「何これ、どうなったの?皆どこに……きゃ!何の音よこれ!」
敵の術、アレグリアに一人取り残されたルーシィは途方に暮れていた。奇怪な叫び声の中でどう行動すれば良いのか考えあぐねていた。そんな中マルド・ギールの念話が響く。
『皆の者、敵はアレグリアで殲滅し、フェイス計画も順調に進んでいる。だが、アレグリアから逃れた者が1人いる。その人間を倒した者は欠番となった九鬼門に昇格、九鬼門が撃破した場合は褒美を与えよう』
「(フェイスはウェンディ達が止めたはず。どういう事?)」
「いたぞ!」
「あいつを倒せば九鬼門に昇格だ!」
「落ち着いて状況を把握してる場合じゃなさそうね。ていやっ!」
状況を理解できる間もなく、大勢の敵を前に一人奮戦しなければならない。サジタリウスの弓や、手持ちの鞭を使って、どこからともなく流れてきた水流の上で迎撃していく。しかし敵の数が多く、サジタリウスを一度引っ込め、移動に専念する。
「ふぁっふぁっふぁっ。あいつを倒せば私が九鬼門昇格」
「昇格や褒美などどうでも良い、任務を遂行するまでだ」
「まずっ!バルゴ、ロキ!」
「任せてよ」
水中を移動してきたトラフザーと、回転しながら登場してきたラミーの相手をロキとバルゴに任せるが、二人の魔力消耗量は多く、ルーシィの魔力は限界を迎えつつある。そこに現れたのはナツ達によって倒されて爆破した筈のジャッカルである。
「見つけたでぇ!」
「(あいつ、確か爆発したはず……そっか、復活できたのか。こっちは2人以上の召喚はできない)あたしがやらなきゃ!」
「オレの呪法、忘れた訳やないやろなぁ?」
「うわっ!」
「あの火の玉や女神に復讐しようにもいねえんじゃやり様がないわ!せめてテメェの命で恨みを晴らしたる!」
ナツやカノンの居ない今、ジャッカルが鬱憤を晴らすにはルーシィを集中的に爆破する以外方法がない。だがルーシィもここで折れるわけにはいかない、何故なら仲間達の命がかかっているからだ。
「(このままじゃ皆が!)あぁぁ!」
「姫、いけません!」
「三体目の召喚をする気かい!?」
「開け宝瓶宮の扉、アクエリアス!」
「無茶しやがって」
「おっと、おどれらはここまでやで。爆!」
「ぐっ、たった一撃で……」
「済まない、ルーシィ……」
「後は任せろ。おらぁ!」
やられた星霊の代わりに全力の水流で攻撃する。ジャッカルはこれで動きは封じられたが、トラフザーは水流を物ともせず接近してくる。水中を主戦場としているだけあって、急接近する。だが攻撃の寸前で接近を阻止した者がいる。カノンだ。能力を作用させ、生物であるこの島のアレグリアの状態から通り抜けてきたのだ。
「アクエリアス、ルーシィ。ここはどうにか抑え込むから、打開策をその間に閃いておいてよ」
「方法がない訳じゃない。だが、それにはこいつの協力が必要さ」
「え、あたし?」
「そう。私の力とカノンの力があっても抑え込むのに必死だ。そこで出来る手としてあるのが、星霊王の召喚だ」
「そんな、星霊王の鍵なんて持ってないわよ!」
それもそのはずだ。星霊王には特定の鍵という物質は無い上に、金の鍵を一つ犠牲にして行う代替召喚しか手はないからだ。この状況下、星霊王の力を借りなければ切り抜けられないが、星霊を大事に思うルーシィにとっては星霊との別れを伴うこの選択は、過酷な選択だ。
「くっ、1人倒せたけど流石に複数人相手にするのはきついわね」
「急ごうか。ルーシィ、代替召喚には金の鍵の破壊を伴う。そこでだ、私の鍵を壊せ」
「嫌よ、そんなの!なんでまた!」
「こいつにはもう一つ条件があってね、召喚者との相性が必要なのさ。他の鍵じゃ不足でね」
「嫌よ。貴女とは長い間一緒だったのに!」
「駄々こねるな!早くしないとカノンがやられちまう!」
「私はまだ持つ。判断が難しいのは分かる。だから少しでも時間を稼ぐよ!気功掌!」
2人を同時に相手をしている合間にも作戦を遂行するか否かで迷いが生じている。しかしここで星霊王を召喚しなければ仲間の命も守れない。
「うぅ……」
「ルーシィ!危ない!」
「えっ?きゃ!」
「ぐっ……危なかった」
