天の音の詩 ~マギアレコード~   作:XXPLUS

2 / 2
後編・天音月咲

 ――月夜ちゃん、危ないっ!

 

 月咲が我を取り戻したとき、烈風に飛ばされた木戸は、まさに月夜を打とうとしていた。

 姉の名を叫びつつ立ち上がり、手にした篠笛を小刀のように抜き打って木戸を打ち砕く。

 

「だいじょうぶ? 月夜ちゃん」

 

 先ほどまでの自分と同様、姉は夢でも見ているかのようにぼうっとしていた。

 何か喋っていないと不安になる。そんな自分を自覚した月咲は、姉の覚醒を促すように続けて声をかけた。

 

「何があったんだろう? 社に入ってみる? 月夜ちゃん」

 

 果たして、月夜はいつもの表情を取り戻した。

 月咲の大好きな、優しく落ち着いた姉の顔を。

 

「――いえ、献奏をしていないと、状況は悪化すると思うのでございます」

「確かに、吹くのやめたら風が強まった気はするね」

「はい。私が演奏を続けるでございます。月咲ちゃんは、みふゆさんに連絡を」

 

 危険な方の役割を率先して行おうとする月夜。

 それが月咲へ対する思い遣りであることは、月咲にもわかる。ありがたい、そう感じないといけないことだということも理解している。

 だけど、相手を思い遣る気持ちは月夜ひとりだけのものではない。

 

「ううん、ウチが奏でるよ。月夜ちゃんが呼びに行って?」

「譲り合ってる場合じゃないでございますよ、月咲ちゃん。ここはお姉さんの言うことを聞くでございます」

 

 ――ウチだって頑張ってるのに、そうやってお姉ちゃん風吹かせてばっか!

 

 抱くはずのない想いがかすかに芽生えたことに、月咲は違和感をおぼえた。

 その違和感のもとである濁った想いを、頭をぶんぶんとして振り払う。

 

「わかった、ウチが行ってくる。月夜ちゃん、少しの間辛抱して」

「お任せください、我慢は慣れているでございますよ」

 

 自らを鼓舞するためと、妹を安堵させるための笑顔。それは確かに、意志をもって作った笑顔であった。

 月咲はそんな姉の笑顔が好きだった。

 しかし、今に限っては、異なる感情が芽生えた。

 

 ――また作り笑顔? そうやって表面ばっか取り繕って!

 

 そんな感情が去来することが信じられなかった。ありえないことのはずだった。

 悲しくなった。

 そんな風に一時でも思った自分が悲しくて、泣きたくなった。

 

 ――だめ。笑わなきゃ。心配、かけたくないよ。

 

 泣き崩れてしまいそうになる自分を押しとどめ、笑みを浮かべる。

 日常のどんな辛さにも笑顔を見せる信条であり、また実践している月咲。そんな彼女だったが、今回のそれは不自然さを隠し切れなかった。

 月咲の表情を見た月夜は、横構えた篠笛の歌口に添えた唇をそっと浮かせ、

 

「お姉ちゃんは大丈夫でございます」

 

 言葉自体が旋律の一部であるかのように、歌うような調子で告げた。そして歌口へくちづけし、演奏を始める。

 風は激しく、周囲の灯篭は時折倒れ、社の御簾は櫛の歯が抜けるように飛び散っている。

 だが、魔法少女にとってはさしたる障害ではない。

 月咲はきびすを返し、結界の出入り口へと向かった。

 そして吹きすさぶ風は、月咲の浮かべた涙もさらっていった。

 

 ――涙、月夜ちゃんには見られなくって良かった。

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

「なんで?! 出れないよ!」

 

 結界の出口まで駆けた月咲は、いつもの通りに結界を出ようとした。

 しかし、いつもはシャワーをくぐるように抵抗なく通ることができた出口が、今は鋼鉄の壁のように彼女を拒絶した。

 

 がつんっ。

 

 篠笛で殴打しても、びくともしない。

 

 がつんっ。がつんっ。

 

 打擲を繰り返すと、そのたびに水面に石を投げ入れたような波紋が広がった。

 それは、魔女の結界の入り口が見せる現象に酷似していた。

 

 ――じゃぁっ、これでどうっ!

 

 月咲の両の手に魔力が集中し、白金色の輝きが宿っていく。宿った魔力はあふれ出し、燐光となって彼女の周りを舞い踊る。

 燐光はやがて蛍火となり、次いで魔力の弾となる。

 その魔力の弾を、結界にぶつける。

 魔法少女が魔女の結界を打ち破り、侵入する時の行為だ。

 

 結界の反応を見た月咲には、直感があった。

 神御子が既に魔女、またはそれに近しいものに変わりつつあると。

 

 ――だって、神御子さまの穢れを吸ってあげられる子はいないんだよ。ドッペルが出せないなら、そうなるしかないじゃない! なのに、ウワサを潰して!

