皆さん、お久ぶりです。
今回は神林さんの出番はほぼありません。
そして書いていて改めて思う『冴香さんめっちゃ動かしやすい』と。
なんていうか、筆者の内面に近いからでしょうか。変態的な意味で。
嗜好や思考が反映させやすいんですね!
※警告
いつになく艦娘が神林を慕う描写があります。人によっては『誰これ?』状態の場合も。ご注意ください。
艦娘の性格はあくまで筆者の自己解釈ですのでご了承ください。
皆さん、お久しぶりです。『白露型駆逐艦 6番艦』の『五月雨』です。
現在、秘書艦の扶桑さんに呼ばれて、提督執務室に来たわけなんですが……
「いやー扶桑ってお茶淹れるの上手いんだね。タカ君が羨ましいや」
「……どうも」
何と言うか、執務室の空気が割と修羅場で私のストレスが胃でマッハです。
ごめんなさい、自分でも何言ってるのかわからなくなってきました。
えっと、コレ、どういう状況でしょうか?
提督の執務室だと言うのに、肝心の神林提督は不在。
そして、来客用のソファに座っている一人の女性。
取り敢えず服装を見る限り、女性将校さんだとは思いますが……見慣れない方です。舞鶴にこんな方いましたっけ?
来たばかりで何が何だかさっぱり分からないので、一先ず扉近くに居た響さんに声を掛けてみましょう。
「響さん……あの方は?」
「……横須賀から査察に来た将校だよ。神林司令官の『知り合い』らしい」
「は、はぁ……」
えっと、珍しく響さんが不機嫌です。
元からあまり感情の起伏が少ない彼女が周りに分かるレベルで不機嫌って本当に珍しいです。
それに先程聞いた響さんの説明、『知り合い』の部分にえらく力が入っていたような。気のせいでしょうか……?
改めてソファに座っている方を目を向けます。
『……凄く綺麗な方ですね』
一番初めに私が抱いた感想でした。なんていうか、物凄い美人です。
私が言うのもなんですが、艦娘の皆さんは綺麗な方が多いです。
そんな中に紛れても遜色のないくらいの方です。
肩甲骨位まである黒髪は艶があって…ああいうのを『烏濡れ羽』っていうんでしょうね。
そんな事を考えていると、件の女性が私に気が付きました。
「やぁやぁ、君が一番初めにタカ君と出会ったっていう艦娘だね?」
「……はい?」
麗しい見た目の割に、随分とフランクな雰囲気で話しかけてくる女性。……と言うか、タカ君て何ですタカ君て。
まぁ、『一番初めに~』との言葉なので大体見当は付きますが…一応確認しておきましょうか。
「えっと、タカ君と言うのは」
「ん?『貴仁(たかひと)』だからタカ君だけど?」
えぇまぁそうだとは思ってましたけどね?
……何と言うか、はい。
一応言っておきますが、神林提督をあだ名で呼ぶのは艦娘の中には愚か(まぁ私達は部下なので当然ですが)他の提督にもいません。
随分親しげじゃありませんか。
「それで、貴女は?」
「あ、自己紹介が未だだったね、私は『宮林冴香』、タカ君の『婚約者』だよ!よっろしくぅ!」
「……は?」
びきり、と顔の筋肉が強張ったのを感じます。今のは、幻聴じゃないですよね?
