フェアリーテイル 生命の唄   作:ぽおくそてえ

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どうもです。
投稿していなかった期間にも、色んな方にお気に入りや閲覧をしていただいていたみたいで、感謝の極みです。この場を借りて厚く御礼申し上げます。ありがとうございます


第62の唄 戦の熱気と冷徹な影

「シリル、タイミングばっちりだぜ」

「久しいのう、シリル殿の力を目の当たりに出来るのは」

「間に合ったようね。にしても、7年前以上の凄い圧ね」

「参れ、全力でもってお相手申す」

「負けても恨まないでよ?ユリアの分の借り、返させてもらうわ」

「こちらとて、先程敗れたシェリアの借りがあるでな。だが、血の滾る戦が出来るなら、それは我が本望!」

「ったく、心の底から楽しんでんな、ジュラさんよ」

 

シェリア撃破の前後でも、状況は刻一刻と変化していく。グレイのルーファス撃破、青い天馬の敗退、上位三チームが固まってひしめき合っている事、ラクサス対オルガ戦に乱入したジュラがオルガを一撃で粉砕した事、そしてエルザとカグラとミネルバの三竦みだ。目の前のジュラからすれば、首位の妖精の二人が目の前にいる。追い抜くには絶好のチャンスだ。

 

「ラクサス、まだいける?」

「とりあえずな。強敵との連戦で、しんどくなりそうだが」

「ならこの戦い、前衛と後衛を適宜入れ替えながらやろうかしら」

「妥当だな」

「これまでで一番心踊る戦いになりそうだ。のう、豊命神とマスターの……」

「おっと。この勝負で、そこから先は関係無しにやろうぜ?」

 

メインをラクサス、後衛をカノンが務める。聖十や神の称号、マスターの孫という肩書きの事なぞ、この際どうでも良い。単純だ、お互いにあるのは『勝てばいい』という事だけだからだ。既に臨戦態勢、それでいて空気は会場の熱気が嘘のように澄み切っている。

 

「あのユリアを圧倒した相手、力を出し切っても五分五分くらいね」

「俺から動く。『雷竜の咆哮』!」

「ぬぅん!」

 

ジュラ対ラクサスとカノンの名高き魔道士達の激戦が始まる。攻める妖精達に、岩をうねらせて凌ぐジュラ。頂点の争い、現実離れした強さを持つ者同士の拳が交わる。

 

「『岩鉄壁』!」

「ラクサス、私にこれを任せて先へ!『血縛鎖牢』!」

「あいよ。『雷竜方天戟』!」

「固定して足場にか。戦慣れしている、『岩鋼砦』!」

 

攻撃に打ち出して来た岩を鎖で繋ぎとめ、それを足場に上から方天戟を投げ込む連携プレーを見せる。それに対して岩鉄壁の数倍はある厚い壁で受け止め、逸らしていく。

 

「堅いな、あの岩の守り」

「ならこれでどう!んん、どりゃあ!」

「なっ!?」

 

先程止めた物やあちこちにある岩をブロック状に切り出し、鎖で振り回して上から落としていく。使えるものは何でも使おう、そうでもしなければこの男には勝てない。視線が自然と動く物を追って上に向く、この人間の癖のような行動を利用し、瞬時に距離を詰める。

 

「しまった!?」

「ラクサス、続いて!『血気双掌打』!」

「肩借りるぜ!」

「ええ。飛んで!」

「相方を踏み台にして飛ぶか!流石よな!」

「砕けろ、『雷竜の顎』!」

「ぐふっ!?ふふふ、これくらい熱くなければなぁ!」

 

====

 

大会が熱気を帯びる頃、ナツ達は無事に合流できた。牢屋から少し離れた城の一室で落ち合った両者は互いの無事と状況を確認する。

 

「ユリア!?お前、どうやって!」

「魔法と神力で無理矢理よ。それよりルーシィ姉さん達の鍵を取り戻さなきゃ」

「何処にあるのかしら?」

「作戦を考えると、あちらの手元からそう簡単に手放さないと思いますが……」

「むしろ用済みで、何処かに捨ててるかも」

 

ここで議論をしても仕方ない。動いて取り戻す他ない以上、手っ取り早く済ませるべきだ。

 

「とりあえず、動くか」

「そうね、ルーシィ達の救出がメインの目的だもの」

「そういえばナツ、大会はどうしたの?」

「シリルが代わりに出てる。お前らの救出に回ってくれってよ」

「私が派遣されたのもそれが理由です」

「優しいわね、シリル」

 

さてまず何処へ、と言った所で空中に映像が映し出され、一人の女性がこちらを見下ろしている。その手にはスイッチがある。

 

