雪ノ下さん家の雪乃さん(短編集)   作:夢兎*

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つづきです。


あまのじゃくな雪ノ下さん2

 

 窓から見上げた空には月が輝いていた。

 

 夜更けのリビング。照明が点いているせいか他にはなにも見えないが、外へ出て少し暗いところへ行けば、きっと星も瞬いているのだろう。

 

 視線を外してちらりと壁掛け時計を一瞥すると、短針はちょうど一を指したところだった。深夜一時ともなれば、もう真夜中である。いつもなら俺も、寝てはいないかもしれないが自分の部屋には戻っている時間。そもそも、夜中に部屋に戻るというのは、このあと寝るという気持ちの現れだろう。自室は基本的に作業には向かない。飲み物を取りに行くにも面倒だし。なにをするにしても、リビングのほうが便利だ。さすがリビングという名前なだけのことはある。

 

 では、家族の寝静まった静かなリビングで、部屋に戻りもせずに俺はなにをしているのかだが……特に作業をしているというわけではない。

 

 カーテンを閉めてソファにもたれると、はぁと意図せずため息が漏れた。天井を見つめながら頭に浮かべるのは、明日——もう今日だが——のこと。明日は日曜日。今までの俺なら特に予定もなくニチアサを観て昼寝をし、サザエさんを観て迫る月曜日に憂鬱になるのが流れだが、明日は珍しく予定が入っている。

 

 それ自体は特に問題ではない。土日に予定があるとか昔の俺なら考えられなかったし、なんなら考えたくもなかったまであるが、それはそれ。

 

 いくら変わらないことを決意しようが、どう足掻いても人は変わってしまう。時間や関わった人間によって、変えられてしまう。関わる人間なんていなかった俺にもそれなりに会話をする相手が出来て、環境の変化が自身の変化に繋がった。そう、俺は変わったのだ。日曜日に予定があることを悪くないなどと思えるくらいには。

 

 だから、問題はそこではなく。その予定の内容でもない。

 

 楽しみというほどではないが——いや、ここで嘘をつくのはやめよう。俺は明日が楽しみだ。それは紛れもない事実で、予定が決まった金曜に小町から「なんかテンションキモいよ」と言われた程度には楽しみにしている。

 

 なら、なにが問題なのか。これは、明日の予定とはあまり関係がない。まったくというわけではないが、そこはあくまでも別の話。

 

 ふ、と視線を落とせば、テーブルの上に置かれた暇つぶし機能つき目覚まし時計、もといスマートフォンが目に映る。これもまた、今では本来の用途通りに使われることのほうが多くなっているが、それはさておき。

 

 手に取ったスマートフォンのロックを解除して、LINEを開く。と、トーク画面に表示されたのはつい三、四時間ほど前まで文字のやり取りをしていた相手との履歴。

 

『明日は十時に駅でよかったよな?』

『えぇ』

『了解』

『分かっているとは思うけれど、くれぐれも服装には気をつけてね』

『……善処する』

『落第点なら、明日はあなたの服を買うところから始まると思いなさい』

『そういうお前は大丈夫なのか?』

『問題ないわ。私が着ればなんとなくそういうファッションに見えるもの』

『それでいいのか』

『比企谷くん相手なら、このくらいがちょうどいいでしょう』

『そういうのは俺に聴こえないところで言って欲しいんだが』

『? それでは意味がないじゃない』

『意味なんてなくていいんだよ』

『では、明日は期待しているわね』

『無視かよ……。んじゃ、また明日な』

『ええ、また明日。おやすみなさい』

『おやすみ』

 

 と、まあ、これだけ見ると一見普通の会話だ。雪ノ下とLINEで連絡を取っている、という点がすでに普通じゃない気もするが、い、一応、その、こ、恋人になったわけだから、これはおかしくない。おかしくない……そのはず、多分。

 

 というか、そんなことはどうでもいい。俺の頭を悩ませるのは、雪ノ下とLINEで連絡を取っていることではないし、そもそもLINEですらない別のアプリにある。

 

 一度ホーム画面へ戻ると、ソーシャルゲームがほとんどを占めるアプリの一覧の中にハート型のアイコンをしたあからさまに怪しげなアプリがある。それをタップして開くと、画面に表示されたのは……

 

【そうよ! 明日の私と比企谷くんの初デートは午前十時から! 駅で待ち合わせ! 私と比企谷くんの初デートは‼︎】

【比企谷くんの私服は何度か見たことがあるけれど、落ち着いていてとても比企谷くんに合っていると思うのよね。……でもそれはきっと、小町さんが選んだもの】

【ふふっ、こうすれば、合法的に比企谷くんの着る服を私が指定出来る! もしかして私、天才なのっ? ふふふふふふ、比企谷くんが……私の選んだ服を着て……その格好で私とデート……ふふふふふふふふふふふふ】