 

 可視化される魔力の色は、個人の持つ魔力によって異なる。

 月咲の場合は、白金の色。

 かつて月夜は、月咲の白金色の魔力を、宝石みたいで綺麗だと誉めてくれた。

 もちろん、月咲は月夜の藤色の魔力も同じくらい綺麗だと思う。思うが、誉めてもらえたこの色に強い愛着を持っていた。

 

 だが、その白金色の魔力は、結界にぶつけたとたん力なく飛散し、輝きを失っていった。

 

「うそだよっ、ウチの魔力が!」

 

 今まで、こんなことはなかった。どんなに強い魔女の結界であっても、月咲が手をかざし魔力をぶつければ、容易に道はひらけた。

 今までに遭遇したどの魔女の結界よりも強い、すなわち、今までに遭遇したどの魔女よりも強い――。

 それほどまでに強大な敵に、いま自分たちは襲われているのか、そう思うと、月咲は膝が震えそうになる自分を感じた。

 しかし、そうはならなかった。脳裏で微笑む姉の顔が、彼女を励ましたから。

 

「うん、ウチに任せて。頑張ってくれてる月夜ちゃんの期待、絶対に裏切らないよ!」

 

 篠笛を構えると、彼女は短く音色を生み出した。

 旋律を奏でることで、彼女たちの魔力は増幅される。

 増幅された魔力を、篠笛に宿らせる。

 篠笛は彼女の魔力の色に輝き、音色を紡ぐ楽器から、使い魔を一撃で叩き伏せる武器へと変容した。

 

 

 

 だが。

 使い魔を、そして魔女を打ち倒すほどの殴打を繰り返し受けても、結界には歪みのひとつすら発生しなかった。

 

 ――だめ。ウチじゃどうにもならない。一度、月夜ちゃんと。

 

 合流してどうするか。

 ふたりで結界を破るのか、ふたりで神御子を鎮めるのか、そこまでは月咲の思考にはなかった。

 ただ、姉と会いたいと欲した。

 彼女の脳裏で、柔らかい笑みを浮かべる姉と。

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

「ごめん、月夜ちゃん」

 

 小走りに駆け寄り、横にしゃがみこんだ月咲を、月夜は穏やかな視線で迎えた。

 楽曲は、月咲が離れた時から二曲進んでいる。悪戦苦闘していた月咲にとってはかなり長い時間に感じられたが、実際は五分程度のことだったらしい。

 

「結界、出れなかった。こじ開けようとしたんだけど、ウチひとりじゃだめだったよ」

 

 演奏を続けながら頷く月夜。

 何事か考えているのか、目を薄くして小首を傾げる。時おり、表情を曇らせてかぶりを振る。

 そして、旋律が小休止となったところで、歌口から唇を浮かせた。

 

「左様でございますか。幸い、こちらは少しずつ風も弱くなってございます。月咲ちゃんに手伝ってもらえれば、このままお鎮めすることもできると思います」

「そうだね、風、ずいぶん落ち着いてる。ひとりで頑張らせちゃってごめん。ウチも吹くね」

「月咲ちゃんも、向こうで頑張ってくれたのでございましょう? 謝ることなんてなにもございません」

 

 どちらからともなく微笑み、視線を交わらせる。

 けれど、吹き始めはどちらからともかく、ということはなく、完全に同時だった。

 

 ――ほんと、役に立てなくてごめんね。演奏は頑張るからね!

 

 その思いから、月咲の旋律はやや先走る傾向はあるものの、音色は満点と言って良かった。

 一方の月夜の旋律、こちらはまさに完璧であった。月咲の先走りにもつられることなく、本来あるべき音を淡々と生み出していく。

 その様子に、少しいつもと違うなと月咲は思った。

 

 ――こういう時、いつもは月夜ちゃんもすこし早めて吹いてくれるんだけど。

 

 そして旋律が小休止となった時、月夜は呟いた。

 

「音が走ってございますよ、月咲ちゃん。少し抑えてくださいませ」

「あ、うん、ごめん、月夜ちゃん」

 

 月夜は悲しげな表情をし、何事か言おうとしたが、その前に小休止が終わる。

 普段なら、月夜はこのような指摘はせずに黙って音を合わせる。慣れない姉の指摘に、月咲の精神は乱れ、そして必然として旋律も乱れた。

 

 ――今度はもたっちゃう。あぁ、だめ、早くなっちゃった……どうして、今日は合わせてくれないの?

 

 ――あぁ、うまくあわない。なんでよ、なんで合わないのよ!

