次から新しい章の『六魔将軍』編になるかと思います。
「くくく、これにて終劇ってところか」
煙が立ちこめ、勝利を確信する。あの審判魔法を放って無事で居られるものなどいない。そう、完璧に使いこなしたはずだ。だというのに……。
「ぐっ、ガハッ……」
「なっ!?」
「あれ?私、無事?」
「どういうことだ。あの魔法は、完璧だったはずだぞ!」
「魔法に本心を見抜かれたな、ラクサス。
皆が無事で立っていた。しかも現れた傷だらけのフリード曰く、町の住人や観光客はおろか、魔道士は神鳴殿の反動で倒れてはいるものの全員無事だという。
「お前は心の奥底では皆のことを傷つけるつもりはなかった。そういうことになるな」
「んなわけねえ!俺は…俺はこのギルドを変えるために!」
「もう意地をはるな。マスターのところに行ってやれ」
「黙れ!俺は、俺が最強なんだぁー!!」
側近中の側近であり、ラクサスの友の1人の言葉さえ、今は心に届かず、響かない。そんな中で声を上げたのはナツだ。
「テメェの強さも、夢もよーく分かった。でもよ、俺たちはお前の夢と一緒には歩けねえ。それがお前の弱い部分だ」
「あっ?」
「お前は、俺たちの……
「ふざけた事を…ほざくな、ナツゥ!」
火竜と雷竜の拳が交差し、ラクサスが荒れた心のままにナツを殴りぬく。だが、それでもナツは屈せず、己の信念に基づいて再び立ち上がる。ある者には恐怖を、ある者には驚嘆を与える。
「おらぁ!」
「いい加減に、しつけえんだよ!お前には俺の心は分からねえよ。なにがあっても!」
「だからこその、ギルド……仲間だろうが……」
「ナツ、もうやめて!死んじゃうよ!」
屈しないナツの頑丈さに、遂にラクサスがトドメをさすために、己の持つ超攻撃魔法を溜め込む。
「この、クソがぁ!」
「あれは……待て、ラクサス!それを使ったらナツが!」
「『雷竜方天戟』!」
「ナツーー!!」
雷竜の最強の矛の一つ、それをナツを殺しにかかるほどの憎悪を持って投擲する。言葉では強がっていたが、ナツの体にも限度が近づきつつあり、膝を屈してしまう。このままでは当たってしまうかに思われた。
「うおおぉおぉ!!」
「ガジルっ!」
「いけ、
「この、雑魚どもが!」
ガジルが身体を張って避雷針の役を請け負い、ナツを勝たせるために己を犠牲にする。その力強さに応えるようにシリルは魔力を使い果たしたラクサスに力を叩き込む。
「『崩撃』!」
「ガハッ!」
「『雲身』!」
「ぐっ!」
「行ってください、ナツ兄さん!『双虎掌』!」
未来に繋げるための2人の覚悟にナツも燃え盛る炎を纏う。
「火竜の…」
「この雑魚がぁ!」
「鉄拳、砕牙、翼撃、劔角!」
「ガハッ!」
それは怒涛の連撃の始まりだった。『滅竜魔法。それは竜の鱗を砕き、肝を潰し、魂を狩り取る刃。竜の血を継ぎ、心を継ぎ、魂を纏う盾』。とある神がそう語った言葉はまさしくその言葉に相応しいものだ。
「滅竜奥義、『紅蓮爆炎刃』!!」
「がっ、うああっ!」
雷竜の静かなる声はなりを潜め、火竜の天に轟く咆哮が町中に聞こえ渡った。これが勝利の狼煙となり、ギルドや町の住民に聞こえただろう。
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その翌日、大きな喧嘩は終わり、街はファンタジアの準備に再び戻った。マカロフの発作はポーリュシカの治療の甲斐あって収まり、街やギルドに平穏が訪れる。
「いやぁ、一時はどうなるかと思ったよ」
「あのマスターがそう簡単にくたばると思うか?」
「それもそうですね。それにしても、ファンタジアのパレード、見るの楽しみです!」
「あんたは参加する方よ。新入りでも関係ない、あれを見ればそう思えるはずさね」
ジュビアの期待を壊すようにカナがある方向を指す。そこには、ボロボロになったナツとガジル、全身に軽傷を負ったシリルの姿があった。
「私は参加できると思うんですが……」
「ふぉんごほおひは!ほへにほはんははへほ!」
「うるせえな。このチビはまだしも、俺とお前はどう考えても無理なもんは無理だ!」
「わ、私はチビなんかじゃないです!」
「やるかコラ!」
「2人とも落ち着きなさい、傷が開くわよ。それとナツ、なに言ってるかさっぱりわからないわ」
