フェアリーテイル 生命の唄   作:ぽおくそてえ

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二週間も開けて申し訳ないです。疲れ、病気気味、諸々の用事で書けていませんでした。


第45の唄 邂逅

「ここが、街?」

「すごい寂しいわね。閉まってる店も多いじゃない」

「魔法道具店かぁ。魔法使えないってのと関係あるのかな?」

「ホルダー系しかいないのかしら?」

 

街に来たは良いものの、人がまばらで閉店している箇所も目につく。しかも閉店しているのが魔法関係の商売が多い。

 

「おや、こんな辺鄙な街に人が来るたぁ珍しいねぇ。旅行者、あんたら?」

「え?そうですけど……」

「悪いことは言わないわ、あんまこの危険な街をうろつかない事ね」

「貴女は何者ですか?」

「あたいはセリナ、傭兵さね」

「そうですか。私は『ライム』です、よろしく」

 

本名を話したらどうなるか分からない以上、心苦しいが安全策として偽名を名乗ることにした。シリルはミドルネームを変えてライム、ユリアはファミリーネームを変えてリリスと名乗る。

 

「うん、そうかい。よろしくな!」

「えっ?着いてくるんですか?」

「そこまで、なんで?」

「さっき言っただろ?危ねえって。それにあんたら何でか放っておけない感じでさ、知り合いによく似てんだわ、そっちの子。こっちが勝手に着いてくだけだから金とか報酬はいらねえって」

 

裏で何考えてるか分からないが、正直情勢が分からないことだらけだ。傭兵なら詳しい情報を地理含めて知っているだろうから着いてきてもらう次第になった。

 

「で、どうやって動くんだい?あたいは戦闘と情報収集、護衛くらいならお手の物だ」

「最近こちらでデカいラクリマが出たとか発表されませんでした?自分らはそれを探してまして」

「ラクリマねぇ。どんくらいのサイズのこと言ってんのか分かんねえけど最近魔力のアテが出来たっつー情報なら知り合いから入ってる。つい数時間前に出てきた、人の数倍のサイズは軽くあるっつってたな」

「なるほど。何処にあるかとかは?」

「そこまでは分かんねえな。でも、今まで通りなら王都に行くはずだよ。これまでも何回かこういうのがあったからね」

 

そうとなれば行く場所は定まった。そこまでは今いる町から二、三日で着くだろうと告げられる。

 

「あたいに着いてきな。地理は頭にねぇんだろう?」

「助かります。では、参りましょう」

「レッツゴー!」

 

 

それから歩くこと半日、月が見えはじめた頃、まだ次の街が見えず、砂漠地帯で休息を取ることになった。

 

「ほれ、今日取れたクマの肉だ!固えしマズイからこの調味料かけな」

「何から何まで世話になります」

「これ、塩胡椒にトウガラシ混ぜてるんだね。意外と美味しい」

「傭兵は何処で何食うか分からないからねぇ。調味料が味を豊かにすんのよ」

「結構慣れてるんですね」

「もうかれこれ5、6年はやってっから」

 

前までは安定した暮らしをしていたそうだが、職場での方針が合わず、辞めて傭兵になったのだとか。家は裕福でそこで暮らすことも可能ではあったが、未練を断ち切るために独り立ちした。

 

「あたいは安定した暮らしでぬくぬくして苦しんでる人を見て見ぬ振りなんて、性に合わなかったんだ」

「それで始めたのが傭兵と」

「そうさ。少しでも暮らしを変えてあげたいんだ。でもね、やっぱ国の連中をどうにか動かさねえと無理だって気付いちまったんだ。だからあいつが……悪い、なんでもない」

「どうしよっかお姉ちゃん、せっかく助けてくれてるんだから、私たちも何かしてあげない?」

 

国のことを想う苦しい心の内を明かされて動かないなんてことは出来るはずがない。しかも何も受け取らないで無償に近い状態で働いてくれているのだ。命を守るための行動を放っては置けない。

 

「王都に私たちの探すラクリマがあるなら、目的地は同じ。やってやりましょう!私が貴女の夢を支えます!」

「あんたら優しいねぇ、ありがとさん。それなら尚更仕事をちゃんとこなさなきゃ。ほれライム、リリス、そろそろ寝るぞ」

 

不用意な体力の消耗を避けて早々に寝ることになった。そして翌朝、日が出るか否かの頃合いに叩き起こされた。

 

「おい、二人とも動くぞ〜」

「早いですね。まだ日もほとんど出てませんが……」

「眠い……」

「あんたらやることあんだろ?それに砂漠越えするなら今の日が出てないうちが一番だよ」

 

太陽光の反射も考えると今のうちにこのだだっ広い砂漠を超えて街に入りたい。二人の体調が崩れたら元も子もないと思い、眠そうに目をこするユリアの手を引く。

 