 

 ――ウチは一生懸命やってるのに、なんで? 泣きたくなっちゃうよ……。

 

 そして小休止。月夜が口を開こうとするが、それを遮って、

 

「月咲ちゃん――」

「分かってるってば!」

 

 月咲が悲鳴のように叫んだ。

 

「ウチより月夜ちゃんの方が上手なんだから、合わせてくれたっていいじゃない!」

「ただの練習ならともかく、今は献奏の儀でございますよ」

「だからこそじゃないの!? どちらが正しいかじゃなくて、どうやっていい演奏をして、この状況を収めるかだよね?!」

「月咲ちゃん――」

 

 ふたりは、そろって泣きそうな顔を見せる。月咲の瞳には既に涙が満ち、今にも零れそうになっていた。

 小休止が終わる。月咲の音は、心と同じく千々に乱れた。

 第三者が聞けば、理想的な月夜の旋律を、月咲の音が妨害しているようにさえ思えただろう。

 

 ――いつもみたいに助けてよ。

 

 月夜とうりふたつの月咲のどんぐり形の瞳。そこに溜まっていた涙が零れた。

 ほっぺたを熱いしずくが流れる。

 泣いたのはいつ振りか、月咲には思い出せなかった。少なくとも、月夜に逢い、奇跡を叶えた後は、悲しくて泣いたことなどないはずだ。

 

 ――月夜ちゃんは、ウチのこと嫌いになったの……?

 ――嫌われたくないよ。うまく吹かなきゃ、嫌われちゃうの……?

 ――でも、こんなに意地悪な月夜ちゃんなんて、ウチもイヤだよ……。

 

 ふるふると小さく首を振ると、涙がぽろぽろと零れ、頬をすべり落ちていった。

 一滴ごとに、月咲の中で何かが壊れていく。

 やがて、次の小休止を迎える頃には彼女の心はぼろぼろになっていた。

 そして、彼女の心が損耗するに従って、周囲に吹く風も勢いを増していった。今やこれまでで一番激しい暴風が吹き荒れ、社の御簾も戸もすべて剥ぎ取られている。

 もはや、彼女たちの旋律に神御子を鎮める力はない――ように思えた。

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 吹き上げる突風。二房に結った髪が上下に激しく揺れ動く。

 髪の束が背中を叩き、頬を叩く。それを気にも留めずに、月咲は叫んだ。

 

「もう、やだよ……! 吹きたくないよ!」

「月咲ちゃん……」

 

 激発した妹に、月夜は優しい姉の顔で諭そうとした――ように見えた。しかし、それ以上の言葉は出ず、懊悩に満ちた表情を見せる。

 月咲にはその表情が、自分をなじっているものと、そう思えた。

 

 ――なんでそんなにウチを見下すの?

 ――そんな月夜ちゃん、好きじゃないよ。

 ――なんでウチはこんな風に思うの?

 ――こんなことを考えるウチは嫌いだよ。

 

 自分の心の変化にも、姉の態度の変化にも、彼女の精神はついていけなかった。

 嬰児のようにしゃくりあげ、幼子のように拗ねた言葉をつなげる。

 

「だって、今日の月夜ちゃんおかしいんだもん。合わないなら、いっそ月夜ちゃんだけの方がいい演奏ができるでしょ?」

「月咲ちゃん、どうしてそんなこと言うのでございますか。そんな駄々ばかり言う月咲ちゃんは嫌でございます」

「嫌? 嫌いなの? じゃぁそれでいいよ! ウチも嫌い!」

 

 自分の言葉に浮かされるように一息にまくしたてた月咲は、もはや篠笛を手放し、両の手でかんばせを覆って泣きじゃくる。

 月夜の両手も力なく垂れる。そして、これまで涙を見せることはなかった月夜も、はらはらと涙をこぼし始めた。

 

「ウソ、ウソだよ! 嫌われたくないよ、嫌いになりたくないよ!」

「月咲ちゃん――」

「ほんとにウソなの! 嫌わないで!」

 

 丸く大きな瞳に、涙をいっぱいに溜めて姉を見上げる月咲。

 その瞳に映る月夜の顔が少しずつ大きくなり――やがて見えなくなった。

 そのかわりに、姉の頬は妹の頬と重なった。

 お互いがこぼした涙が混じりあっていく。

 月夜の腕が、小さく震える月咲の背中をかき抱いた。

 言葉が、鼓膜からではなく柔らかな肌を通して伝わる。

 

「どうしたことでございましょうか。私、月咲ちゃんが大好きでございますのに、酷い態度を取ってしまいました。月咲ちゃん、大好きです、信じて欲しいでございます」

「ウチのこと、嫌いじゃ、ないの?」

「そう思われても申し開きできないでございますね。その、私、おかしいのでございます。些細なことで、月咲ちゃんを悪く思うようになっているのでございます。おかしいから許してほしいなどと言う気はございません。本当にごめんなさい」

「ううん、わかる、わかるよ。ウチだって、同じだもん。ヘンだよ、嫌いになりたくなくて、契約したんじゃん……なんで?」

「もしかすると、神御子さまがおかしくなった影響なのかもしれないのでございます」

「影響?」

「わかりません。でも、奇跡が覆されるなんて、おかしいでございます」

 

