装工事が進む中、仕事の再開がこの日ついにアナウンスされた。
「みんな!ギルドが出来るまで仮設カウンターで仕事の受付をするわよー!」
「うおおお!!待ってましたー!」
「工事ばかりで気が滅入ってたんだ!」
「しゃあ、暴れるぜー!」
この日を待ちわびていたのか、一目散に自分の目当ての仕事を手に取っていく。これまで工事しかしていなかったからか鬱憤がたまっていたのだろう。
「何あれ、いつもダラダラしてるのに」
「アハハ、そうね!そういえば怪我とか大丈夫なの?」
「ちょっと痣が出来ちゃいましたけど、今は大丈夫です」
「良かった。さ、ルーシィも仕事に行ってきなさい。家賃厳しいんでしょ?」
「そういえば今月も厳しいんだった…。うぅ、助けてシリル〜!」
ここ数日まともに仕事ができておらず、それによって収入も減り、万年金欠のルーシィにとってはピンチな状況である。そんな彼女がヘルプを求めたのはシリルだったが、シリルは少し残念そうな顔をしていた。
「ごめんなさい。私、今日からユリアと仕事に行く予定でして…その、手伝いといったほうが良いでしょうか?」
「あぁ、そうだった……しょうがない、ナツたちと行ってこよう。ありがとね」
「いえいえ。それじゃあ私はこれにて…」
そう行って去ろうとしたが、突然怒号と机が近くから飛んできた。その声からしてエルザだ。不穏な空気がギルド(仮)を包むなか、エルザの近くから強気な男の声が聞こえてきた。
「二度も言わせんなって。テメェらが弱えからファントムなんていう雑魚に戦争をふっかけられんだ。あぁ、なんつったか、そこの3人がやられなきゃそもそも事が起こらなかったんだろ?どうなんだ、ええ?」
長椅子に座り、ツラツラと文句を言うのはギルドで数少ないS級魔道士、ラクサスだった。今回の戦争では仕事でおらず、今しがた帰ってきていたのだ。
「貴様、何もしていないのによくもぬけぬけと…」
「事実を言ったまでだろうが。やるか、エルザ?」
「文句も口出しも喧嘩も、今の貴方にはする権利すらありませんよ、ラクサス兄さん」
「ちっ、口うるせえ奴が来たか。いいか、今度こんなナメられた真似されたら、俺がジジィに代わってギルドの頂点に立ってやる。精々頑張って足掻きな」
「上等。その時はギルド全員が貴方の敵です」
「言うじゃねえか。ハーッハッハッハッ!」
高笑いをあげ、緊張感と不穏な空気を残して去っていった。渋い顔をするエルザやレビィ、ミラジェーンやルーシィであったが、シリルの言葉に少し顔を緩めた。
「あの人に好きにはさせません…ミラ姉さん、この仕事、キャンセルで。ユリア、ちょっと来て」
「どしたの?もしかして仕事のこと?」
「そうね。折角だから姉さん達と行かない?そっちの方が楽しいだろうし、どう?」
「良いよ。じゃあまた後でね」
ユリアがあっさりと了承し、久し振りに最強メンバーで新しい仕事に出ることとなった。
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「そっち行ったぞ!」
「決めるのは任せたわ、ユリア!『血縛鎖牢』!」
「あいあいさー!『シャドー・ハンマー』!」
「ふぅ、これで終わりっと。おつかれタウロス」
いつものメンバーが集まったことで仕事も難なく終わり、予約していた宿もまだ二、三日残るほどのハイスピードだった。
「思っていたより簡単だったな」
「珍しく物が壊れないとはな」
「悪かったな、いつも壊してばっかでよ」
「まあいいじゃない。今日明日とゆっくりできるんだから」
その言葉通り、ルーシィたちは鳳仙花村にて思い思いに羽を伸ばしていた。街に繰り出す者、宿でゆっくりする者、修行に明け暮れる者と様々だった。そんな時間を過ごし、夜もふけようかという頃、全員で外を出歩いていた。
「たまには仕事の後にゆっくりするのもいいね」
「最近働き詰めだったからね〜。ようやく私も『神の啓示書』のコツが掴めたよ」