【心配には及ばないわよ、比企谷くん。この私があなたとのデートの準備を怠るわけがないじゃない。明日の比企谷くんとのデートのために悩みに悩み抜いたコーディネートに問題なんて絶対にないわよ! 比企谷くんとのデートのために! 比企谷くんとのデート!】

【で、でも、まあ、もし……もしも? もしかしたら? その、比企谷くんの好みに合っていない可能性はないでもないわけで? だから、その、ちょっとくらい、ハードルを下げておいても、バチは当たらないわよね……】

【比企谷くんに聴こえなければ意味がないのよ! 精々、手抜きコーデで来ると思っていればいいわ。……絶対にかわいいって言ってもらうんだから! ふふ、ふふふ、比企谷くんが私にかわいいって……響きだけで幸せね】

【くれぐれも! くれぐれも期待し過ぎないように! 私のことが大好きな比企谷くんが私に期待してくれるのはとーっても嬉しいけれど、あなたに喜んでもらうためにも!】

【おやすみ……えへへぇ……おっと。この時間が一番幸せね。何気なく、当たり前のようにするおはようとおやすみ……一日が比企谷くんのおはようで始まり、比企谷くんのおやすみで終わる幸せ。おかげで毎日安眠の日々が続いているわ。ありがとう、比企谷くん。……おやすみなさい】

 

 ……頭が痛くなってくる。いや、嬉しいには、嬉しいのだ。あの雪ノ下が俺と同じように俺とのデートを楽しみにしてくれている。いくらか「比企谷くんとのデート」を強調し過ぎな感はあるものの、そのことは純粋に嬉しい。しかし、これは……。

 

 そっとアプリを閉じると、アプリの名前が目に映った。

 

『雪乃の心の部屋』

 

 その名が示す通り、これは『雪ノ下雪乃が返信したときに考えていたことを表示するアプリ』である。にわかには信じがたいが、事実だ。俺だって、こんなものをすぐに信じたわけではない。いくら雪ノ下と会話しているときに雪ノ下の本音が聴こえるようになったからといって、俺は「おっ、文での会話も分かるのか〜」などと容易に受け入れられるような精神構造をしていない。

 

 だから、これも前回と同様、何回かの検証をしたわけだが……検証なんて、しないほうがよかったかもしれない。結果として信じざるを得なくなってしまったのだから。

 

 いやもうほんとになにこれ? なんなの、これ? この呪い? からは、どうやったら解放されるんだ?

 

 実際のところ、あれやこれがあったから助けられた場面がなかったわけではない。俺は雪ノ下の心の声が聴こえたから——その道が安全だと分かったから想いを伝えることが出来たし、こうして雪ノ下とデートをする仲になれた。

 

 だから、その件に関しては感謝している。しているのだが……いかんせん罪悪感がなぁ。人の心を盗み見るというのは、とにかく精神が消耗する。なら見なければいいという話なのだが……ほら、いつでも見れる場所にあったら見ちゃうじゃん? これは不可抗力なんですよ!

 

 どうすんだ、これ……。

 

「…………はぁ」

 

 本日何度目かのため息が口から溢れ出る。が、それはこの問題が由来ではない。どうする、とは言っても、実はもう、どうするのかは決めてあるのだ。

 

 それこそが、俺がこんな時間まで起きている理由。より正確に言うならば、俺がこんな時間になっても寝られない理由である。

 

 俺には、雪ノ下雪乃の心の声が聴こえる。

 

 これがどうしてなのかとかはもう散々考えたし、今更理由が分かるとも思っていない。神様のいたずらだとでも考えておけばいいだろう。重要なのは、そういう事実があるということだけだ。

 

 心の声が聴こえるようになってからというもの、嬉しいことばかりだ。雪ノ下に想いを伝えられた、雪ノ下と付き合えた、雪ノ下とデートへ行ける。

 

 ——雪ノ下の想いを聴くことが出来る。

 

 きっと、それが一番嬉しい。俺は前の雪ノ下が嫌いじゃない。顔を合わせれば笑顔で毒舌を吐いてきて、いつだって俺を罵ることを忘れず、けれど時折ふと柔らかい顔を見せて、名前に不似合いな暖かい表情で頬を緩め、不器用な優しさを向けてくれる。そんな雪ノ下を、俺は好きになった。

 

 語ろうと思えば、いくらでも語れるのだと思う。心の声なんて聴こえなくたって雪ノ下は魅力的で、俺はいつも目を奪われては視線が釘付けになってしまっていたから。

 

 凛とした立ち振る舞いも、猫とパンさんのことになるとタガの外れるところも、由比ヶ浜や一色に押されると弱いところも、斜陽の中で静かに文字列を追う横顔も、紅茶を淹れた湯呑みをどこか照れ臭そうに渡す様も。どれもこれも、雪ノ下の心の声が聴こえる前に俺が好きになった雪ノ下の一面だ。

