フェアリーテイル 生命の唄   作:ぽおくそてえ

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お久しぶりでございます、ぽおくそてえです。
またしばらくお休みの世界かもしれませんので、そこはご容赦くだされ


第7章 復活への道 大魔闘演武編
第53の唄 唄は再び奏でられる


「母様、お呼びでしょうか?」

『シリル、この数ヶ月の鍛練、よくぞ乗り越えました。いよいよその日が来ました』

「継承の儀、ですね」

『そうです。器、心の内にあるべき魂の唄、身体的な力、それが完成に近い。今の貴女なら私から力を受け継ぐに足ります』

 

785年になって最初の雪の日、シリルは遂に修業の成果を果たすべく400年近くぶりに行われる神の座の後継に移る。その前にチキより新たな名前をつけられる。

 

『貴女のこれからの名は『豊命神カノン』、新しい世の中を豊かなものにするのですよ』

「カノン……いい響き」

『本当によろしかったのですね、神の座を受け継ぐこと。もはや人間としての一生は捨てると同義になりますが』

「少し、考えました。でも、私はその一生を一度は捨てたも同然、貴女に会わなければ死んでたのですから。それに、神になったとしても、魂の繋がりはできる。私はこれでいいのよ、母様」

 

満足そうに、そしてどこか寂しそうな顔のシリルに少し心配そうに眺めるが、覚悟を決めた愛娘を止める言葉は見つからず、最後の確認をする。

 

『これから貴女に力を継承させます。それから、私という存在も無くなります。書物と記憶にしか残りません。信仰は貴女のものになるでしょう、守るものが増えますが、覚悟はよろしかったですね?』

「我が心に迷いはありません。貴女の司る力を受け、愛する者たちや仲間の為、その力を使います。誓いましょう」

『良い答えです。この魔法陣の上で継承の儀を行います。瞑想を』

「ふぅ……」

『(心は平穏そのもの。死の前に良い娘を得ました)貴女は私の誇りです、どうか前へ前へと進みなさい。はっ!』

 

全ては平穏な世のため、自らの持つ力を全て受け継がせ、新たな門出を祝うかのように光がシリルを包み、消えていく。これで古来から行われてきた継承の儀が滞りなく進んだ証でもある。

 

「これが、母様の力……」

『継承は終わりました。もうこれからは貴女が現人神として進まねばなりません。そして……この十数年間、貴女と出会い、思い出を紡ぎ、言葉を交わしたことは私の生涯の楽しみでした。貴女をこれ以上側で見守れないのが残念ですが、心健やかにあちらへ逝けます。ありがとう、さようなら。心の奥底から愛していたわ、シリル』

「母様、ありがとうございました。そして400年間お疲れ様でした。どうかあちらでもお元気で」

 

これが現世での最後の言葉になる。涙声になりながらも胸を張って送る。

 

「さようなら、私の誇り高い母様。ありがとう……」

『泣かないで。最期くらい笑顔で送って』

「はい……私も、頑張るね、母様」

 

====

 

「あれからもう7年か。早いものね……母様、私はまだ未熟だけど、元気にやってるわ」

 

時は流れて791年になり、神の座を継いでから早6年半が経った。仕事も力もだいぶ馴染み、余裕さえ生まれつつある。この日は時々連絡していたユリアから呼び出しを受け、街に降りてマグノリアまでやってきていたのだ。

 

「待たせたわねユリア」

「カノン姉さん、みんな待ってるわよ」

「ええ。そういえば天狼組は戻ってきた?」

「それがまだなの。連絡した通りだけど、あれからギルドが弱体化するし、ロメオくんは落ち込むしで大変なのよ」

「そう、色々あるのね」

 

マグノリアの市街地を抜けるに従い、あちこちで変化が見られた。まず妖精の尻尾があった建物は閉鎖され、その近くには黄昏の鬼なるギルドが力をつけたのか大きな存在になっている。

 

「姉さん、ギルドに戻るつもりは無いんだよね?」

「私もできればそうしたいけど、立場もあるし忙しいから何とも言えないわね」

「そっか、やっぱり無理そうなんだ。みんな戻ってきてほしがってるけど」

「それにしても、街の方もだいぶ変わったわね」

「新しいギルドがここの筆頭ギルドになったし、私たちの方は隅に追いやられるし……多分今のままじゃ潰れるのも時間の問題なの」

「ここからどう巻き返すか、ね。だいぶ厳しい状況ね」

 

