「消えろナツ!お前はいつも目障りなんだよ!」
「うるせぇ!俺は諦めねえぞ、お前が倒れるまではな!」
「ナツ……(私は、私はっ……!)」
二人の攻防を見守っていたエルザは、この場をナツに任せ、ある計画を実行することを決めた。シリルに言われた、神鳴殿のことだ。あれを破壊すればラクサスのこの戦いは無意味と化す。それならば、と動き出す。
「ナツ、ここは任せるぞ!いいな?」
「あっ!?おまえ、まさか……分かった!だがよ、ぜってぇ命は大事にしろよ!」
「ああ、勿論だ。お前やシリル、シモンたちに生かされた命だ。捨てるつもりはない!」
「おい、まさか……待ちやがれ、あの神鳴殿は二百近くあるんだぞ、全て壊したらどうなるかわからないわけじゃねえだろ!?」
その身を翻し、大聖堂を後にするエルザはラクサスの焦りのこもった叫びに、胸を張って答えた。
「分かっている。が、そのつもりだ!」
「くそ、行かせるか!」
「お前の相手は俺だ、『火竜の咆哮』!」
「邪魔するな、ナツ!」
「あいつならやってくれるさ。そう焦んなよ、ラクサス」
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「ねぇ、ラクサスはどこにいるの!?」
「エルザ姉さんは彼を止めに行くって言って大聖堂の方に向かいましたが……」
「確かにあそこはこの街のランドマーク、そこで支配を宣言するつもりなのかな?」
ラクサスにマスターのことを伝えようと、街を走るレビィたちは彼のいるだろう場所を探し回る。もう『遊び』とは言ってられない領域にまで来ているのを彼はまだ知らないのだろう。
「待っててラクサス兄さん、私たちが、あなたを止める!」
「シリル、ありがとう。私たちのために…」
「私はまだこの街に来て日が浅いですが、色々と優しくしてもらいました。人との絆は切れるものではない、繋がるからこそ輝く。それを教えてくれたことへの恩返しです」
絆の力を信じる者と力ある者の天下を望む者、王道と覇道のぶつかり合いとも言えるこの戦いに、シリルは王道の輝きを見出しているのだ。ユリアだってそうだ、ギルドの力はそれだと気づくことになる。
「私たちが勝つもんね!なんだって、人の力を信じてるんだから!」
「よし!行こう、私たちの祈りを大聖堂の鐘で鳴らしに!」
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「どいつもこいつも、俺の邪魔をしやがって。このギルドは、誰にもバカにされない、力がいる!そうだ、最初から解放すりゃあ良かったんだよ」
「くそっ、身体が……」
「鳴り響くは招雷の轟き。天より落ちて灰燼と化せ!『レイジングボルト』!」
癇癪に似た暴走を起こしたラクサスはナツを圧倒、彼の膝を地につけさせ、消しにかかっている。天より召喚した雷鳴は轟音とともに地に落ちてくる。だが、完全にナツを消したと勘違いして高笑いをあげるラクサスの耳に、聞き慣れたある声が響く。ガジルだ。彼がナツをすんでのところで救いに現れたのだ。
「テメェの仲間消すのがそんな楽しいのか?とんだ男だな、お前は。生憎、こいつを消すのは俺なんだよ」
「ガジル……」
「くくく、また獲物が一人。消えろ、消え去っちまえ!」
「完全にタガが外れてやがんな」
感情の高ぶりと苛立ちによるリミッター解除が彼の心を蝕んでいるように見えた。それを止めに来た二人は、かつて敵同士という皮肉な状況下で、コンビを組むこととなった。
「この空に竜は二頭、いらねんじゃなかったか?」
「はっ、要らねえな!だがよ、こうも雷がうるせえと、悠々と飛ぶこともできやしねえ。テメェの相手はこの兄ちゃんを止めてからだ」
「「行くぞ!」」
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「もうちょっとで、後もうちょい……」
「うん?あれ、エルザかな?」