取り敢えず、目の前で所謂『横チェキ』をしている美人さんを意識から外し、先程『知り合い』発言をした響さんを見ます。
「……響さん?」
「……正確には『(元)婚約者』だそうだよ。婚約自体は随分前に破棄されてるらしい」
はい、響さんが苦虫を噛潰したような顔をしてます。貴重です。貴重なシーンです。
改めて周りを見ると、皆一様に『似たような顔』をしていました。
因みに窓の近くに長門さん、ソファに掛けている金剛さん、テーブルの脇に扶桑さん、執務机に腰掛けている北上さん、棚の近くに青葉さん、そして扉の近くに響さんと私です。
そういえば、先程女性が座っていたソファの後ろに摩耶さんと見慣れない艦娘さんがいます。
でも、私の知っている『摩耶さん』とは何となく雰囲気が違いますね。見慣れない艦娘さんも然り。
多分、宮林提督の率いている艦隊の艦娘さんなんでしょう。彼女の後ろに控えてますし。
「まぁそう言うこと。詳しいことは、其処の秘書艦さんに聞いてちょーだい」
そう言って、手をヒラヒラと振る。要するに、『同じ事を何度も説明するのは面倒』だと言いたいのだろう。
「……それで、私に何か御用でしょうか?」
色々言いたい事を抑えつつ、それだけ訊ねることにしました。
先程の発言から、私を此処に呼ぶように言ったのは恐らく目の前のこの人です。
提督が不在なのに、扶桑さんが個人的に私を呼び出す理由は、そう多くないですからね。
「ん?いや、其処の青葉から君が『最初の艦娘』だって聞いてね。色々話を聞きたくてさ」
「青葉さんが?」
そう言って、青葉さんを見ると、少々申し訳なさそうな顔をしてました。
「知ってる子がいなかったら資料室で調べようと思ってたからね。いやー手間が省けて助かったよ」
そう言って笑う宮林提督を見て、何だか酷く心がざわつきました。
初対面でこんな感情を抱くのはどうかなとは思いますが。
正直に言いますね。……私、この人苦手です。
『さて、皆一様に私を警戒してくれてるね。いっそ清々しいや』
扶桑が入れてくれたお茶を飲みつつ、冴香は思う。
執務室に来た五月雨にも『ワザと』煽るような自己紹介をしてみたが、結果は正直な所、『思った通り』だ。
尤も、冴香に対する不信感はある意味『神林への信頼』の裏返しでもある。
艦娘は基本的に従順だが、彼女達にも『感情』はあり、当然人の好き嫌いもある。
内向的な者もいれば、あまり周囲に友好的な態度を取らない者もいる(まぁ極端なのは少数だが)。
先程の『島風』だってそうだ。
彼女も別に非社交的という訳ではないが、それでも『他の個体』と比べて、随分と神林に心を開いてるように見えた。
なんというか、『歳の離れた兄』を慕うような様子すら感じた。……自分の与り知らぬ所で何かあったのか?
―――よし、今度色々聞いてみよう。で、弄ろう。そんな事を心に決める。
『兎も角、彼は思った以上に艦娘に慕われてるみたいだね。大いに結構』
因みに、先程のお茶の感想は本心だ。
下手すれば嫌がらせの一つでも来るかと身構えたが、出てきたお茶は普通に美味しかった。
扶桑型はその過去のせいか、少々不安定な精神を持っている場合が多いのだが、其れはそれ、秘書艦としての矜持は持っているらしい。
『躾もしっかりされてる様で何より。……これもプラス評価』
まぁ、普段『彼』に対してどうなのかは判らないが。……意外と嫉妬深そうだし。
それにしても、と改めて周りの艦娘達を見る。
「……何デスカ?」
目の前に座っている金剛が物凄く険しい目つきで訊ねてくる。
中々な覇気を放ってきているが、其処は慣れたもの。
後ろに居る摩耶だって、戦艦顔負けのオーラを出したりする。……まぁ主に自分のせいで、だが。それに―――
―――短期間だったとは言え、『誰』の婚約者だったと思っているんだい?
そう、『彼』に比べれば、この程度なんてことはない。
金剛の様子に苦笑しつつ、何でもないように応える。
「い~や、別にぃ?」
「……その様には見えなかったが?」
それまで静かにしていた長門が口を開く。
それを聞いて、まぁ隠すことでもないかと思い直し冴香が応えた。
「まぁ思うトコがない訳じゃないけどね。ただ―――この中で一番練度の高い艦娘が『扶桑』、ってのが意外でさ」
冴香の一言に、艦娘達の顔が強張る。
何故なら、冴香は彼女達の資料など一度も見ていないからだ。
そんな彼女達の様子に、「そんなに驚くことかなぁ?」と軽く返す。
「これでもこの職場に入って長いからね。一目見れば大体分かるよ?」
「……因みに貴女の見立てではどのような順番なんですか?」
手帳を手にした青葉が探るように訊ねてくる。
「そうだねぇ……一番が扶桑、次点が北上、そんで金剛、長門と続いて…響、青葉、五月雨って感じかな。あ、青葉はもう少しで改造できるんじゃない?」
「…………」
「こういう場合での沈黙は正解と取っていいのかな?」
「……お好きなように」
「りょーかい。あ、言い忘れてたけど、私これでも中将だから、タカ君より経験は豊富だよん」
「……宮林提督の階級は『少将』だとお伺いしましたが?」
冴香の言葉に、扶桑が疑問を投げかける。
少し驚いた様子で冴香は続ける。
「……へぇ、知ってたんだ。彼の言ってた通り、本当に優秀な秘書艦さんだこと」
「……ありがとうございます」
「でもちょーっと情報が古いかな。最近昇進したんだよ。タカ君と同じでね」
「……そうでしたか。御昇進おめでとうございます」
「ん、ありがと」
欠片も祝われてる感じがしないけども、とは言わないでおく。
というか、さっきから冴香が『タカ君』と呼ぶたびに彼女達の表情筋がひくつくのが段々楽しくなってきた。
―――さーて……そろそろ、頃合かな?
