シリル組が城兵を片付けている間、ユリアはもう1人のユリアを逃すまいと魔法で足止めを敢行している最中だった。
「逃がさないよ〜!『ポイズン・ショット』!」
「(早いな……危なっ!)」
「むぅ……えいっ、えいっ!」
「くそっ、これが本当にもう一人の私なのか!?」
「神の啓示書第五巻三章暗黒神の項、『エレボス五奏撃』!」
追い討ちをかけるように大魔法を発する。五つの魔法陣から放たれる闇の槍が降り注ぎ、城壁を抉りながら迫っていく。相手の足場や動きを制し、一発命中させる。しかし、それだけで倒れる相手な訳なく、当然反撃にあう。
「『トリガー・ブラスター』!」
「ふぎゃっ!痛ぁ…傷になりそうだよ……」
「隙あり!なっ、影に入った!?」
『潜影術』。影に入り込み、隙を減らしたり傷の回復をしたりとなにかと便利な能力を使い、逆に不意打ちを食らわせる。
「『潜影刃』!」
「ガハッ!くっ……すばしっこい奴め。これで!」
「っ!閃光弾!?」
「(目が眩んだわ。今度こそ!)」
影が出来ないほどの光をたけば、先ほどの厄介な能力も使えないと踏み、怒涛の連撃を与えんと、トンファーを振る。二発三発と攻め立てていく。
「あ痛っ!」
「はあっ!」
「うわぁ!!」
だが、続けざまに振り下ろそうとしたトンファーだったが、実体を捉えきれず、霧散した影を切るだけになってしまった。光は消えかけていたが、それでも動けるとは思っていなかったからだ。
「よいしょっと」
「(霧散した?どこ行ったんだ?)」
「(背中、ガラ空きだよ!)『冥府神の一声』!」
「なっ!?」
迷いを生じさせたのが運の尽き。背中を捉えた特大の咆哮は無情な鉄槌となり、エドユリアを吹き飛ばしてダウンさせるには充分な一発となってしまった。
「こ、これがアースランドの……魔導、士の……力、か」
「油断大敵、だね!」
「ユリア、無事!?」
「おーおー、こりゃド派手にやってくれちゃったねぇ。ユリア、これで分かったでしょうが、時に自分の意思で進む力ってのを」
「まだ私たちは……負けた訳では……竜鎖砲がある限り……」
追ってきたシリルたちと合流した際に、そんな言葉を発し、ユリアは気絶した。『竜鎖砲』が何なのか分からない以上、不気味な言葉となり、波紋を広げようとしていた。
「さっき言ってた竜鎖砲とはなんです?」
「ドラゴンスレイヤーの魔力を動力にした砲弾だ。それでラクリマとエクスタリアを衝突させ、永遠の魔力を手に入れるための代物だよ。辞める前に計画自体は聞いてたからね」
「そんなことしたらみんなは!」
「ああ、二度と戻らねえだろうさ。もちろん止めに行くよな?」
「当たり前だよ!みんなを取り戻す!」
「よく言った、流石だ!」
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「こちらです、陛下」
「うむ、準備は整いつつあるのだな?」
「ははっ」
その竜鎖砲の前には国王と数多くの兵士たちが待ち構えている。この一撃を放てば魔力を永遠に手に入れられるとあって、国王本人の希望で彼の目の前で発射が行われる。そこへやってきたのはボロボロになっているエドエルザだ。
「失礼します、陛下。賊の一部を捕まえて参りました」
「おお、ようやったエルザ。ユリアは見かけなかったかな?」
「いえ、まだ駆除中なのでしょう、見かけておりませんが」
「そうか。まぁ良い、竜鎖砲を稼働させる。準備せよ」
「はい。しかしながら鍵を破壊されているようです」
「どうするつもりだ」
その疑問に対し、グレイを突き出した。鍵が壊されているなら複製させればいい話だ。断れば仲間、ナツの首を切り落とすと脅迫めいた方法で従わせる。
「この魔道士の片割れ、自由自在に氷で物を造れるそうです。鍵の代用品を造らせれば問題ないかと……立て、人質がいることを忘れるな。逆らえばどうなるかわからん訳でもあるまい」
「くそっ……」
仲間の命がかかっている以上やるしかない。しかもデメリットばかりかメリットもうまく使えば出てくる。ガジルに復活させてもらった際、滅竜魔法にラクリマを元の状態に戻すという、願ったり叶ったりな性能があることがわかったからだ。だがここで問題が生じる。肝心の機械の操作方が分からないのだ。
「(くそっ、どうやって照準の向きを変えるんだよこれ!このままじゃ……滅竜魔道士の魔力をラクリマに当てさえすれば、皆が元に戻るってのに!)」
「……ここまで、か。ナツ、やれ!」
「へへっ、おうよ!火竜の翼撃!」
「なっ!?何が起こって……」
突然のエルザの裏切りと攻撃を受け、混乱に陥る兵士たち。そこの合間を縫って今度は国王を人質にとって見せる。
「照準をラクリマ本体に変更しろ!国王の首がとんでも良いのか!?」
「何をするエルザ!貴様、シリルに毒されたか……」
「毒された?何を言う?私は元々貴様らの敵だ!」
「なっ!?貴様はアースランドの!」
「作戦通りだな、流石はエルザだぜ。咄嗟に変身するとはな」
「これぞ
そう、見た目が一緒なことをいいことに、エルザ・ナイトウォーカーに変装し、皆を騙しとってみせる高等技を為している。しかしそれも一時。ナイトウォーカーの襲撃を受けた。
「まだ終わってないぞ、スカーレットォ!」
「ナイトウォーカー!?くそ、こんな時に!」
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「わわっ!?すごい揺れが……」
「ちっ、発射したか。とりあえず空に行こう!状況を把握しねぇと……ここだ」
「翼を持った動物?」
「レギオンだ。飛行艇がわりに使うんだけどね、少しばかり獰猛だぜ。あたいの使ってた個体は居ねえな」
「やってみないことには分かりませんよ、一匹拝借しましょう」
『グァオオオッー!』
「ほら、落ち着いて。貴方を傷つけようってわけじゃないの。少しだけで良い、貴方の背中と翼を私に貸して。ね?」
『グルッ?ガルゥ……』
「すごい……落ち着きやがった。あたいやエルザでさえ乗るのに何週間もかかったってのに」
感嘆と驚きを込めた言葉に、空を飛べる魔獣の背中に乗って2人の手を引く。
「私たちと飛んでくれるのね、ありがとう。さ、2人も乗って」
「あ、ああ。ホントにあんたは何者なんだい?」
「動物達と分かり合える力を持つ巫女みたいです。ふふ、新しい特技発見です。じゃあ、私たちを鎖の先に連れてってくれるかしら」
『ガォオオオ!』
「最後の戦いになりそうだ。国を変えるためにも進むしかない!」