この度一人のファンから作った試作品の投稿をして欲しいと言われまして、このイナズマイレブンを選ばさせて頂きました。
拙いものですがゆっくりとご覧になってくださると嬉しいです。
昔。サッカーを愛していた。今も多分愛している。でもそれと同時にトラウマでもある。だから僕はフィールドにまともに立てない。
だってそうだろう。あの時あの子だけが怪我をして、自分だけがサッカーを楽しむのは嫌だから。
「お前達、今日は転校生が居るぞ。紹介するから注目しろよ!」
「マジか、先生!」
「……はぁ」
クラスの中から生徒の声が聞こえて、思わず僕は溜息をもらす。
僕は人生で初めての転校を経験している。前の中学校では上手くも不味くもやってなかったけれども、今度はどうなるだろうか。などと心配はつきない。
でも。ここならサッカーの話はあまり聞かないし、良いのかもしれないのかな? とも思っている。
新一年生のこの最初の時期に転校を許してくれた兄妹には感謝している。兄妹も事情を分かってくれていたから、かもしれない。
「おーい、入ってくれ」
とりあえず、先生から入って来るように言われたのだから、僕は教室に入る事にした。
教室に入ったはいいものの、好奇心の目が僕を見ている。大方転入生だから目立ってるのかな。というのは分かるのだけど、動物園の見世物状態は嫌だな。とは思った。
「八神龍斗です。千葉県習志野の中学校から来ました……その、あまり人付き合いが上手くないですが、宜しくお願いします」
我ながら、初っ端だけれどもあまり印象の良い感じの挨拶ではないよねと思う。相変わらず苦笑いしか出来ないような挨拶だ。
それでもそんなことを考える暇はあまりないようで、先生は「それじゃあ質問とかあったら色々問いかけてみろ」と皆に告げる。変な質問とか無ければいいのだけれども。
「質問です! 習志野ってサッカーが強いですけどサッカーをやってたんですか?」
女の子からの質問には、僕はやっぱりかと苦笑いした。どういう理由であれ、これだけは言わなきゃならない。
「サッカー。もうやめたんだ。その、あまり言いたくないけど」
その質問にもう触れてほしくないな。という意思を言葉に込めたから、恐らくもうこの話題には触れてこないだろう。
僕にとってはサッカーは大事なものだ。それとトラウマもある。それに、僕が信じていた子との絆だったからこそ、僕一人が楽しんではいけないと思ったから。
そこで、困った顔の女の子が視界に入る。少しの間考え込んでしまったらしい。駄目だな。とは思ったんだけど謝ることは出来なかった。
「それじゃあ家族は居るんですか?」
次の問い掛けは家族に関してでこれなら答えていいだろうと判断して頷く。
「兄さんと義理の妹が一人居るんだ。兄さんと僕はハーフで一応僕は日本国籍。義理の妹は拾われた。かな……まぁ、言うと複雑だけど」
家族に関しての説明を終えて、こんなものでいいかな。と考えていると次の質問が矢継ぎ早に飛んでくる。
「じゃあ趣味は?」
「ドラムかな。兄さんとコンビでちょこっとやったりしたから」
これだけ話せたらいいよね? なんて思った僕はその後にもまだ質問を続ける人達が居たから、内心げんなりしながら答え続けた。
■【音無春奈】■
「サッカーはもうやめた。かぁ……」
私。音無春奈は雷門中学校の一年生で、新聞部からサッカー部のマネージャーになった眼鏡女子です。
そんな私が気になるのは、新しい転校生の男の子。こんな早い時期に転校してくるなんて、なにがあったんだろうとは思うけど、挨拶の時は聞けなかった。
男の子の見た目は、金に黒が混ざった珍しい髪の毛を肩口に揃えていて、垂れ目のイケメンで優しい雰囲気を持っている。世間で言う優男みたいな子。
”でも、私が気になるのはそこじゃない。”
習志野のサッカー部と言えば強豪校の一つ。そんな学校に居続けて、サッカーをやらなかったなんて。