「シリル、なんで……」
「仲間だから守るのは、当然でしょうよ」
「ごめん……開け!」
「(そうさ、それでいい)」
「星霊王の扉!」
「(これでお別れだな。母のレイラと違ってお淑やかさも気品もなかった小娘で、大嫌いだったのに……なぜか別れが辛いな。ありがとうルーシィ)」
アクエリアスの金の鍵が破壊され、水が退いていく。すると大きな衝撃と共に島が切り裂かれ、砕け散っていく。その一撃は星霊王の剣によるものだ。
「鍵が壊れてる。星霊王、召喚したの?」
「うぅ、うわぁー!」
「こうなったら何か起こる前に爆破したるわ!」
「水のベール!?もしやこれは……」
『それはアクエリアスの魔力を付与せし物。立て、古き友よ』
「……はいっ!」
別れの辛さから来る涙は後でも流せる。今は仲間の為に戦う必要がある。秘術であるウラノ・メトリアを発動すれば1人は倒せるだろう。その為にはカノンが時間を稼ぐ必要がある。
「シリル、ありがとう。少しだけ時間を頂戴ね」
「体力的に倒すのは厳しいけど時間稼ぎなら任せて、木術・木竜顎!」
「なんやこれ、噛みついてくるやと!爆!」
「木術・連木槍!」
「爆、爆、爆!鬱陶しいわ!」
「出来た、行くよ!全天八十八星、光る!ウラノ・メトリア!」
「ぐあぁぁっ!」
星々の煌めきと共にジャッカルを討ち果たした。しかし今の一撃でルーシィの魔力は使い果たされ、倒れ込んでしまった。
「よし、倒せた……」
「ルーシィ、大丈夫!?」
「まさかジャッカルがやられようとは。禍根はここで断たねばならぬ!」
「させないわよ、気功掌!」
「ぬっ、まだ抗うか。ならばまずは、貴様からだ!」
「させるか!」
「皆!」
凶刃が迫るが、ガジルにグレイ、ジュビアにナツが復活して駆けつけてきた。皆が無事だったのは星霊王の魔法によるものだ。即ち、ルーシィの影響で助かったのだ。ここはナツ達に任せ、カノンはエルザの元に戻ることとした。
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「妾は、妾は最強でなければ!」
「いい加減、目を覚まさぬか!」
「ぐはっ!」
「大魔闘演武での振る舞い、納得はできんが理解はできる。全てはセイバーの為ではなかったのか!お前を殴る拳が泣いている、こんな戦いに意味はあるのかと」
「……分かっておる、分かっておるわ。これも全て妾の弱さ故じゃ。もうこの体では生きていけまい、いっそのこと殺してくれまいか」
「だめだ。お前を待っている者がいる事を忘れるな」
エルザと戦っていたミネルバは己の弱さを悟ったのか、ミネルバは自分を殺すようにと伝えたが、剣咬の虎にもまだ自分を必要としていると感じていたエルザはそれをしなかった。そこに現れたのは星霊王による石化から復活したマルド・ギールだ。
「やれやれ、これだから人間は」
「何者……(いや、この声は確かマルド・ギールか?)」
「目の前のゴミは片付けなければな」
「な、なんて迫力だ」
「まずは1人」
強力な呪法を持つマルド・ギールの力がミネルバを襲い、助からないかと思われた。しかし彼女を助け出した存在がいる。スティングとローグだ。
「遅くなっちまったな。迎えに来たぜ、お嬢」
「あんたの
「ほう……」
「スティング、ローグ、何故ここに?」
「手紙をくれたのはエルザさんじゃねぇか」
「何のことか理解するのに時間を要したが」
「ま、いいさ。お嬢、ギルドに帰ろうな」
「帰る?フェイスで魔法が消え去る目前だ、好きにするがいい」
「エルザさん、行ってくれ。フェイスを止めるんだ」
「こいつは我々で食い止める」
「相手は強敵だ、気をつけてくれ」
「なぁに、ナツさんほどじゃねえさ」
双竜の連携を前に手に持つENDの書を下ろさずに、互角に戦うマルド・ギール。一進一退の中、大樹がお互いの間に割って入ってきた。カノンの操る木術の法だ。エルザを追ってやってきたが、入れ違いになってしまったのだ。
「あれ?ここにエルザがいない?」
「カノンさん?」
「スティングにローグじゃない。エルザの行方、知らない?」
