フェアリーテイル 生命の唄   作:ぽおくそてえ

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お待たせしました。今回は五千字超えと自分の小説では今の所最長クラスです

暫くお休みする可能性があるので、もし次まで長い場合お察しください


第52の唄 帰郷、そして哀しみ

「ちょっと、この縄解いてよ猫さん」

「俺はエクシードだ、名前はパンサーリリー、覚えておけ」

「なんだお前は、俺の相棒に文句でもあるのか!?」

「そ、そういう訳じゃ……ってナツ、ハッピー!」

「えっ?うおおっ!?」

 

あまりに突然の登場に惚けていたナツは突撃したリサーナを受け止めきれずに倒されてしまう。こっちのナツにハッピーを知っている事に違和感を抱くが。

 

「久しぶりに会えた……三年ぶりだね」

「待て、アースランドのリサーナは死んだはず。ここに来れる筈は」

「でも魔力を持たないならこちらへは来れない筈。もしかして」

「うん。本当はこっちの私なの」

「でもどうして……あっちのギルドで会っただろうが!」

 

ナツとハッピー、ウェンディとシャルルはあっちのギルドで一度対面しているにもかかわらず、ちゃんと話すのは今になってなのだ。

 

「私ね、三年前のあの事故の時、アニマに吸い込まれたみたいなの。ただの偶然だろうけど。その時にあっちのリサーナは死んでてね、ちょっと後ろめたかったけど、成り代わったの。三年間それで過ごしたんだけど、ナツたちが来て、あの戦争があった」

「最後にアニマの転送に引き込まれた、そういう事ですね」

「ええ。私は魔力を隠してたんだけど、どうにもあっちのミラ姉とエルフ兄にはバレてたみたい。あの時言い出せなかったのはあの2人が居たからね」

 

あちらの姉や兄、仲間たちを悲しませぬために嘘を三年かけて貫いた事、そしてそれすらバレていたことなどを告げていく。

 

「色々事情は分かった。今ミラたちはお前の墓のところにいる、場所はカルディア大聖堂の裏手にある。行ってくるといい」

「ありがとうエルザ。それと……エドラスでの隊長さんたちね、あの2人」

「そうだ、お前が居なくなってから加入したメンバーの内の2人だ」

「そうなんだ。ありがとう」

 

====

 

「いやぁ、ギルドもミラ姉も雰囲気変わったねぇ」

「ふふ、そうかしら?」

「うんうん。でもまぁなんだろう。このギルドはどこに行ってもこのギルドらしさはあるなぁ」

 

どちらのフェアリーテイルにも居たリサーナの率直な感想がそれだが、これに関しては確かだし、新たな仲間になったパンサーリリーも同じ感想を抱いており、皆に魔力がある事を含めて戸惑っていた。

 

「ギルド、いつもより賑やかですねマスター」

「そうじゃなあ。ミストガンの事は残念じゃったが、元気にやっておるじゃろうか」

「心配ねぇさ。なんたってこのギルドで育ったんだ、力強く生きていくぜ」

「そうですよ……それとマスター、あれの発表があったら、その頃に出発しようかと」

「そうか、約束の時期に差し掛かったか。2年弱、長かったような短かったような」

 

チキによって出されていた帰郷の命はこの冬に出立する事を条件にしていたのだ、そろそろ帰る準備などをしないといけないし、もう長くは街にもギルドにも留まれない。

 

「あっちに帰ったら次いつになるか分かりませんけれど、毎年連絡だけはしておきますので」

「うむ。ユリアのことは任せておけ、ワシらでしっかりと預かる。それまでの間に皆に挨拶しておいてやってくれい」

「嬢ちゃんもう帰っちまうのか。会ったばっかであんまり話せなかったなぁ」

 

====

 

「ふぅん、2人とも神様の巫女さんなんだね」

「私はまだ見習いだけどね。師匠がまだダメだって」

「そっか。なんか妹が出来たみたいで楽しいわね」

「まだユリア10にもなってないから仕方ないわね」

「あ、お姉ちゃんひどいよぅ!」

 

リサーナやユリアと残り短い時間を過ごす事にしたシリルはユリアをからかいながらも楽しく過ごしていると、そこにナツやエルザなどのいつものメンバーがやってきた。ナツは既にハッピーと組む事を決めており、他の8名も相棒を次々に決めていく。リサーナはジュビアと組んでいて、ユリアはこのギルドに残る事になった。

 

「おうシリル、お前実家に帰るんだってな」

「ええ、あちらで色々とやらないといけないので。もしかしたら数年くらい帰ってこれないかもしれませんけど」

「あれ、そうなの!?聞いてないよお姉ちゃん!」

「仕方ないことだユリア、シリルにも事情があるんだ。それで、やる事というのは?」

「神の座の引き継ぎでしょう。母様も限界に近づきつつありますから」

「さみしいけどもう決まってたんだね。あっちに着いたらお手紙とか出してよね!約束だよ!」

 

====

 

「さて、そろそろこの時期か」

「何が起こるんだろう」

「毎年の恒例行事で、試験の時期なんだ」

「試験?それって……」

「マスターが来た、よく聞いておけよ」

 