何かあったのだろうか。その部分が気になるあまりに少し集中し過ぎてしまった。
「豪炎寺さんに、聞いてみようかな……」
豪炎寺さんなら、私の疑問を解いてくれるかもしれない。あの人はサッカーについて詳しいし、帝国と戦った後から今は雷門のストライカーだから何か知ってるんじゃないかと期待を込めて。
「でも、なんだろう」
その答えは、とっても悲しいものなんじゃないか。私の胸の内にはそんな疑問が残った。その予感は今は当たるかわからない。
「八神龍斗、か。知っている」
豪炎寺さんに問いかけてみた所、案の定豪炎寺さんは知っていた。
豪炎寺さんが知っているということは、どんな有名な選手なんだろう。胸がワクワクで染まりつつも、聞いてみることにした。
「八神さんって、どんな選手だったんですか?」
思い出すように目を閉じて思案する豪炎寺さんは、私の疑問にちゃんと答えてくれると確信している。
そして思い出したのか、目を開いて口を動かし始めた。私もメモの準備をする。
「光のファンタジスタ。スペインの有名クラブのR・マドリッドが認めた選手の一人で、将来日本代表としても有望な存在だった。俺も何度かジュニア時代で戦ったが、凄かった。圧巻としか言い様がなかった」
「それじゃあ雷門サッカー部に凄く欲しい人材ですね!」
でも、私がその説明に答えた途端。豪炎寺さんは少し渋い顔をして窓の外を見る。
「……彼奴が、復活するかは分からないな」
まるで、自分自身に重ねているように見えてしまった私は、何も言えなくなってしまった。
でも、後ろの気配を感じた途端、もしかしたらそんなに心配要らないのかもしれないと思う。
「そんなスゲーヤツが来たなら、俺達のサッカー部に入ってもらおうぜ!」
「円堂?」
「あ。キャプテン……」
そうだ。キャプテンの円堂守さんは、豪炎寺さんをも動かした人。それならば、出来ないことはないんじゃないか。私は期待感が上昇して、誘いに行くというキャプテンに着いていく事にした。
”でも、この時私は気付かなかった”
豪炎寺さんは、苦い顔をして居ることに。何か裏があるという事に。
「だから言ったよね? サッカーはやめたんだ。先輩も悪いですが、お引き取り下さい」
やっぱり、豪炎寺さんの時のように一蹴りされてしまった。
まぁ、そうなるんじゃないかとは思っていたけど、キャプテンは諦めないみたい。さらに質問する事にしたようだ。
「なんでだよ。お前、凄くサッカーが上手いんだよな? 豪炎寺から聞いたから間違いは無いはずだ!」
「っ、豪炎寺さんが……あの人なら何も言わないでくれると思ったんだけど」
豪炎寺さんの名前を出した途端、龍斗さんの表情が一変する。
”なんでだ”
そんな感情が見え隠れしている事から、以前知り合いだったのかもしれない。
でも、豪炎寺さんはそんなことを話さなかった。じゃあ、一体何があったんだろうか。
悩んでも悩んでも答えは出ないけど、私が悩んでいるうちにキャプテンは踏み込むことにしたようだ。
「サッカー。好きなんだろ? どうしてやらないんだ?」
ある意味での核心。私はその答えがどんなものかは予測出来ない。でも、龍斗さんが辛そうなのは、目に見えた。
「……僕は。僕一人がサッカーを、楽しむ訳にはいかない。幼馴染みである、彼女を差し置いて」
幼馴染み。その単語は私の身にしみる。まさか。まさかだけど、豪炎寺さんの妹のように、幼馴染みさんは。
そこまで考えて少し驚愕と恐れが顔に出てたのかな。と龍斗さんの表情で察する。
「もう、いいですよね? 今回は、お引き取り下さい」
私とキャプテンは何も言えずにその場を去った。哀しそうな背中を見せた彼を見届けた後に。
■【豪炎寺修也】■
俺はあの後、円堂のスカウトの様子を影から見ていて、やはり彼奴は引き摺っているんだという事を知った。
それもそうだろう。彼奴は俺と似たような境遇だ。だから、久方ぶりに声をかける事に決めた。声も聞いてみたかったというのもあるが。
