ではどうぞです。
第1の唄 最強チーム結成
あの『ゼレフ書の悪魔』との一戦から一年が経ち、様々な仕事をこなして行くうちにシリルも15歳となっていた。x784年の夏のこの日も彼女は一仕事終えてギルドに顔を出していた。
「こんにちはです、ミラ姉さん。マスターは今日いないんですか?」
「おはよう、シリル。そうなのよ、評議会に朝から呼ばれててね」
「残念です。エルザ姉さんも仕事みたいだし、ナツ兄さんもいないし、ちょっと寂しいなって」
「うふふ、私がいるじゃない」
「えへへ、そうでした」
一年も一緒のギルドにいると、自然ときょうだいの様に仲良くなっていく。
「そういえばお母さんとかに手紙とか出さなくてもいいの?心配してると思うけど…」
「たまに書いてますよ?ちゃんと返事も来てるのです」
「大事にしなさいね」
「はい!あ、それとこれお土産です。お母様からの手紙についてました」
ミラに差し出したのは祠のある村の様々な特産品だ。チキを祀っている村では、時折上納品として様々なものが祠に納められる。嗜む程度にしか食さない彼女には余りある量が納められるため、こうして送ってくれる様になったのだ。
「これ、結構上物じゃない。折角だし、みんなで食べましょ?」
「そうしてもらえると助かります」
「あら、丁度ナツ達も帰って来たみたいね」
その言葉通り、玄関の方から騒がしく帰って来たのはナツと相棒のハッピー、そして見知らぬ女性だった。
「女の人を連れて帰ってくるなんて珍しいですね。ナツ兄さんに限ってないと思いますけど、彼女とか?」
「流石にないと思うわよ。ナツ、ハッピー、お帰りなさい」
「おっす」
「ただー」
自分の親である『サラマンダー』のイグニールを探していたのだが、その表情は晴れやかではなかった。
「お疲れなのです。サラマンダー、見つかりました?」
「いや、偽物だったよ」
「なんかキザな奴だったねー」
「残念でしたね。ところでそっちの人は誰です?」
後ろであたりを不思議そうに見つめている人が気になり、そして一体何のために来たのかを知ろうとナツに質問してみた。
「こいつルーシィって言うんだが、ここに入りてえらしいんだ」
「それだったらミラ姉さんに頼んだ方が早そうですね。お願いできます?」
「もちろんよ。ほら、こっちおいで」
「あ、はい!うわぁ、本物のミラジェーンさんだ…」
時々雑誌でグラビアに乗るため、方々で人気があるミラにとってはこういうファンも少ない訳じゃない。ルーシィもその一人なんだという。
「ギルドに入るならスタンプを押してもらうんです。私は右の太もも、ナツ兄さんなら肩です」
「ヘェ〜…そういえば君誰?」
「シリル・L・ゼウスティア、巫女です」
「巫女さんなんだ…(まだ小さいのに…)えっと、ルーシィって呼んでね」
「よろしくです、ルーシィ姉さん」
軽く挨拶を済ませたところでミラに呼ばれたルーシィを見送り、残されたハッピーたちと話を続ける。
「何があったんです?イグニールさんを探してたのでは?」
「それがさっきも言ったけど偽物のただの人間でよ、そんで事件に巻き込まれそうになってたあいつを助けたらいつの間に…」
「あい、それに星霊魔法が使えるんだ。すごかったよ」
「ヘェ〜、見たかったです!」
初めて会うルーシィの事をあれこれ話しているうちに、手の甲にスタンプを押してもらったルーシィが嬉しそうにそれを見せてきた。
「へへーん、これで私もみんなの仲間入りだね!」
「おお、良かったじゃねえかルイージ」
「ルーシィよ!失礼ね」
「ナツ兄さん、流石に入ったばかりの人にそのギャグは無しですよ」
「良かった、普通の人がいて…」
「このギルド変わった人が多いですから」
新しいメンバーが入った事で、ギルドの雰囲気も少しずつ運命の歯車が噛み合ったように変わっていこうとしていた。
数日後、いつものように騒がしいギルドにやってきていたシリルとルーシィがいた。
「どうですか?このギルドには慣れました?」
「うん、お陰様でね。そういえばマスターは?」
「今日は地方ギルド連盟のお仕事行っててしばらく帰ってこないと思うわよ」
「ギルド連盟?」
聞き慣れない言葉に首をひねるルーシィにミラジェーンが光ペンを借りて図で説明していく。曰く、地方ギルド連盟に加盟するギルドは互いに連携して違法なギルド、所謂闇ギルドが起こす犯罪や地域で起こった重大な物事をマスターやその代理が集まって話し合う場所がギルド連盟であり、評議会の傘下にあるギルド同士の連携の賜物である。
「協力し合わないと『黒いギルド』、闇ギルドにやられちゃうからね」
「物騒ですね、ミラさん」
「変に首を突っ込まなければ普通は会いはしませんよ」
不安そうにするルーシィに優しく宥める2人。そんな彼女たちのところに仕事を終えて帰ってきたナツとハッピーがやってきた。