『何かお探しのようだけれど、貴方達の運命はここに尽きる』

「なんだ?何処から……うおっ!?」

「落とし穴!?」

 

廊下に出た瞬間、床が割れて下に真っ逆さまに落ちていく。どうやらこちらの動きを把握していたらしく、完全に虚を突かれてしまう形になった。落ちた先を見渡してみれば、洞窟の中の様だ。

 

「痛たぁ……何よ、いきなりぃ!」

『そのまま地下の迷宮で朽ちていくが良い』

「さっきの声だ!」

「あれって……」

「姫です、この国の」

『散れ、賊ども』

 

この国の姫、ヒスイは国王が大会の見学に行っているため、城の防衛のために残っていたのだ。映像は一方的に途切れ、弁明のしようが無くなった。だが、どこか疲れて顔色が悪いのを見逃さなかった。

 

「様子が何かおかしいですね」

「ええ、こんなお方ではないと聞いておりますが」

「恐らく何かを憂いているのかもしれませんね」

「そんな事より地下に落とされちまった事だ。抜け道を探さねえとよ」

「恐らくここはカノン様のおっしゃっていた、罪人最後の行き場『奈落宮』。王宮の近くの何処かにあると聞いてはいたのですが……」

 

ここに落とされた罪人達は、脱出に失敗し、命が尽きた者ばかりだ。周りの人骨などがそれを証明している。だが、どこかに光はあると信じて進む。

 

「脱出にしても鍵にしても、まずは地上に上がらねえとな」

「しかし、出口は何処なのかしら?ねぇクレス、何か分かる?」

「ユリアさん、申し訳ありません、残念ながらあまり。城内は王の間から牢屋まで、粗方把握しているですが……流石にここは名前くらいしか知りません。でも、多分城内に出入り口はあるはずです」

「城の方角に向かえばいいんだな?」

「オイラ達で辺りを見てくるよ」

「頼むぞ、ハッピー」

 

====

 

「やっぱり強いわね」

「あんだけ打ち込んでまだ倒れねえのか。化け物だな、おい」

「血が騒ぐほどの猛者とやりあえるのだ、倒れるなぞ勿体ない!」

 

ジュラと激闘を繰り広げるこの間にも、グレイがリオンを撃破したが、ミネルバの非道な戦略によりカグラとミリアーナのダウンによって点差をつけられている。二人の与り知らぬ所で救出組も死刑執行人『餓狼騎士団』と一戦交えており、勝負は一刻を争う。

 

「人間辞めてるって言われても、納得できるくらいの強さとしぶとさね」

「聖十とは得てしてそういう者達ばかり」

「でも、完全勝利の為ならやるしかねぇ。シリル、耳を貸せ」

「……えっ?それって」

「そういう事だ」

 

これが唯一取れる作戦だと耳打ちする。相手が聖十大魔道、人類最強説が唱えられる強者となれば、これしか余地がない。しばし思案してみたが、やるしかなくなった。

 

「たしかにこれしかないわね。頼んだわよ」

「そっちこそ、しくじるなよ?」

「それじゃあ……はぁっ!」

「っ!」

 

まず動いたのはカノンだ。地面に魔法を当て、視界を奪う。怯んだジュラを的確に補足し、腰と脚を掴み、バランスを取りづらくした。

 

「捉えたわ。これで身動き取れないでしょ」

「くっ、体制が!」

「ラクサス、やっちゃって!」

「これで終いだ!滅竜奥義、『鳴御雷(なるみかづち)』!」

「ぐおおっ!」

 

受け身が取れない為、まともに食らわせられた。滅竜奥義の雷の咆哮、空に響いて地を穿つ。流石のジュラもこれには屈し、大金星を手に入れた。

 

「見事。仲間の為に身体を張り、互いの力を信じて進むか。参った」

「疲れた……二人とも傷、大丈夫?」

「まだ大丈夫だ。立つには少し時間が要るがな」

「心配ご無用」

「これで逆転、後は……」

 

時を同じくして第二魔法源(セカンドオリジン)を開放したエルザが、伝説の鎧天一神(なかがみ)の鎧でもって怒りの一撃をミネルバに喰らわせ、一気に十得点を計上した。これで残るはセイバーのスティングのみ、二位と八点差となる。しかしスティングが残る全員を倒せば逆転首位と、最高の舞台が出来上がる。そんな中、スティングが自分はここだと言わんばかりにギルドのマークを信号弾として打ち上げる。

 

「何あれ、信号弾?」

「いや、剣咬のマークだ。呼んでやがるのか?」

「向かうしかないわね。肩貸すわよ?」

 