 

 好きになったやつが自分のことを好きなんだと確信出来るのは、とても幸せなことで、とてつもない嬉しさがある。聴こえるようになってよかったと思っている自分も確かにいる。

 

 でも、やっぱり、そうじゃないんだ。

 

 どれだけ嬉しくても、どれだけ幸せでも、俺がいくら卑怯な男でも。そんな卑怯な幸せを享受していてはいけない。なにより、していたくない。

 

 それは、雪ノ下に誠実じゃないから。俺みたいな人間が誠実さにこだわるなんて、自分でも笑ってしまうくらいだが、そうありたいというのが俺の正直な気持ちだった。

 

 好きな相手だから、相手の気持ちが気になってしまう。知れたらいいのにと、そう願ってしまう。けれど、本当に知ってしまうことだけは、許されてはいけないのだと思う。

 

 手が届かない故に欲しくなるものは、手の届かないままでいいのだ。

 

 雪ノ下が俺のことを本気で好きでいてくれているというのは、もう、充分に分かったから。保身ばかり考えてしまう俺だけど、ここからは俺だけの力で雪ノ下と付き合っていきたい。

 

 心が分からなければ喧嘩をするかもしれない。すれ違って、いつのまにか大きな溝が出来ているかもしれない。言って欲しいことは言えず、言われたくないことを言ってしまうかもしれない。

 

 いつか、別れてしまうかもしれない。

 

 それは、すごく嫌だけど。出来れば、このままずっとあいつの隣にいれたらと思うけど。あいつにないものを使って、俺だけがあいつの心を覗き見て、そうやって安全に進んでいく未来なんて、俺は欲しくないから。

 

 

 それはきっと——本物じゃ、ないから。

 

 

 対等であるべきだ。俺と雪ノ下は同じ条件で、付き合っていくべきだ。持つものに差はあれど、同じ人間なのだから。これを隠して生きていくことは、雪ノ下に対する侮辱ですらある。

 

 だから。

 

 

 だから、明日、俺はこの力のことを——雪ノ下に告白する。

 

 

 それでこの力がさっぱりなくなるかどうかは分からない。もしかしたらこのままかもしれないし、もしかしたらなくなるかもしれない。どちらにせよ、だ。

 

 俺が、雪ノ下の心を勝手に盗み見ていたことを。俺がそういう人間だということを、ちゃんと伝えたい。雪ノ下に俺の心は見えないから、俺が言わなければバレないことだから、それだからこそ、伝えるべきだ。

 

「……もう、そんな時間か」

 

 時刻は午前五時過ぎ。立ち上がってカーテンを開けると、東の空が白みだしていた。今寝たら、確実に寝坊するだろうな……。

 

 ソファへ座り直して、淹れたきり口をつけていなかったコーヒーで乾いた喉を潤した。

 

 砂糖とミルクを入れ忘れたコーヒーは、ただただ苦かった。

 

        × × × ×

 

 パッと、スマホの時刻表示にゼロが並ぶ。そのまま周囲へ向けた視線には、待ち人の姿は映らない。

 

「……珍しいな」

 

 ぼそりとつぶやいて、続けざまに息が漏れた。珍しいもなにも、そう感じられるほど雪ノ下と待ち合わせをしたことなんてないだろ。雪ノ下を含めた数人でとか、奉仕部でとか、そういうのは多少あったが。

 

 時刻になっても——時刻までに、か。雪ノ下雪乃が余裕を持って待ち合わせ場所に到着しないということに珍しさを感じるのは、結局のところ俺のイメージでしかない。あいつが実際には時間にルーズな性格であったとしてもなんらおかしくはないわけだ。

 

 だから、これは珍しいというよりも……

 

「……意外、か」

 

 らしくない。俺の中の雪ノ下は遅刻をしないという、そういう話だった。まあ、恐らくはなにか——例えば、道に迷っているだとか、そういうアクシデントがあったんじゃないかと思うが。

 

 もうしばらく待って来ないようなら連絡を入れるか。スマホをポケットにしまおうとすると、そのタイミングでスマホが震えた。

 

『少し、遅れるわ』

 

 事後連絡かよ。ともあれ、連絡出来る状態であることは分かったのでよしとする。

 

「了解……っと」

 

 さて、暇をどう潰そうか。もうすでにここに着いて十五分ぼーっとしていたから、このままぼーっとしているのも悪くはないが、いかんせん時間の進みが遅い。なにか考えていたほうが多少はマシだろう。なにか……遅刻の理由でも考えるか?

