「「「かんぱーい!」」」
「今日も気分が良いゼェ!」
「この調子で行けば優勝も目じゃねえぞ!」
「どうだい私の力はー!」
「あんなのチートだし、あれはシリルの力のお陰だろーが!」
3日目は負けなし、競技のワンツーフィニッシュにバトルパートはAチームの引き分けとBチームの勝利により合計で10点以上も稼ぐという素晴らしい戦果を挙げたのだ。当然ながらギルドの宴会は初日に比べて心晴れやかになるし、盛り上がりもする。特にエルザの美しい剣技とウェンディの頑張りは皆が評価し、感嘆したのだ。
「エルザ凄かったね今日の活躍」
「なに、皆の声援のお陰だ」
「怪我はもう良いの?」
「ポーリュシカさんとウェンディ、シリルのお陰でだいぶな。少し安静にしていればすぐに治るそうだ」
「すごい回復力ね」
「そんな3人の力でも治らないエルフマンって……」
「なっさけないわね〜。妹として恥ずかしいよ」
「あーあ、エルザさん頑張ってたのに私勝てなかったよ」
「何言ってるの、凄かったよ!」
「皆驚いていたぞ。それに今日の引き分けで勝ち点が入ったんだ、気にすることは無いではないか」
回復に特化した能力者3人で持ってしても回復しきれなかったエルフマンに対して呆れて言葉が出ないと言わんばかりだが、エルザの回復力が異様なだけである。そんな噂を感じ取ったのか、医務室ではエルフマンがくしゃみをしていたとか。ウェンディは勝てなかったことに少しばかり落ち込んでいたが、その活躍と頑張りに皆励まされており、次の日も頑張ろうという気持ちが大きくなった。
「ふふ、皆元気ねぇ」
「よかったですね、活躍が見られて」
「ええ、でもアルカディオス大佐の計画の中身、それが確認しきれてないのがなんとも不気味だわ」
「もしかしたらゼレフ同等の魔力とやらが関係しているのでは?あの後アルカディオス大佐をつけていたのですが、どうやら大きな門のような物を作っていたようでして」
「大きな門、ゼレフの魔力……ふむ(もしやルーシィとユリアを狙ったのはこれの為なのかしら?大きい門で例の魔力を帯びたものなぞ、エクリプスしかないが……)あちらの動きを探るのは危険ね。クレス、お疲れ様。あとは待ちましょう、もしかしたらジェラールの方で何か打開策を探り当ててるかもしれない。(でも、何か嫌なものが一気に進む気配がするのよね)」
エクリプスの扉の作動に関して、何か動きがあるのでは無いかという神の勘、それが嫌な予感をひしひしと伝えてくる。
「おーい、シリルも飲もうぜ!」
「はいはい。ちょっとだけよ?」
「シリルと一緒にいるお前もどうだ?」
「えっ?あ、私飲めないので」
「ああ、悪りぃ」
「良いんですよ」
「ま、今日はちょっとだけハプニングがあったけど順調に勝ち上がってるわ!明日もやってやろうじゃないの!」
「「「「おおっー!!」」」」
「(明日、そこが転換点かしら?)」
大会も半ばを過ぎてついに終盤戦、計画の目的も真意も読めないが、動くならば迎え撃つまで。闇の蠢く時間はその角まで忍び寄っている。
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皆が大宴会を開いている頃、ラクサスとマカロフは肩を並べて外にいた。今日の対戦相手のイワンから聞かされたルーメン・イストワールについて、問いただしているのだ。それは何なのか、『ギルドの闇』と言っていた事が引っかかっていたのだ。
「ジジィ、ルーメン・イストワールってのはなんだ?」
「イワンから聞いたのか?」
「名前だけな。欲しがっていたみたいでよ、俺に在りかを聞いてきやがったんだ」
「むぅ……あのバカ息子め」
「確かギルドの闇の一つとか言ってやがったな」
「闇ではありません。
