Parallel Chance   作:モクロック

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お久しぶりです。
今回はアネックス1号が火星に着くよりも前の話です。
それではどうぞ、お楽しみください。



第3話 希望を 

―深夜 U-NASAローマ連邦支部-

 

この時代、地球では度重なる脅威にさらされていた。

2570年代に発生したストーン熱、 2600年頃から猛威を振るう(エイリアン)(エンジン)ウイルス、リカバリーゾーンを巡る攻防戦、ローマ連邦形成時の暴動…

 

幾つもの地域で今までの生活を、命を失う者が増えていた。

深夜に訪れたこの女もそんな者の一人だった。

 

「閉まってる……最後の賭けだったんだけどな…」

 

人目を避け深夜に訪れたことが災いし、施設への扉は固く閉ざされていた。

彼女の一発逆転のチャンスはここに潰えた……

 

 

 

 

はずだった

 

「ん?こんな時間にどうしたんじゃ? お嬢さん」

 

女が振り返るとそこには、一人の年老いた男がいた。

 

「もしかして志願者かの? これの」

 

そう言うと老人はポケットから一枚の紙を取り出した。そこにはU-NASAによるアネックス1号乗組員募集の文字とそれに関する情報が記載されていた。

 

「は…はい! 私、どうしてもお金が必要で…」

 

女は勇気を振り絞るように力のこもった声で告げた。

 

「なるほど……しかし、悪いんじゃがクルーの募集は終わって…」

 

老人は呟きながら若い女を見る。

 

彼女は俯き、全てを諦めようとしているのが目に見えて分かった。

しかし何故だろうか、彼女からは生きようとする力強さのようなものを感じる。

その様子を見て老人は少し考える素振りをした後、こう告げた。

 

 

 

「一つだけ……方法がある。ただし、通常のクルーより命を失う可能性が高い。そんな危険を冒してまで志願する覚悟は、あんたにあるか?」

 

 

 

先ほどまでとは違う力強く、まるで老人とは思えない気迫に満ちた声に一瞬体がこわばったものの、目の前にいる男に目を向けて答えた。

 

 

 

「覚悟はできています!志願するかしないか…どちらを選んでも死ぬかもしれないなら私は明日の希望がある方に賭けます!!」

 

 

 

「そうか…」

 

老人は彼女の覚悟を確かに感じ取った。彼は目を閉じ、そして決意したように目を開き彼女に応えた。

 

「よしわかった…今日からあんたは俺たちと同じ地球を救う仲間だ。これからよろしく頼む」

 

「よろしくお願いしますっ!」

 

「ところで名前を聞いてもいいかのぉ?」

 

男の口調は戻り、先ほどの気迫が嘘のようになくなっていた。

 

「私は『リリア・オイカワ』といいます。リリアと呼んでください」

 

「うむ、よろしく頼むリリアさんや ワシはロギンズじゃ、とりあえず施設に入ろう。カギはワシが持っているから」

 

老人がカードキーを使い扉を開けると、二人はローマ支部の施設へ足を進めた。

 

このリリアの志願によりアネックス1号乗組員、全員が揃った

 

 

 

 

 

―リリア参加より6時間後 U-NASAドイツ支部―

 

「今日だろ?俺たち第五班の新しいメンバーが来るのって」

 

「そうだよ、なんか楽しみだね」

 

「可愛い子だといいな…」

 

「アントニオ、顔緩みすぎだ」

 

施設内の廊下を楽しそうに話を進む集団がいた。

彼らはアネックス1号のドイツ・南米第五班のメンバーであり、火星でのミッションに挑む戦士でもある。

この第五班は他の班と比べ、メンバー同士の仲がとても良く普段からこのようにお喋りを楽しむ姿が見られる。

 

しかし、そんな彼らを良く思わない者も多い。

 

「役立たず共が…」

 

一人の研究員の男がボソッと彼らとすれ違いざまに呟いた。

 

実はこの第五班には、火星環境下におけるテラフォーマー制圧能力のランキング、通称『マーズランキング』の上位者がごく少数しかいない。ほとんどの者はランキング下位であり、戦力としてはあまりに弱く足手まといと言っても過言ではないほどである。

 

ウイルス獲得において脅威になるテラフォーマーに対する戦力が不足していること、それは任務遂行が極めて難しいことを示していた。

 

そんな研究員の言葉が耳に届き、一行の表情は一瞬で沈んだ。

 

 

 

「おい、誰が役立たずだって?」

 

 

 

「ヒッ…」

 

そこには、ぼさついた茶髪で人相の悪い男が立っていた。

彼は研究員を見下ろし、ポケットに突っ込んでいた右手を研究員の左肩に乗せた。

 

「その言い方するってことは、テメェはあのゴキブリ共とやりあっても勝てるってことだよなぁ?何だったらオレと訓練室に行くか?」

 

「やっ…やめてくれ…」

 

「だったら黙ってろ。戦いもしねぇ癖に威張ってんじゃねぇ」

 

そう言って男は研究員の肩に乗せた手に力を入れた。小さいものの殺気のこもった声に、研究員はヘビに睨まれたカエルのように恐怖で動くことができなくなっていた。

 

「わかったらどっか行け、腰抜け」

 

「ヒィィィィィ!!!!」

 

男の言葉で、研究員は情けない悲鳴を上げながら一目散に廊下を走っていった。

 

(ったく、これなら第五班(あいつら)のほうが度胸あるわ)

 

ぼさついた髪を掻き、『ルーク・イベルト』は心の中でぼやきながら第五班のメンバーに近づいて行った。

 

「あ、ありがとう…ルーク」

 

「でも俺たちが役立たずなのは変わりないから…」

 

「あ?何言ってんだ?お前らのことなんてどうでもいい……戦いもしねぇ癖に威張ってる能無しが気に入らなかっただけだ」

 

ルークは言いたいことだけ言うとその場から立ち去った。

 

「それにお前ら、訓練してちったぁ戦えるようになっただろ…」

 

振り返らずルークは呟いた。あまり大きな声ではなかったが、第五班のメンバーには十分耳に入った。

 

「ルーク!」と嬉しそうな声を上げてメンバーはルークに追いつこうと駆け出した。

 




おまけ

ロギンズ「公式でマーズランキング14位が発表になったのう…」

作者  「ムテバ・ネルソン・ムテキチ・インビクタスJr. ベース:ラーテル……正直、発表されると思っていなかったからこっちで勝手に名前つけて設定作ってしまった……」

ロギンズ「この話自体、並行世界での出来事じゃから気にしなくてもええんじゃないかの?」

作者  「それもそっか、じゃあこれからもよろしくね ザントガ」

ザントガ「!?」



(読んでくださる皆様には申し訳ありませんが、この話の『ザントガ』は原作における『ムテバ』であると割り切って今後お読みください。ザントガ含め今作に出てくるキャラの紹介はまた別の機会に行います)
読んでいただきありがとうございました!

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