「このハエが…」
「へっ、テメェをぶっ飛ばせば終わるんだ!燃えてきたぜ!」
「ぶっ殺してやる…!」
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ナツとエリゴールの生と死を賭けた戦いが始まった頃、エルザたちは魔道四輪に乗って急いでいた。
「これ、私たちの借りたやつと違うじゃん!」
「あいつら、ご丁寧にぶっ壊して行きやがったからな」
「弁償待った無しね…」
そんな会話がなされている中で目を覚ましたカゲが躊躇いながら問いただす。
「なんで僕まで連れてきた?僕は敵だぞ?何故助ける?」
「生きているものに闇を抱えたままにさせるなんて私の信条に反しますから。前を向いて生きましょう?ね?」
「お前は…一体…」
「生命の巫女、とだけ申しましょうか」
生命の巫女。その単語は闇ギルドにいる人間で知らない者は少ないと言える程によく知られている。
「僕たちの天敵がこんな少女だとはね。驚いたよ」
「ふふふ、私も有名になったものですね」
「そんな有名人だったんだ」
「むしろ知らねえのかよ?こいつは闇潰しのエースだ。仕事するたびに闇ギルドとかあれこれ潰して回ってるくらいだぞ」
「ええ!?」
「私が表立って言ってないのもありますから。それに…半分宿命じみたところがあるんです」
少し悲しそうな目をし、空を見上げるシリルにルーシィは肩を寄せる。
「大丈夫よ。そんな時は私やグレイ、エルザにナツが居てくれるから、みんなで協力できるでしょ?」
「…そうでしたね。ありがとうございます」
「まあ、私はそこまで強くないけど」
「私は期待してますよ?」
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「ふん、たかがハエの一兵隊だと思ってたが、どうやら俺も本気で行かねばならんようだな」
「テメェ!フワフワ浮いてんじゃねえよ!」
先行しているナツ、エリゴールの激突は風と火という相性の悪さの中、ナツが健闘を演じており、エリゴールは自身の技の中でも火に強い風の鎧を体に纏う。
「終わらせてやろう…これでな」
「っ、風が…」
「知ってるか?風は火に強い。この風の鎧はテメェの逆風となる」
全身に纏った風はエリゴールからナツに向かって強く吹いている。事実ナツが拳に炎を纏って殴りかかるが、逆風なのとその強力さにかき消されたり、ナツ自身が吹き飛ばされたりと全く歯が立たない。
「どうなってんだこれ!?」
「テメェを地獄に送ってやろう。ふふふ、心配すんな、テメェの親たちもすぐにそっちに送ってやるからよ」
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「けっ、あの炎ヤロー一人で勝とうなんざ無理があんだよ」
「何よ、ナツが負けるって言うの?」
「風の鎧を前にロクに攻撃できやしねぇ。それにあの人にはエメラ・バラムがあんだ。行った頃にはバラバラだろーよ」
誰よりもあのエリゴールの側に居続けた男の言う言葉だ。信憑性がないとは言い難い。ただ、エリゴールを信じる言葉に、この魔道四輪に乗る誰もが否定的だった。
「こう言うのもなんだが、あのクソ炎はそう簡単にはくたばらねえよ」
「ナツ兄さんが使うのはただの炎じゃありませんしね」
「ナツならやってくれるもん。それよりアンタの心配をしなさいよ」
これだから正規ギルドは、と舌打ちをしながらぼやくカゲを余所に魔道四輪が進んでいく。そして、この議論の答えはすぐに見えてきた。
「なっ、エリゴールさんがやられたってのかよ!?」
「お、お前ら遅かったじゃねえか」
「ナツが早すぎんの」
そう、ナツの持つ特殊な力『炎の滅竜魔法』の前では風の鎧も意味を成さなかった。
「こう言うことですよ。さて、貴方はそこでいてください」
「くっ…」
悔しがるカゲを置いて車外のナツに近寄っていく。激しい戦闘による傷があちこちに出来ている。
「薬塗りますから大人しくしてください」
「お、悪いな」
「流石だな。よく無事で居てくれた」
「俺にかかれば楽勝ってもんだぜ」
戦勝を飾り、残るは封印を施すべき
『ヒヒヒヒ…』
この場にいる者たちの大半はそう信じて疑わなかった。
次いつになるかな?