日も沈みかけている頃、ハッピー、ユリア、シリルとエルザは偶然にも再開できた。
「ユリア!」
「あ、お姉ちゃん!」
「どうやら何か上手くいったみたいだな」
「ビックスローって人倒して来たんだ!ルーシィお姉ちゃんは魔力の使いすぎでへばってる」
「となると、残る雷神衆はフリードのみか。私はラクサスの元に向かうが、お前たちはどうする?」
止めることの出来る魔道士は残り少ない。ミストガンが先に向かっているとはいえ、こちらが勝てるとは限らない。
「少し気になるものがありまして。あの空の……あれをどうにかしたいので」
「神鳴殿か」
「神が鳴る……私たちへの挑戦なのかな?」
「分からん。別れるのなら、急ぐ他ない…ではな」
エバから得た情報を頼りに駆け出すエルザを見送り、残った3人は静けさを取り戻しかけている街の中でしばし思考に耽る。
「あの神鳴殿って魔法、どんなものかわからないね。一旦ギルドまで戻ろう」
「おいらはルーシィのとこに戻るよ。それと、あれオートカウンター付きだって」
「オートカウンター?そんなものまで……彼の狙いは私たちの動きを止めて、降伏させるってところかしら?」
吹く一陣の風は少し不気味さを帯びて街を巡る。
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「今度はビックスローか。全く、何やってやがるんだ」
「彼女らの力を見誤ったな、ラクサス」
「へぇ…お前まで参戦してるとはな。意外だぜ、ミストガン」
「お前を止めに来た」
カルディア大聖堂にて待ち構えていたラクサスの元にやって来たのはフリードでもエルザでもなく、ミストガンであった。倒れた仲間から集めた情報を集め、たどり着いたのだ。
「俺はお前と戦えるのを心待ちにしてたんだ。知ってるか、このギルドである噂が上がってんのを…」
「噂?済まないが、寡聞にして知らん」
「俺とお前、どちらが最強にふさわしいか、だ」
ラクサスの今回の内輪揉めもとい内乱を起こした一つの理由がこの最強論議をはっきりさせたいという彼個人の意思がある。
「私はそういう類のものには興味がなくてね。あえて挙げるとすれば、エルザ、ナツ、ギルダーツあたりか」
「あの親父は帰ってこねぇから無しだな。エルザもナツもいい線いってるが、まだ弱え」
「あの二人が弱い?とんだ節穴だな、その眼は」
仕事の難易度上数年に一回帰ってくるかどうかのギルダーツが最強と言う者もあれば、女性魔道士の中で際立って強いエルザを推すもの、パワーと戦時下での頭のキレを推す者はナツに一票入れる。このように十人十色の意見がこの論議にある。
「さあ、決めようぜ。このギルドの
「そのくだらん考えとこのゲームとやらに、終止符を打つ」
相対する両者の間にしばしの静寂が訪れる。S級の称号を持つ2人の間には今、戦う以外の選択肢は消え、ミストガンは抱える杖を地面に放射状に突き立てる。
「『摩天楼』……」
「っ、これは…!?」
突如として大聖堂が壊れ、ラクサスは宙へと打ち上げられる。姿勢を保つことがしにくい状況の中、ありとあらゆる方向から縛り上げられ、目の前の空間が裂け始める。そこから圧を感じさせるほどの魔獣があらわれる。
「なんつー魔力量だ。こりゃあやべえぞ!」
『グルルル、ゴァアアァッ!』
「くっ、うおおおおっ!」
雷鳴と咆哮が唸りを上げ、空間が軋み、点滅を繰り返したと思えば、ひび割れ、遂には壊れてしまった。
「はははははっ!!こんな幻影でどうにかできるとでも思ってんのか、ミストガン!」
「ほう、思ったより早いな、だが……十分だ!眠れ、『五重魔法陣・御神楽』!」
「おっと、足元には注意しな」
「っ!?」
雷撃がミストガンを打ち上げ、砲撃が天よりラクサスをめがけて撃ち下ろされる。S級同士の攻防は並大抵なものではない。
「へっ、やるじゃねえか」
「…………」
「「ラクサス!!」」
「ちっ、来やがったか」
ここでやって来たのはエルザと、いつの間にかギルドのトラップから抜け出したナツだ。どうやらレビィが術式を書き換え、ナツとガジルの解放に成功したようだ。
「おいラクサス!俺と戦え!」
「まて、あいつは誰だ?」
「……ミストガンか?」
「くっ…」
ギルドに滅多に顔を出さないとあって、一瞬誰かわからなかった二人に対し、彼は顔を隠し、目をそらす。だが、その隙が命取りとなる。
「貰った!」
「なっ、ぐはっ!」
そして露わになった顔にナツ、エルザは見覚えがあった。ついこの間戦ったジェラールと瓜二つの顔があったのだ。何か知っているのか、彼はすごく気まずそうな顔をしている。
「ジェラール、なのか?」
「なんでお前がここに!?」
「ほう、知り合いなのか?」
「くっ…出来れば見られたくなかった。エルザ、私はお前の知るジェラールを知っているがそいつとは違う。済まない、後は任せた」
「おい、おい待てよ!」
霧のように消えて立ち去り、後のことをナツたちに任せることとなった。呆けるエルザの前に立ち、ラクサスに対して喧嘩を売るのはナツだ。
「ラクサス、俺と戦えやー!」
「うっとおしいんだよ、このカスが!」
「よっと…くらえ、『火竜の鉄拳』!」
「ふん、オラァ!」
頂上対決はナツとラクサスの決戦に移った。かたやギルドの名誉のために、かたや己の意思を貫くために。それぞれの思いは紡がれて、拳に乗る。
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「……つまり、ラクサス兄さんを止めるか、あの神鳴殿を壊すしかないのですね?」
「そういうこと。私の方でもできる限り調べたけど、そうするしかないって」
ギルドに戻ってきたシリルとユリアはレビィから状況説明をギルドで受けていた。ナツとガジルの参戦、ミス・フェアリーテイル参加者の解放、そしてマスターの容態についてだ。
「マスター、身体が悪いんだね」
「うん、心臓発作だって。ミラが言ってたよ」
「それは本当かい?」
「えっ?あ、ポーリュシカさん!」
「胸騒ぎが起きたんでね、気まぐれで来てみればなんてザマだい」
彼女の来訪は願っても無い好機。マスターの治療を任せるために案内すると、しばらくの沈黙の後に、涙を浮かべながらシリルたちに言葉を告げる。
「ラクサスを連れて来な。マスターは…マカロフはそう長くないよ」
「えっ?冗談、ですよね?」
「お願い、早くあのバカを連れて来て頂戴。マカロフは、危篤よ」
強気な彼女らしくない、しおらしい言葉と顔が、そこにはあった。
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「ちっ、あの頑固ジジイ、まだ降参しねえのか!」
「よそ見してんじゃねえ!それに、俺たちはお前なんかには屈しねえ!」
「このクソ餓鬼が!」
ラクサスとナツの戦いはまだ続く。未だ、ある悲報を知らないまま……。妖精の内乱は果たしてどんな終わりを迎えるのだろうか。