「初代、その話はいけませんぞ!」
「分かっています、これはマスターになった者のみ知ることの許される最高機密。無闇に話せるものではありませんが、決して貴方の仇となるものではない。納得してもらえますでしょうか、ラクサス」
「怪しいもんじゃねえなら構やしねえし嗅ぎ回らねえよ。いずれ話してもらえんなら構わねえしよ」
その正体は話せない、だがそれは同時にギルドの加護でもある。そう言われて、納得はしたし、追求したところで何も分からないなら仕方あるまい。そう考えたラクサスの追求が終わった。
「どこから漏洩したのじゃろうか。ギルドで知っているのはワシと今のラクサスだけ、とても奴が知り得るものではないし漏洩の危険性も把握済み……」
「過去の離脱者と考えるとおそらくプレヒト、2代目でしょうね」
「あり得ますな。悪魔の心臓のマスターともあろう者ならば情報を持ち得てますし、拡散する相手も分かっていましょう」
「まさか闇に堕ちようとは、私の浅はかな人選が招いた結果なのですね」
「んなこたぁねえだろ。まさか敵側につくなんて想像できなかったんだろう?それなら仕方ねえって」
「いいえ。これは私の責任、私が悪いのです。うぇっ、えぐっ……」
「しょ、初代!?何しとるラクサス!早く初代をあやさんか!」
「無茶言うなって!ハードル高すぎるだろそれは!まともにこんな状況を相手をした事ねぇんだぞ!」
「泣いてなんか、泣いてなんかいません!ううぅっ……」
「初代ーー!!」
ギルドの最高機密の漏洩に繋がってしまった自分の人事に責任を痛感した初代を泣き止ませる事に、その場にいた2人は大いに苦労した。結局プールに連れていく事でようやっと泣き止んでくれたことはここだけの秘密だ。
「ユキノ・アグリア軍曹、ただいま推参致しました」
「ご苦労。計画への理解と助力、感謝する」
「いえ、未来と過去の清算というのならば、私も微力ながら協力をば、と思いまして」
剣咬の虎を離脱させられたユキノの辿り着いた先は王国のアルカディオス大佐の元だった。彼の作戦に賛同し、こうやって軍曹としての地位を貰い、作戦遂行に助力する。運命の日、七月七日まであと四日だ。
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大会4日目になり、今日と休養日を挟んだ5日目が残るだけだ。4日目の競技パートは『
「さあいよいよ4日目、終盤に差し掛かって参りました!今日はどんな展開が待っているのでしょうか、競技パートは『
「水中相撲かね?」
「そういうことになりますね。水中にいかに長く留まれるかで順位が決まりますので、いくら敵を落としても直接点にはなりませんが、その分順位も上がるので、魔力温存を狙い長期戦に持ち込んで点を横取りするか、初めから動いて直接叩き点を上げに行くかを考えることも大事です」
ただし残り2人になった時点から五分間は特別ルールが発動する。この時間内に落とされた場合は例え何人落としていようが容赦なく最下位になる。つまり最後まで油断出来ないのだ。
「あのミネルバというの、強いのかしら?今までいなかったけど仕事に行っていた人ってあの人なの?」
「らしいですよ。剣咬の虎最強だと言われてまして、ギルドを成長、発展させるきっかけを作ったとかなんとか」
「ふぅん。実力派なのね?」
「おそらくエルザさんに肩を並べる程には」
「なるほどね(今日と5日目のどこかで衝突するなら、今のうちに彼女の魔法、そして攻略法を探らなくては。その大役を頼んだわよルーシィ、それにジュビア)」
彼女とはいずれぶつかる事になる。ならばここで攻略の鍵を見つけ出し、これ以降の戦いに備える必要がある。その大役を務めるのはルーシィとジュビアだ。