いつの間にか作られていた舞台に立つ現S級魔道士とミラ、そしてマスター。彼らの登場に皆大いに盛り上がり、何かの発表を急かしていく。

 

「待たせたのう。発表しよう、今年の『S級魔道士昇格試験』出場資格者を!」

「S級昇格!?」

「燃えてきたぞ!」

 

マスターからの発表はそれ即ち一年に一度のS級選抜の試験である。この試験は難関であり、不合格者しかおらず、合格者ゼロなんて年もあったくらいだ。そんな試験に誰が選ばれるのかを毎年楽しみにしているのだ。

 

「資格者は次の8名と定めた。ナツ、グレイ、ジュビア、レビィ、エルフマン、カナ、フリード、そしてメストじゃ。場所は我がギルドの聖地天狼島にて一週間後に開始する。それまでの間にS級魔道士以外のギルドの現役魔道士からパートナー1人を決め、港に集まるように。それともう一つ話がある。既に知っている者もおろうな」

「私、シリル・L・ゼウスティアは、試験の始まる前に帰郷させていただきます。2年近くお世話になりました」

「話の通り彼女はあと数日をもって一度ギルドを離れる、積もる話もあるじゃろう。以上じゃ」

 

====

 

「じゃあ行きますね。ユリア、元気でね……兄さんたちも試験頑張ってください」

「次会った時は俺がS級かもな。誰がなってても驚くなよ?」

「お姉ちゃん、頑張ってね!」

「あっちに着いたら連絡するわ。私の部屋は好きに使ってもらっていいから」

 

あの発表から二日後、遂にシリルは帰郷の日を迎えることになり、ギルド総出で送り出しに来てくれたのだ。シリル達の家はユリアに全て譲り、そしてある紙を彼女に手渡す。

 

「これ、連絡ラクリマ用のチャンネルよ。私はあっちから直接家に置いてあるラクリマに繋ぐわね」

「了解したよ」

「また成長して会うのを楽しみにしてるわね。頑張ってちょうだい、『冥府神の巫女』としても」

「うん、次に会う時はもう神様の座に就いてるかもだけど、それでも私の大好きなお姉ちゃんなのは変わりないからね!」

 

彼女との出会い、さまざまな人との繋がり、堕天使との敵対、そして数多の別れ。2年弱であまりにも多くを経験したが、それが成長に繋がっている。

 

「(またいつか会いましょう。私に大切なものをくれた人たちよ)」

 

====

 

『いよいよ時は来ました。引き継ぎの儀式の準備を進めてください』

「ははっ、かしこまりました」

『貴方の仕事はそれで最後とします。今までの労をねぎらい、最期のひと時まで暇を与えます。我が右腕、ファラスよ』

「貴女に仕えて60年、とても充実した生涯の仕事となりました。せめて貴女の側で、最後まで働かせていただきましょうぞ」

 

帰還の一報を受けた神と彼女の数十年来の臣下は最期の挨拶を交えていた。主人の死と並行するように引退する者。世代交代を果たそうと言うのだ。

 

『(シリル、貴女には竜王祭の話、そして我が先代のナーガの死に際を知ってもらわねば。これも宿命なのでしょうか、私の死が発覚した時に貴女を、神の力を継ぐべき存在を拾うことになるだなんて)』

「チキ様、如何なさいました?」

『いえ、昔を思い出していただけですよ』

 

愛娘との出会いはまさしく因果、そう思いに耽る神は、1人の母親でもあったのだ。

 

====

 

「あれ、あそこにいるのは……」

「おう、久しぶりだなシリル。こんなとこでどうしたんだ?」

「帰郷の真っ最中ですよ、ラクサス兄さん。こんなとこで会うなんて奇遇ですね」

「気ままな旅の道中なんでね。あれこれ勉強しなおしてるとこだ」

 

マグノリアを出て二日、砂漠近くの町で出会ったのはギルドを破門にされたラクサスだ。数ヶ月ぶりの再会だが、元気に旅の最中なのだ。

 

「お前、あの頃と少し雰囲気変わったな。大人びてきたって感じか、成長したな」

「ありがとうございます。兄さんも元気そうで良かったです。これからどうなさるんです?」

「どうだかな、あてのない旅だからなぁ。ま、次の街でお別れになりそうだが」

「そうですか。じゃああの後のギルドの話、今のうちに少ししましょうか?」

 

====

 

「それじゃあここで別れようか。ギルドの話、楽しかったぜ」

「ええ、こちらも久しぶりに会って元気なのが確認できて良かったです。またいつか」

「ああ、いつになるか分からんがな。もしかしたら偶然また会うかもしれねえが」

 

次の街まで二日近くかけてやってきた2人だが、とある予感を感じたラクサスとはここで別れる事になった。まだ夕方ではあるものの、これ以上進むと野宿になりそうだったためここで一泊する事になった。

 

「ふう、私も頑張らなきゃ。ラクサス兄さんも頑張っているみたいだし」

 

