今回から半ば強引にバトルオブフェアリーテイル編開始です。まあ、途中参戦ですがね。
「よし、これで修練は終わりね」
「し、死にそ…なにあの最後の二つの難易度……『餓鬼の間』、どんどん魔力取られるから…はふっ」
「まあそれも無事に終わったんだし、生きてるんだから。来た時よりパワーアップは十分してるはず」
輪廻廟にて過密な修行は一度幕を下すこととなる。何日もギルドを空けていることもあり、最後の『地獄の間』をやる予定を切り上げて帰る。
「もうあと少しでファンタジアだね。今年はお姉ちゃん参加するの?」
「そうねぇ。せっかくユリアも来たんだし、頑張っちゃおうかな?」
「お祭り、お祭りっと!楽しみだよ」
力をつけて自信もついた。そう長くない修行時間で得たものは決して少なくはないだろう。しばらくは祭りを楽しもうと明るい表情を浮かべながら帰り道を歩いていると、遠い空に雷がちらっと見え隠れする。晴れているのに局所的に雷が落ちる。不穏な空気を感じると、2人の隣にある男が姿をあらわす。
「こうして会うのは初めてか、生命の巫女と冥府神の申し子」
「すみません、どなたでしょうか?」
「名乗っていなかったな、失礼した。私はミストガン、ギルドのS級魔道士だ」
「確かギルドに何人もいないっていうすごい魔道士なんだっけ?」
「その通りだ、そして私はあの雷鳴を、ラクサスを止めに来た」
これまたS級で、マスターの孫にあたるラクサスはギルド最強の一角を担うほどの強豪だ。そんな男がなぜか暴れ、猛威を振るっている。
「これはギルドや街にとっては危険な状況、即座に止めるべき。ついて来てくれ、今は2人の力が必要だ」
「祭りどころじゃありませんね、そんなんじゃ…」
「なにすればいいの?」
「まずはラクサス親衛隊の雷神衆の3人を止める。さすれば、後顧の憂いなくラクサスを止めに行ける」
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「くっ、ラクサスめ!ミスフェアリーテイルの出場者を人質に取るとは…これでは…」
「あのヤロー、卑怯な真似しやがって!こんな面倒な術式さえなけりゃ!」
その頃、既にマグノリアはラクサスの起こした反乱により、阿鼻叫喚と化していた。ファンタジアの前日に行われる秋祭り1日目のミスフェアリーテイルの会場に突如として乱入し、マスターの座を譲るように脅迫。女子数名を雷神衆の1人、エバーグリーンの
『参戦メンバー、残りあと2人』
「何!?あとはここにいる2人だけじゃと!?」
「こりゃあヤベェぞ」
「ぐぬぬ、なんで出れねえんだっ!こうなったら誰か復活させるしか…」
「待てナツ!早まるな!」
マスターが止めた矢先に電光掲示板にある文章がおどり出る。それが吉報か凶報か、静かに見守るなか、更新された情報にはこう書かれていた。
『参戦メンバー更新。
ーミストガン参戦
ーシリル参戦
ーユリア参戦
残りあと5人』
修行によって出ていた2人と仕事で外にいたミストガンの思わぬ参戦により、逆転のチャンスが生まれる。嬉しい誤算が発生したことにより、マスターの顔にも安堵が広がる。
「これは攻めるチャンスかもしれん…頼むぞ、3人とも…」
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「私はこのままラクサスの元へと進む。2人は雷神衆からだ」
そう言って姿を霞のように消し去る。残されたシリルとユリアの眼の前に、1人の女性が代わりに姿をあらわす。雷神衆の紅一点、エバことエバーグリーンだ。
「まさか途中参加者が出るなんてね。はじめまして、とだけ言っておくわ」
「ユリア、あなたは他へ…この人は私の獲物」
「うん。気をつけて…」
「私に勝つつもり?随分と舐められたものね」
暗に自分が一人でも勝てる、事実上の勝利宣言をしていることに、エバーグリーンは己の実力と自信が傷つけられたと考えてしまう。シリルは先ほどまでの修行により、心に自信がついたことがそうさせているのかもしれない。
「途中で倒れてたリーダス兄さんから聞きました。貴女の魔法の効果が切れれば人質は解放される……ここで貴女を、倒す!」
「かかってきなさいよ。負けるつもりはないわ」
浮遊していくエバーグリーンを追って建物の屋根を飛ぶように伝う。修羅の間での修行に比べれば他愛ない。
「こちらから行かせてもらうわ。『妖精爆弾グレムリン』!」
「(思ったより広い。でもいける!)『生命神の大一声』!」
魔力の総量が増えたことと質が上がったことにより、前よりも更に強力な一発が撃てるようになった。強くなった咆哮は爆発する鱗粉を吹き飛ばすにはもってこいの威力である。
