幕を開けた火星における異種族による激突は、各地で勃発していた。
―丘に囲まれた大地―
小高い丘が広がる中に存在する平原、そこには本来僅かな緑があるだけで地球のような木や花といったものは存在しない。
そんな殺風景な大地が今、飛沫と肉片によって染め上げられていく……
「じょッ!」
「じょう!じょう!」
「じょう!じじ!じょう!!!」
「……」
「っあああああああ!!!!! じょうじょうじょうじょう うるせえよ!!!!!
黙って殴って来いよ!!!!!野良犬のほうがまだ静かだわ!!!!!」
第五班と交戦したテラフォーマーたちの体液が飛沫となり、肉片が宙を舞っていた。
「………お前もうるさい、ルーク」
第五班の戦力であるレイが呆れつつ呟く。
普段の黒髪は赤く染まり、両腕となぜか背中にも黒い羽根を携えた姿の彼女はこの戦場においてよく目立っていた。
それを目印としているのか、テラフォーマーが集中して襲い掛かる。
「じょう!」
「じじじ!!!」
二体のテラフォーマーが同時に彼女めがけて石の棍棒を振るう。
左右どちらにも、ましてや下がることもできないほどの距離、そして全力で放つ高速の攻撃。敵の排除をこの二体は確信した。
が、レイは先程と変わらず立っていた。しかも体には傷の一つもない。
その拳は、腕ごと切り離され宙を舞っていた。
「この程度なら問題ない…」
よく見れば彼女の右手にはこの状況を作り出したものが握られていた。
しかしそれは一見すると武器とは思えない代物だった。
繊維のようなものが一本、細い金属の部品で固定されたもの
例えるなら、握るためのグリップを追加した金属製のヴァイオリンの弓
それを彼女が再び振る。
すると甲皮に守られているはずのテラフォーマーの体が、まるで温められたバターかのように滑らかに切り落とされた。
「まあやるな、小鳥の割に」
「うるさい、偏食野郎……後ろッ!」
「おっと!」
レイに軽口を叩きながらもルークは近づくテラフォーマーを容易く切り裂いていた。
彼の姿もまた変態前と大きく異なっていた。
髪は普段の倍ほどに伸び、白い縁取りのある黒い帯模様が現れていた。
発達した腕や胸元の筋肉、そして太く短くなった手の指。その先にはまるで鎌のように湾曲した鋭い爪が生えている。
……
「ルークのベースは知っていたけど……まさかあんなに強いなんて……」
「アリクイ……だよな? 嘘だろ…」
高速脱出機から二人を見守っていた非戦闘員たちが呟く…
彼らはルークのベースは知っていた。知っていたからこそ恐怖を感じていた。
―オオアリクイ―
歯のない口と長い舌で一日に約3万匹を食べる、大人しい性格
ルークのベースとなった動物であるが、ここまで聞けば弱い動物としか思わないであろう。
では本当に弱いのか?
答えは NO である
アリやシロアリを食べるように進化した彼らには、アリ塚を掘るための発達した筋肉と鋭い爪が備わっている。これが生物の肉体に振るわれた場合、只では済まない。
事実、オオアリクイによる人間の死亡事故が発生している。
最も彼らが爪を振るうのは自らの身を守る時である。
では彼らの持つ武器が人間大になったら…
そして彼ら以上に可動する人間の腕や手に発現したら…
戦い慣れた者に組み込まれたとしたら……
猛獣と呼べるほどに凶悪で、心強い存在に変わる
……
「本当にアタシらの出番なかったな、班長」
戦闘員であるイザベラとこの第五班の班長であるアドルフも二人の先頭を見つめる。
「あの二人の実力なら問題はないと思っていた……それに
ああしないと、うるさくてしょうがなかったしな…」
……
「っへ!どうだレイ!俺のほうが多く倒したぞ!」
「競争じゃないんだ、いちいち張り合ってくるな………オレのほうが多く倒したし…」
「あ!!? あんな細っちい道具に頼ってるような奴がよく言うぜ!!!」
「何だと!!?」
……
(((((そうですね)))))
心の中で皆、同じことを呟いていた。
脅威であるテラフォーマーとの初戦闘において圧倒的な勝利を収めた第五班の幸先は、実に良いと言えた。
最も、初戦闘を終えた二人が未だに子どもの喧嘩を繰り広げていることを除けばではあるが……
おまけ
―戦闘直前―
アドルフ「ここは俺がなんとかする」
ルーク「班長の手を煩わせるわけにはいかないので、ここは俺が」
レイ「お前は引っ込んでいろ、邪魔になるだけだ」
ルーク「あ!?お前なんてピーチクパーチク鳴くだけだろ」
レイ「うるさい!お前こそ長い舌で舐めるくらいしかできないだろ」
ルーク「んだと!!!?」
レイ「やるか!!!?」
アドルフ「あー……二人で行ってきて」(いつも通りだな…)