次は11月かなぁ、といった感じです。
「もー、なんで先に突っ走るかな〜?」
「しょうがないよ、それがナツだから」
「ヒビキさん、あの柱は何ですか?」
「あれこそが破壊予定に入っていたニルヴァーナだよ。でも柱が上がっているってことは発動したか、封印を解いたか。どっちかだろうし、結果を言えば最悪の状況ってところ」
情報収集に特化した魔法を持つヒビキによれば、ニルヴァーナとは心の善悪を入れ替えられる魔法なのだとか。最初の黒い光が立ち上がる段階では、心の善悪の狭間を様々な理由でさまよう魂を半強制的に向かっている方向に引っ張り、悪に堕とすことも光に包むことも可能になる。
「ウェンディくんは何か心に後悔を抱えた。だからこうして気絶させ、その負の連鎖を食い止めたんだよ」
「でもそれって強制的にみんなを、って訳じゃないよね?」
「いや、油断できないね。僕の魔法で調べた限り、あの魔法には何段階かあって、その段階が進むにつれて強制力を増すんだ」
「早く壊さなきゃね」
先に見つけられた可能性が高いとしても、まだ準備段階だろう。今からでも十分巻き返しが効くだろう。時は少し遡るが、ジェラールは森の何処かにある洞窟に来ていた。それを追って、ブレインの命令で追ってきたコブラは、ジェラールの心の声がまるっきり聞こえないことに不信感を抱いていた。彼の体質かわからないが、昔から心を聞き取ることに長けているが、何故か追う男の考えだけは読めない。
「ここか」
「(あいつ、何を考えてやがる?こんな森の中で何をするつもりだ?)」
こんな森の中で一人で来た上に、思考が読めないとなると、色々と勘ぐってしまう。すると、突然止まって指で空を切る。魔法陣が現れたと思えば、黒い瘴気が漏れはじめる。
「解封印!」
「(っ!?この狂気、もしや……)」
「ジェラール!お前、こんな所で何をしている!」
エルザはナツの言葉を耳にした時より、あちこちを走り回り、ここに入るジェラールに気づき、追いかけてきたのだ。
「君は、誰だい?」
「……憶えていないのか?」
「俺は、ここで目覚めるまでの記憶が殆ど無いんだ。ここにニルヴァーナがあること、それくらいの記憶しか……君は俺にとってのなんなのか、ここで目覚めた理由は?分からないことが多すぎる」
かつての友であり、敵でもある彼の悲痛な姿に、エルザは口を閉ざしかけたが、今彼を救えるのは一番近くにいた自分しかない。ならばやることは一つ、己の言葉で真実を伝えることのみ。
「……私はエルザ、エルザ・スカーレット。かつてお前と共に過ごしてきた囚われの身だった者だ」
「く、来るな!」
「そしてお前はジェラール・フェルナンデス、かつて囚われの身でありながら悪に染まり、仲間に手をかけた。それを、そんな大事なことを忘れただと!?そんな腑抜けたことを言うなら、私がこの手で思い出させよう!来い、ジェラール!」
「俺が、人に手をかけていたなんて……くそ、くそぉ……」
「ジェラール……」
「通りで心が読めねぇと思ってたらよ、そういうことか。釈然としねえが、納得したぜ」
コブラは全てとまではいかなくとも、多少なりとも納得がいった。記憶が無いのなら、心を読んでも得られる情報が少なく、聞き取れるほどの感情が流れない。だから姿を見せ、ここからは動くしかない。
「テメェ、ここで何をするつもりか知らねえがよ、手っ取り早くそこのブツを貰っていくぜ」
「そうか、そのつもりなんだね、君たちは。だけどこっちも無策じゃない」
「っ!?自律崩壊魔法陣か!くそ、ニルヴァーナにも自分にもかけてやがるとは!」
自分が悪にこれ以上染まらないために打った手は、自律崩壊魔法陣による自殺、もとい『死なば諸共』の特攻に近い方法だ。
「ほう、自律崩壊魔法陣とは考えたな」
「ブレインか!こいつ、ニルヴァーナと一緒に消え去るつもりだぞ!どうすんだ!」
「そう焦るな。そもそもそいつにその魔法を教えたのは私だ。解除方も心得てるとも、ブレインの名は伊達じゃない」
「なっ!?ここまでか……」
「ふふふ、ニルヴァーナの捜索と起動、感謝するぞ。おかげで手間が省けた」
自律崩壊魔法陣を壊し、すぐさまニルヴァーナを起動させる。全ては計画通りだ。
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「これ以上先には行かせないゾ」
「私たち3人に勝てるかしら?」
「切り甲斐がありそうだね」
ナツを追う最中、エンジェルと堕天使姉弟と遭遇した。目的の為に連合軍の足止めをしようというのだ。
「星霊魔導士として、負けられない!」
「堕天使は私とユリアで倒しましょう」
「私らだって、コンビネーションは負けないよ!」
途中離脱したウェンディはここには居らず、3対5の光と闇をかけた争いは、ユリアの魔法から拮抗状態が動き始める。影で作った鴉の刃と毒の弓が飛ぶ。
「『シャドー・レイブン』、『ポイズン・アロー』!」
「弱い弱い!この程度なら僕の斬馬刀の敵じゃない!」
「貫け、『生命神の剛拳』!」
「隙ありよ、『水人形のワルツ』!」
「『身発勁』!」
身体に触れた魔法を弾くように消し去る。再び静寂が訪れ、一陣の風が間を駆け巡る。
「この二人の相手は我々が。姉さんはエンジェルを」
「了解したよ」
「貴女ごときの星霊じゃ私は倒せないゾ」
星霊魔導士同士、神の子達と堕天使。相見える両陣営は決戦を覚悟する。