「さっきお嬢とあっちに行ったさ。急いだら間に合うんじゃないか?」
「そう、ありがとう。でも、あいつが通してくれなさそうね」
「カノン?なるほど、あの女神か」
「ここは協力してあたりましょ」
「そうだな」
ここは共同で対処する事こそ肝要と判断、合同であたる事にした。レーザーに強化した鉄拳、斬撃が飛び交い、休む間も無い連携で攻め立てるが、一向に応える様子もない。
「気に入らんな。滅竜と神々の系譜の魔を使うとは」
「こっちだって気に入らねぇんだよ、仲間を傷つけやがって」
「これ以上好き勝手させないつもりよ」
「かかってこい。このマルド・ギールが相手をしよう」
例え相手が格上であろうとも止まる事なく攻め立てる。拳に魔道に神術と、使える手段は問わずに一気呵成に攻撃を繰り出す。この男を倒さねば勝利など有りはしないのだから。
「やぁ!」
「おらぁ!」
「無駄だ」
「木術・連木槍!」
「足掻くか。荊!」
「止められた!?くっ!」
「ふむ、なかなかに面白い。キョウカが人と遊ぶのも理解できる」
「ふざけないで。私たちは真剣なのよ」
「そう吠えるな、豊命神よ」
「吠えさせて貰うわよ、大切なものの為に!生命神の大一声!」
「消えよ」
「消えんのはお前の方だ、オラァ!」
攻め立てる3人に対して余裕すら見せるマルド・ギール。ほぼ片手で攻撃を凌ぐ様は流石九鬼門の中でリーダー格を務めるだけはある。攻防が入れ替わる中、突如として咆哮が響き渡る。
「何だこの音?」
「叫び声?」
「これは、まさか……アクノロギアか」
「アクノロギアですって!?」
「ぐっ、なんだ……」
「鼓動が……」
「一体何が起きているのだ、このマルド・ギールにも読めぬ」
旋回するだけで凄まじい衝撃を生み出すアクノロギアをどうにかしなければいけない。その事を優先したのか、マルド・ギールは一度撤退を余儀なくされた。スティングとローグは突然動悸にうなされ膝をついてしまう。
「……逃げられた。ねぇ、貴方達大丈夫?」
「あ、ああ。どうにか」
「先に行ってくれ、すぐ治まる」
「分かったわ」
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「ここは?」
「カノンか!」
「ミネルバ!」
「エルザが一人で戦っておる。しかも傷が酷くてな、痛覚も数倍に跳ね上がっておる」
「なら、すぐにでも加勢するわ。木術・木甲拳!」
「ぬっ!」
辿り着いた部屋ではエルザがキョウカに苦戦を強いられており、息も絶え絶えだ。残った魔力も残りわずかだが、加勢して倒していくしかない。
「ほう、また会ったな女神よ」
「もう逃さないわよ(フェイスが発動するまで後10分くらいか)」
「此方は時間を追うごとに強くなる。負けるとは思えぬな」
「相当な強気ね。神依!」
互いにパワーアップをして拳を振るう。最大限の力で当たったのはカノンの拳だ。執念によって当てた拳は途轍もないパワーを秘めていて、キョウカは吹き飛ばされていく。
「おぉらぁ!」
「ぐっ、なんて力ぞ」
「気功掌!」
「このっ、つぇあ!」
「まだまだ行くわよ!生命神の剛拳!」
「ぬぅ、我が力を上回るとは」
全てはフェイスを止める為。フェイスとリンクしているキョウカを倒せば発動しなくなる。ならば、何があろうとも時間切れを起こす前に倒すだけだ。
「さて、もう時間もない。トドメを刺させて貰おうかしら」
「ぬぅ、ぬぁあ!」
「カノン、時間が!」
「分かってる。穿て、
「おぉっ!」
「避けられた!」
最後の足掻きか、力を振り絞って攻めてくるが、カノンはこんな状況でも冷静に受け切り、最後の砲撃
「くそ、後もう少し早ければ!」
『諦めるな、人間達よ』
「この声は、何?」
『我が名はイグニール、炎竜王なり。今フェイスを破壊する為、空を解放されし竜が駆けておる』
「竜が、フェイスを。凄い」
発動したフェイスが次々と破壊され、司令室に出ていたマークが消えていく。復活したドラゴン達によって計画が終焉を迎えつつある。奇跡が起きたのか現れた竜達の計画か、全てが解決していく。果たして未来はどうなるのだろうか。