 

 そもそも、雪ノ下の性格からして、遅れるときはそれが分かった時点で連絡を寄越しそうなもんだよな。それがなかったということは、ギリギリまで遅れるかどうか分からなかったか、あるいは、連絡出来なかった事情があるのか。それとも、連絡したくなかったか。

 

 正直、三番目が一番ありそうだなと思う。プライドの高い雪ノ下のことだから、時間に遅れるということを俺に伝えるのが嫌でギリギリまで粘り、どうあがいても間に合わないのが決定した瞬間——つまり、待ち合わせ時刻ちょうどに連絡してきた。

 

 我ながら完璧な推論である。ぶっちゃけ容易く想像出来るし、むしろこれ以外にないとすら思う。

 

 なら、本題の遅刻理由だが……こっちは難しい。なにしろヒントがほぼない。今の推論を前提に考えると、遅刻することを俺に言いたくないということから自身のミスでそういう状態に陥ったと推測することは出来るが……もしそうだとしても、そのミスが道中で起きたのか家で起きたのかが分からない。

 

 道中で起きたと仮定すれば、猫に出くわしたとかが妥当か? まだ余裕はあると猫と戯れているうちに時間を忘れて今急いでこちらに向かっているとか。かわいいがすぎる。

 

 家の中で起きたと仮定するとどうだ。寝坊……は、これも俺のイメージ通りではない。昨日のLINEから、服装は事前に決めていたようだし。とすると、やっぱり家の中でなにかが起きた可能性は低いと考えるべきか。

 

 そうなると、猫が結論になってしまうわけだが、それはあんまりにもあんまりじゃないか。俺より猫を優先することに不思議はないが、遅刻より猫を取るのはやっぱりらしくない。ただこれを否定すると、雪ノ下雪乃が遅刻した理由推理はここで手詰まりとなってしまう。

 

 ……多分、あのアプリを見れば分かるんだろう。

 さっきの遅れるという連絡を送るときに、雪ノ下は確実に遅刻理由を頭に浮かべている。本音ではそれを暴露しながら、めちゃくちゃ謝っているかもしれない。そんな雪ノ下の姿は新鮮で、ちょっと見てしまおうかななんて気になってくる。

 

 が、それはダメだ。

 

 あのアプリはもう封印する。対面して会話をするときに本音が聞けてしまうのはもう不可抗力だから諦めるしかないが、これは俺が見なければ済むことだから。

 

 ………………耐えろ。

 

 と、そんな調子でズボンに入ったスマホへ伸びる手を抑えているうちにどうやら結構な時間が経っていたらしい。強い誘惑に負けてしまいそうになっていたところで、凛とした声が耳に届いた。

 

「右腕に封印された力でも目覚めたの?」

「うぉぁっ⁉︎」

 

 唐突な本人登場に奇妙な悲鳴が口から飛び出して、二歩ほど後退。態勢を整えながら改めて視線を向けて口を開き——固まってしまった。

 

 目を奪われ、そのまま数秒その姿に釘付けになってしまう。……いや、いやいやいや、確かに俺は昨日、雪ノ下の姿に目を奪われるだとか、視線が釘付けになるだとか、そんなことを考えたけれど、それはあくまで例えというか、少し誇張していたというか。

 

「なにか言いたいことがありそうね」

 

 ふ、と機嫌が良さそうに笑った雪ノ下に、俺はただ、一言。

 

「……綺麗、だな」

 

 月並みな言葉だ。とても国語で学年三位を取った人間の語彙力じゃない。しかし、そうとしか言えない。いっそ、それ以外の言葉が似合わないくらいにただただ綺麗な彼女は、その鮮やかさに周囲がセピア色に見えるほど。

 

「ふふっ、知っているわ」

 

 嫌味のない勝ち気な笑みに、大きく胸が高鳴る。

 

(ひ、ひひ、比企谷くんがっ、比企谷くんが私に綺麗だって……! 綺麗だって言ってくれた‼︎ これ、夢じゃないわよねっ⁉︎ 現実なのよねっ⁉︎ わーいっ! ふふっ、ふふふっ、遅刻してでも服装を変えることを選んだ今朝の私、ナイスよ!)

 

 ときめきが秒で静かになった。あーっ、そうだったー! そういやこれがあるんでした! 一瞬、頭から飛んでて油断してたわ……。

 

「では、行きましょうか」

「そうだな」

 

 二人揃って歩き始めて、ふと頭に浮かんできたのは昨日のLINEで話したこと。……そういえば、俺の服を選ぶ云々って話はどうなったんだ? 忘れてんのか?