「なんて馬鹿力なの……」
「これが私の
「惜しいわね。ほら、こっちよ」
「逃がしませんよ、『神依』発動!」
挑発するように逃げるエバに追うシリル。建物の中を抜け、柱を越え、煙突をよけ、エバのしつこい弾幕魔法を避けながらどんどんと距離を詰めていく。
「思ったより早いわね…これでどうかしら!?」
「くっ!」
つけていた伊達眼鏡をずらし、魔眼を発動する。それをあらかじめ聞かされていたシリルは顔を伏せ、難を逃れるが、その隙をついて距離を開けられる。
「あの眼、厄介ですね……」
「とどめよ。『妖精機銃…』」
「それはさせぬ!はぁっ!」
間に割り込んできたのは石化から復活したエルザだ。彼女の復活は予想外なのか、さっき以上に苛立ちが目立つ。
「まさか
「そんな逆恨みを発しても私はお前にはなれないし、お前は私にはなれない」
「助かりました、エルザ姉さん。でもなんで…」
「理由は後で話そう。私に続け!」
エルザの剣閃は美しく、大胆であり、優雅だ。久しぶりに組むツーマンセルは先程までの拮抗状態を崩すには、開いた期間など無かったかのように滑らかなまでに進む。
「舞え、剣たちよ!」
「『弾血乱舞』!」
「小癪な、『妖精機銃レブラホーン』!」
必死に抵抗するが、S級魔道士の援護による差と2対1という状況下では追い詰められるのは必定というべきか、逃げ場をついには失ってしまう。
「いけ、シリル!トドメを!」
「はい!聖なる力は邪をも打ち破る、『
「これが…妖精女王の強さ…そして、神域の覚悟…私は……」
もはや撃墜は火を見るより明らか、エバは目を瞑り、大技が当たるのを静かに待つ。だが、待てど暮らせどいつまで経っても衝撃や痛みが襲ってこない。恐る恐る目を開けると、思っていた以上にまずい光景が広がっていた。エルザの幾多もの剣が浮いていたのだ。
「えっ?あの、これどういう…」
「お前を気絶させるのは彼女たちの石化を解いてからだ。断るたびに剣を一刀ずつ飛ばす、良いな?」
よくよく見れば、服の両袖は剣で止められており、逃げる隙を封じられ、その上には大穴が空き、万が一逃げればすぐに消し炭にされかねない。諦めるしか無かった。
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「うぅ…あれ?」
「っ!石化が、治っておる!」
「もしかしてあの二人…やったのか!」
ギルドでは、石化されていた女性陣が悉く元どおりに戻っていた。右目の義眼の影響でいち早く復活を遂げたエルザ以外のミスフェアリーテイル出場者は元に戻り、理不尽なゲームの人質は解放された。もはや無用な争いに参加する理由はない、そうと言わんばかりに堂々とマスターは胸を張る。
「いやぁー、シリルもエルザもようやってくれたわい!これであとはラクサスを……」
「まさか私たちが石にされてる間にそんなことになってるなんて…」
「あいつを一発ぶん殴らなきゃねぇ」
「やめておけい。このふざけた悪戯に付き合うことはもうない」
このままラクサスをなんかしらの形で罰を加えれば終わり、そのように思えた瞬間、マスターの容体が急変する。突然胸を苦しそうに抑えたかと思えば、その場で動かなくなってしまう。
「う、ぐぅ…」
「大変!いつものお薬を…みんな、マスターを救護室に連れて行って!心臓の持病よ!」
「くそ!死ぬんじゃねえぞ、じっちゃん!」
慌てふためく状況の中、二階にある薬を取りに行っていたミラから新たなる情報がもたらされる。どうやらラクサスが次の手を打ってきたようだ。皆で外に出ると、空には見慣れない球体が町中に浮いている。
「なんだあれ?」
「あれは確か…『神鳴殿』、設置型の魔法だよ。あれが発動すれば、町中に雷が大量に落ちるね」
「じゃあ撃ち落とすしかないね」
「やめておきな。あの魔法に攻撃すると反撃して来る『オートカウンター』型の典型的な魔法さね」
そうとなれば落雷の発生するより早く、ラクサスに止めさせる以外の手はない。こちらの方針は決まった、ならば動かねばならない。皆で一致団結して動くこととなる。
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「敵って誰だろ?このギルドの人、知らない人多いからな〜…うわぁ!」
「へぇ、今年は新入りが多いな」
「え、仮面に人形?何あれ?」
「雷神衆ビックスロー、テメェを倒す男だぜ、覚えておきな」
雷神衆は残り2人。果たして雷鳴轟く児戯はどちらに転ぶのだろうか。
次回はまだ先となります