存続はギリギリ、メンバーも大半がこの弱体化の中で去って行き、別のギルドや仕事に就いているケースが増え、更に弱体化の拍車をかけた。

 

「姉さん、チキ様のこととかはもう大丈夫なの?」

「私は母様からこの世を笑顔で託された、泣いている場合じゃないわ。闇ギルドにアクノロギア、ゼレフにあの悪魔。やる事はまだ沢山あるもの。それとね、あれから消えた仲間の探知を何度もしてみたんだけど、ここ一年くらいでようやくだけどうっすらと生命の拍動は感じるわ。薄すぎて消えそうなくらいに小さいのだけど」

「本当に!?それ聞いたらみんな喜ぶよ!まだ希望は失せてないし!」

「ダメよ、ぬか喜びをさせる訳にはいかないわ!大丈夫、彼らなら自分たちで帰ってこれる」

「う、うん。そう……よね」

「ごめんなさい、怒鳴ったりして」

 

希望になるのは確かだ。しかしながら万が一のことを考え、それを伏せておこうと言うことになった。しばらく話しながら歩いているうちにギルドの現在のある場所に辿り着いた。

 

「ほい、見えてきたよ!あそこが今のギルド」

「予想以上だわ、これ。でも温もりはあるわね」

「うんうん、いいでしょ!」

「どう挨拶すればいいかしら?」

 

丘の上に立つ小さな建物こそ今の妖精の尻尾のギルドの建物になる。だいぶ小さくなり、弱体化の証左とも取れる。

 

「マカオさん、戻ったよ!」

「だから4代目って呼べよ……で、そこの姉ちゃんは誰だ?」

「だいぶ変わったもの、気づかないのはおかしくないわ。久しぶりね、いや初めましてと言っておこうかしら。シリル・L・ゼウスティア改め豊命神カノン……7年ぶりの再会ね」

「し、シリルだぁ!?」

「ど、ど、ど、どういうことだよユリア!今日来るって聞いてねえぞ!しかも名残があまりねえじゃねえか!」

「ワカバさん、4代目、落ち着きなよ」

 

知り合いを連れてくるなど曖昧な伝え方をしたのか、シリルが帰ってくるとは思わず、困惑の声がギルドの中に木霊する。しかしながら仲間の来訪を喜び、歓迎してくれた。

 

「まあとりあえずゆっくりしてってくれ、お前がどんな立場だろうと俺たちの家族なのは変わりねえからよ」

「そう言ってもらえて助かるわね」

「何人か居ないけどどこ行ったのかしら」

「ああ、それなら天馬に教えられて……天狼島の跡地に向かったよ、ユリア姉」

「もしかして、全員見つかるのかしら?(一年前からのこの魔力の感じ……あながち嘘じゃなさそうだしね。それに何故か今はっきりと感知できる)」

 

クリスティーナ改により、偶にではあったが協力を無償でしてくれた結果、天狼島があった海域のエーテルナノ数値が変動し、復活の兆しが見えたという。それを確認しに何人か行っているそうだ。そんな折に借金の返済催促がやって来る。

 

「よお、借金の返済の件だぜ?」

「お前ら、まだしばらくは良いとさっき言ってただろ!」

「ところがどっこい、そういう訳にはいかねえってマスターの指示だ。諦めな」

「借金ねぇ……金困ってたなら私に言いなさいよ4代目」

「額がなぁ……それにお前に頼ってばかりもいらんねえよ」

「テメェ何者だ?昼間までいなかったよなぁ?俺たち『黄昏の鬼(トワイライト・オーガ)』を知らねえとは言わねえよな?」

「申し訳ないけど、ほとんど知らないも同然ね」

「ふざけやがって……テメェは引っ込んでやがれってんだ、部外者だろうが」

「あら、残念ね。身内よ」

「ナメた態度しやがって」

 

今や街一のギルドを自負する彼らにとってカノンのこの態度は受けつけないのだろう、次第に喧嘩腰になってくる。だが、仕掛けようと武器を手にした途端に入り口から声が飛ぶ。

 

「俺たちのギルドで喧嘩すんなら容赦しねえぞ」

「あ?誰だ……グボァ!」

「あら?」

「兄貴!クソォ、やっちまえ!」

 

蹴飛ばされた仲間を見て怒りが爆発したのだが、全員返り討ちに遭い、伸される。何事かと見てみると、そこには懐かしく会いたかった顔があった。

 

