■円堂守■
「豪炎寺。新メンバーって誰なんだ?」
「多分、もう少しで来るはずだ」
イナビカリ修練所で練習を重ねた俺達は今日の御影専農にみんな意気込んでいる。そんな中、俺に豪炎寺はすっげぇ選手が来るって教えてくれたんだ。
この時期に誰か来るなんて思ってもなかったけど、それでも新しいメンバーっていうのは何時でもワクワクする!
「でも、豪炎寺。ちょっと遅くないか?」
「大丈夫だ。直ぐにくるさ」
「それ、四回目だよな?」
「……」
けど、本当に来るんだろうか。豪炎寺に似てるんじゃないかと思うくらい遅いし、一体誰が来るんだろうと考えたその時だった。
「え、えっと。おはようございます。遅れてすいません」
「遅かったな、龍斗」
「……えっ?」
そいつは遂にやってきた。少し前に俺も勧誘したそいつは、申し訳なさそうに。そして何かに怯えているように俺達の目の前に現れたんだ。
その姿は雷門中のユニフォームで、背番号は十八。スパイクは少し高そうな気がする。俺がずっと来て欲しかったこいつは。
「八神、なのか?」
「え、えっとそうです。円堂先輩。豪炎寺さんにおどさ……や、やめてください豪炎寺さん睨まないで!? コホン。豪炎寺さんに誘われてここに来ました。宜しくお願いします」
「そっか、宜しくな!」
やった。こいつと一緒にプレー出来る! どんなプレーが出来るのか、今からすっごくワクワクしてきた!
でも、八神はあれだけ拒んでいたのに、豪炎寺はどうやって連れてきたんだろう? ちょっぴり気になったけど、聞くのはやめておこう。
「わぁっ! 本物の光のファンタジスタの復活です! 感激です!」
音無も今まで以上に喜んでる。その気持ち、すっごく分かるな。俺もずっと待ってたんだ。
でも、なんだろう。豪炎寺といい八神といい、遅れてくるのが流行ってるのかな?
まぁいいや。取り敢えず俺が言うのはこれだけだ!
「八神、サッカーやろうぜ!」
「えっと。……はい!」
■八神龍斗■
”正直まだ凄く怖い”
御影専農に来るように、豪炎寺さんのファイアトルネードで脅された僕は集まりに来てみたはいいものの見事に臆病風に吹かれていた。
正直、まだまだ復活する気はなかったのに、豪炎寺さんは僕を無理矢理ピッチに引きずり下ろしたからなんとも言えない。
勘を取り戻す為にボールを触ってみたら、少しの間動けなかったりもした。最終的には昔みたいに少し動かせるようになったけど、あの頃に比べたらまだまだだと自分で理解している。
けど、それでも今日の試合に出なかったら豪炎寺さんからまたファイアトルネードが。それも何度飛んでくるかもわからないから、こうして僕はこの御影専農中に来ている。
「……こうなるとはなぁ」
冬海監督という人は何か怪しい気はするものの、それを問いかけることも出来ないし兎にも角にも御影専農戦は始まってしまった。
僕はベンチからのスタートになるわけだけども。
「そんなっ。データと違う!?」
「馬鹿な、有り得ない!」
「イナズマ1号!」
なんと評せば良いか、レベルアップしている雷門中の面々に御影専農はついていけないようだ。まさかと思うけど全てデータのみなんじゃなかろうか。と推測していたら案の定だった。
正直僕の出番は要らない程で、前半だけで二対零。これはお鉢も回ってこない。僕が安堵しかけた時だった。
「俺達は忘れていた。サッカーに対する情熱を! 勝つぞ!」
「おう!」
……相手のキャプテンはここで持ち直したか。と内心舌打ちをする。これはノってくるかもしれない。
サッカー選手というものは、調子やリズムにノればノるほど上手くプレーが出来る。心象状態も良ければ良いほどそのプレーは味方の士気を底上げするのだ。
「一点取り返された。か……となると」
「宍戸君に変えて、八神君を出します」
こうなるよね。と呟けば、僕は戦いに出ることになった為に身体の震えを抑えるように務める。
交代するアフロヘアーの宍戸さんが僕にタッチをする。足が震える。ピッチに踏み出すのが怖い。視界がブラックアウトしそうだ。
様々な考えが頭の中をぐるぐる回る。それでも、豪炎寺さんがこっちを見ている。もしかしたら妖夢も。そう考えたら、僕はピッチの中へと入っていった。
すんなりと、ではないけれど。僕は俯瞰的にフィールドを見て思った。
「僕は、戻ってきたんだな」
二度と戻ることのないと思っていたこの場所に。来るはずがないと思っていたこの草の上に、僕はたっている。
その認識は僕の中の何かを塗り替える。恐怖で震えたままだが、それでも僕は一歩踏み出した。
「遅いっ!」
「っ!」
だが、現実は非情である。僕の事を下鶴という相手選手が軽々と抜き去った。
豪炎寺さんのあのボールで覚悟はした筈なのに、身体は全く僕についてこない。
”どうしてだ”
僕がそんなことを考えている内に二点目を取られていた。
ああ、やはり僕は役にすらたたないのか? もう、ダメなのだろうか。そう考えた時、光は降ってくる。
「諦めないでください。龍斗さん!」
聞こえるはずのない声。けれど、僕は確かに聞いた気がした。蘇る記憶。そうだ、僕は妖夢とどのようにサッカーをしていた?