「いやーしかし、君達は彼を信頼してるんだねぇ」
「……当たり前だ『でもさ』」
長門の言葉に割って入り、ニタリと嗤いながら続ける。
「でもさ―――神林君の方はどう思ってるんだろうね?」
敢えて、『タカ君』ではなく『神林君』と呼んだ。
―――餌にしては分かり易すぎたかな?でも、此処まで来た手前、乗ってきてくれないとこっちも困るんだよねぇ。
「……どういう意味でしょうか?」
扶桑の言葉に、小さく嗤う。
―――良し、食いついた。
「言葉の通りさ。……少なくとも、彼は『普通』の感性を持っていないからね」
覚えが無いかい?と問うと、皆一様に黙る。
やはり、彼が抱える『異常性』を彼女達も気付いているのだろう。
「さて、今回彼は大佐に昇進する事が決まったわけだけども……おかしいと思わないかい?」
「何がデス?」
「いや、普通に考えて……周りと比べても遅すぎるでしょ、昇進」
「それは、周りの評価が」
「軍隊ってのは、実力主義・結果主義の世界だ。確かに彼は消極的なきらいはあるけど、それでも結果は出してる」
そう、確かに撤退も多いが、海域を攻略していないわけではない。
そもそも、轟沈のない艦隊運用を周囲が評価しないはずがないのだ。
「それでも彼の昇進が遅々として進まず、本来なら佐官どころか将官クラスの働きをしてるのに、未だに大佐の辺りをフラフラしてるのは何故か」
気付けば、冴香の言葉を誰もが聞き入っている。彼女の言葉に、誰も耳を逸らせない。
「答は簡単。―――軍上層部の一部が、彼に対して『特殊な評価』をしているからさ」
「特殊な評価……だと?」
長門の言葉に、小さく頷く。
「そ、言葉を選ばずに言うよ。―――警戒されてんのさ、彼は」
冴香の言葉に、周りの音が無くなる。
「警戒……ですって?」
「そ、一部の人間は彼を危険視してる。だから昇進が進まない。……下手に権力を持たせたくないからね」
「確かに理屈としては通りますが……そもそも何故そんな事に?」
「まぁ簡単に言えば彼の…いや、彼が『やって来た事』が原因かな。彼の過去を聞いた事は?」
「……以前、陸軍の特殊部隊に居たと……後は、勲章ですか?」
冴香の問いに、それまで黙っていた五月雨がおずおずと応える。
「正解、と言いたい所だけどね」
冴香は苦笑しながら呟く。……やはり、彼は詳しい事を言ってなかったか。
「確かに彼の経歴自体はそれで合ってるよ。ただ、『やってきた事』への理解が足りないかな」
「やってきた事?」
首を傾げる彼女達に、そうだよと応える。
―――導入はこんなもんかな?……さぁ、始めよう。
「近年の軍隊では、『Killing Psychology』って学問が注目されている」
脈絡もなく出てきた横文字に、皆が一様に首をかしげる。
そんな中、金剛だけが辛うじてその言葉を理解していた。
「Killing Psychology……直訳すれば、『殺しの心理学』って所デスカ?」
金剛の言葉に、冴香は流石帰国子女、と感心する。
「まぁその訳し方で良いんじゃないかな。尤も、『Killing Psychology』じゃ長いから、略して『Killogy(キロロジー)』なんて呼ばれてるけどね」
「キロロジー、ですか」
「そ、『人殺しの心理学』さ」
その研究に寄るとだ、その昔……まぁ『とある大戦』の時だね。
その戦場に於いて、『きちんと敵に向けて発砲できた』のは全体の半数にも満たなかったそうだ。
その結果に、然る国の上層部は頭を抱えてた。
『如何にして敵の数を減らすか』……戦いに勝つために重要な要素の一つだね。
その為に、あらゆる手段が考案さた。
時としてあらゆる非人道的な手段すら肯定された。勿論、戦いに勝つためだ。
ところが、肝心の『手段』を行使する『兵士』が躊躇してちゃあ意味がない。
それを何とかするために、『残忍化』の訓練が考案され、兵士たちに実施された。
でもどんなに訓練をしたところで、心のどこかで『人を殺すこと』に抵抗を覚えてしまう。
そりゃそうだ。どんな理由であれ、同族を殺すんだ。台所でゴキブリを退治するとは訳が違う。
……まぁ君達には馴染みが薄いかな?
