「姉さんの決戦、始まったわね」
「お姉ちゃん、ナツお兄ちゃんたちの後を追おう」
「どっかで落とされたみたいね。レギオン、探せる?」
エドシリルとエドユリアの決戦の開幕を見送り、落とされたもう一つのレギオンを探しに飛び回ると、森の開けた場所に彼らの姿があった。エドエルザと敵対しに行ったエルザと国王の乗る兵器を倒しに行ったナツらドラゴンスレイヤーは居ないが、それ以外のメンバーは全員いた。だが、既に国王軍の包囲に晒されている状況だった。
「もう囲まれてるか。レギオン、私たちを降ろしたら元の場所に帰ってね。初っ端から飛ばすわよ、魔力残存量なんて気にせず!『生命神の大一声』!」
「『冥府神の大一声』!」
「シリル、ユリア!救援助かるぜ!」
「まだ先は長いですよ」
「押し返すよ!『影狼』!」
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「おらぁ!」
「はぁっ!」
2人のあげる音は森の中に響き、静かな闘争を繰り広げる。
「腕あげやがって……もうあの頃と段違いだぜ」
「貴女も鈍っているどころか、澄んですらきていますね」
「勝ちは譲れないよ。あの子達との約束があんだからねぇ」
「こちらも一度『私自身』に敗れたけど、もう二度とあんなことは起きませんよ」
覚悟も背負っているものもある。両者とも譲れない状況があるのだ。希望を背負い、攻めるまで。この状態まで隠していた秘技を浴びせんと、シリルは武器のアクセルを開ける。
「それは、どうだろうね!」
「(魔力の隠し持ち!?)」
「『
「魔力を飛ばしてくるとは…(こんな使い方、軍でやってたかしら!?)」
「『
「『
武器に仕込んだラクリマを応用した第2ラウンドの開幕だ。
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「『
「『弾血乱舞』!」
「全然減らないわね」
「これじゃ、まずいよ」
魔法武器の数の圧力にレギオン隊の参戦が徐々に彼らを追い込んでゆく。絶体絶命に思われたその時、どこからか聞き覚えのある声がする。
『手こずってるみてえだな、アースルーシィ!うちらが手ェ貸してやるよ!』
「エドルーシィ!?」
「どこ!?」
地面から生えてきた苗は急成長し、レギオンを押し返しながらギルドが現れた。エドラスのフェアリーテイル全員で駆けつけてくれたのだ。エドルーシィが王都で別れてから仲間の元へ走り、全員に必死に戦おうと訴え、今ようやくやってこれた次第だ。
「ギルド!?ま、まさか……」
「みんなで来てくれたんだ!さっすがお姉ちゃん!」
「遅くなっちまって済まなかったな。加勢してやるから追い返そうぜ」
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「『
「『蒼断棍』!」
魔法を使っての応酬を繰り広げること数十撃、傷が増えても倒れようとはしない。このまま攻めあぐねている事を良しとせずにいるシリルはある提案を示す。一騎打ちの一発での決着だ。
「決着つかねえか。なら、お互いこれで最後にしようや、なあユリア?」
「そうですね。これ以上無駄撃ちはしたくありませんので」
「なら決まりだ」
もう拮抗した状況で動かないのなら、一発に全てを乗せて決着をつけるべきだとお互いに決意する。己の意思に呼応して武器を最強の形へと変化させていく。
「双棍は竜を天へと登らせる槍になる。『昇竜の槍』!」
「聖なる牙は邪なる野望を星に帰す。『斬竜刀・星彩』!」
かたや双棍を一本の槍へ、もう一方は大刀に全魔力を注いで光り輝く星のようにする。乗せる思いも夢も約束も何もかもが違う。
「これの一撃で王国の力を示します」
「打ち砕くまでだ」
「うおおおっ!」
「はあぁぁあっ!」
正面に一振り、互いの決闘は雌雄を決しようとしていた。すれ違いざまに放たれた一閃、軍配を上げたのはシリルだ。肩を切られながらも武器をへし折り、峰打ちでユリアの膝を屈させた。
「あたいの勝ちだ、昇竜破れたり。剣術三倍段とか言うけど、こっちの実力が上回ったようだね」
「なぜ、なぜ私を斬らなかったんです?」
「あんたには死なれたら困るし、ジェラールもあたいもそれを望まないからさ。付いてきな、アースシリルのとこに行くよ」
「……分かりました」
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「エドルーシィ、なんで来てくれたんだ?」
「何か感化されたらしいよ」
「まぁ援軍に来てくれたんならそれで良いか」
エドルーシィが決戦への参加を決意したのはアースランドの皆の熱い覚悟に心動かされ、エドラスの自分たちが動かないで何がギルドだと心意気を感じたからだ。
「『ブラックホール』!そこからの……」
「『大気功掌』!ナイス連携よ」
「やるわね、まだ小さいのに」
「私はもう15です。小さくないです」