 滔々と語る月夜と、途切れ途切れに話す月咲という違いはあったが、ふたりの声は等しく湿っていた。

 そして演奏を止めている間に、もはや風は魔法少女にとっても行動の妨げとなるほどに荒れ狂っていた。だが、そのような風の猛威も、ふたりのささやくようなか細い声をかき消すことはできない。

 

「月咲ちゃん、本当にごめんなさい。嫌われてもしょうがないでございます」

「いやだよ……嫌いになりたくなくて、契約したんじゃない。でも……」

 

 姉の背に回された月咲の腕に、力を込もった。

 離したくない、その感情が腕の力を強くしていく。

 

「嫌いになりたくないよ! 助けて、月夜ちゃん……!」

「安心して欲しいでございます、月咲ちゃん」

 

 頬をぎゅっと押し付けると、月夜は微笑んだ。それは月咲の視界の外で生じた表情の変化だったが、不思議と月咲には目で見るよりもはっきりと感じ取れた。

 

「月咲ちゃんに嫌われたとしても、私はけっして月咲ちゃんを嫌いにはならないでございます。そうすれば、きっと仲直りできるでございます」

「うそだよ……。だって、さっき、駄々ばかり言うウチはいやだって」

「確かに申しました。そんなことを思うなんて、不思議でございますね。でも、月咲ちゃん、私は思うのでございます。そうやって思ったことを隠さず言い合えるなら、きっと大丈夫でございます」

「ケンカになっちゃうよ、あの時みたいに……」

「ケンカになったら、仲直りすればいいのでございます。きっと、ケンカして仲直りするたびに仲良くなっていくものなのでございます。私と月咲ちゃんは、少しケンカしなさすぎたのかもしれません」

「したくないよ……?」

 

 月咲の素直な言葉に、月夜はくすりと笑い、自らの目尻を指で撫でた。

 そのまま手を運び、月咲の目尻を撫でさする。彼女の体温がこもった涙が、月夜の指の腹に触れて消えていく。

 月咲は、親猫に毛繕いされる子猫のように、安堵した表情でそれを受け入れていた。

 

「そうでございますね。私も好んでしたくはありません。ただ、言いたいことを言えば時にはぶつかることもございます」

「ぶつかりたくないよ?」

「私、思うのでございます。本音で話し合ってぶつかることは、けっしてだめなことではない、と」

「そぅ……かな?」

「えぇ。きっと、相手の嫌なところが目に付いてしまうのも、相手に今より良くなって欲しいからでございます。私、今の月咲ちゃんも大好きでございますが、今より良くなった月咲ちゃんがいれば、もっと大好きでございますよ」

「でも、たぶん、ウチの思う嫌なとこって、ウチが我がままだからそう思うだけで、言っても月夜ちゃんのためにならないよ」

「なるでございます」

「ほんと?」

「私、月咲ちゃんから見て、嫌なところの少ないお姉さんに成長したいのでございます。他の人から見ればだめな方向に変わったとしても構いません。月咲ちゃん、その手助けをお願いできませんか?」

「うん、わかったよ、月夜ちゃん」

 

 絡めていた腕がほどけ、ふたりは少しだけ体を引く。

 そして顔と顔が向かい合う。

 

 ――月夜ちゃん、ひどい顔。たくさん泣いたんだね。

 

 自分もそうである自覚はあった。むしろ自分の方がはるかにひどい顔をしているだろう。

 そう思うと顔を見られたくない、という羞恥の気持ちが頭をもたげてきた。そして月咲は、ふたたび姉に抱きついた。顔を見られないよう、姉の肩口にあごを預けて、深く抱擁する。

 

 月夜は優しく笑い、片手で月咲の頭をゆっくりと撫でる。大切な宝物を扱うような、繊細な動きで。

 やがて、月咲がその体勢のまま、つぶやいた。

 

「月夜ちゃん」

「なんでございましょう」

「大好き」

「私も大好きでございますよ」

「ねー」

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

「さて、一曲まるまる飛ばしてしまったでございます」

「うん、荒れ狂っちゃったね」

「また鎮めればいいだけのことでございますよ、月咲ちゃん」

「だね」

 

 名残惜しそうに姉の身体から離れると、月咲はすっと篠笛を構えた。

 月夜も指と篠笛を結いでいた紐を手繰り、篠笛を構える。

 

「姉としては、ここは私に任せて出口を調べてと言いたいところでございますが、いまさら、聞き分けてくれる月咲ちゃんではないでございますよね」

「そうだよ、ウチはけっこう頑固なんだから」

「存じております……」

 

 口元を袖で隠し、月夜はくすくすと笑う。

 邪気のない笑顔だったが、一瞬、月咲にはそれが自分の頑固さを嘲る笑いのように、そう思えた。

 