 

「今日はあなたがエスコートしてくれるのよね」

「まあ、一応……あぁ、そうだ。ちょっと急がないとまずいかもしれないな……」

 

 本日のプランはまず映画に行くところから始まる。これが雪ノ下による俺の服選びに変わった場合は、映画を後ろにずらしたプランを使う予定だったが、どうやらそうはならないようだし。

 

「ほら、この前観たいって言ってた映画があっただろ? あれの上映時刻が、十時半か夕方しかないから」

 

 別に夕方でも構いはしないのだが、そうなるとこの時間はまた新たに考える必要が出てくる。現在時刻が十時十五分頃で映画館まで徒歩十分ほど。チケットを買う時間を入れればギリギリだろう。

 

「そう……」

(わーっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ! 私が比企谷くんに褒めてもらいたいばっかりに……! 謝らないと……いけないわよね。謝る、謝る、謝る……)

「急ぎましょう」

(謝れないぃっ! ごめんなさいっ……ほんとに、ごめんなさいって思ってます……)

 

 知ってます。

 

「……なにか他にやりたいこととかがあれば、これを夕方に回したプランも考えてはあるが」

 

 きっとここまで急いで来たのだろうし、ここでまた急がせるというのも気が引ける。なにより、俺も別にそんなに細かくタイムスケジュールを決めているわけじゃないから、俺とのデートに、その、張り切ってきてくれた雪ノ下に謝らせてばかりというのは良心が痛む。……まあ、謝ってないんだけど。

 

「やりたい、こと……」

 

 どうやら、なさそうだ。ここで悩んでいると完全に間に合わなくなる……。仕方ない。あまり使いたくはないが、この手でいくか。

 

「そ、そういえば、俺の服装は及第点に達してたのか?」

 

 なるべく今思い出しましたみたいな雰囲気を装ったつもりが、自分でも下手くそだなと感じた。吃ったし。

 

「……ふく、そう……?」

 

 やっぱり、忘れてたか。なんとなくそうなんじゃねーかなとは思っていた。朝からばたばたしていたようだし。

 

「LINEで話してたろ」

「——あ」

 

 はっとなって俺の服装を改めて確認した雪ノ下は、勢いよく口を開いて、

 

「及第点っ、以下……よ……?」

(うわぁっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ! 遅刻した上に偉そうなこと言ってごめんなさい! 悪気はないっていうか、ひ、比企谷くんが思い出させるから、その、悪いのであって……ごめんなさい)

 

 結局、謝られるのかよ。

 

「はぁ……」

「……な、なに?」

(あ、呆れられてしまったかしら……そうよね。こんな遅れてきておいて人にダメ出しするような女、誰が好きになるっていうのよ。百年の恋も冷めるわよ……)

「いや……じゃあ、その、なに。服選び? 手伝ってくれるか?」

「いいのっ⁉︎」

「え?」

「……え? あ、いえ、今のは、違うのよ……その、そう、わ、私が選んでしまったら、あまりのセンスにそれしか着れなくなるけれどいいの? という意味で、えぇ」

(なによそれ、バカじゃないの……)

 

 自分で言って自分でツッコミを入れるの、やめてもらっていいですか。俺が言うことがなくなるだろ。

 

「いいだろ、別に……雪ノ下に選んでもらえるなら、俺も、嬉しいし」

「……そ、そう」

(えぇーっ! なにそれ! ずる……ずるくないっ⁉︎ いつもはそんなこと言わないじゃない! なんでこういうときばっかりそうやって……うぅ。好きぃ)

「ほ、ほら、行こうぜ」

 

 好きとかそういうことを気軽に言うんじゃねーよ。恥ずかしいだろうが。まあ、言われてないんですけど。

 

「そ、そうね」

 

 というわけで、第一の目的地は映画館から服屋に変更。唯一の懸念は、俺の知る限り雪ノ下雪乃は服を防御力で選ぶ女だということである。

 

 ……なんか不安になってきたな。

 

        × × × ×

 

 冷たい風が肌を撫でる。

 

 もう十月も半ば。日没後は肌寒く、ぶるりと震えた身体に腕をさすった。そんな俺の格好は、待ち合わせのときとは異なっている。

 

 雪ノ下に選んでもらった服。なんなら代金も雪ノ下持ちである。正直、普通に自分で払いたかったのだが、「遅れたのだから、ここは私が払わないと……ここは私が……ここは私が……」と、呪詛のような心の声が聴こえてきたためありがたく買ってもらうことにした。その代わりと言ってはなんだが、俺は俺で雪ノ下が興味ありげに目を留めた猫柄のカップを買ったので、申し訳なさは薄い。ちなみに服は思いの外普通のもので、ほーんこういうのが好みなのかなどと考えてしまったりもした。次から似たような服装を選ぼう。

 

 隣へ目を向ければ、いつもよりどこか機嫌の良さげな雪ノ下の姿がある。雪ノ下の鉄仮面——そう呼べるほど最近は仏頂面一辺倒というわけでないが、それでも常よりだいぶ柔らかい表情だと言えるだろう。

 

 服は買ったし、映画は見たし、ご飯も食べたし、もう帰るだけ。これで今日が終わってしまうというわけでもないのに、無言の帰路、雪ノ下のマンションへ近づくごとに寂しさを感じた。

 

