フェアリーテイル 生命の唄   作:ぽおくそてえ

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今回は一気にジェラールの逮捕まで書き切りました。次回はニルビット族の最期を書いてせいぜい後2話くらいでこの章を終わらせます


第42の唄 喪失の紅

「聞こえてる。大丈夫だ」

『良かった、一時はどうなるかと……』

「とりあえず、その脚の部分に行けば良いのね?」

「そしてラクリマをぶっ壊すんだな?」

 

もう残り少ない絞りかすほどの根気と根性を捻り出し、どうにか立ち上がる。魔法も尽きかけ、体の力も弱々しいのに、大事なものを守りたいという使命感が彼らを突き動かす。

 

『僕の魔法もあと少ししか持たなそうだ。マップを送る、今のうちに行くラクリマを決めてくれ』

「っ!マップが勝手に……すごい」

「俺は一番に行く!」

「私は七番に行きます」

「私8ね!」

 

次々と行くべきラクリマを定めていく。口を挟みそうになったジェラールの行く先をエルザが制する形で指示をし、それぞれの行くべきラクリマへと散っていく。

 

====

 

『シリル……貴女は今、力も志も仲間も手に入れた。では、それを失った者を見て貴女はどう動くのでしょうか?これは、ある意味試練の1つ』

 

聖なる祠に神霊体として聳える生命神は静かに語る。人は失う悲しみを知って強くなるか、はたまたそこで歩みを止めるか。その岐路に今から飛び込もうとしている愛娘を静かに見守るしか出来ないが、これも人のために生きる神として大事なことだ。

 

『さあ、貴女の魂の高潔さ、見せる時が来ます。怯まず弛まず、示し続けなさい。私の愛する子よ』

 

====

 

「ここが、七番ラクリマ……無茶するなんて、私らしくもない」

 

力も使って少なく、傷だらけになっている今、やってくるのだけでもかなり負担になっている。ついつい自虐的な言葉を紡いでしまうが、今はそんな余裕もない。8個のラクリマを同時に破壊せねばならない今、頭に残るタイマーが唯一の合わせる方法となる。

 

「私は、この力を今使わずしていつ使うっての。困ってる人がいるならやるしかない」

 

握りこぶしを作り、静かにその時が来るのを待っていると、ゾワリ、と背中に悪寒が走って嫌な汗が噴き出す。入り口に待ち構えていたのは怨霊にも化け物にも似た恐ろしい異形のモノだった。

 

『オゴ、アガガ……ブリュリャヒェア!』

「なんなのよ、こんな時に。しかも何よこれ」

『グゲガガ…ワレニ生キ血ヲ与エヨ。魂ヲ捧ゲヨ』

「何を言うのかしら?この化け物」

『ワレニ捧ゲラレシ命、コノニルヴァーナ二眠ル同胞ノタメ……グギャラバァ!!』

 

その異形のモノは自分がニルヴァーナに堆積された怨念の集合体であり、兵器だと語り、魂と生き血を欲する。全ては死んでいった者や善悪に翻弄された者たちの為に。

 

「もう、身勝手な奴ね。浄化するわ」

『グッギャオン!』

 

真っ直ぐに、かつ荒れ狂いながらやってくるニルヴァーナの亡霊をいなし、数少ない魔力を効率よく当てていく。大技が出しにくい今は繋いで倒すしかない。

 

「せぇい!やっ、はっ!『気功蓮華』!」

 

連撃に次ぐ連撃が少しずつ亡霊を引き剥がしていく。亡霊を吐き、剥がし、少しずつ動きが鈍る中でも闘争心まではひきはなすことはできず、シリルと後ろにある壁を吹き飛ばしていく。

 

「(足場ごと崩すなんて……でも!)『血縛鎖牢』!」

 

外へと弾き出された体を引き戻すためにフックショットの要領で、外と内を繋ぐ穴に鎖を引っ掛ける。追い討ちをかけてくる化け物を元いた位置に戻す強烈な蹴りを浴びせ、再びラクリマの前で相対する。

 

『ナゼワレヲ邪魔スル。人間ハ難シイ』

「貴方のしようとすることはただの破壊よ。私は生きる人間の味方をしたいから、貴方を止める」

『分カラヌ』

「でしょうね。(さて、あと2分強しかない今、このまま冗長な戦い方をしていては間に合わない。それじゃあ、なりふり構わず無理をしましょうか!)『生命神の剛拳』!」

 

後で動けなくなることなど、いま気にしてはいれられない。遮二無二突き進むのみ、そう心に決め、大技を繰り出していく。

 

「『気烈胴廻脚』!」

『グゲラッ!ジャカアシイワイ!』

「もう貴方のあるべき場所はこの娑婆にはない!消え去りなさい!」

 

派手に亡霊が消えていき、当初に比べてかなり小さくなっていく。この化け物はニルヴァーナと一心同体であるから、本体と共に浄化できる。

 

「『気功掌』!」

 

投げ飛ばした先にあるラクリマに大きな気の弾丸を打ち込み、ゼロ秒丁度に破壊した。皆も同じように破壊できたようで、大きな揺れと共に瓦解していく。瓦礫が落ちてくる中、少しずつ消えていく化け物を見送ろうと、膝をつきながら語りかける。

 

「これで終わりです」

『ワレハ、ワレハヨウヤク解放サレルカ。アリガトウ』

「それは重畳。(やっと終わった……でももう動けそうにない)」

『セメテモノ礼ダ、外ニ飛バソウ。サラバダ、生命ノ巫女ヨ、オマエノオ陰デ輪廻ヲ巡レル』

「な、何をっ!きゃあ!」

 