「水中ならやることは一つ!先手必勝、開け宝瓶宮の扉、アクエリアス!」
「ぅおらぁ!水中は私の庭よぉ!」
「貴女にだけ良いところを取らせない、『
「なっ、私と互角!?やるじゃないの」
「恋敵には負けられない」
水流のぶつかり合いは他の選手を巻き込む程の威力であり、水の戦いで力を発揮する両者の激突となる。その間にも試合は動き、四つ首の仔犬がいち早く脱落した。
「さあ試合は盛り上がっていきます!」
「
「女性陣ばかりで目の保養になりますね、ありがとうございます」
「これじゃあラチがあかないよルーシィ。一旦引かせてくれないかい」
「ど、どうしてよ!水中で一番頼りになんの貴女なのよ!?」
「私を召喚し続けると魔力消費が早いし2体同時召喚しにくいんだよ。それに、デートだ」
「ちょ、ちょっとぉ!?」
「隙あり!」
「うわわわっ!アリエス、バルゴ、出てきて!」
「モコモコですみませ〜ん!」
「セクシーガードです、姫」
「ふぅ、助かったぁ〜……もうちょっとで場外だよ」
水中は女性陣の入り乱れる混戦模様になり、特に男性から喜ばれる状況である。実況のチャパティだけが何故ウェンディを出さなかったのかと不満たらたらだったが。そんな混戦の中で動いたのは水中戦に長けたジュビアだ。
「ここで一気に片付けます。
「おいやめろーー!!」
「うわぁ!」
「きゃー!」
「くぅっ!」
「ジュビア選手、なんと3人同時撃破!これは大きく有利になりましたー!」
「(今、あのミネルバとかいう魔道士、何か空間を歪ませて防いでいたわね。ナツの話を聞く限りだと、突然現れたとも雷炎竜の撃鉄をノーダメージで防いだとも言ってた。それが彼女の力の一端なのかしら?)」
「私に萌えてくれましたかグレイ様……ってドン引き!?って、え?」
自分の命名した魔法にドン引きされている間に不自然な程に突然、ジュビアは何かに引っ張られる様にして場外へと弾き出され、残るはルーシィとミネルバということになった。残るメンバーからして、空間魔法か何かと思われるミネルバの力だ。
「(今度は弾き出した!?しかも一瞬で……どんな空間魔法なの、あれは?)」
「ふふ、こうでもせねば興が覚めよう」
「あーあ、お嬢も人が悪い」
「お嬢の魔法があれば一瞬で全員押し出せたものを」
「完全に楽しんでるね、この状況を」
「お嬢らしいな、あのやり口」
「さあいよいよ一対一!特別ルール発動で五分以内に決着がつけば、その段階で最下位と一位が決まります!」
「ふふ、残ったのは妖精の尻尾か。面白い、妾の余興に付き合うが良い。耐えてみよ、妾の攻撃を」
「えっ?きゃあっ!」
「何だあの魔法は!?水中で爆発を……」
水中での爆発や鉛の様な痛みを伴う攻撃など、さまざまな攻撃を多彩に繰り出してくる。全くと言っていいほどに動いていないというのにこの攻撃だ。
「やられっぱなしじゃダメ、少しでも反撃しなきゃ……あれ!?鍵が!」
「これのことか?」
「嘘、いつの間に……うああっ!」
鍵を失ったルーシィをいたぶるその様はまさしく外道のそれであり、五分のタイムリミットが切れた途端にこの怒涛の攻めである。
「どう見てもあれはリンチだろ……」
「あいつ、徹底的に痛めつけるつもりらしいぞ」
「えげつねえ、どこまでも……」
「五分の時間制限が終わった途端これかよ」
「これで終わりじゃ、消えよ……」
「余興にしてはやり過ぎだ、馬鹿者。たかが一魔道士の自分が余興だと?身を弁えよ」
「き、貴様は……」
「これ以上は神の名において、止めさせてもらおう。せいっ!」
「がはっ!」
「し、シリル……ありがとう……」
「試合は中止だ、ルーシィは私の干渉もあったが、2位で構わんな?」