「王都までどれくらいかかります?」

「歩きだとあと二、三日かなぁ。魔力の抽出まで数日間準備が必要だろうから、まだそっちは大丈夫だろうけど、国王軍と会ってしまったら面倒さね」

「そんなになの?」

「何度か逃げることがあってね、しつこいのなんの。前は三日三晩追いかけられて結構肝が冷えたよ。あー、それはそれとして、なんでラクリマに用があるの?聞きそびれてたよ、そういや」

 

今更といった感じだが、性格なのか、あまり気にしていない風に聞いてきた。それに対して、ラクリマにはジェラールの名前を伏せながらアースランド出身であることとその魔力の由来だけを当たり障りなく伝えた。

 

「ちょっとばかり、頼まれごとをされましてね。今回はそのラクリマが関係してる、って」

「頼まれごとねぇ。ま、無理には聞かないさ、あんたらと利害が一致した以上はね」

「ありがとう。お姉ちゃん優しいね」

「お姉ちゃん、か……おっと、街が見えてきたよ。あそこで少し休むとしよう」

 

日が高くなる頃にようやく街にたどり着いた。ここも前の街同様店が閉まっていることが多かった。それ故か、街も人が見受けられず、閑散としている。

 

「ここもここで寂しいね」

「魔力に限りがあってさ、無駄遣いしないために魔法制限令が出てんの。ま、王都に集中させることに使ってるから反発する人も出たけどね」

「ダメじゃないですかそれ」

「魔法ギルドとか体内に魔法持ってる人とかどうしてるの?」

「体内に魔法ってむしろ何なのさ?それと魔道ギルドなら『妖精の尻尾』だね。違法ギルドっつーか闇ギルドだけど」

 

シャルルの言う通り、この世界と自分たちの世界では魔法の概念が大きく違う。それにギルドも聞いてみれば1つしかなく、『妖精の尻尾』が闇ギルド認定されている。

 

「(私たちが特殊なのは確かみたい。紋章が見えにくい位置でよかったよ)」

「(魔法が道具しかないって感じなのね。魔力持ちはゼロ、かしら)」

「ん?どうしたの?」

「「いえいえ何でも!?」」

「まぁいいや。それと、王国軍がうろついてるみてぇだから、慎重に進むよ」

 

その言葉通り裏道から覗いていると、あちこちに軍隊らしき集団がドタバタと忙しなく走り回る。何かを見つけたのだろうか、しばらくするとなにも聞こえなくなってきた。

 

「急に静かになったね」

「そうみたいだね。でも近くにいんのは間違いなさそうだ」

『居たぞー!フェアリーテイルの魔導師だ!』

『この顔、ルーシィか!?』

「え!?ルーシィ姉ちゃん!?」

「知り合いかい?」

 

少し見やれば、見慣れた格好に見慣れた顔、ルーシィが先ほどの集団に囲まれて連行されそうになっていた。

 

「これはマズイわ……やるっきゃない!」

「おい待てよライム!」

「ちょっ……お姉ちゃん!」

 

国王軍を相手にするのはまずいと止めにかかるが、シリルは既に飛び出した後。左手には気功の力、右手には血の力を溜めている。

 

「姉さん、姿勢を低くして!」

「えっ!?何でシリルがここに!?」

「今はいいから!」

「えっ、うん!」

「一発入魂、『気紅双波(きこうそうは)』!」

「これは、何の力なんだ?」

「魔法の一種だよ!ほんとにあの薬効果あったんだ」

 

シリルから出された力を知らない者、魔力の体内からの創出を可能にするすべを知らない者からすれば、何があったのかさっぱりわからないことだろう。国王軍の1小隊を片付けたところで近場にいたエドルーシィとナツ、ウェンディらとともに近場の森まで避難する。

 

「おい、どうしてここにあんたがいんだよ、国王軍の元隊長さん?」

「傭兵としての採用だよ。国王軍を辞めてるし、あんたを捕らえる気はねえさ。文句あんならあの二人に言いな?」

 

そこではエドルーシィとセリナが険悪な雰囲気を醸し出していた。今は傭兵に身をやつしているセリナだが、元は国王軍の一部隊の隊長であり、本当の名をシリル・S・バレンシアと言うらしい。名前を知ったからにはシリルとユリアも本名を告げ、本当の渡航目的や出自も語ることとなる。

 

「ちっ……あの二人ももう一人のあたしやナツ達と知り合いみてぇだから、今回はこれで終わりだ」

「助かるねぇ。ま、正直あのライムがもう一人のあたいだとはね……それにリリスも、ユリアだとは……」

「奇妙なもんだよ、ほんとに」

「不思議なもんだ、同感さね」

 

仲間と会え、心強い味方も得た。まだ戦いはこれからだ。


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