「久しぶりだな、八神」
「……豪炎寺さんじゃないですか。聞きましたよ、復帰したって」
どうやら少しはサッカーの事を耳に入れているらしいな。とは思うものの、此奴なら当然か。と納得した。やはり、心の底ではサッカーを求めているのかもな。とは思う。
そんな俺の考えを見透かしたのか、八神は苦笑いを浮かべる。こんな笑い方をするやつだったか。あまり目の前で見せているような顔は思い出せなかった。
「分かってるでしょ、豪炎寺さん。僕はもうやめたんです。貴方なら分かりますよね、僕の気持ち」
哀しそうなその苦笑いを見て俺は、なんとも言えない。少し前までは俺もこんな感じだったんだな。と再度理解した。
「……笑い方」
「えっ?」
「お前はそんな笑い方をするようなヤツじゃなかった。それに、そんな哀しそうに笑ってて、あの子は喜ぶのか?」
「……それは」
やっぱりな。とは思う。此奴は、一人で抱え込んでいるんだ。俺と同じで責任を感じているんだ。
昔からそういうヤツだと理解していたから、今の問いかけはヒットしたみたいだ。
「俺は円堂に何度も誘われて、それで夕香の事を話した後に彼奴に諭されてな。だから、こうしてもう一度サッカーをやっている」
「……」
「八神。いや、龍斗。お前も戻ってこい。幼馴染みのあの子なら、それを望むはずだぞ」
俺の言葉は八神に届いたかは分からない。けれど、少しは考え直してくれただろうか。
そんな想いが通じたのか、八神は曖昧だが、さっきよりかは明るく笑った。
「少し、考えてみます。幼馴染みの彼奴にも、聞いてみます」
だから、これはいい方向に向いてくれる。そう、信じた。
そんな俺を、円堂は影から見ていたようで、俺の下にあるいてきた。
「悪い、豪炎寺。たまたま此処を歩いていたんだ」
「気にするな。……どういう事か、分かっただろ」
俺の問いかけに円堂は頷く。けど、その瞳には希望が満ち溢れていた。それがコイツなんだ。と最近になって馴染んできた。いや、染まったが正しい。
「彼奴なら、きっとサッカーに戻ってくる。俺はそう見えたよ。豪炎寺」
「ふっ……そうだな」
何故なら、彼奴も俺たちと同じで熱いものを持っている。俺はそう確信しているからこそ笑って頷いた。
■【八神龍斗】■
僕は定期的に見舞いには行っていたものの、電話での連絡を久しくしていなかったのだが、携帯で通話をかける。数回のコールが鳴る中で、僕は緊張を身に感じていた。
「出てくれるかな」
その緊張が少しずつ高まっていくその時に、通話がかかる音がする。
『もしもし。珍しいですね、龍斗さん。どうなさりましたか?』
通話越しでも澄んで聞こえる綺麗な声は、自分には安心を与える。僕が安堵した息を漏らした事で、彼女はクスクスと笑う。
でも、何時までもこうしているつもりはない。少しばかり間を置いてから、本題を繰り出すことにした。
「……ねぇ、妖夢。もし僕がサッカーに復帰するって言ったら、君はどうする?」
かなり僕が緊張していた事は通話越しに通じたのだろう。相手からも緊張を感じ取った。
でも、すぐに彼女は柔らかい雰囲気へと戻ると、ふふ。と笑い声を出した。
『止めませんし、私は貴方を応援します。今、雷門中学校でしたよね? 伝説のイナズマイレブンが再来したと噂されているので、そこで戦う貴方が見てみたいです』
その答えは、僕にとって救いでもあった。でも。責任もやはり降りかかる。だけど、豪炎寺さんの言葉を思い出した。
「……ありがとう。もう少し、考えてみる。それじゃあまた会おう。妖夢」
『ええ、勿論ですよ。龍斗さん』
そんな僕の目には、河川敷に練習に行くぞと叫んでいる雷門のキャプテン。円堂守が写っていた。
「……まだ、戻れるかは分からない。けど、貴方のプレーを見せて欲しいな」
僕にとって希望となるのか。戻るかどうかは、あの円堂守という人を見てからという事になった。