 ――バカにしたみたいに笑っ――ううん、違うよっ。月夜ちゃんの笑顔は優しいもん。

 

「笑っちゃだめだよ」

「だって、おかしいでございます。キュゥべえの奇跡とやらに頼らなくても、月咲ちゃんとはこんなに信じあえるのですから」

「もしかして、ムダな奇跡だったのかな?」

「さて、どうでございましょう。確かに今は奇跡などなくても月咲ちゃんを心から信じ、愛おしく思ってございます。でも、あの時にこれだけ月咲ちゃんを信じることができたでございましょうか……私、心が弱いのでございます」

「ウチもだよ」

「存じております」

「もう……ひどいよ月夜ちゃん」

 

 留袖のようにゆったりとした袖口を口元にあてがい、ふたりは声を出して笑った。

 大きく笑うと、まだ瞳だか涙腺だかに残っていた涙が少しあふれたが、それは気にならなかった。

 涙の最後の一滴まで流しきると、ふたりは自然なしぐさで篠笛を唇へ運んだ。

 

「では、天音姉妹の畢生の旋律、お聴きくださいませ」

「うん、いくよ!」

 

 ただ綺麗なだけの、硝子細工のように冷たく刺々しい月夜の音はもはやなく、

 ただ旋律を追うことに終始し、自信を失いおどおどした月咲の音は、もはやなかった。

 この儀を始めた当初の旋律が、月夜と月咲がお互いを相補う比翼の鳥であったとするなら、

 今の旋律は、月夜も月咲もない、重なり合っていとつに融けた、天音姉妹という一羽の鳥だった。

 

 ――好き。

 ――好き。

 ――大好き。

 ――ウチの旋律を待っててくれる月夜ちゃんが好き。

 ――優しく見守ってくれる月夜ちゃんが好き。

 ――とっても頼れるお姉ちゃんの月夜ちゃんが好き。

 ――でも、ウチと一緒で、弱いところもある月夜ちゃんが好き。

 

 ――ああ、そっか。

 ――こうやって、ずっと好きって想いで満たしていれば、嫌な気持ちがしゃしゃりでてくることなんて、ないんだ。

 ――ずっと、こうしてよ。

 

 ねー、という姉の声を聞いた気がした。

 それは幻聴だったのだろうが、月咲にとっては、姉も同じ考えであることを思い込むに足る、確かな証であった。

 だから、月咲も心の中で応えた。

 

 ――ねー。

 

 

 

 

 曲が終わる頃、烈風はそよかぜとなり、ふたりが歌口から唇を浮かせたとき、そよかぜは凪となった。

 ふたりは腰を上げ、社に向けて一礼する。

 全ては終わった――そう思えた。

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

「出れない、ね」

「そうでございますね……」

「どうしよう、月夜ちゃん」

 

 ドアをノックするような仕草で、篠笛で結界出口を叩く月咲。

 先ほどと同じく、波紋が広がるだけで、出れるようになる気配はない。

 

「みふゆさんが気付いて、外から開けてくださるかもでございますね」

「他にできることは……神御子さまのお社に行ってみる?」

「月咲ちゃん、そこは入ってはだめと言われているでございます」

「そっかー、そうだよね」

「入ってみたかったのでございますか?」

 

 一瞬、月咲が固まる。

 子供っぽいいたずら心を見透かされたような居心地の悪さ。

 素直に認めるか、誤魔化すべきか――そんなのは、決まっていた。

 月咲は耳朶を赤く染めて、小さくつぶやいた。

 

「……うん」

「それでは、15分ほど待ってなにもなければ、入ってみるでございます」

「いいの?」

「もし責められたら、御簾が飛び散ったので拾い集めていたとでも言えばいいでございます」

「わ、月夜ちゃん、ずるい」

「嘘も方便でございます」

 

 姉妹が背後に強烈な悪寒を感じたのは、その時だった。

 見やると、参道のまんなかを、なにかが此方に向かって動いていた。

 小さな浴槽程度の大きさの木製の舟、その底に短く太い4つの足がついている。

 

 飼い葉桶――に見えるそれは、舟の部分に小さな少女を横たわらせていた。

 少女は両手と両脚を根元から失い、頭髪もない。その姿は嬰児を思わせる。

 舟いっぱいに敷き詰められた藁に半ば埋もれて眠る姿は、揺り篭でまどろむ赤子のようだった。

 

「――神御子さま……?」

 

 月夜のつぶやきに応えるように。

 赤子のような少女を中心に爆発的な突風が発生し、舟に敷き詰められていた藁が吹き飛ばされる。それは硬質化しニードルとなって、天音姉妹に迫った。

 無造作に吹き飛ばされた――とは思えないほど明確な照準を以って撃ち放たれたそれは、天音姉妹を包囲するように、全周囲から襲い掛かる。

 

 ――あっ……!

