フェアリーテイル 生命の唄   作:ぽおくそてえ

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お久しぶりです、ぽおくそてえです。しばらくオリジナルでお送りします。

バトルオブフェアリーテイル編はもうしばらく後になりますので何卒ご了承をば。


第4章 争う妖精 バトルオブフェアリーテイル編
第27の唄 輪廻廟


「よぉーし!やっとマグノリアに戻ってきたぜ!」

「あれからしばらく経ったからなぁ。工事が進んでりゃ良いが…」

「その不安も、あまり意味なさそうだな。ほら、見てみろ、完成してる」

 

アカネビーチにて一週間近くに及ぶ休暇を満喫した一行が到着したギルドは、今までよりパワーアップしていた。外装が新しくなり、小綺麗になっていたし、一回り大きくなっているようにも見えた。

 

「すげえな!」

「おう、お前ら帰ってきたのか。なんだかんだで久しぶりだな」

「マックス、お前なに売り子みたいな真似してんだ」

「事実売り子だよ。新しくなっただろ、ギルド。その際に売店も作ったんだ。中の説明は他の奴らに聞いてくれ」

 

そう言われて中に進むと、カナがこちらに気づいて寄ってきた。改修されたことをいち早く伝えたいのか、表情まで明るい。

 

「あんたたち、なかなか顔を見せないから心配したよ!ま、とりあえず中を見な!」

「おおー!広い!」

「ウェイトレスの服も変わってるな!」

「それだけじゃないよ。プールに地下遊技場があるし、上の階のS級魔道士専用スペースが開放されてね。仕事もS級魔道士がいれば誰でも行けるようになったんだ!」

「俺たちが勝手に行かなくてもいずれこうなってたってわけか。無駄骨だったな…ってどうしたナツ?」

「違いすぎて慣れねえ」

 

ナツは前までのギルドが良かったのか、かなり不貞腐れてる。そこにマスターがある人物を連れてやって来ていた。先日の一件で協力し、先にギルド加盟に動いていたジュビアだ。

 

「よろしくお願いします」

「本当に入っちまうとはな」

「あの時は礼が言えなかったな、ありがとう」

「おろ、知り合いかの!?」

「ええ、つい先日お会いしまして。元ファントムの方ですが、多分信頼しても大丈夫です」

「そうか、なら一層仲良くしてやってくれ。ああ、それともう1人おる。ほれ、挨拶せんか?」

 

もう1人新入りがいる。ジュビアの仲間入りは予想できたが、もう1人については全く聞いておらず、予想ができない。だがそれも、数秒で理解することになる。

 

「ガジル!?」

「なんでこいつがここに…!」

「こいつはギルドを破壊したんですよ、マスター!どういうことですか!」

「まあそう騒ぎなさんな。ワシが彼を直に引き入れたんじゃよ、そこにいるジュビアのたってのお願いでな」

「さすがに放って置けなくて…別に好きとかそういうわけじゃないんですよ?」

「ふん、好き勝手言いやがって」

 

やはり相手が先の戦争の主犯格なだけあって大半のメンバーは警戒心を抱かずには居られない。同じギルドに居ながら、早速溝が出来てしまう。

 

「まあまあ…ここに入ったってことはマスターにも考えがあるんですよ、きっと」

「昨日の敵は今日の友。根は悪い奴じゃないし、先の件もジョゼの命令じゃ。奴も改心すると思うておる」

「マスターの意向なら我々も反対しませんが……」

 

戻ってきて早々に波乱の予感がしているが、この日は何も問題なく、1日を終えることとなった。そして次の日、シリルはユリアを連れてある場所まで来ていた。

 

「ここ何?」

「『輪廻廟』よ。聖域の1つでね、修行にはもってこいよ」

「初耳」

「殆どの人は知らないからね。ただの遺跡にしか見えないわ」

 

入り口を抜け、階段を降り、さらに奥深くまで進む。そこは地下なのに森が形成されており、その中央には蔦が絡まった祠がある。

 

「うわぁ…鬱蒼としてるね」

「ここが本体の入り口よ。ちょっと封印解くからさがってて」

「う、うん。でもこれ誰が作ったの?」

「私も知らないわ。修行をちょっとさせてもらっただけだし」

 

神代から伝わるかなり古いもので、存在や由来、開門法を知る者はごく一部だし、設計者となると古くから存在する神以外誰も居ない。指で空をなぞり、不思議な呪文を呟くと、それに呼応して門に紋様が浮かび、扉が厳かな音を立てて2人を受け入れるために開かれる。

 

「行くわ。覚悟はできてる?」

「うん!」

 

味わった悔しさをバネに2人はさらなる高みを目指し、修行に励む。この輪廻廟では時の流れが外とは大きく異なり、外の3倍の速さで時が流れる。つまりは外の1日が中の3日分に相当する。修行者が短期間で力をつけるには、もってこいの修行場だ。

 

「何をすればいいの?」

「そうねぇ……この6つの部屋のどれかを選んで、それに見合った修行をするの。天の間なら魔力、人の間なら丈夫さ、修羅の間なら体力、判断力、筋力ってね」

「じゃあ天の間行こっ」

「私もそこにするわ。魔力の底上げをしなきゃ大技出せないし」

 

大扉の先にあったのは、静かな空間のみ。数体の石像と御神体が見守るだけだ。

 