他の2人に比べてまだマシなシリルと、2人の竜を見て、誰もがなんとなく言いたいことを察した。動けるメンバーはほぼ強制参加だ。
「ち、相変わらず騒がしいなここは」
「ラクサス!テメェ、どのツラ下げて来てんだ!」
「そうだ!帰りやがれ!」
「黙らぬか!!いけ、奥の医務室にいらっしゃる」
「そうかい。ああ、それとナツ。すまなかったな、息災でいろよ」
いままでとは打って変わった態度に面食らう仲間たちをけしかけ、ギルドはいつもの活気を出し始める。これがフェアリーテイルの暖かさだとラクサスに通じるように。
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「全く、騒がしい連中だ」
「お主もお主で大きい騒動を起こした。どんな厳罰が降るか分かっておろうな」
「ああ」
表の喧騒から離れた医務室ではラクサスとマカロフが『祖父と孫』の会話、そして『ギルドマスターとギルドメンバー』としての会話をしていた。
「お主は昔は身体が弱かったな。だからワシとしては元気に育ってくれればそれで充分、力を持ちすぎることはなかったのじゃ」
「すまなかったな」
「過ぎたことは良い……これはマスターとしての命じゃ、よく聞け」
よろよろとベッドから降り、ラクサスの前に立つ。今までそうしてきたように、優しさと厳しさを併せ持つ声色で、ある言葉を告げる。
「ラクサス・ドレアー、お主を……無期限の『破門』に処する。お主のやったことを考えた判断じゃ」
「そりゃそうだろうな。そうやってギルドを初代から守り続けてきたんだからよ。これで今生の別れってとこか、世話になったな『じいじ』」
「……出ていけ。(済まぬ、許せよラクサス)」
幼き頃、まだ仲が良かった頃の呼び方にマカロフも涙が頬を伝う。例え厳しく当たろうとも、その心は常に寄り添おうとしてきたのだから。
時は夜になり、本格的にパレードが始まりを告げる。氷と水で芸術的な城を造り上げるもの、得意の変身能力で会場を沸かせるものなど様々だ。
「お、あれってミスフェアリーテイルの参加者たちか!」
「おお!」
「(あれは…ルーシィか。成長したな)」
レビィ、ビスカとともに踊るルーシィを見守る者がいたが、その男はルーシィの笑顔を見て、あの日のことを思い起こしていた。
「あ、あれってエルちゃんかにゃ!?」
「いやあ、やっぱり凄いなあ姐さんは」
「さすがダゼ」
エルザが剣舞を披露すれば、立ち寄った楽園の塔時代の仲間たちが歓声をあげ、楽しくひと時を過ごす。
「……そろそろ行くか」
マスターの台車が近づきつつある頃、破門を受け、雷神衆をギルドに残すこととなったラクサスは1人寂しく町の出口へと向かう。だが、そこで待っていたのはパレードに参加しているはずのシリルとユリアだ。
「おまえたち、良いのか?」
「私たちはただの分身、本体はあっちにいますので」
「抜かりねえな。さすがと言っておく」
「お兄ちゃん、また戻って来てね」
「破門されたから戻れねえと思うがな。じゃあな、元気でやれよ」
ギルドからの贈り物たるメッセージと、2人からの温かい言葉を背に受け、ラクサスは涙を浮かべながら街を去っていった。
それからというもの、ギルドはいつも通りに騒がしく楽しく過ごしている。雷神衆の3人も少しずつ馴染み始め、ギルドに来る楽しさを覚えるようになり始めた。
「良かったですね、こうして上手くまとまって」
「そうじゃな。(あのイワンがラクサスに手を出さねば良いが……二重スパイとしてガジルもやってくれておるし、しばらく様子を見ようかね)」
「そういえば、お母様から手紙が来たと言ってましたが、一体何が書いてあったんですか?」
「お主を呼び戻す旨の手紙じゃ。こちらを冬ごろに出るように、とな」
その帰還要請は何を意味するのか、シリルは明確に分かった。神の座の受け継ぎ、つまりは母の命日が近づきつつあるということ。無限に思えるその寿命も、神とて限度がある。
「そうなると長い間お別れとなりますね」
「むう……寂しくなるが、致し方あるまい」
「土産話を楽しみにしててください」
「ははは、それじゃあ長生きせんとな!」
彼女たちはまだ知らない。大いなる力が、冬将軍を伴ってやって来るのを。