 今日が、幸せだったから。そんなことを考えるのは、俺らしくないだろうか。けれど、誰が俺を定義しようと俺はそう思うのだ。

 

 雪ノ下雪乃との初デートが幸せで、このまま離れなければいい、なんて乙女のようなことを心のどこかで願ってしまう。きっと、毎週、物足りなくなるのだろう。一度、幸せを知ってしまったから、日曜日が来るたびに退屈を感じ、この日のことを思い出すのだろう。それほどに、今日という日は俺にとって特別なのだ。

 

 まして、今回きりになってしまうかもしれないなら、尚更。

 

「……比企谷くん?」

 

 マンションはもう目と鼻の先。入り口では流石に人目につく。そう思って立ち止まった俺を、そのまま数歩先に歩いていった雪ノ下が立ち止まって振り返る。

 

「話が、ある」

 

 ああ、心臓がうるさい。正直、告白より怖いかもしれない。そう感じるのは、俺があのとき、ずるをしたからだろうか。そのツケがここに来ているのだとすれば、俺はそれをここで逃げずに受け止めておくべきなのだろう。

 

 後回しにしても、どうせいつか今よりさらに肥大化した恐怖がやってくるのだろうから。これは、時間が解決してくれる問題じゃない。そして、当たり前だが他の誰かが解決してくれる問題でもない。俺が解決するまで、ずっとそこに在り続け、俺を苦しめ続けるものだ。それなら。

 

 ——それなら自分で、どうにかするしかない。

 

 今までもそうしてきたから、これからも、今も、そうするだけだ。どの道、その道しかないのだから。

 

「話って……」

(も、もしかして、プロポーズ……とか。きゃー! そ、そんなのまだ早いわよ! まだ、初デートを済ませたばかりじゃない! ひ、比企谷くん……ここは落ち着いて。いえ、でも、ここで言質を取っておくのも悪い案では……)

「プロポーズなんて、そんなかわいいもんじゃない」

 

 俺が雪ノ下の思考に対して答えを述べると、雪ノ下はしばらく固まって、勢いよく口を抑える。

 

「いや、言葉にはしてない」

「……それ、は」

(どういうこと……私がつい口走ってしまったというわけではないのなら、どうして。どうして比企谷くんが、私の考えを)

「聴こえるんだよ」

「……聴こえる?」

「雪ノ下がなにかを言うたび、俺にはその言葉に隠された本音が聴こえる」

「……そんなの」

(信じられるわけがない。なにかの冗談? 当てずっぽうで言って当たっていそうだったからそういうフリをしている……? だとしても、そんなことをする理由はなに?)

「残念ながら……冗談なんかじゃない。冗談だったら、よかったんだけどな」

 

 そうだ。これは、冗談なんかじゃない。あのときからずっと、俺の頭には雪ノ下の本音が届き続けている。神様のお節介にしては少し悪趣味なそれに、俺は何度助けられただろう。無意識に、何度それを頼っただろう。それが雪ノ下に対して不誠実だと知りながら、これまで甘えてきた。

 

「……雪ノ下が自室に俺の写真を一枚、隠し持っていること」

「なっ——」

(なんで、比企谷くんがそれを……部屋を、見られた? いえ、この男に、勝手に私の部屋に入る度胸なんてない、はず……そもそも、度胸云々ではなく、比企谷くんはそんなことをしない。……私が一番、それを知っている)

 

 その評価は純粋に嬉しかった。ここまできて、俺なんかをいまだ信頼してくれているという事実に頬が緩んでしまうくらい。

 

 だから、どうしようもなく苦しくて。

 

「……今度、パンさんの限定商品を買いに行くのを俺に手伝ってもらおうと考えていること」

「…………まさか、本当に」

(本当に、心の声を、聴かれている……? いえ、でも、これも、適当に言っているだけかもしれない。占い師のやり口と同じような……分かっては、いる。分かってはいるのよ。こんな意味のない嘘を、比企谷くんは吐かない。それもまた、私は知っている。でも、そんな突拍子のない話……)

「信じられないか……?」

「……そうね。確証が、ないもの」

(そう、確証がない。なら……それなら、確証を得ればいい。慌てずに考えれば分かることじゃない。比企谷くんが本当に私の心の声を聴いているなら……)

 

 まっすぐな瞳が俺を見据える。その迫力に一瞬気圧されそうになりながら、目を逸らさずに見返した。

 

「私、明日の夕食はオムライスを作ろうと思っているの」

(嘘。本当はまだなにも決めてなんていないわ)

「あなたが本当に私の心の声を聴いているというのなら、これが嘘か本当か——」

「——嘘だな。お前はまだ、明日の夕食の献立を決めてなんていない」

「……っ」

 

 なるほど、そうか。どうやって信じてもらおうかというところが問題だったが、まさか雪ノ下がそれを証明しようとしてくるとは思っていなかった。

 