「私も心はおっきいつもりだよ!」
「ごめんね。私お姉ちゃんとお兄ちゃんしかいないし、ギルドに私より年下中々いないからね。それにしてもルーシィとか似てるのに、貴女たちの顔は見かけたことないわね」
「それもそうでしょうね。こっちの私たちはあまり似ていませんから」
まだしばらくは知る由もない、話しかけてきた
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「シリル姉様、王子はこの後どうするおつもりなのでしょうか?」
「久しぶりにそう呼んでくれたな。そうねぇ、魔法の返還だろうさ」
「それじゃあアニマを!?」
「そうさ。この世界には本来魔力なんて殆ど無かったんだ、求めすぎたんだよ。それをあるべき形に戻すまでだ」
ジェラールことミストガンが向かったのはアニマ制御室のある方。それはつまりアニマの操作によるアースランドへの魔力放出と融合だ。豊潤な魔力を持つアースランドなら放たれたものを受け入れるだけの器があるからだ。
「そう、ですか。私たちにはもう……」
「心配すんな、ちゃんとやっていけるって」
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「魔力が!?急に魔法が!」
「どうなってんだ、こっちも急に壊れたぞ!」
「な、何が……」
「おそらくアニマの逆展開だ」
「魔力をあるべき形に、アースランドに帰すんです」
レギオンに乗ってきたエドラスのシリルとユリアは魔力の流出の原因を説明してくれる。ミストガンの真の目的はこの世界からの魔力の放出、喪失による新しい世界の創生だ。
「姉さん、それ、本当ですか?」
「マジもマジ、大真面目だよ。元からこうするつもりだったんだ、ジェラールも」
「じゃあ、魔力を身体に持つ私たちは?」
「時間を置いて元の世界へ、これでお別れだろうかと。もう戦争はおしまいです」
要はアニマで吸い込まれた時の逆の現象が起こるのだ、魔力を持つ者は全てアースランドへと送られる。もう魔力がなくなるという事は二度と並行世界が交わる事は無いのだろう。最後の別れを前にシリル同士、贈り物をする。
「アースシリル、これをあんたに渡しておくよ」
「オカリナですか?」
「あたいのお守りみたいなもんさね。餞別だよ、あたいなりのね」
「いただきます。お返しと言ったらなんですが、これを……」
「髪留めか、良いじゃん。そろそろ髪伸ばそうかねぇ?」
それは大切に持っていた宝物だ。この別れの贈り物を大事に、お互いを決して忘れない。そんな誓いの贈り物だ。そしてリミットが来たのか、遂に身体を光が包み、アニマに向かって引力が働き始める。
「身体が……光ってる」
「そろそろ戻る時間だ。たった数日だったけど、楽しめたぜ」
「敵対してしまいましたが、貴女がたのお陰で……滅竜魔道士の方も上手くやったみたいですね。これで国も変わるはずです。ありがとうございました、色々と」
「私は、貴女たちの事を何百年経とうとも忘れません」
「ああ。じゃあな、あんたらの事はあたい達の人生を変えた人として忘れやしないよ。元気でな」
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「うわっ……っと。あ、戻ってる!」
「アースランドに帰ってこれたのね(この指輪、大切にしますね。エドラスの私……)」
「ナツ兄ちゃん、勝ったの?」
「おうよ!まぁギリギリだったけどな」
国王の乗る竜兵器を倒した彼らと共に、なんとか街に戻ってこれたが、街の様子も気になるところだ。
「さてと、街の様子を見ておきたいが……」
「みんな無事だよ、気づいてなかったみたいだけど!」
「えっ?ど、どうしてエクシード達もいるのよ!」
「僕達も魔力持ちだからね。引っ張られてきちゃったんだ」
魔力を持つ彼らエクシードもアニマの逆展開の影響を受けていたのだ。そんな彼らとの会話でシャルルの情報が未来予知の暴走による影響である事が判明した。そして、これからは彼らは女王の元、静かに暮らせる場所に移住する決意を固めた。彼らが去り、妖精の面々のみになった時、ガジルがあることに気づく。
「そういえばリリーはどうしたんだ!?あいつを相棒にするつもりだったのによ!」
「俺ならここにいる。身体は小さくなってしまったがな」
「うわ、ちっちゃっ!どうしたの!?」
「どうもサイズがこちらの世界に馴染まなかったらしい。おいガジル、俺を王子のいたギルドに入れてくれるのだったな?約束は守ってもらうぞ」
「勿論だぜ、相棒!」
戦っている最中にもそんな約束をしていたのか、新しいエクシードがギルドに入る事が決まった。何故かガジルが泣いて喜んでいたが。
「それはそうと、1人怪しい奴を捕らえてな。出てこい」
「うわっ!ちょっと、私も
「えっ!?」
「お前、リサーナ!!」
死んだはずのストラウス家次女の姿がそこにはあった。