最期の力を振り絞ったのだろう、先ほど開けた穴からシリルを投げ飛ばし、笑みを浮かべて完全に消え去った。

 

『我々はとうに死んだ身、今ここで浮世の縛りを解いてもらえた。有難う、あとは頼みます』

 

====

 

「まさか無事に戻ってこれるなんて……」

「お姉ちゃん大丈夫?木に引っかかってたから」

「歩けそうにないわ」

「私が背負うよ。よいしょっと。ほら、みんなあそこに……」

 

ラクリマに向かった皆もほぼ無事で、出てきていないのはナツとジェラールだ。

 

「シリル達が無事ってことは後はナツだけだな」

「(ナツ、ジェラール……戻ってこい。何をしている)」

「それなら、心配には及びまセン。私が助けましたデス」

「うわぁ!あれ?この人……」

「リチャード殿!ご無事で何より!」

 

地面が軟化して、穴を開けて出てきたのはホットアイもといリチャードだ。どうやら気絶状態から復帰し、ジェラールとナツの救助をしてくれたらしい。これで全員無事、仕事もこなして何もかもが円満に終わる。そのように思えた。しかし……

 

「みなさん、そこを動かないように。ああ、脱出しようにも術式の魔法陣を敷いてありますので無用な策は弄さないように」

「評議員!?つーかもう評議会復活したのか!?」

「これはどういうつもりですか?ラハールさん」

「申し訳ありません、生命の巫女殿。今回我々新生評議会は悪の根絶を目指してまして……他の者は捕らえました、そこにいる天眼ホットアイをこちらに差し出していただきたいのです」

 

強行検束部隊長ラハールの任務はオラシオンセイス捕縛であり、他のメンバーは捕獲済みなのだ。これに関しては絶対に譲れないとばかりに眼鏡を光らせる。

 

「お待ちください!この方は確かに悪事を働きましたが……」

「その通りだ!どうにかならぬか隊長殿」

「情状酌量はこちらで決める事。いくら恩あるお2人の言葉とて今回ばかりは聞き入れられません」

「良いのデス、シリルさん、ジュラさん。確かに悪事を働き、禊ぐことのできない程に重ねましたデス。ならばせめて……」

「そうか。ならば我らで出来ることをしよう。言ってみよ」

「それならば、生き別れの弟を探して欲しいのデスネ。名はウォーリー、ウォーリー・ブキャナンデス」

 

その名に何人かは思い当たる節がある。そう、楽園の塔の一件以来友人となった四角いダンディな男の名前だ。彼が今、別の友人とともに大陸中を元気に旅していることを告げると、リチャードの目から大粒の涙が溢れる。

 

「ああ、これが光を信じる者に与えられた奇跡か。ありがとう、これで私は心置きなく罪を償いに行ける。ありがとう……ありがとう!」

 

====

 

「なんか寂しい背中ね」

「仕方ねえさ。罪を丸ごと消せるなんてことは出来やしねえさ」

「生命の力の1つ、それが反省して次に罪を重ねないための努力ですから。ラハール隊長、そろそろ術式を解いても良いのでは!?」

 

リチャードを見送り、ラハールに目線を送るが、静かに頭を横に振られた。まだ用は済んでいないようだ。

 

「確かにオラシオンセイス捕縛に協力なさってくださったこと感謝しますが、我々の本命は彼らにあらず」

「私たちの捕縛をすると?意味がなさそうですが」

「いえ、貴女方ではありません。そこにいる男、旧評議会の崩壊を招いた大罪人。お前のことだジェラール!我々の縄に大人しくつくことだ!」

 

それも彼らの理だ、死んだに思えた男が目の前にいる。それを捕らえる好機はこれ以降でないだろう。

 

「待ちなさいな、彼の記憶はほぼ無い。捕らえたところでどう捜査するのです?」

「彼の体内にあるエーテルナノ濃度はあのエーテリオンを喰らった影響が確認できましたので。前に見せましたね、この魔力判定機?」

「いくら貴方とはいえ、記憶喪失の人間を死刑、なんてことは言いませんよね?」

「いえ、間違いなくそうなるでしょう。良くても終身刑や無期懲役止まり。残りの一生を牢の中なのは間違いありません」

「もういい、シリル。俺はそれだけの罪を重ねたんだろう。せめて最後は潔くさせてくれ」

 

まるで死を受け入れるかのような言葉に、仲間のことを思ってか、生命の巫女として逆鱗に触れたのか、しばらく湧かなかった怒りが頭を埋め尽くす。

 

「……貴方はそんなので良いんですか!!せっかくエルザ姉さんと会えたというのに、こんな結末で!!死ねば終わるなんて甘えを言わないでください、この後彼女がどんな十字架を背負うことになるか!」

「それ以上は言うなシリル!私は構わない、それさえも背負って前に進もう。済まないが彼を……連れて行ってくれ……」

 

遮ったのはエルザ自身の涙に震える声だった。もう出会えないと思っていた最愛の男とこうして話して手を触れられただけでも自分にとっては嬉しかった。決してこの別れが最後だと思いたくない心もあったが、ここで弱さを見せたくない。

 

「ありがとうエルザ……そうだ、お前の髪の色だ」

「っ!?」

「最後に思い出せたよ、綺麗な『紅髪(スカーレット)』の由来を。さらばだ、もう出会うことは叶わないだろうけど……」

「あ、ああ……」

 

その日、日暮れに照らされた綺麗な紅髪を持つ女性は涙にくれた。最愛の人の出会いと喪失、もはや叶わないかもしれない愛を知り、孤独な雫が大地に降りたのだった。


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