「どうやら、事実のようね……その、いつから?」

「告白する、三日くらい前から」

「……そう」

(ということは、あのときのアレも、コレも、全部聴こえていた、ということよね。わぁぁぁっ、恥ずかしい……! はっ、まさかこれも)

 

 こくり、頷きを返すと、雪ノ下はなにも答えず、ただ顔を赤くして俯いてしまう。……まあ、聴かれたくないなら、そうするしかないよな。しかし、それにこの数度のやり取りで気づくというのも、なかなか……。

 

 さて、ここからどうしようか。俺の目的は果たした。流れで、告白したときも聴いていたとぶっちゃけてしまったし、それなら雪ノ下には分かっているはずだ。俺が雪ノ下に告白したとき、すでに俺が雪ノ下の想いを知っていた、ということが。

 

 しばらく考え込んでいると、雪ノ下は顔を上げて口を開く。

 

「それで、それを私に伝えて、比企谷くんは私にどうして欲しいのかしら」

「……え、いや……どうして欲しい、と言われてもな」

 

 そこは考えていなかった。俺は雪ノ下がどういう反応をするだろうというところにばかり意識を向けていて、自分がどうしたいかなんて。そもそも——

 

「——俺になにかを望む権利なんて、あるのか? って顔ね」

「なっ……」

 

 驚きに声をあげると、雪ノ下は不敵に笑って、

 

「あのね、比企谷くん。この機会だから、言っておくわ」

 

 どうして……どうして、こんな状況で、そんな余裕たっぷりな表情が出来る? 自分の心の声を聴かれてたんだぞ? ……待てよ。というか、どうして今、聴こえない?

 

「? なにを不思議そうな顔をしているの?」

「いや、だって……」

「……ああ、聴こえないのね。当たり前でしょう。私、今、本音で話してるもの。他にはなにも考えてない」

「そんなこと……出来るか、普通」

 

 さっきようやく信じたばかりのことに対して、こんな短時間で対処するなんて、頭がキレるとかそういう次元じゃねーだろ。

 

「そうね……出来ないと、思っていたわ」

「……思っていた?」

「いつもいつも、飛び出すのは憎まれ口ばかり。本当の気持ちを隠して、閉じ込めて。あなたに対して本音で話すなんて、私には一生無理だと思ってた」

「なら……」

「でも、出来る。いえ、やるしか、ないじゃない」

 

 ゆっくりと、一歩一歩歩み寄ってきた雪ノ下は俺の目の前で立ち止まり、俺の顔を見上げ、そっと俺の頬に手を当てる。その顔は耳まで真っ赤で、本音なんて聴こえなくても雪ノ下が恥ずかしいことが丸わかりだった。

 

「想い人が、こんなに苦しそうな顔をしているんだもの」

「……恥ずかしく、ねーのかよ」

「恥ずかしいわよ。とても、恥ずかしい。けれど……自分が恥ずかしいことより、あなたが苦しそうなほうが、私には辛い。それだけ……そんなことで、無理だと思っていたことが出来る」

 

 ああ、もう、めちゃくちゃだ。本当に、雪ノ下雪乃はいつもいつも、俺の予想を軽々と飛び越えて。

 

「言っておきたいことがあると、言ったわよね」

 

 すっと手を離した雪ノ下は、しかし、距離を離すことはなく、至近距離で唇を動かす。

 

「……あなたが、私の想いに気づいたから告白したこと」

 

 どきりと、大きく心臓が弾んだ。けれど、雪ノ下の言葉はそこでは終わらない。

 

「でも、私があなたのことを好きだから、あなたは私を好きになったというわけではないということ」

 

 そこまでの台詞でもう、雪ノ下がなにを言わんとしているのか、俺になにを伝えようとしてくれているのかが理解出来た。……そうか、雪ノ下は、こういうやつ、だったのか。そんな心持ちだ。

 

「私の本音を聴いて、少なからず嬉しい気持ちになったこと」

 

 俺は、雪ノ下雪乃を知ったつもりでいた。もう、一年以上の付き合いだ。確かに、出会ったばかりの頃より、多くのことを知っているのだろうと思う。だが、雪ノ下は。

 

「そうやって本当は聴くことの出来ないものを勝手に聴いてしまっていることに、ひどく罪悪感を覚えたこと」

 

 雪ノ下は、俺なんかよりも、遥かに。

 

「そうして、最終的に私に伝えるという結論に行き着いたこと」

 

 遥かに、俺のことを、知ってくれていたのだ。

 

「今、勇気を出して、私に伝えてくれたこと」

 

 あれは、いつのことだったろう。思い出すのは容易で、きっとそれは、そこまで昔の記憶じゃないからとか、そういう理由ではない。

 

「昨年の文化祭で、言ったわよね」

「……ああ」

 