「さて、私たち神の巫女が力の底上げをする方法って知ってる?」

「瞑想するの?」

「そう。心にある器と向き合い、精神力と想像力を養い、中身の質と量を底上げするの。私たちは仙人の力に通じるものがあるから、どちらかっていうと昇華に近いかも」

「なんか難しそうだけど…」

「大丈夫。まずは座禅を組んで、深呼吸よ」

 

神に仕える者の魔道士とは違う力を身につけるには魔力の流れ、空気の流れを感じ、それに乗って流れるように自然に合わせる力を身につけることが必須だ。魔力の流れを掴み、自分の力に変えることが神の一歩手前の仙人に到達する方法だ。

 

「じゃあ、始めましょ」

「うん…ふぅっ」

 

静かな時間が流れ、呼吸をする音しか聞こえず、心音さえ漏れ聞こえるのではないかというほどに静まり返る。2人きりの修行である。

 

====

 

マグノリアに目を向ければ、夏の終わりとともにある祭りへの準備がちらほらと見て取れるようになる。この街有数の収穫祭、ファンタジアである。そこを歩くマカロフとミラもその楽しそうな雰囲気に包まれた街を楽しそうに眺めながら、買い出しを済ませて歩く。

 

「いやぁ、いよいよこの時期がやってきたのう」

「私も楽しみです。秋到来、って感じですね〜」

「今年のパレードはどうしようかの〜」

 

街有数のギルドとあって、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の方でも夜にパレードを行って、祭りを盛り上げる。

 

「そういえば、ラクサスが戻ってきたって聞いてます?」

「あやつがか!?この大事な時期にあの問題児が…昔は素直で可愛いものだったのじゃがな〜」

「彼も参加してくれると良いですね」

「そう願うばかりじゃ」

 

遠い目で空を見上げるマスターを励まそうと、ミラは努めて明るく振る舞う。

 

「今年は新しい子たちがたくさん来ましたし。ほら、ユリアとかルーシィとかジュビアとか…」

「おお、そうじゃった!して、ユリアとシリルはどこに行ったんじゃ?一昨日から見ておらんが…」

「一週間ほど空けるそうです。マスターに伝えてあるって言ってましたが」

「……忘れとった」

「しっかりしてくださいね」

 

最近は何かと多忙なだけあり、忘れてしまうことの1つや2つは出来てしまう。面目無いと心の中で詫びを入れながら、少し肌寒い風が吹く通りを過ぎていく。荷物をギルドに置いた彼は、彼のための執務椅子に腰を下ろす。

 

「今年も無事に祭りが終わると良いが」

 

ラクサスの帰宅とあって一波乱ありそうだと、家族を信じてやれない不甲斐なさと不安が渦巻く。

 

====

 

「最初の2日間は天の間だったけど、今日からどうするの?」

「修羅の間よ。全身に魔力を薄く纏うようにしなさい、入ってすぐにレースが始まるわ」

「レース?」

「森の中を全速力で走るのよ。途中で大岩がいくつも置いてあるから魔力の拳で壊すこと。それ以外の方法はないわ」

 

先程とは違う類の集中力が求められるこの修羅の間。走りながら足や拳に魔力を纏って行く手を阻む障害を乗り越えていかなければならない。

 

「準備はいいかしら?」

「天の間を先にやってて良かったよ。効率よく行かなきゃね!」

「行くわよ!」

 

入ってみると、木々が生い茂りながらも一本道を成しているのが見えた。何処からともなく音声が流れる。

 

『修羅の間、試練開始まで5、4、3…』

「全速力よ。振り返ったら終わりの一本勝負!」

「集中しなきゃ…!」

『2…1…はじめ!』

 

一本道を駆け出す2人。そんな2人を妨害するのは木の根っこに枝、大小様々な石だ。あるものは伸び、あるものは動いて迫ってくる。

 

「臆さず驕らずに進んで!一瞬の隙や慢心が命取りよ!」

「分かってるよ!」

「最初の大岩が来るわ!拳に力を込めて!」

「うう〜……はあっ!」

 

一瞬でも気が抜けないし、少しでも速度を落とせば後ろから迫る悪霊にとって喰われる。彼らはこの間で命を落とした数千年に及ぶ修行者たちの怨念だ。

 

「(やっぱり噂通りね)ユリア、振り向かずに速度を上げて!今度は私が前に行くからしっかりついてきて!」

「分かった!」

「全魔力解放……『神依・脚』装着!」

 

あの楽園の塔による一件から平時でも一部の神依を装着できるようになり、それをつけた今、全速力の壁のさらに先まで行く。姿勢を低く保ち、ジグザグに根を避け、枝を避ける。ユリアも負けじと親譲りの神の力をもって更に加速する。

 

「また岩ね。破ぁ!」

「道が分かれてるよ!」

「私は左、そっちは右よ。絶対にあっちで合流しましょう!」

「うん!」

 

修羅というだけあって天の間とは段違いの鬼畜さだ。それぞれの間を司る大いなる存在が自分たちの鍛錬のために使ったとも言われ、並の人間では1つの間を突破するのがやっとだ。

 

「この輪廻、必ず突破する!」

 

神の申し子、この試練を乗り越えるため、次元を超える勢いでただひたすらに駆け抜ける。


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