人間を始めとし、エルフなど様々な種族が住む異世界グランディール。
あらゆる種族が現実世界の人間と同じように住むそんな世界に、黒鬼と白姫は転送された。
「転送されたのはいいが、森の中というのが気に食わん。なぜ街中とかにしないんだクソッたれ」
「街中とかに転送だと、人の目があるからだと思う。森の中なら、そういうのは気にしなくてもいいから」
「そうだとしても普通、落とすか?」
異世界グランスティールに来て最初にすることは、愚痴を吐くことだった。
それも正座をしている白姫の膝上に頭を乗せて。
「女神様も焦ってたみたいだし、それぐらいは多めに見てあげるのも男らしいと思うよ」
「そうか? はぁ……、最初から萎えるってもんだ」
「愚痴ばかり吐いてるとこれからが不安だよクロにぃ。でもまずは、なにするの?」
「そうだなぁ……、拠点作りでもするか」
森の中、横になりながら空を見上げる黒鬼。女神からこの世界について教えてもらったとはいえ、いきなり行動に移すには金銭も必要になるだろう。
となれば様子見で拠点を決め、作り、自分たちで実際に情報集めしたほうがいいだろうと、それが黒鬼の考えだった。
「あの露出メス女の言葉じゃ、魔王に人々が脅かされていると言っていたが、太陽の日差しを見る限りじゃそう思えん。それにいきなり挑むってのも無理があるだろうし、数週間は鍛錬に加え、情報集めから始めるのが得策だろうな」
「確かにクロにぃの言う通りかもしれない。此処の空気は美味しいし、嫌な気配もしない。いっそのこと此処を拠点にして情報を集めてみる?」
「……そうするか」
黒鬼はゆっくりと立ち上がり、深呼吸した。焦ったところで成果は見えない。
幾ら救うことが目的といえど、情報が無ければ目標の方針も決まらない。
「あ、クロにぃ。ポケットから何か落ちたよ」
「ん?」
立ち上がった際にスルッと紙が落ちた。それを拾い上げて白姫は黒鬼に渡す。
「なんだこりゃ」
背伸びをして白姫も紙を覗き込む。二人して書かれている内容を読み上げてみると……。
『先ほどは色々とありがとうございました。転送する際、やはり不安がありますので勝手ながら特典を付けさせて頂きました。白姫さんにはその世界で知られる創造の象徴である"白龍"としての力と能力を。黒鬼さんには同じくその世界で知られる破壊の象徴とされる"黒龍"としての力と能力を。ただし力を使う際は己の判断に任せます。節介ながらも、若き兄妹であるお二人の御武運を心より願っております。本来、概念はありませんがステータス展開と口にしてもらえれば詳細を見ることはできます。 by女神より』
実筆で綺麗に、それも言葉遣いがしっかりしたその文章を読み終える黒鬼と白姫。
望んでない特典を付けておいた、という女神の報告に二人は顔を見合わせた。
――そして。
「ふざけんじゃねえよ、あの露出メス女ああああああああああああああああああああッ!!!」
ビリビリと大胆に手紙を破り捨て、森中に黒鬼の怒号が大きく木霊した。
「……ステータス展開」
――――――――――――――――――――――
シロキ=ハセガワ
種族:白龍(創造神)
HP:100
MP:9999
攻撃力:100
防御力:500
回避力:700
精神力:999
≪Ability≫
【白龍の加護】
備考:状態変化無効/中級魔法全般無効化
【白龍化】
備考:[解放]の一言で白龍化する。逆に[解除]で戻る。ステータス倍化に伴い、治癒魔法、創造魔法全てを使用可能。
――――――――――――――――――――――
後ろで騒ぎ立てる黒鬼を他所に、白姫は女神の手紙に書かれていた通りに従った。
すると黒鬼と白姫だけに与えられた説明のわかりやすいステータスが展開される。
種族が人間からは白龍に変わっていることに疑問と不信感を覚えるも、それ以外はゲームで見たことがある程度。
「クロにぃも見せて」
「はぁ……はぁ……。なにがだよ」
「説明書、ステータス」
「ああ? んなもん見たくないぞ」
「いいから、お願い」
「……ッ。仕方ない、ステータス展開」
首を傾げおねだりする子供のように頼んでくる白姫に、黒鬼は落ち着きを取り戻してステータス展開した。
―――――――――――――――――――――
クロキ=ハセガワ
種族:黒龍(破壊神)
HP:999
MP:1000
攻撃力:999
防御力:100
回避力:500
精神力:500
≪Ability≫
【黒龍の加護】
備考:物理無効化/中級魔法全般無効化
【黒龍化】
備考:[解放]の一言で黒龍化する。逆に[解除]で戻る。ステータス倍化に伴い、物理魔法、破壊魔法全てを使用可能。
―――――――――――――――――――――
展開されたステータス、及び説明書に黒鬼は死んだ魚の目をしてげんなりとした。