「ユリアとシリルは修行してたのか?次から私も手伝おうか?」
「その時は是非頼みます」
話し合って和気藹々とした雰囲気の中、1人、見知った顔と出会う。先の大戦で指揮を取っていた光魔法の使い手ロキだった。
「あれ、そんなとこで何してんだロキ?」
「よう。最近顔見せねぇから心配したぜ?」
「やぁ、元気そうだね。なに、仕事の一環だよ」
「あ、そうだ!仕事終わったら一緒にゆっくりしようよ!」
「え!?あ、いやぁ…悪いけど遠慮させてもらうよ。あ、あははは…」
いつもの歯切れの良さは鳴りを潜め、どこかぎこちなくて普段の軽さがどこかへ行ってしまったかのようだ。
「ロキ兄さん?どうしました?」
「なんか元気ないけど」
「心配かけてるみたいだけど、僕は大丈夫。じゃ、仕事に戻るよ」
そう言い残し、そそくさと何処かへと一目散に逃げていってしまった。
「ルーシィ、お前何かやっちゃったか?」
「何にもしてないわよ。なによあれ」
「星霊魔道士が苦手なのが起因しているのだろう。心配するな、いつものことだ」
普段の避け方と違うという、漠然とした不安が胸中を占める中、皆で休暇を終えてギルドに戻った。そして、その翌日。ルーシィの不安が的中してしまう。ロキが誰にも伝えず、ギルドを出奔してしまったのだ。
「そんな…」
「俺たちも今探してる。ルーシィも見つけたらすぐに知らせてくれ!」
「わかった!」
皆が必死の思いでロキを探す中、ルーシィは情報をかき集め、ある結論に至り、そしてその答えの導く場所に立っている。
「やっぱりここだったんだね?星霊魔道士カレン・リリカの墓」
「ルーシィかい?僕に何か言いに来たのかな?」
「救いに来たんだ。クル爺に話は聞いているよ?カレンを間接的にとはいえ、殺めてしまったこと。その罪を背負ってここにいること。そうでしょ、ロキ…いえ、黄道十二星座獅子宮の星霊、レオ」
「僕は…星霊界にはもう還れない。罪人はその死をもって償うものさ」
何もかもを諦め、友であり同じ契約者と共にあった白羊宮のアリエスを救う代わりに主人を見殺しにした罪を背負い、ここに命果てようとしていた。
「なんで…あなたは友達を救おうとしただけでしょ!?おかしいよ!」
「そうだよ。お兄ちゃんは友達と逢うまで死んじゃダメ」
「ユリア!?なんで君が…」
「私はね、弱ってたのを見て知ってた。だから来た、みんなを悲しませないためにもね。見てるんでしょ?星霊王さん?」
『盟友たる冥府神の巫女よ、そのものの罪は重い。いくら古き友や盟友の言葉とはいえ、聞き届けることは出来ない』
顕現した星霊王は、その威圧感、存在感は並々ならぬものであった。このような小さな案件に出るとは思ってはいなかったルーシィとロキは驚きを隠せない。
『古き友、ルーシィ・ハートフィリアよ。何故にその罪人を庇う?』
「例え罪を背負っていても、ロキはそれを清算しようと限界まで生き続けてる!それでもまだ贖罪は終わらないって言うの!?」
「もう十分戦ってきたんだよ?罪は消えないけど、これからは誰かの為に生きて贖うことは出来ないの?ねぇ、星霊王…」
「いいんだ、2人とも!僕は、僕はもう…」
死を覚悟し、あるがままに受け入れることを考えていたロキの言葉を否定するかのような2人の言葉に星霊王は耳を傾けた。
『誰かの為に生きて贖うか。たしかにそれも良し。そして、罪人を守り、それと共に歩もうとする友がいる。ならば…間違っているのは法かもしれん』
「じゃあ!?」
「星霊王…お願い。ロキお兄ちゃんとね、ルーシィお姉ちゃんを一緒にして欲しいの。巫女として、友人として、誰か死ぬとこなんて見たくない!」
『…古き友よ。それで構わぬか?』
「もちろん」
『ならばレオよ。これからは古き友を導き、星の輝きをもって守り通すと約束せよ。それを汝の贖罪とし、星霊界への帰還を許可する。星の導きと輝かしき友情に感謝せよ』
この日、堕ちた星は再び空へと還り、輝きを取り戻した。星の導く空は晴れわたっていた。