 

 月咲は動けなかった。

 全天から襲い来るニードルが、彼女の柔肌を切り刻もうとする。

 

 その寸前、甲高い笛の音が響き、全てのニードルが空中で静止した。

 

「笛花共鳴の裏、間に合ったようでございますね」

 

 篠笛を口元から外し、月夜が呟いた。

 月夜の笛の音が止むと、空中で何かに捕らわれていたように留まっていたニードルが、ぽたぽたと地に落ちる。

 微笑む月夜の横顔に、月咲は弾んだ声を投げた。

 

「ありがと! 月夜ちゃん!」

 

 月夜も笑顔で応える――が、その瞳は笑っておらず、飼い葉桶に横たわる少女を見つめていた。

 ふたりとも、見落としていた。

 無数にあったニードルのうち、わずかに2本だけが、月夜の旋律による拘束を免れ、自らの意思で空中に静止していたこと。そしてそれは依然、彼女らの上空に位置していることを。

 

 それが、動いた。

 燕が飛ぶような軌道を描き、月咲の両の瞳へ向けて、滑空する。

 飼い葉桶を見つめていたふたりは、意識の間隙を突かれて反応することはできなかった。

 

 ぐじゅり、と柔らかいものが潰される音を、月咲は間近に聞いた。聞いたというよりは、彼女の中でその音は生まれた。

 両の瞳が潰された音だ。

 

「月咲ちゃん!」

 

 月夜は、もはや飼い葉桶の少女に注意を払うことも忘れ、うずくまる妹を抱き締めるように覆いかぶさる。

 そして、ありったけの治癒魔法を妹へ使った。いつもの彼女の淑やかな魔法とは違う、魔力を垂れ流すような、乱暴な治癒魔法を。

 彼女たちは、自分自身の魂が身体ではなくソウルジェムに在ることを知っている。肉体のダメージは決して致命傷たりえない。それでも、そんな事実など忘れてしまったかのように、姉は半狂乱となった。

 

「月夜ちゃん、ありがとう。大丈夫、もう痛みはほとんどないよ」

 

 姉が取り乱すことで、逆に月咲は冷静でいられた。

 目が見えないながらも姉の温もりをたよりに、軽く身体を叩いて大丈夫だと伝える。

 

 ――これ、治すの1時間コースだよ。月夜ちゃんに手伝ってもらわなければ4時間コース。

 

 この後の視力を取り戻すための回復作業を思い、月咲は心の中で嘆息する。

 いや、今はそんな先のことよりも――

 

「戦わなきゃ」

「いえ、月咲ちゃん、神御子さまがいなければ、魔法少女の解放もならないでございます。お鎮めしなければ――」

「でも月夜ちゃん、もう神御子さまは魔女に……」

「そう……かもしれませんが、諦めるのはいつでもできるでございます。ふたりで奏でましょう」

「うん、そうだね。わかったよ月夜ちゃん」

 

 月咲は、触覚をたよりに篠笛を構え、歌口に口付ける。

 飼い葉桶に眠る少女は、先ほどニードルを放った後は何もしてこない。しかし、大人しくなったわけではない。放たれる悪意は彼女たちを押し潰さんばかりの圧力で迫り、月夜と月咲の肌を粟立たせている。

 

 ――目が見えなくったって、身体が憶えてる。いくらでも奏でてみせるよ!

 

 魔女の悪意、そのプレッシャーを気迫で跳ね返すと、旋律を奏ではじめる。

 気迫ゆえか、わずかに逸ったが、月夜が問題なくカバー。ふたりの旋律は溶け合い、ひとつの音色となっていく。

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 音色が響くにつれ、少女から放たれる悪意、すなわち邪気はその嵩を減じていった。

 遠からず、全ての悪意は祓われ、飼い葉桶に眠る少女はその姿の通り、無害な赤子に近しい存在になる、そう思われた。

 

 視力を一時的に失っている月咲にも、その変化は気配として感じられていた。

 そのため、彼女の心に弛みが生じた。

 それは、演奏の質に影響するようなものではなく、彼女の旋律は依然として完璧であった。

 ただ、弛みは赤子少女に生じた変化に対する気付きを遅れさせた。

 

 根元から失われている少女の両の腕。その断面が波打った。

 次の瞬間、十を超える触手が矢継ぎ早に解き放たれる。

 その様は、少女の身体の内側に飼われていた触手が、腕の断面という水面を破って次々と舞い上がったようにも見えた。

 

 月咲は反応できなかったが、月夜は反応した。

 しかし、篠笛を奏でながらでは、取れる行動は限られている。

 ステップで自分を狙う触手の攻撃をかわしつつ、蹴りで月咲を狙う触手を叩き落す。

 それでも、十を超える数を捌ききることはできず、触手のひとつが月咲のふとももに食いつき、肉を引き裂いた。

 