「ルーシィって結構ビビリだよな」
「ビビリルーシィ、略してビリーだね」
「そういうの良いから」
「でも、ギルド同士の協力は大事だし、闇ギルドも好き放題やってるのは確かなの」
「ナツとかスカウトされそうね」
殺人や犯罪に関わる仕事を重ね、解散命令やマスターの逮捕が行われたにもかかわらず、好き勝手やっている闇ギルドは依然として数多く存在している。そういった話をしているとギルド内が急に騒がしくなりはじめた。
「エルザだー!エルザが帰ってきたぞ!」
「やべぇ!俺仕事行ってくる!」
「諦めろ、道で会うだけだぞ」
明らかに動揺するギルド内に違和感を覚えたルーシィは隣にいるシリルに質問していく。そのシリルがあまりに冷静なことも質問したくなった理由だ。
「どうしたの?なんか急に騒がしくなったけど」
「うちのギルドのエースが帰ってきたみたいです。エルザ姉さんって真面目で良い人なんですけど、ギルドがギルドですから、苦手な人が多くて」
「叱ると少しうるさいのよね。ナツとかグレイとか前に怒られてからトラウマ気味なのよ」
「あらま…」
そうこうしているうちに、大きな音と少しの地響きを立てながら帰ってきたのはフェアリーテイルの女性魔導師最強と謳われるエルザだ。その手には仕事先で得たのだろうか、大きな魔物の角を抱えて帰ってきたのだ。
「遅くなったな。マスターは居られるか?」
「会議中よ。今はいないわ」
「そうか、残念だ。それよりも貴様ら、また問題ばかり起こしてきたようだな。マスターに迷惑かけるんじゃない」
帰ってくるなり問題行動を起こすギルドメンバーに1人ずつ説教していく。その姿にルーシィは少し引き気味だ。
「なんなのあの人?」
「あれがエルザなんだ」
「あれがエルザさんらしさですね」
「そ、そうなんだ」
一通り説教し終えたエルザはなぜか固まるナツとグレイの元へと向かった。普段は喧嘩ばかりする2人だが、エルザの前では大人しくしており、むしろ仲良く肩なんか組んでいる。
「よ、よおエルザ。俺たちは仲良くしてるぜ」
「あ、あい」
「それは良いことだ。さてと、早速だが2人には私と仕事をしてもらいたい」
「「ナニィ!?」」
エルザが他人と組む珍しさに加え、手伝うのではなく手伝わせるとなれば尚更珍しい。いつもとは違う騒がしさがギルドを包み込んでいく。
「そんなに珍しいの?」
「一年前に私を手伝ってくれた以外なら、誰かと行くなんてなかったと思います」
「たしかに珍しいわね。しかもあの3人が組むなんて、もしかしたらギルド最強チームになるんじゃないかしら…」
驚きを隠せない2人やルーシィが見守る中、エルザは用事を伝え終えると文句を垂れるナツや状況の飲み込めないグレイを放っておいて足早に去っていった。
「あの3人じゃちょっと不安ね。ルーシィ、シリル、付いていって」
「は、はい」
「ミラさんの頼みとあらば!」
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次の日、マグノリアの駅に集ったのはナツ、グレイ、ハッピー、ルーシィ、シリルの5人で、エルザを待つだけの状況になっていた。
「ったく、なんで俺がこんなクソ炎と…胃がいてぇ」
「俺だってお前となんか組んでられるか。エルザの頼みじゃなかったら断ってたってのに」
「二人とも喧嘩しないでください。エルザ姉さん、もうすぐ来るんですよ」
「「そ、そうだった」」
いつもは別々に仕事をすることが多いこのメンバーだが、エルザの招集とあって珍しく集まっている。喧嘩をしそうになっていたナツとグレイを押さえるシリルを横目に見ていたルーシィはいち早くエルザの到着に気づいたが、彼女の持つ荷物量に驚きを隠せないでいた。
「すまない、遅くなったな」
「荷物多っ!?」
「いつもこんなですよ。エルザ姉さん、お久しぶりです」
「うむ、シリルもナツもグレイも仲良くやっているようだな。ところで君は?この前見かけたが」
先日同じギルドにいながら、ようやく初対面を果たした2人はお互い挨拶しながら事情を話していく。
「ミラさんに頼まれてやってきましたルーシィです。よろしくお願いします!」
「そうか、色々聞いている。危険な仕事になりそうだが、君なら大丈夫だろう」
「危険!?」
「ふん、そんなことよりよ、エルザ。帰ったら一つだけ約束してくれ」
「約束?」
グレイとシリルが止めようとするが、それでも構わずに言葉を続けた。
「帰ったら俺と勝負しろ!」
「何いってんだお前は!?」
「ふふ、お前も成長しているようだしな。分かった、受けるとしよう」
「姉さん!?」
「さて、話はここまでにしよう。詳しい話は車内でしよう」
新しいメンバー、ルーシィを加えた最強チームは新たな闇に立ち向かうべく列車に乗った。