「え、ええ。構いませんカボ……衛生兵を呼んでおきます!」
カノンの咄嗟の機転により試合は中断、ルーシィはルール上2位となり、これでとりあえずの決着は着いたが、剣咬の虎と妖精の尻尾の間には不穏な空気が流れる。ルーシィを暴力の限り甚振った者として敵視する妖精と、ミネルバの試合に割り込み一撃を加えた者として快く思っていない剣咬の虎。一触即発のピリピリとした空気が張り詰める。
「おいルーシィ大丈夫か!?」
「ひでえ傷だ、シリルが止めなきゃどうなってたか……」
「試合を止めるなど……妾に喧嘩を売っておるのか?」
「やるならやるぜ?」
「……貴様らは喧嘩を売ってはいけない奴らに喧嘩を売ったのだ、これから震えて過ごすといい。我々は仲間を不用意に傷つけた者には容赦せんぞ?」
睨み合いはエルザの言葉と人を射殺しそうな眼光により、場外乱闘は抑えられた。ルーシィはウェンディたちの応急処置を受けながら医務室へと連れて行き、そこでAチームBチーム両方が集まる。
「ルーシィはウェンディとシェリアの応急処置でどうにかなっているが……あれは最早尋常ならざる攻撃だったな」
「剣咬の虎か……絶対許さねぇぞ」
「気持ちは分かるがよ、ナツ。今はブチギレる時じゃねえ。仲間の受けた屈辱は試合で返そうぜ」
「その通りじゃ。ワシらの家族が痛めつけられておいて借りを返さず何が妖精の尻尾か。これが吉と出るか分からんが、大会本部から大鴉の尻尾が抜けた穴を埋めて偶数チームにするため、ふたチームを一つにせよと言われてな」
「点数はどうなるのです?」
「低い方、つまりAチームの点数を受け継ぐそうじゃ」
マスターから告げられたのはチームの統合というある意味絶好のチャンスだ。バラバラになって戦っていた戦力を一つにかき集め、確実なる勝利を挙げられる。
「点数は下がるが、やむを得ないか」
「考えようによっちゃあ最強のチームに組み替えられるんだろう?むしろチャンスじゃないかい」
「これからタッグ戦と明日の全員参加のバトルがある。優勝を目指して勝つつもりなら慎重にチームを組む事だね」
「俺が出る。ルーシィの仇を取る!」
「私も出るよ、仲間の受けた傷を返してやるつもりなのね」
「いえ、ユリアは明日のリザーブ枠で出てください。ここは私の必勝の策のために何卒」
「そう、ならば初代にお任せしましょう」
「さてと、もうそろそろ交代時間も終わるから出なさい。私も新チームの活躍、楽しみにしてるわ」
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「さあいよいよ4日目のタッグバトル戦が始まります!各チーム、価値ある一勝を得るため、出て参りました!」
「このチームなら負けやしないよ」
「だな。勝つ姿しか思い浮かばねえ、ガツンと行ってこい!」
「頑張ってください!」
「妖精の尻尾、チームを統合した事が吉と出るか凶と出るか!」
「本気のようだね、最強のメンバーを揃えてきたみたいだ」
「ぶちかましてきなさい、貴方達は誇り高き妖精の尻尾の代表なのだから」
ナツ、エルザ、ガジル、グレイ、そしてラクサス。この5人が揃えば負けはない。まさしく妖精の尻尾最強軍団の名にふさわしい錚々たる顔ぶれだ。この演武、勝ちに行くにはこの5人だ、そんな声と声援を受けている5人は闘争心に溢れている。
「さぁ、今日の試合は既に決まっています!四つ首の仔犬対青い天馬、人魚の踵対蛇姫の鱗、そして因縁の対決の剣咬の虎対妖精の尻尾!先ほどの競技から直ぐのこの試合ですねヤジマさん」
「あそこのギルドなら大丈夫だよ」
「今日の試合次第では明日の展開が大きく変わります!バトルパート、いざ開幕!」
険悪な両ギルドの闘争の鐘は今この時に鳴れり。