途中で襲ってきた獣をいともたやすく倒した彼の力に、磨きがかかっている事を見て、自分も強くならねばと固く決意を固めたのだ。明くる日、日のまだ出きっていない時間から動き、砂漠ごえを敢行し、夕方には新たな町に到達した。一休みしようと訪れた酒場で凶報を聞く事になる。S級試験会場に闇ギルドの筆頭が一つ悪魔の心臓が来訪、うまく追い返したものの、その後に強襲してきたアクノロギアなる竜の咆哮が島を包み、天狼島は消失、現地に行っていた20名前後は全員行方不明になったと。

 

「嘘でしょ……なんで……」

 

====

 

「母様、ただいま戻りました!生命の巫女シリルです」

『おかえりなさい、愛娘よ。あちらで過ごした日々はどうでしたか?』

「みなさんのお陰で楽しく、そして実りある旅路となりました。2年の間に多くの出会いと別れが私に少しだけ道を示してくれました」

『それは重畳です……貴女の友たるギルドの一部が、魔の竜アクノロギアに襲われて行方不明だと聞きましたが』

「……彼らなら大丈夫なはずです。でもまだ信じられないです」

 

あの知らせを聞いてから三日後、急ぎに急いで走ってきたシリルをチキは暖かく迎え入れた。少しでも早く連絡を取りたいシリルを落ち着かせ、話を済ませる。

 

『彼らは私の探知で探してみましょう。さてと、貴女を呼び戻した理由、大凡検討はつきますね?』

「母様の、寿命についてでしょうか?」

『ええ。それと、貴女にその後継を頼みたいからです』

「私がですか?」

『はい。それに先立って、私の先代と闇ギルドの一つ流れる七星(フォーレンスターズ)の因縁に関する話を、少しばかりさせていただきましょう。これから先の事に繋がりますから』

 

ナーガのことと、衝突した闇ギルドの話。たしかに仲間のことと同等に重要なことだ、聴き逃すまいと佇まいを正して傾聴する。

 

『ナーガはこの世界に平穏を与えるお方でした。私の師であり母であり尊敬するお方でした。しかしながら、彼女の思想に反する考えを持つ団体が現れ、その団体からゼレフが400年ほど前に所属していたのですが、不老長生と周りの生物の命を奪う呪いをかけられました』

「今も生きているんですか?」

『無論です。そして彼の力に魅入られた天使や神の使いが彼の力に賛同し、かのギルドが生まれました。貴女が何度も衝突した堕天使たちはゼレフの崇拝とナーガの封じたある悪魔の復活を目指しているのです』

「悪魔の復活?その悪魔とは……」

『ガルフォス、堕天使を率いた大物の悪魔です』

 

曰く、山を消し、海を割くことが出来たのだという。その悪魔と雌雄を決する戦いをしたのがナーガであり、竜王祭のもう一つの決戦の舞台になった。ナーガとガルファスの戦いは十日にも及び、倒すことは出来なかったが弱体化させて数百年にも渡る封印を施すことに成功した。それの解除を出来る可能性をゼレフに見出したのが彼の傘下だった堕天使たちだ。それから力を使い果たしたナーガは後継をチキに定め、残った力を与えたという。

 

『私の生きている間に復活はなかった。貴女が堕天使を倒したことで意図せず食い止めていてくれたからです。この厄災を貴女に押し付けてしまうかもしれません。それでもこの神の座につきますか、シリル。貴女には選択する自由があります、強制はできません』

「元より覚悟の上です。貴女の娘になって十数年、いずれこうなってもおかしくはないと感じていましたから」

『そうですか。ならば貴女の神としての器を完成させましょう。あと二ヶ月、修練の時間はそれだけです』

「はい、畏まりました」

 

====

 

「ユリア、聞こえるかしら?」

『あ、お姉ちゃん無事に着いたんだね!?それよりマスター達が!』

「旅の途中、方々で聞いたわ。正直ショックだわ」

『今他のギルドの人とか評議会のラハールさんとかが調べてくれてるよ!』

 

帰郷翌日、早速ユリアに連絡ラクリマを通して話を聞こうとラクリマを立ち上げたら、慌てたようにユリアが応答してきた。マスター達が行方不明になってから天馬やラミアなどが積極的に探しており、ラハールの要請によって評議会の方でも動いてくれていること。それでも4日経つがエーテルナノの異常数値を観測したが故に捜索が難航していることなどが分かっている。マスターが居ないのは今後問題になるとしてマカオが暫定的に4代目の座についたこと、そしてユリアもギルドに残りつつ正式な巫女の座に就くことが分かった。

 

「私の方は暫くここを離れられそうにないわ。肝心な時にごめんなさいね」

『しょうがないよ、これはこれ。それはそれだもん』

「ありがとう、そう言ってもらえると救われるわ。あの強いメンバーがそう簡単に死ぬとは思えない」

『うん、同感だよ。じゃあ一旦切るね、また来月くらいかな?』

「そうね、また話しましょ」

 

連絡を切り、シリルはユリアに見せなかった涙を流す。信じているが、それでもまだ不安は拭えない。信じているからこそ、前を向く。

 

「私は……皆を探し出してみせる、必ず!」


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