「星は、見えたッ!」
「ふっ。いけ、龍斗!」
豪炎寺さんからのパスは綺麗に僕へと通る。さぁ、久方ぶりのショータイムだ!
「止めるっ!」
「俺達が勝つんだ!」
御影専農のディフェンダーは僕を狙う。けれど、今の僕には届かない。片足を引っ掛けてマルセイユルーレットからの踵で後ろからループを描きヒールリフト。ディフェンダーという壁はただの板となる。
「馬鹿な!?」
「こいつは!?」
星は消えない。今の僕には星が見える。そうだ。ピッチはスペース。つまり宇宙。それは僕と妖夢が独壇場だった場所。
今ならわかる。相手のキーパーのウィークポイント。星は今、その場所にある!
「……っぁぁあああ!」
「シュートポケッ……何!?」
光を纏ったボールは孤を描き相手のキーパー技に引っ掛からない場所を通り隅へと入る。
僕は、再びこのシュートを撃つことが出来た。まだまだあの時には程遠いけど、それでも。
「……遅いな、お前も」
豪炎寺さんのその一言とともにホイッスルはなる。ふっと、僕の中の光は抜けた。多分、居たんじゃないかな。そんな希望を持ちながら。
久しぶりに、こんな景色を見た気がする。妖夢とサッカーしていた時みたいに。
「……まあ、まだまだだね」
でも、今回自分のプレーには納得がいかなかった。だから妖夢ともう一度駆け抜ける事を夢見て飛ぼう。そう決めた。
……まずは長いブランクを埋めたり、トラウマを完全払拭しないとな。じゃなきゃ、飛べないから。
「随分と、昔みたいな顔をするようになったな」
「あ、豪炎寺さん……」
自分でもそう思う。妖夢の声が聞こえた気がするだけで、僕は昔に戻った気分にされたのだから。
それはでも悪い事じゃない。僕がきっと、サッカーに対する情熱を手に入れたから。
「まあ、お前はシュートを決めた。つまり、これからも頼むぞ」
「……ですよね」
でも、その前に僕は豪炎寺さんには絶対に逆らえないみたいです。泣きそう。
「期待しているぞ、龍斗」
■魂魄妖夢■
「ふふ、聞こえてくれたみたいですね」
「せやなぁ、妖夢お姉ちゃん。でも龍にぃが気付かないわけあらへんよ。妖夢お姉ちゃんの声やから」
「全く、世話のかかる弟ですねぇ。はやて」
「ほんまに世話のかかるお兄ちゃんやな。リュークにぃ」
今私は、御影専農と雷門の試合を観戦しにきていました。目的はただ一つの為に。
「龍斗さん。まだまだ昔程ではないですけど、魅せてくれましたね」
私としては龍斗さんがこの世界に戻ってくれたことが一番嬉しい。ずっと待ち望んでいたサッカーを見ることが出来ます。
前の習志野の中学校ではサッカー部に入らないのかとしつこさが酷すぎてこの雷門に来たという話は聞いていました。
ですが、龍斗さんの最大の誤算は豪炎寺さんが少し前に来ていたこと。そして円堂守さんの存在でしょうか。
龍斗さんは彼等に誘われなければ戻らなかったでしょうし、私が声をかけなければどうしようもなかった。
龍斗さんの兄妹のリュークさんとはやてちゃんとこのままサッカーに戻らない場合どうするかをずっと考えてました。
「それにしても、これで一件落着とはいかないのがまた……龍斗さんったら、やっぱり私が居ないと駄目ですね」
「当たり前やん。龍にぃは妖夢お姉ちゃんにぞっこんやろ」
「もう、はやてちゃんったら……」
はやてちゃんの言葉は茶化すようなものですけれど、私にとっては凄く嬉しい。
やっぱり、龍斗さんとは幼い頃から交流もあるしずっと一緒にサッカーをしていた。心から見える優しさに、好意を抱かないわけが無い。
「龍斗さん。まだ。まだ貴方の隣に行けません。けれども、絶対にいきますからね」
「ふふ、その意気ですよ。妖夢さん」
リュークさんも私の肩を叩いて応援してくれます。私もまだまだ終わる気がありません。だから、この胸に抱いたボールとともに、あなたの元へと向かいます。
だから、絶対。絶対に。
「また。またサッカーしましょうね。龍斗さん」
きっとこの声は聞こえていると信じて。私はリュークさんとはやてちゃんと共にスタジアムを去りました。かつて無い、決意と共に。
■???■
「光のファンタジスタ。八神龍斗か」
我々とは、決勝の試合で当たる雷門中にて彗星の如く現れたその人物。八神龍斗。
彼を見る度に思い出すのはあの時の事。だが、それを理由に潰さないことにならないというわけではない。
「だが……」
昔のあの時も彼の幼馴染みを潰してサッカーから離した筈なのに、また私の目の前へと現れた。
何故、貴様はここに来るのかが分からない。私にとってあのようなプレーはあの時だけにして欲しかったのだ。
「……八神龍斗。お前は、鬼道に勝てるかな」
勝てないだろう。私はそう思っている。なのに、何故だろうか。あの時の事を思い出す。
そう、自分の心が踊らされたあのプレーを。サッカーに光を見出したあの時を。今も、私は忘れられなかった。