「へへ、ようやく帰ってこれたぜ!」

「ナツ兄、みんな!」

「遅かったじゃない、来てくれなかったらどうしようかと思ってたわ」

「よく言うよ姉さん。分かってやってたでしょ」

 

そこにあったのは見に行っていたメンバー、そして7年前と変わらぬ姿の天狼組だった。思わぬ帰還に皆涙し、そして笑顔でもって迎え入れた。

 

「おかえり、みんな!」

「成長したじゃねえか、ロメオ」

「4代目、みんなが帰ってきたし、私も来たもの。もうやる事は一つよね?」

「ああ、勿論だ、勿論だとも!こんな嬉しい事はねぇよ……宴会だぁ!」

 

====

 

「まさかあの別れが7年前の姿をみる最後の時だったとはな」

「こっちもびっくりしたわよ、まさか別れてから天狼島に行ってるなんて思いもしないし」

「差をつけられちゃったね、ウェンディ……」

「ええ、いろんな意味でつけられちゃいましたね、レビィさん」

「そう落ち込まないでよウェンディ。まだまだこれからじゃない」

「まさかユリアちゃんが歳上になってるなんて……うう……」

「あぁもう!泣かないでよぉ〜!」

 

身長や年齢、そしてとある部分で大差をつけられ、気落ちするレビィとウェンディをユリアは宥めることになった。

 

「いやしかし、本当に神になってたとは。これからなんと呼べば良いものやら」

「あれから7年ですし、こっちも色々ありましたから。カノンでもシリルでも好きなように呼んでくださいな。偉くなったとはいえ、余所余所しいのはごめんなので」

「そうか。しかし、そうなると母君は……」

「ええ、7年前に。ただ、彼女は今も我が心に生きていますから。それにちゃんと墓は建てましたよ」

 

神になったとはいえギルドの一員なのは変わらない事実だ。だから親しい人間にはかつての名前を呼んで欲しいと願う。そこにやってきたのはアルザックとビスカの娘、アスカだ。まだ小さく、5歳前後とこのギルドでは最年少の子だ。

 

「ねえねえお姉ちゃん!わたしと遊んで!」

「うん、良い子ね!よぉし、いっぱい遊ぼうね」

「うん!」

「こらアスカ……ごめんねシリル、どうしても遊びたいって」

「良いのよ〜、子供は私にとっても宝。いつでもどうぞ。よーし何しよっか?」

「おはなしきかせて!」

 

豊かな命を育む存在にとってどんな種族でも子供を大事にしたいと思っていたし、元々の性格ゆえか、嫌がるどころか嬉々として遊んでいる。その近くではロメオが嬉しそうにナツやガジルと話していた。

 

「ロメオ、お前も魔法使えんのか!」

「父さんやナツ兄と同じ炎の魔法だよ。元ファントムの兎々丸先生にこっそり教えて貰ったんだ。父さんが使うのと同じ粘着質の紫の炎に青い冷たい炎、臭い炎も出せるよ」

「へえ、あいつそんなことしてんのか。ギヒッ、あいつらしいかもな。しかしお前親父さんよりハイスペックじゃねえか?」

「ロメオくんのマフラー、ナツ兄さんに憧れてだそうよ」

「ユリア姉、言うなよ!」

 

憧れの存在に近づこうと同じ属性の魔法を覚え、服装も真似ていたのだ。なんとも微笑ましい光景とも言える。ナツたちがそれ以上に驚いたのがユリアの成長だ。あれから7年、もうすぐ十六歳になる彼女はギルドの支えとなっていたのだ。

 

「お前も成長したよなー」

「7年前のチンチクリンがこうもでかくなるとはな」

「今は私がこのギルドの主力よ!」

「ユリア姉が居なかったらもっと厳しかったよ。評議会とか他のギルドとの繋がりがあってさ、そこから頑張って仕事持ってきてくれてたからさ」

 

シリルたちのいない間は他のギルドから仕事を分けてもらったり、シリルの作った評議会との繋がりを受け継ぎ、そっちからも仕事を融通して貰っていたのだ。それでも減る仕事の中でどうにかやりくりしていたという。

 

「まぁ、それでも存続がギリギリだったのよ。良いタイミングで姉さんも兄さんたちも戻ってきてくれたわ」

「俺らに任せろよ!」

「助かるわ。最近巫女の仕事も増えてたし、姉さんとの連絡も疎かにするわけにもいかなかったから、正直きつかったのよ」

「お、おう……泣くほどきつかったのか」

 

