それでは本編をどうぞ!
「ハッピー、もう少し速くできそう!?」
「これが限度だよ!それにもう直ぐ着くみたい!」
「分かったわ。着いたらみんなのとこに戻って現状報告頼むね」
「あいさー!」
ハッピーのトップスピードに乗って風を切りながら進むと、頂点の間が見えてきた。あそこでエルザとジェラールが待っているのだろう、初手はどうすべきか考える。
「後10秒だよ」
「よし……離して!」
「頑張ってね!」
突入した今、ちょうどエルザをナツが抱えて助け、ジェラールが背を向けた好機だ。この手を逃すまいと、大きい一発を放つ。
「喰らいなさい!『生命神の一声』!」
「なっ!?いつの間に…『
「よくやったな、シリル。エルザ、大丈夫か?」
「お陰で助かった。だけどなんでお前たちがここに…」
「言っただろ、俺たちはお前の味方だ。どんな時でもな」
どうにか最終段階を食い止めたが、乱入してきた二人を前にジェラールは強烈な殺意を覚え、顔に青筋を浮かべている。
「お前ら…ゼレフの復活を前によくも邪魔してくれたな!」
「させませんよ。私は何度も止めてきました、今回は今までと同じように止めるまでです」
「仲間にこれ以上手は出させねえよ。行くぞシリル!俺たちのツーマンセルで、やつを倒すぞ!」
「これ以上遅れては計画も台無しだ!ゼレフのために露と消えるがいい!」
冷静さを失っているジェラールは一刻も早く二人を消してエルザを生贄にすべく、天体魔法をもって二人を塵にしようと全力を尽くす。まず、高速移動を可能にする魔法、『
「速い!目が追いつかねえ!」
「先読みするしかないですね。当たれ!」
「目がダメなら、鼻で…集中しろ……そこっ!」
「当たらない!?まだ速さを上げてくるの?」
「貴様らに彗星は追えねえ。七つの星に裁かれよ!『
ここで発動されたのは天罰を下す七つの星。塔自体を崩すほどの膨大な魔力を放ち、二人に降り注ぐ。だが、それをタダで受けるほど二人は戦闘に不慣れではない。
「天を名乗るにはまだ早いわよ!神の加護を見よ、『鉄血御柱』!」
「威力を削っておかねえとな…『火竜の咆哮』!」
「どれだけ削ろうと無駄なだけだぞ!」
その言葉通り、削ってみたものの、結局は暴力的なまでの威力を少し抑える程度に留まるだけだった。しかし、それのおかげか、逸れるものまであり、直撃によるダメージは軽減できた。
「無駄かどうかはまだわからない。諦めは敵ですよ」
「ふん、無駄な足掻きを……消えるまでの時間が伸びたに過ぎん。これで消えよ!」
地に降り立ったジェラールが両手を天に向けると、そこに黒い魔球が現れ、少しずつ大きくなって行く。天体魔法『
「今度こそ塵にしてやる」
「待てジェラール!この私を、生贄の私が殺せるか」
「エルザ、どういうつもりだ!」
「…自分の身を挺してか。だが、無駄だ。死んでも構わんのだからな」
自分の出来ることをしようとエルザが二人を庇うように前に出るが、敵にしてみればそれは些細なこと。止めるには至らない。無情に振り下ろされる魔法を前に最後まで仲間のために身体を張るが、いつまで経っても衝撃がやってこない。不審に思って閉じた目を見開くと、そこにはシモンが間に入って受け止めていたのだ。
「シモン、お前!」
「これで…これで良いんだ。お前らを守れれば…俺の命も…」
「馬鹿者!なんで…なんで…」
「俺は……お前が好きだったからだ。だから…」
「まて、シモン!…うわぁぁぁ!!」
護るべきものを失う悲しみは大きい。しかも、彼は自分の命を賭けて逝ったことはエルザに大きな影を落とす。
「くだらねえな!自分の命を無駄にしやがって!俺が楽園に導いてやった恩を忘れやがってよ!」
「ウルセェ!」
「なっ!」
心無い発言に怒りの拳を叩きつけたのはナツだ。全身から虹色の光があふれ、異様な魔力を帯びている。それはシリルも同様である。楽園の塔から溢れるエーテリオンの魔力粒子、『エーテルナノ』を食べた影響だ。
「ぐっ、があっ!」
「うっ、くうっ!」
「馬鹿めが、無茶な真似をするからだ!」
「うおおおお!」
片手に収まる量とは言え、密度は高く身体に収まりきる魔力ではない。が、神と竜の申し子は、反動をものともしなかった。
「おらぁ!」
「何!?コントロールしただと?」
ナツの体には竜の鱗が浮かび上がり、シリルは神の天輪が付く。ドラゴンフォースと
「これならお前を倒せそうだ」
「命をなんとも思わない貴方を…止めます!」
「面白い。これで終わらせる!」
「二人ともなんてことを…」
無茶な賭けを打つナツとシリルに言葉にならない感情を抱くエルザ。出会って間もないシモンのために、何故そのようなことが出来るのか、ジェラールは分からないと言わんばかりに呆れを露わにする。
「アホの一つ覚えだな。喰らえ!」
「その程度じゃ止まれません、『真・気功掌』!兄さん、進んでください!」
「俺たちの怒りを受けやがれ!」
「ぬあっ!」
パワーアップした進撃にもはや恐れはない。それまで当たらなかった拳が次々に当たるようになる。ジェラールの抱く畏怖が行動を鈍らせ、思考を止める。
「くそ、正面からはまずい!『
「逃げても無駄です!『鉄血御柱』、飛べ!」
「うおっ!?」
硬さも太さも飛ぶ速さも段違いになった神の御柱は着実に彼を追い詰めて行く。焦りを覚えるジェラールはもう、冷静さを失い、禁じ手を打つまでに至る。
「これはやりたくなかったが、時間さえあれば不可能はない!『
「あれは…まさか塔ごと壊す気か!?」
「また8年、いや、今度は三年で再び完成させてやる!」
「テメエに人の心はねえ!だから…幻影なんかに惑わされるんだ!目ぇ覚ましやがれ!」
最後の手段を使おうとする男に、遂に妖精の竜の翼が開かれる。空中を蹴り上がって飛ぶナツの紅蓮の炎は、ジェラールを遂に捉えた。
「これで終わりだぁ!」
「突っ込んでくるとは…」
「行ってください!ナツ兄さん!」
「夢と共に砕けちれ!『火竜の鉄拳』!」
全てを打ち砕く魔法が放たれるより早く、怒りの炎が放たれる。ナツの拳を受けたジェラールは塔に叩きつけられ、崩れゆく塔と共に深い海へと沈んで行く。
「これが…ナツたちの本気…(これで私の悪夢も終わる。お前のおかげだ、ナツ、シリル、そして…シモン)」
「終わりましたね。あとは…ここを抜ければ…」
「シリル!ナツ!」
全てを出しきり、仲間の悪夢を断ち切り、終わらせる。目的を果たした2人は笑みを浮かべながら意識を失った。エルザが望んだ結果と、悲しみを携えて。
その後、崩れゆく塔から脱した3人は暖かく外で待っていた仲間たちに涙と笑顔で出迎えられ、アカネビーチへと戻っていく。悲しい別れを知った彼らはまた一つ、成長しながら……。