「なんか急いで来た感じだね」
ユリアたちはマグノリアのシンボル、カルディア大聖堂へとひたすら走る中、近づいてくるエルザに遭遇した。あちらも気づいたようで、急いで彼女らの元へと走って来た。
「ラクサスの魔法を止めに行く。協力者がいてくれると助かる」
「私は、ラクサスに用があるの。大聖堂の方でいいんだね?」
「やはりあの神鳴殿を止めるんですね?」
「左様。して、用というのは?」
「マスターが危篤です。それを伝えに来ました」
前々から体調が優れないのは知っていたが、まさか倒れるとは思っていなかったのだろう、目を見開いて驚いている。が、すぐにやるべきことを思い出した。
「分かった。気をつけろ、今のあいつは冷静さを失っているみたいなのでな」
「……ユリア、レビィ姉さんの護衛をお願い。私は神鳴殿破壊に協力してくるわ」
「待って!そっちと交代するよ。あれを壊すのは私の仕事。ねっ?」
「覚悟はできてるみたいね。いつの間にか強き意志を得ていた、か。分かったわ、でも無理だけはしないでね」
彼女なりの覚悟は見えたのだ、無理に止める必要はない。自分のやるべきことをなすために二手に分かれ、雷鳴の轟くのを止めに行く。
「ラクサス兄さんのやろうとしてることは、家族を壊すのと同じ」
「止めなきゃね。私たちの手で、なんとしても」
「兄さんは、本当にこのギルドを支配するのが……目標なんでしょうか?何か裏がありそうな気がします」
「今は分からないよ。でも、あいつはギルドでは一人だった。多分、それもあったのかなって」
ギルドを動かすためのクーデターに似た行動の意図が未だに読みきれないのだ。彼の実力あらば、こんな回りくどいことはせずとも、簡単にギルドの天下は取れてもおかしくはないはずなのに。
「もうすぐ大聖堂だよ。考えても仕方ない、伝えることを伝えなきゃ!そうすれば止まってくれるはず!」
レビィの目にはかすかに涙が見て取れる。こうなってしまった仲間を何としても止めたいと願っての涙だ。
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「クソが、手間取らせやがって」
「ぐっ、強え……」
「これがS級の強さかよ。こいつが居たら、あの時の戦争は……」
竜の力を継ぐ2人をもってしてもなお、雷鳴は止まるところがない。なぜここまで強いのか、倒れふす双竜を前に、遂にラクサスが牙を見せて正体を明かす。
「これはよ、まだジジイとクソ親父以外は知らねえ秘密だ。冥土の土産に教えてやるよ……」
「う、鱗に牙だと?」
「ま、まさかラクサス、お前も!」
「雷竜の咆哮ぉ!」
そう、ラクサスも滅竜魔道士であり、彼の強さの理由の一つでもある。その強さの前に為すすべもなく、ナツもガジルも叩き潰され、伸されてしまう。
「けっ、まだ生きてやがるか。消え去りやがれぇ!」
「ぐっ、あの光はまさか……『
「マスター・マカロフがジョゼを一発で倒したっつー、あの殲滅の光か!?くそっ、どうすりゃいいんだよ!」
幽鬼の支配者戦でマカロフが放った審判の光を今目の前でラクサスが放とうとしている。敵と認識した全てを滅することのできる光を前に打ち震えるのが精一杯の状況だ。そこにやってきたのは、シリルを連れたレビィだ。
「やめてラクサス!これ以上はやめて早くマスターのところに行ってあげて!」
「何しにきやがった!死にてえのか!」
「マスターが、貴方のおじいちゃんがいま、危篤なの!!だから、今すぐ行ってあげて!」
「なっ!?じっちゃんが……危篤……」
その言葉に、一瞬だが、ラクサスの瞳に正気が戻ってくる。しかし、それもすぐに狂気の笑みでかき消される。
「丁度いいじゃねえか。俺がギルドの頂点に立つには絶好の機会だ」
「そ、そんな……」
「貴方は、人の死をなんだとっ!」
「俺が天辺に立つには犠牲がいる、ただそれだけのことだ。消え去れ
因果を断ち切るかのように殲滅の光がくだされる。ギルドの明日はどちらに……