日々、『深海棲艦』なんていう怪物と戦ってる訳だからね。
おっと、『深海棲艦』のルーツには諸説あるんだったね。ある意味、君達と『同族』かもしれないんだっけ。
でもまぁ、此処ではあんまり関係ないから、その議論は脇に置こう。
話がそれたね、……そうそう、『兵士の多くは、敵を殺すことを躊躇う』までは話したかな。
その問題は根深くてさ、戦争が終わった後も、それを引きずる兵士が沢山いた。
帰還兵が精神に異常をきたして……なんて話は、何処の国にだって転がってる。
―――ところがだ。
「どんなに人を殺しても、全く平気な人種ってのが、この世界には存在する」
原初の時代から脈々と受け継がれてきた、『殺人の遺伝子』を継ぐ者。
ヒトを殺すために生まれてきたヒト。
人類そのものの戦士階級。
それは性別の区別なく存在し、全人口の2%近くはその素質を持っていると言われてる。
現在の総人口が70億人位だとして、1億4000万人。……うん、数字にすると膨大な数だね。
「そして、神林君は……間違いなくその中に入ってる」
以前何の気は無しに聞いた質問を思い出し、改めて戦慄する。
『貴方は一体、何人の敵兵を斃してきたの?』
『30人を超えたあたりから面倒になって数えるのをやめた』
人を殺した数を、只の数字として認識している狂気。
そしてそれが彼の中の『普通』として息づいている。
「私も彼の過去を全部知ってるわけじゃない。でも、彼の―――タカ君の心は過去に一度、完全に壊れてる。間違いなくね」
冴香の言葉に、何人かの艦娘が息をのむ。
「なのに、今の彼は狂っているとしか思えない程の『純度』と『穏やかさ』を保ち続けている」
そう、君たちが彼に惹かれている『統率された狂気』って奴だ、と指をさす。
「本当に、色々な意味で、完全に壊れてるよ、彼は」
そう言って、彼女は肩を竦める。
その時、視界の端で動くものがあったが、今は敢えて『無視する』。
「どんな経緯があったとしても、彼を敵にはまわしたくないなぁ」
そういって、冴香は苦笑しながらすっかり温くなってしまったお茶を啜る。
『とある艦娘』の纏う空気がいよいよ不穏なものとなったが、気にしない。
―――へぇ、一番最初に『我慢できなくなった』のは『君』かぁ。ちょっと意外かも。
でもそういえば、途中から一言も喋ってないし、もしかしてずっと我慢してたのかな?
そんな事を内心思いつつ、『詰め』の一言を繰り出す。
「まぁ、君達艦娘もある意味『人外』な存在であるわけだし?考えようによっては類友って『……ウザいなぁ』うん?」
ジャキ、と言う金属が擦れる音と共に、不穏な空気が張り詰める。
「……おい、どういう心算だお前っ……!?」
咄嗟に臨戦態勢に入る摩耶を片手で制止しつつ、努めて穏やかな表情で『彼女』に問う。
「んーと、『ソレ』はどういう意図での行動なのかな?―――『北上』?」
冴香の見つめる視線の先、執務机の前には。
「…………」
戦艦すらも射殺すような鋭利な目で、手にした艤装を真っ直ぐ冴香に向けて構えた北上が居た。
はい、一番最初に『仕掛けた』のは北上さんでした。
性格的に、一番最初に動くのは彼女かなって思いまして。
でもまぁ、ぶっちゃけた話、他の皆も一杯いっぱいです。それこそ、北上が動いてなかったら数秒後に違う子が動いてたでしょう。
以前にも書きましたが、神林さんはあくまで、『他人より戦士として優秀』で『他人より悪運が良く』て『他人より運が悪かった』だけの普通の人間です。
でも、心がちょっと壊れてます。
それは神林さんの過去でもあり、ルーツでもあるのですが……冴香も詳しくは知らなかったりします。
いつか番外編辺りで書けると良いのですが。
さて、後編は散々言いたい放題言われて鬱憤の溜まっている『艦娘達のターン!』です。お楽しみに。