====

 

「ユリア、久しぶりに一緒に仕事どう?」

「良いわ、行きましょ」

「お、お前らも仕事か!俺たちもついてくぜ」

「兄さんたちもかぁ。良いよ」

 

7年ぶりにチーム再開とだけあってどこか生き生きと仕事に向かう。そんな一行の中で話題になったのはラクサスの破門解除だ。4代目が辞めると告げたことで急遽5代目の指名があり、白羽の矢が立ったのはギルダーツだが、その5代目の意向だ。

 

「そういえばラクサスがギルドに戻れるんだと。流石はギルダーツのおっさんだな」

「結局はマスターの座も三代目に渡ったのね」

「えっと、マカオさんが4代目で、ギルダーツさんが5代目で、マスターが三代目兼6代目と……ややこしいわね」

 

4代目マカオから5代目にギルダーツの後継があったものの、性に合わないからと即座に辞任、ラクサスの復帰と3代目のギルドマスター再任、そしてギルドの再建を託して旅に出た。

 

「そういやぁ、ユリアが主力って話だけどよ、魔法はどうなんだ?」

「属性は大して変わってないわよ。威力は段違いだと思うけどね」

「面白そうだ、帰ったら一回戦おうぜ」

「やってみる?ナツ兄さんには負けないだけの力をつけたのよ!」

 

====

 

「『シャドーハンマー』、『フレイムソード』!」

「パワーアップした弾幕を潜れるかしら?多重弾幕結界『弾血乱舞・神式』!」

「俺たち必要だったか?」

「2人で大半片付けてしまったわね」

「私、何もできてないです〜」

 

実力をつけたユリアに神の力を宿してるカノンの前に全員唖然とし、消化不良のまま仕事が終わってしまった。

 

「お疲れ様っと。やっぱ姉さんとが一番やりやすいわね」

「腕を上げたわね。みんなも頑張ってたんじゃない?」

「よせ、今の2人には敵いそうにもない」

 

付いてきた意味が有ったのかと考える者もいる中、ギルドの前まで戻ってきた一行。ここでナツとユリアは出発前の約束通り一戦交えることになる。

 

「よっし、じゃあナツ兄さん。約束を果たすよ!」

「へへ、燃えてきたぜ!」

「やる気満々!こっちも心が震えるよ!」

「うわ、ナツと渡り合えてるよ」

「潜在能力は十分だったもの、あの調子だと更に成長の余地ありね」

「うげ、やりあったら勝ち目ねえな俺とか」

 

ギャラリーが増えていく中で話題になったのはこの7年間についてだ。

 

「しかし、7年間の間に成長してるあいつや他のメンバーと、あの天狼島の一件以降ずっとそのままの私たちの間では実力に差がついたりしててもおかしくない」

「私たちも戦力になるには修行とか必要ってこと?」

「うむ。見てみろ、あのナツでさえ少々押され気味だ」

 

ふと戦闘に目を戻すと接近戦をユリアが優位に進めており、ナツが珍しく苦戦を強いられている。7年間のギャップが如実に出ている。

 

「くそぉ、本気出さねえとマジィな。『モード・雷炎竜』!」

「えっ、何よそれ!?」

「『雷炎竜の……』」

「打ち消せるかしら。『冥府神の……』」

「咆哮!」

「大一声!」

 

ラクサスから譲り受けた力を発揮しても決着がつかない。並み居る魔導士に比べて威力の高い滅竜魔道士のパワーを持ってしても勝てるとは限らない。

 

「こ、これもダメかよ……」

「はぁ、はぁ、危なっ……ってナツ兄さん!」

「やべっ、魔力切れか」

「あーあ、無理するからよ」

 

結局は五分五分の戦いがナツの魔力切れによりユリアの勝ちになった。これを見るだけでも実力の差がついたり、平均的に力が向上していると見てもおかしくない。

 

「これで分かったな。ナツの全力を持ってしても五分五分だ、元々破格的な強さのギルダーツやラクサスはともかく、これでは我々は時代に取り残されている可能性が高くなったということ」

「しょうがないか。やろうか、修行」

「手伝えることはするわよ」

 

こうして時代の流れを肌で感じた天狼組は自分の力を底上げすべく特訓に励むことになったのだ。


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