ボロボロになり、しかしまだ倒れるわけにはいかないと、脚を引きずり吐息をついて這ってでも進んでいく。スティングの前に現れたのは、7年前に憧れた五人の魔道士達。

 

「こりゃあ壮観だな。俺の憧れた魔道士ばかりだ」

「御託はいいんだよ。これで最後だ、ケリつけてやる」

「サシでも良いぜ?誰からやる?」

「そんな怪我じゃな。纏めて相手するよ」

「テメェ俺らをなめてんのか?あ?」

「とんでもない、敬意を払ってるからこそだ。纏めてあんたらを倒して、レクターに俺の強さを示すんだよ!」

 

仲間の為に、相棒の為に最強たる姿を示したい。最後まで前線に出なかったのは、この五人を倒して自分の力を内外に示したいからだ。妖精の尻尾に憧れているからこそ、彼らを越えれば最強と相棒に言えるのだ。

 

「どうやら本気のようね、貴方」

「ならばかかってくると良い。覚悟は受け取った、相手になろう」

「そうでなきゃなぁ。覚醒した俺の力、見せてやる」

 

ドラゴンフォースを出す、自分の最も大きな魔法で纏めて倒す為に。勝利を確信し、妖精達を見やった時に、唖然とした。傷だらけになりながらも、凛として立つその姿が、威圧感と強者の風格を漂わせていたからだ。

 

「(何でこうも……全員ボロボロじゃねえか!押せば倒れちまいそうなのに、ここまでやってきたんだろ!?何でこんなに強い()を……でも、俺も退けねえ!レクターの為に、ここで勝たねえと!進め、勝てるんだ!少しでも、前に……勝つ為に!)」

 

汗が吹き出る、緊張感から体が動かない。でもレクターの為に、何としても勝つ。それだけを支えに踏み出そうとした……だが、その膝は屈し、力なく崩れた。

 

「……今の俺じゃ勝てねぇ。降参だ」

『これで決着!優勝は……妖精の尻尾!』

「ふぅ、終わったわね」

「あぁ、無事にな」

 

これで妖精の尻尾が、完全優勝を成し遂げた。五人は兎角安堵し、仲間達は歓喜に沸いて涙を零した。観衆は大いに盛り上がり、最終日は幕を閉じた。しかし、まだ城に行った仲間達から連絡は来ない。それが気掛かりだ。

 

「ナツ達は大丈夫かしら?信号弾は出てないわよね」

「連絡も来てねえそうだ。何があったんだよ?」

「なぁ、ナツさん、何で出てねえんだ?」

「ちょっと用事よ(皆、無事かしら?)」

 

====

 

「くそ、抜け道で襲撃か!」

「こんなことが……」

「やばいわね。もう少しって時に!」

 

餓狼騎士団を倒した一行は、途中で未来から来たルーシィとユリアに出会い、この国の未来を告げられた。曰く一万の竜の襲撃で崩国の危機にある。仲間を大勢失い、精神と戦いの要であったカノンも亡くなり、魔道士勢は苦戦を強いられている。その未来を救う為に来たと。彼女らの涙の願いもあり、地下通路からの脱出を図っていたが、その最中に王国兵との戦いに巻き込まれているのだ。

 

「魔力が抜けるまで持たないわ。こうなったら少しでも道連れにして……」

「待て、それだけは止めろ」

「でもこのままじゃ……」

 

王国兵と復活した餓狼騎士団達の執拗な物量戦に絶体絶命を強いられていたが、そんな時、謎の影が兵達を一人残らず闇に飲み込んでいく。

 

「なにあれ!?」

「兵達を影がっ!」

「飲み込んでる!?」

「誰かいるぞ、気をつけろ!」

「この影が伸びるのは絶望の深淵か、希望の光か……」

 

====

 

長らく思考の海に潜っていたジェラールは、ふとある可能性を見落としていたことに気づく。未来ルーシィやカノンから聞いた情報が自然と繋がっていく。

 

「っ!?まさか!」

「ジェラール?」

「俺はなんて初歩的で単純な勘違いを!ルーシィとユリアが来たのは四日、正確には三日の24時。毎年感知していたゼレフに近い魔力がエクリプス、それを通ったルーシィ達にも残留していた。彼女達の話を信じるなら、三日の夕方に見たのは違う人物。だとしたら奴の目的は何なんだ!?」

 

そしてある結論に至ろうとしていた。その人物は、何が目的なのか。城の下に現れたその人物は……

 

「久しいな、ナツ・ドラグニル。俺は未来から来た『ローグ』だ」


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