もう彼は止めることができない、否、止めるには殺すしかない。
だが、ヴィンセントはその合間にもキャロルを救う方法を考えていた。
「(キャロルを救うには殺すしかない。だが、やつとて電子の存在ならば....!!)」
ヴィンセントは胸に秘めた希望を一筋の道すじと考え、大きくブーストをふかした。急上昇した機体はキャロルと戦っているクロエのもとへ続き、一瞬でその高度に届いた。
「クロエ、ヤツを救う、合わせてくれ!!」
「....!?っ、わかったよお兄ちゃん!」
二人はアイコンタクトでキャロルの動きを止めるべく目の前の少女の駆るISに二人は同時にメガビームランチャーを掲げた。
「人が作ったものならば!」
「人を救ってみせろぉ!!」
同時に放たれるそれは少女を飲み込み地面に叩きつけた。だが、そこで限界が来たのか、ヴィンセントもまた地に落ちていく。
「お兄ちゃん!!」
クロエは猛スピードでヴィンセントを救うとそのまま傷口を見た。ALDESが解除された今、もはやその失血量を補うだけの血液も無ければ傷口を塞ぐだけの余裕もない。
「....ぐっ、こんな状況も二回目だな....。」
「これ以上喋ったら!」
「ああ、分かってるさ....俺でも大体の死期は見える....。ああ、クロエ、手をつないではくれないか?」
「うん!...うん!」
弱々しいヴィンセントの声を聞いたクロエはその要望どおり左手でヴィンセントの右手を掴んだ。
「悪いな....また先にあっちに行くことになりそうだ....。」
「こんなの....こんなのって....!!」
二人が最後の別れを惜しむ中、ようやく気がついた一夏達は生気を失いつつあるヴィンセントを見ていることしかできなかった。そんな中、一人狂三はヴィンセントの方に歩き、短銃を真上に掲げた。
「居るのでしょう?出てきなさい、【刻々帝】!!」
狂三天使の名を発現した瞬間、風が3人を包んだ。もちろん一夏達は近づくことが出来なくなっていた。そしてその風の嵐の中では....
「....出てくるとは思っていましたわ、【ファントム】。」
『あんなに私に興味を引かせた子が死ぬのは見るに耐えないからね。』
「皮肉ですわね。貴方がヴィンセントさんを助ける理由なんて微塵もありえませんわ。」
『けど貴女は助けようとした。違う?』
二人が相対する中、クロエは未だヴィンセントのことを見つめながらも上から降ってくる何かを感じつつあった。それは二人も、更には奇しくも叩きつけられたサイレント・ゼフィルスも。
「あなたが出来るならさっさとしてあげなさい。最も、あの二人が了承するならば、ですが。」
そう言って狂三はクロエたちの方を見た。クロエは全力で首を縦に振っているのに対し、ヴィンセントの反応はない。もはや一刻の猶予がないのだろう。そう感じた狂三はファントムに顔を向けると無言でうなずく。ファントムはそれを見て察すると懐から霊結晶を取り出した。
『これを埋めれば彼は助かる....が、人ではなくなる。最終警告だ、それでも良いんだね?』
「お兄ちゃんは....どんな形になろうとも、私のお兄ちゃんだから。」
『そうか、では.....。』
ファントムがその霊結晶を抉られた体に埋めこもうとした瞬間である。ファントムの真後ろで爆発が起きてその持っていた霊結晶が空中に飛んだ。
「あっ!?」
『誰だ!?』
二人が揃って上を見る。するとそこには、
「私達のマスターに何してくれてるんですかァァァァ!!!!」
空中から狙撃態勢で落下するトーリスリッター1号機【トーリス】の制御AIであるペイの姿があった。
「うグッ......持ちこたえられなかったのか。」
目が覚めるとそこは真っ白な空間だった。奥には一人の少女らしき人物と先程まで話していたエジソンの姿があった。幸いにもこの空間では体に傷跡はなく、普通に動けたのでそこに向かってみることにした。しばらく進むとその少女の全容が明らかになってくる。その姿はあのサイレント・ゼフィルスに乗っていた少女と瓜二つだった。
「....お前、まさか。」
「ああそうさ、エジソンから聞いているのだろう?私はあのALICEを生み出し、そしてALICEから拒絶された存在さ。」
「拒絶って....あなたね、被害妄想も程々にしてくださいよ?」
「拒絶された以上、それならばいっそのこと死ぬのが自然の理、だが、お前が私を本気で殺そうとしたのは予想外だったがな。」
目の前の少女がエジソンが以前言っていたキャロルであることを悟るとしばらく二人の行く末を見守ることにした。
「あれは!....あなたがヴィンセント君を殺そうとするから!!」
「あいつは死んでいいやつだ!.......そうさっきの私までならば言っていただろう。」
「....どういうことです?」
「お前は....もとの私の行動原理を知っているだろう?」
「....ダ・ヴィンチさんからは聞いています。ですが、それとこれとどういう関係が。」
「.....キャロルは二人いる。」
「!?....っそれってどう言う.....。」
「お前たちで言うならばいわば私は善のキャロルだ。」
「はぁ!?それってつまり、今表でヴィンセントを瀕死に追い込んだ貴女.....は!?」
「そうさ、私の純粋な悪意の残留思念が形となって具現化した存在、いわばフラグメント。」
「なるほど、そう言うわけか。」
「ヴィンセントさん!?」
事の巻末の真実をようやく知ったヴィンセントは二人の会話に加わるべく横槍を入れた。それでようやく存在を認知した二人はエジソンは驚き、キャロルは声にはせずとも若干驚いてはいた。
「さっきまでの話は聞いた。本当にお前は...今のキャロルは善の存在なんだな?」
「ああ、自殺願望は少々あるが今の私はお前たちに敵意を向けるつもりはない。」
「....一つ聞かせてくれ。なぜお前は今更こちら側に来た?」
ヴィンセントはそうキャロルに問うた。ALICEという存在が確立されていたならばもっと早くその存在を認知させることもできたはず。なのになぜ今になってこちら側に来たのか、それが知りたくてしょうがなかった。
「.....出来ればお前にはお前の妹たちとだけ関わってほしかった。だが、私が先程言ったもう一つの私...悪の私、フラグメントがこの世界に紛れ込み、今では手がつけられなくなっている。そうなると創設者であるこの私ですらもう手に負えない。だが、お前たちなら止められる。総判断したまでさ。」
「.....だが、この傷では。」
ヴィンセントは真意を聞いて一度だけこのキャロルを信じてみたくなった。だが、すでに瀕死の体である以上もはや戦う力は残されていない。そんなとき、キャロルは自らの体から一体の蝶蝶を羽ばたかせるとヴィンセントの抉られた傷に着地させる。するとどうだろう、あんなに大きかった傷が一瞬で小さくなり始めた。
「!?これは....!?」
「私の権限で治癒能力を限界にまで引き上げた。数十秒もしないうちにこの傷は塞がるだろう。」
「....何が目的だ。」
「20秒だけ制御権を寄越せ、あの悪玉は同じ私が正さなくてはならん。」
「....エジソン。」
「....わかった。」
ヴィンセントが支持するとエジソンは渋々システムの操縦系統をキャロルに渡した。そこでヴィンセントの意識は切れた。
To be Continued.......
次回、遂に決着。
精霊編を本格的にブッ込むか否か
-
入れる
-
入れない
-
Fate要素増やして