 悲鳴の代わりに、笛の音が甲高く跳ね上がった。

 

「月咲ちゃん!」

 

 演奏を止めた月夜が、泣きそうな顔で月咲を見た。肉を抉られた月咲の脚を。

 月咲は片膝をつきながらも、気丈に笑ってみせた。目は見えていなかったが、その笑顔はまっすぐに月夜に向いている。

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

 飼い葉桶に横たわる少女の腕の付け根、そして脚の付け根から、新たな触手がちろちろと顔を覗かせる。次の攻撃の準備は出来つつあるようだった。

 月夜は黙って月咲の前に回りこみ、彼女を庇うように仁王立ちする。

 気配からそれらを察した月咲は、

 

 ――やだ、ウチ目が見えない。足だってこれじゃうまく動けない。きっと邪魔だよ、嫌わ――

 ――黙って! もういい加減黙って!

 

「月夜ちゃん」

「はい」

「大好き」

「もう、状況を考えて欲しいでございます。……私も大好きでございますよ」

「えへへ。ねー」

 

 苦笑に近い、しかし心から幸せそうな笑みを月夜は浮かべた。

 そして飛んできた触手数本を笛の音で叩き落すと、笑みを消して告げた。

 

「この攻撃を受けながら、ふたりで奏でるのは無理でございます。私が神御子さまを抑えますので、月咲ちゃんは篠笛を奏でて欲しいでございます」

 

 ――また、ウ――

 ――ウチは目と足をやられちゃったから、戦うのは厳しいもん。大好きな月夜ちゃんの判断に、間違いはないよ!

 

「わかったよ、しっかり守ってね、月夜ちゃん!」

「大船に乗ったつもりでいて欲しいでございます」

「ウチも、月夜ちゃんの分まで吹くよ! ウチひとりの音色じゃない、天音姉妹の音色を!」

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 視力を失った月咲には、状況の推移を見つめることはできない。

 赤子のような少女の様子が、まったく良い方向への変化を見せないことも。

 その攻撃の前に、月夜は防戦すらままならず、片足に甚大なダメージを受けたことも。

 そして、月咲へ向いた攻撃を止めるために背中を差し出し、背骨にヒビが入ったことも。

 さらには今、触手が月夜の喉を刺し貫いたことも。

 

 気配で感じることさえできなかった。それは、月夜が心配させまいとそういった気配を徹底的に絶っていたからだ。

 だが事実として、月夜は月咲を守り切ることはできなくなり、魔女の攻撃は月咲の両肩を砕いた。

 月咲の両腕がだらりと垂れ、篠笛は床を叩く。

 

「月夜ちゃん、大丈夫?!」

 

 我が身は顧みず、月咲は大声で叫ぶ。

 返事は――ない。

 

「月夜ちゃん!」

 

 さらに叫ぶ。その声は悲鳴となっていた。

 どしゃ、と、相応の量の液体が床を叩く音を月咲は聞いた。それに遅れて、

 

『ごめんなさい、月咲ちゃん。もう守ってあげられなさそうでございます』

 

 テレパシーが届く。姉が無事であることを確認でき、月咲の顔がぱぁっと明るくなった。

 だが、状況は明るい表情を維持することを許さない。彼女は顔を伏せ、声を潜める。

 

「うん、ごめん、ウチももう吹けそうもないよ……手が動かない」

 

 骨のみならず神経も砕かれたのか、腕を持ち上げることはおろか、指一本を動かすことさえできない。

 せめて、声が出せて良かった。月夜ちゃんと話が出来るから。そう思ったことで、姉の声が肉声でないことに気付いた。

 

「月夜……ちゃん?」

 

 すぐには返事は来なかった。その事実に月咲の胸はざわつき、意味もなく立ち上がろうとする。

 しかし、両腕のみならず、脚にも痍を創っている月咲は、平衡を保つことができず、そのまま前のめりに倒れた。

 倒れたところを、触手が襲った。地面に杭打つかのように、彼女のふとももを貫く。

 悲鳴。

 

 

 悲鳴を上げた口がゆっくりと閉まるところに、馴染みのある篠笛の感触があった。

 しかし、わずかに異なるものを感じた。

 

 ――これ、月夜ちゃんの?

