第44の唄 高く飛べ、高く唄え
「♪〜♪〜〜」
「綺麗な歌声ね」
「シリルに歌のセンスあったんだ。もう半年近い付き合いだけど知らなかったな」
「あまり歌わないから仕方ないよ。まぁ、雨の日にはもってこいだね」
秋雨前線の到来によりこの日は一日雨が予想され、その通り昼過ぎになっても止むどころかどんどん強まってきている。ギルドでのんべんだらりとする者が多く、仕事などに行く気はなさそうだ。暇を持て余した皆のためとシリルはステージの方で歌を披露するなど思い思いに過ごしている。
「あーあ、雨さえなきゃ仕事行ったのにな〜」
「そうねぇ」
「おーい姉ちゃん、そろそろ行くぞ〜」
「はいはい。じゃあ少し用事を済ませてくるわね」
シリルの歌が響く中、ミラはエルフマンを連れて雨の日に出かけていく。ユリアもルーシィもなんでこんな日になどと考えていると、
「へぇー、お兄ちゃんにもそんな仲良しな人いたんだ!」
「そういえばルーシィはナツと仲がいいって意味じゃ似てるね。ユリアの底なしの明るさも」
「あのナツが女の子とねぇ〜、意外なことこの上ないわ」
静かな雨が大地に降り注ぐこの秋の日。脅威はすぐそこまで来ている。突如として開いた大穴はこの世界を吸い込む悪食のように食らっていく。いち早く気づいたシリルは皆に呼びかけようとしたが、時すでに遅く、空は世界を切り取って腹に収めていく。
「くっ……一体どうなってるの!?みんな!何処にいるの!」
「こ、この声……シリルさんですか!?」
「ウェンディ。何故あなただけいるの?」
「分かりません。気づいたら私しか……」
「あいたたた〜、何々?何事なの?」
「ユリアちゃん!」
「ナツお兄ちゃん、そこで寝てたから引っ張ってきたよ」
真っ白な世界に取り残されたのはナツ、シリル、ウェンディ、ユリアの四人のみなのが現状だ。ドラゴンスレイヤーと神の使いのみが取り残されたのか。謎は深まるばかりだが、そこに現れたのはハッピーを連れてきたシャルルで、彼女は何か情報を知っているような口ぶりだ。
「ここが急にこうなったのも空に開いた穴、超時空魔法『アニマ』によるものよ。何の偶然か、ウェンディたちだけ残ってしまったみたいだけど」
「ん?何か知ってるの、シャルル?教えてよ」
「アニマを発動させたのはこの世界の住人でも闇ギルドでもないわ。この世界の裏にあるもう1つの世界線、『エドラス』の仕業でしょうね(あの『
「街ごと吸い込むなんて何でこうも……」
「魔力がごくごく限られた有限のものだから、よ?」
なんでもエドラスでは魔法が徐々に欠乏していく現象に見舞われているらしい。それゆえの強硬策、吐き出す以上の魔力を吸収しようという事なのだろう。生まれは皆のいる『アースランド』ではあるものの、少しだけあちらの世界の情報が分かるとシャルルは言っていたが、ハッピーは全くだそうだ。
「……なるほど、乗り込むしかなくなったわけだな!みんなを救って来ねえと!」
「そうですね。この際、どうしてシャルルがこの情報を得られたかなんてどうでもいい話。乗り込む他ありませんね」
「私はウェンディを、ハッピーはナツね。他の二人は別ルートから入ってちょうだい。これも一網打尽なんてことにならないためよ」
「仕方ないなぁ。あっちで落ち合えるといいね」
「それと、あっちでは魔法は使えないものと思って頂戴。さっき言ったけど魔力がない以上例え使えても温存しとかないと最悪すっからかんになって死ぬかもしれないから」
ありがたい忠告を受け、二人は別れ、別のアニマを探して回っていると、小さなビンに入った丸薬を見つけ出した。
「何かしら、この瓶?」
「お薬?」
「それはエドラスで魔力が使えるようにするための薬だ。こっちの世界では初めましてかな?」
「えっ!?ジェラール!?」
「私はエドラスのジェラールだ。この姿を悟られたくなくてな、ミストガンと名乗っているが、君たちなら構わないだろう」
フードを取った姿で現れたのはエドラスのジェラール、顔を見せたがらないことで有名なミストガンだった。今回の一件をシャルル以上に知っている。
「このアニマを封じるために動いていたのだが、どうも間に合わなくてな。済まないがこの薬を飲んであちらに渡って欲しい」
「事情は大体聴いてます。それで、仲間のラクリマを探し出せばいいんですか?」
「その通りだ。計画を練っているだろう国王はそのラクリマを欲するはず。王都に向かうとみつかるかもしれん。私はまだやることがあるからな、済まないが頼むぞ」
あちらへの転送を準備し、薬を飲んだのを見届けると、二人を残ったアニマの残痕へと送り込んだ。
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「うわっ……マグノリアと全然違う!」
「自然豊かね。仲間の命がかかって無ければゆっくり観光したいところだけど」
たどり着いたもう1つの世界線、アースランドの裏側の世界はあまりにも自然が豊かで、不思議な川の流れ方やトリの飛び方を見れば観光したくなるが、いかんせん今回は仲間の命の危機である。ゆっくりする暇は与えられていない。
「街まで行ってみようよ」
「何か探らなきゃね」
止まったらいつ何が起こるかわからない。二人は近場の街を目指して砂漠を行く。