 覚えてるよ。あのときの雪ノ下の微笑みを、告げられた言葉を、忘れられるはずがない。

 

 

「私は——今も、あなたを知っている」

 

 

 完敗だった。俺は視界を滲ませるそれを落とさないことに必死で、言葉を返すことも出来ずに、ただ空を仰いで。

 

「そんなもの聴こえなくたって、あなたのことなんて分かるわよ」

 

 不意に手が繋がれて、温もりに引かれるように視線を戻すと、柔らかい感触が唇から伝わって。

 

「私がどれだけあなたのことを好きだと思ってるの?」

 

 俺にも、分かるよ。多分、お前は今、めちゃくちゃ顔を赤くしているんだろう。もう、どうにも見えそうにないのがとても惜しいが。

 

「もぅ……泣かないの」

 

 情けねぇなと思う。こんなみっともなく涙を流して、嗚咽を漏らして、慰められて。だのに、嬉しくてたまらない。

 

 こんな自分が、本当に情けない。でも、きっと。ずっとこうしていくのだろう。こいつの前ではずっと、俺は情けないやつにしかなれなくて。だって、そうだろ。……こんなやつに、どうやって勝てばいいんだよ。

 

「あのね、比企谷くん」

 

 ようやく落ち着いてきた俺の耳に、優しく包み込むような声音が響く。

 

「今更、言うまでもないと思うけれど、私はあなたが私の心の声——本音を聴いていたことを怒っていないわ」

「……だろうな」

 

 正直、もっと責められるものだと予想していた。もちろん、責められたいなどとは思っていなかったし、出来れば受け入れて欲しいと考えていたが、普通はこんなの、気持ち悪いだろうから。

 

「あなたが私の気持ちを知ったから、私とあなたは結ばれることが出来た」

 

 でも、雪ノ下にはむしろ好都合だったようで。さっきからこっちまで照れ臭くなってしまうような台詞が止まらない。

 

「それがなければきっと、今でも私たちは部員と部長という関係でしかなかったでしょう?」

「……そうだな」

 

 俺も雪ノ下も、とても素直と呼べる性格をしていないから。なにか踏み出すきっかけがないと、いつまでもあのままだったんじゃないだろうか。

 

「それに、そのおかげでこうして、あなたに本当の気持ちを、私の口から直接伝えることが出来るようになった」

「……それは」

 

 無理矢理というか……無理にそんなこと、しなくても俺としては構わないというか。

 

「……その、比企谷くんが、そういう私もす、好きだというのは、一応理解しているわ」

「おう……」

「でも、やっぱり私は、ちゃんと伝えたいのよ。そういう風になれたらって、いつも考えていたから……」

 

 またも頬を染めて、顔は背けずにはにかむような笑みを浮かべる。これが見れただけでも、本音が聴こえるようになってよかったと思ってしまいそうになるな……なんつー破壊力だよ。

 

「だからね」

 

 俺へまっすぐに視線を向け、言葉を紡ぐ。

 

 

「——ありがとう」

 

 

 満面の笑みに、ぐっと飛び出そうになった台詞を飲み込む。今ここで、俺はなにもしていないと答えるのは、俺らしいのだろう。でも、それもすべて、雪ノ下は知っているから。その上で、こうしてはっきりとお礼を口にしたのだろうから。

 

「……こちらこそ」

 

 それこそが、俺が言うべき台詞なんだ。

 

「ありがとう」

 

 これからきっと、何度も口にすることになる言葉。いつもは照れくさくてはぐらかしてしまうから、今から練習しておくべきだろう。

 

 言い訳がどうにも俺らしくて、やっぱりそんな簡単に人は変わらないなと呆れ混じりの息が漏れた。

 

 

 雪ノ下を見送って、辿る帰路。ふと見上げた空は曇天で、星もなにも見えやしない。たまには空気を読んで欲しい。俺も読めないから雲のこと言えないが。

 

 明日から、なにか変わるだろうか。いろいろ、変化はあるんだろう。雪ノ下があの態度を続けていくなら、当然、俺たちの関係に気づくやつも出てくるわけで。そのことでなにかいざこざが起きたりするかもしれない。が、そこまで憂鬱さはない。

 

 ……俺の問題は、俺が解決するしかないと考えていた。俺以外の誰も解決してくれないから、俺が自分でどうにかしなければならない、と。なのに、雪ノ下は容易く俺の問題を正面から解決して……だから、俺たちの問題なら。俺と雪ノ下、二人の問題なら必ず、二人で解決していけるのだと、なんの確証もないのに、確信している。

 

 結局、あの現象はなんだったのだろうか。唐突に起きて、ただひたすら引っ掻き回されたという感じだが……まあ、終わりよければ全てよしか。一つ、言うことがあるとすれば。

 

 

 この日から、雪ノ下の心の声は聴いていない。

 


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