 

 口付けると、姉の香りがした。

 這うようにして月咲のもとへ至った月夜が、自らの篠笛を差し出し、月咲の口元にあてがう姿――月咲はそれを見ることはかなわないが、何が起こっているかを正確に理解した。

 

『大丈夫、私が月咲ちゃんの手になるでございますよ。私が篠笛を持って、指孔を抑えるでございます。ふたりで奏でましょう』

「月夜ちゃん、もしかして……」

『お恥ずかしいことでございますが、喋ることも、吹くことも無理そうでございます。月咲ちゃんは、私の喉のなってくれるでございますか?』

「うん、なるよ。なんにだってなってあげるよ。ウチの好きなとこ、取っちゃっていいよ」

『まぁ、そこまで言ってもらえるなんて、嬉しいでございますね。月咲ちゃん、私は果報者にございます』

「ウチだって幸せ者だよ」

『ねー』

「ねー」

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

≪エピローグ≫

 

 

「終わった?」

「ええ……」

 

 問う方と応える方に温度差があった。

 問う方はどこまでも軽く、ライスコロッケが揚がったかどうかを問うような軽薄さがあり、応える方はどこまでも暗く、不治の病であることを患者に告げる医師のような深刻さがあった。

 返答を受けて、問うた方の声はなお軽くなる。

 

「そっか、役に立たなかったアイツらも、最後に役に立ててロンゲチェリッシュドアンビション、本望デショ」

「そんな言い方……!」

「ナニ? じゃぁこのままじゃアレが保たないから、泣く泣く自分を慕ってくれてる後輩を生贄にしたって言った方が良かったノ?」

「ワタシは……いえ、そうですね。今さら言い逃れなんて、二重に汚らわしいです」

「そうだヨ。人間ウラオモテないのが一番だヨネ」

 

 言われた女性は小さな嘆息で応える。そして、この話を避けるかのように話題を変えた。

 

「……これで、しばらくは保つのでしょうか」

「さぁ? 灯花はそう言ってたヨネ。ま、古来から魔物の怒りを鎮めるのは清らかな乙女の命って決まってるよネ。あいつらが清らかかどうかは異論のあるところだケド」

「異論などありません、あのふたりほど、無垢におたがいを思い遣った姉妹を、ワタシは知りません」

「それって契約の結果ですケド」

「そのようなことを祈る時点で、無垢な思いです!」

 

 帽子の少女は、やれやれといった感情を隠すつもりもないようだった。

 表情を露骨に歪め、芝居がかった調子で肩をすくめる。

 

「あー、どうでもいいコトを議論するつもりないから、それでイイよ」

「……マギウスのお考えが、ワタシには分かりません。翼をも犠牲にする解放なんて、自家中毒じゃないですか」

「灯花の目的は別にあるみたいだけどサ。救済自体は本物だし、アリナ的には異論はないワケ」

「別に?」

 

 わずかに帽子の少女の表情が曇った。

 口が滑った、とその態度は物語っていたが、すぐに軽薄さを取り戻して言葉を連ねる。

 

「んー、いっか言っても。灯花はニンゲンを作りたいんだってサ。そうだ、なんならサ、あの姉妹も作ってもらえば? 失って悲しいんデショ?」

「……ニンゲンを作る? どうしてそんなことをする必要があるんですか!」

「灯花は秘密主義だからネ。本当の目的は別にあるんだろうケド、解放のためでもあるんダヨ」

「わけの分からないことを言わないでください!」

 

 アリナ・グレイは本来にして根気よく説明するタイプの人間ではない。

 しかし、女性に対して抱いている特別な感情が、アリナを辛抱強くさせた。

 

「アレ、神御子って呼んでる奴の奇跡、なんだか分かる?」

「魔法少女の穢れを吸い取ることでしょう?」

「たったひとりの因果で、そんな願い叶うと思うノ? 不可能に決まってるんですケド」

「それをなしたのが、神御子さまではないのですか?」

「ひとりひとりの願いは簡単なものらしいヨ。それをインティグレイテッドサーキットよろしくコネクトして、このシステムを維持してる。アレはその一部でしかないヨ。確か願ったのは≪奇跡の反転≫だったカナ? いや、願わされた、かナ」

 

 女性の理解が追いつくまで待つ――これも本来のアリナの性情とはかけ離れた行為である。

 

「で、今日の件からも分かるように、消耗品なワケ。まぁさっきみたいに魔法少女を喰わせて維持してもいいんだけど、灯花はニンゲンを作ってそいつらを使って第二第三のドッペルシステムを構築するつもりらしいネ」

 

 数十秒の沈黙。

 そののちに、女性はひとりごちるようにして言った。

 

「解放が、そんな罪深いことだったなんて……」

「んー、人工臓器で人間を救うみたいな感じジャン? 立派なことだとアリナ的には思うワケだけど、みふゆ的にはギルティなノ?」

「……すみません、少し、ひとりにさせて下さい」

 

 顔の色を失った女性は、それだけ告げるとふらふらとした足取りでその場を辞す。

 女性が立ち去る後ろ姿を見送っていたアリナだが、その姿が見えなくなるとくぐもった笑いを漏らす。

 

「はやくみふゆも作って欲しいよネ。そうすれば、ホンモノはもう要らなくなるんですケド」

 

 その顔は嗜虐的な色に満ち、ひどく歪んでいた。

 

 

 

 

<<後編・天音月咲  おわり>>

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。