ヒトヨンマルマル 鎮守府 提督執務室
提督は出かけているが
秘書艦の長門が相変わらずの書類の山と格闘している。
そして来客用のソファには、やはり相変わらず駆逐艦娘が屯している。
もっとも、今日は潮一人だ。
テーブルにカードを並べては考え込んでいる。
トレーディングカードゲーム。
略してTCGなどと呼ばれる、専用のカードを用いて行うカードゲームである。
二人で対戦して行うゲームだが
最近ではインターネットを介して対戦されることもある。
潮が考え込んでいるのは、このTCGのカード編成
いわゆるデッキの構築についてだった。
チラ、と長門が見ると潮は行き詰ったように頭を抱えていた。
(何か悩みでもあるのだろうか……
先ほどからカードを並べては考え込んでいるが、占いか何かだろうか?)
悩んでいるのは確かだが、占いではない。
しばらく様子を見ていたが、やがて見かねて声をかける。
「潮、何か悩み事なら相談に乗るぞ?」
「えっ?……あっ、すいません、お邪魔しちゃってますね」
「いや、そんなことはないが
近くでうんうん唸りながら考え事をされてはやはり気になってな。
何をそんなに考え込んでいるのだ?」
「えっと……実は、デッキのことで」
さて。
艦娘とは古の戦船の魂が人の形をとってこの世に現れたものである。
彼女たちは純粋な艦であったころの記憶と知識を持って生まれてくるのだが
なにしろ「古の」戦船である。
もし、その古い知識だけを持って生まれてくるのであれば
現代社会を生きていくには色々と都合が悪い。
しかし上手くしたもので、彼女たちは現代の知識も持って生まれてくる。
諸説はあるが、現代の人間の魂の中で、艦の魂と波長の合うものが
その知識とともに艦の魂と融合しているのではないか、とも言われている。
もちろん、融合する人間の魂が持つ知識には個人差があり――
残念ながら、長門にはTCGの知識などかけらもなかったのである。
(デッキ……?……なぜ甲板のことで潮が悩むのだ?)
TCGの知識がなく、そして軍人っぽい知識に偏っている長門からすれば
デッキとは船の甲板以外の何物でもなかった。
(そもそも、そのカードが甲板とどういう……いや隼鷹の飛行甲板は巻物みたいなのだったな。
すると、あのカードが甲板に……なるのか?)
「あの……長門さん?」
「あ、ああ……すまん、ついこちらも考えてしまった。
その……デッキというのは、誰が使うものなのだ?」
「ふぇ?私が使う分、ですけど……?」
「何?」
(どういうことだ……駆逐艦の潮に装備できる飛行甲板などないぞ……
仮に作れたとしても、潮が装備できるような小さな飛行甲板では
艦載機の離発着など不可能ではないか……)
「あの、何かおかしいですか?」
「ああ、いや、その……あまり、無理に詰め込もうとしてもよくない、のではないか?」
「そうなんですよねー。何を入れるか、それで悩んでたんですけど」
(そうだな、艦載機の種類も当然考えてはいたのだろうが、いかんせん……
待てよ……カ号観測機なら、短い飛行甲板でも運用できたな……
なるほど、直接の砲撃、雷撃よりも、対空防御や対潜水艦などの支援行動を得意とする潮らしい!
己の長所をさらに磨こうということなのだな……!)
「ホントはもっとレアを使いたいんですけどね」
(レア?今話題のレアメタルか?
なるほど、甲板の強度を上げなおかつ軽量を維持しようとすれば考慮に入るかもしれんが……)
「それはコストがかかりすぎるだろう」
「うーん(やっぱり召還コストが高いカードばかり入れてもなぁ)」
「それに、いつでも手に入ってくるとも限らん。そういうものにあまり頼るのはどうかと思うぞ」
「(確かに手札に入るかどうかは運次第だよね)そうですね……アドバイスありがとうございます、長門さん!」
「ああ、いや、私もそれほど詳しいわけではないのだが、な……
そうだ、鳳翔さんに相談してみてはどうかな?」
「ええ!?……鳳翔さん……ですか?」
意外な人物の名前を出され困惑する潮。
「何を驚く。この手の相談相手にはあの人が一番知識が豊富だし
教え方も上手いと聞いているぞ?」
「そ、そうだったんですか……ありがとうございます!さっそくお邪魔してみます!」
「鳳翔さんなら、今は洗濯中ではないかな?
仕事の邪魔にならんよう、夕食後にでも訪ねるといいだろう」
「はい!」
広げたカードをかき集め、潮はパタパタと執務室を出て行く。
(フッ……上手くいけば航空駆逐艦、か?
新たな艦種の誕生を見ることができるかもしれん……胸が熱いな!)
的確なアドバイスができたと思い込み、満足げな長門だった。
フタマルマルマル 鎮守府 鳳翔私室
『潮です。鳳翔さん、いらっしゃいますか?』
「潮ちゃん?どうぞ、あいてますよ」
「失礼します」
入ってきた潮に座布団を出してやりながら鳳翔がたずねる。
「それで、今日はどうしたの?」
「えっと……TCGのデッキ構築について、ちょっと教えてもらないか、と」
「あら」
鳳翔が少し驚いた顔をして立ち上がり、ドアまで行って廊下を見回す。
他に誰もいないことを確かめると
「どうして私のところに?」
「あの、長門さんが『鳳翔さんが詳しいから』って教えてくれました」
「そう……おかしいわね、誰にも言ってないのに……」
「あの……ご迷惑でしたでしょうか?」
「ああ、違うの。ちょっと不思議だったから」
そう言うと、箪笥から何かを取り出し卓袱台の上に置く。
それは、使い込まれたカードケースだった。
「それじゃ教えてあげるわね」
「あっ……そのカードケース、確か年間チャンピオンに贈られる……ええーっ!?」
「フフッ……ナイショよ?」