しかし、白姫は自分のステータスを黒鬼のステータスと比べてしっかりと目を通す。
「強くてニューゲームなんざ、面白みもねぇ……。もう救うとか関係なしに、優雅に暮らしたいぞ」
「でもそれだとお母さんとお父さんの居る現実世界には帰れない。勇者が"存在しない"このグランディールでは、各自にギルドを設立しているって女神様は言ってた。だから冒険者の中で魔王を倒そうとしている人も居れば、そうでない人も居る。とにかく、魔王を倒すことが世界を救うことに繋がるみたい」
「わかりやすい説明をありがとう白姫。だがな、このステータスなら魔王を即座に殺せるんじゃないか?」
「一筋縄ではいかない、それが魔王。それに幹部として魔界七星っていう強敵も居るの。もしかしてクロにぃ、あんなに決めといて女神様の話を聞いてなかったの……?」
「……おう」
「はぁ……」
カッコいいことばかり述べていた黒鬼だったが、女神の言葉の大半を聞いてなかった。
それには白姫の口からは深い溜息が吐かれ、力を籠めずに黒鬼の頭を叩いた。
「それにしても、白龍化やら黒龍化やらってなんだ?」
「ステータスに書かれてる言葉を言えばなれるみたい」
「へぇ……。ちょっと白姫、やってみろよ」
「うん、わかった」
そこには思わず気になってしまった黒鬼は白姫にやってみせるように指示を出した。
すると白姫は小さく頷き、目を閉じる。
「――解放」
途端、白い光が白姫の周りを覆い囲んだ。あまりの眩さに黒鬼は腕で目を覆い隠す。
肌に感じる痺れ、髪を揺らす凄まじい風。だがそれも数秒で止み、やがては落ち着く。
黒鬼は覆っていた腕を離し、白姫を見てみる。するとそこに居たのは、白い龍の尻尾と、天使と疑ってしまう綺麗な翼を生やした白姫が居た。
「なんか、変な感じ……」
「めちゃくそ可愛い」
「えっ?」
「あ? な、なんだよ! 何も言ってねえぞ!?」
思わず本音が口から零れてしまう黒鬼。白姫は思わず聞き返してしまうが、黒鬼は何故かそっぽ向いて誤魔化す。
本当は聞こえていた。自分の事を可愛いと言ったことを、白姫は聞いていた。
まさかの黒鬼から言われるとは思わなかった故、顔が火照り俯いてしまう。
「というか、龍化ってそういうことかよ。てっきりそのままの意味で龍になるのかと思ったぞ」
「うん、私も思ってた。でも、人の姿のまま龍になる……ってことみたい」
「安心したというかなんというか、微妙だな。それに尻尾だけでなく翼も生えるとか、これは確かに種族が人間じゃなくて龍っていうのは納得いくな」
「……あまりじろじろみないで」
普通ならあり得ない目の前の光景に興味を沸かせる黒鬼は白姫の周りを何回も周る。
揺ら揺らと動く尻尾に、ピョコピョコと動く翼。見ていると無償に掴みたくなった黒鬼は白姫の背後で止まった後、片手で白姫の尻尾を掴んだ。
「ひゃん……!?」
「え"っ」
不意に聞こえた妖艶な声に黒鬼はドスの効いた声を出す。白姫は級に掴まれた尻尾に神経が通っていると理解すると共に、顔を動かし後ろに居る黒鬼を涙目で見る。
「クロにぃ、離して……」
「なんで涙目になってんだよ、痛かったか?」
「そうじゃない……、色々な意味で離して」
「……」
「……」
「あは~ん、なるほどな」
「えっ?」
離して欲しいと言う白姫に、黒鬼はゲスいた表情に切り替えると共にパッと離す。
ペタンと地面に付く尻尾に安心した白姫だったが、あろうことか黒鬼はまたそれを掴んだ。
「ふあぁ……!?」
「視聴者プレゼントの時間だコラァ!!」
「んんっ……!!」
掴んでは離してを繰り返すたびに、白姫の口からは可愛らしい声が漏れる。
もはやそこに居るのが魔王ではないかというぐらいの所業ぶりを見せる黒鬼。
繰り返すうちに黒鬼は悪魔のような笑みを浮かべ、楽しさからか気分が高揚する。
それが数分と続き、やがて白姫は乱れた呼吸で地面に倒れていた。
「ストレス発散にはもってこいだな、これ」
「はぁ……はぁ……。んっ、クロにぃのばか……ッ」
思わぬ弱点を発見した黒鬼に、白姫は恥ずかしさからか顔を隠してバカと言う。
しかし黒鬼は聞いてなかったようで、大きな欠伸をしながら身体をほぐしていた。
「まぁ、龍化はステータスの説明覧にもある通り倍化がメインだから使う時は本当にいざってなった時だな。それ以外は必要ないってことがわかった。ありがとな、白姫」
「クロにぃはいじわる」
「へいへい、どうぞお好きなように。とりあえず今日は此処を拠点にするから、薪やらなにやらを集めないとだな」
「んっ、そうだね」
乱れた呼吸も戻り、落ち着きを取り戻した白姫は立ち上がり服に付いた埃や砂を払う。
同時に『解除』と試しに言ってみると、姿は戻った。とりあえず黒鬼はこの場を拠点に決め、白姫と共に必要なものをかき集めるのであった。