Parallel Chance   作:モクロック

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お待たせいたしました。

それではお楽しみください!


第6話 遭遇

地球を出発してから39日

目の前には目的の地であり、これから戦場に変わる星-火星―が迫っていた。

 

アネックス1号内では、あと二時間で任務が始まることに対して不安を覚える者、心を落ち着かせようとする者、普段と変わりない表情の者と乗組員たちは多種多様な反応を示していた。

 

 

シャワーを浴びて気分転換しようと考える者が、一人くらいいてもおかしくはない。

彼女【ヨウ】がその一人だ。

 

 

(あんまり考えたくないけど、自分や班員の命が係っているとなるとねえ……)

 

 

もし彼女の所属する第四班が通常(・・)の任務を行うだけの班であれば、彼女はここまでモヤモヤした気持ちを抱えることはなかった。それこそ、任務開始前にシャワーを浴びてまで気分転換したいと考えるほどには。

 

 

(しょうがない……後は班長やジェットに従って動こう。もう考えてもどうしようもないし、それでいこう)

 

 

彼女は、ようやく自分の気持ちに折り合いをつけた。

 

 

このとき、彼女は気付いてはいなかった。すぐ近くに迫る黒い絶望の存在に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じょうじ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―メインルーム―

 

男がそれ(・・)に気付いたのは偶然の出来事だった。

 

男は未知の世界、襲い掛かる脅威、それを潜り抜けながら、ウイルスサンプルを回収し地球に帰還する……目の前に迫る恐怖心や緊張で震えていた。

震えながらも、自分を落ち着けようと思考を巡らせた。そして、男はとあることに気付く。

それは男が非戦闘員であったことだ。

基本的に戦闘には参加しない。いざとなれば、班長や戦闘員が守ってくれる。

なんだ…これなら心配はない。恐れることなんてない。

 

気持ちが軽くなった彼は胸を張り、上を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが絶望との遭遇だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テラフォーマー!!!!?」

 

 

 

その場にいた誰かの叫びが引き金となった。

 

 

「じょうじ」

 

 

天井に張り付いていたテラフォーマーは、一声上げると素早く地面に着地した。

 

その光景を見て咄嗟に動けたのは、その場にいた乗組員のほんの一握りだけだった。

 

 

 

その中に、彼は含まれていなかった。

 

 

 

真横に現れたテラフォーマーを目の当たりにしてなお、彼の意思で動くことはなかった。

 

黒い腕が男の腕をつかむと男の体の上半身だけが、内側のものをこぼしながら持ち上がった。

 

自身の体に起こった出来事を、男は理解できずにいた。

 

元凶は、その光景をしばらく見つめると、興味を失ったかのように男を床に落とした。

 

そして男の頭を踏みつぶした。まるで人が足元の蟻を気付かずに踏むように、何事もなく、無表情で。

 

 

 

 

 

その光景を目の当たりにして、戦闘員の数名が咄嗟に構えた。しかし、彼らは戦うつもりは一切ない。

戦闘員とはいえ人為変態用の薬がない状態でテラフォーマーを対処できる乗組員は、班長達を除けばデータ上(・・・・)片手で数えられる程度しか存在しない。

 

この状態でテラフォーマーが襲い掛かれば、何もできず一瞬で殺される可能性が高い。それこそ先ほどの光景のように……戦闘員の誰もがそれを理解していた。

ではなぜ構え、臨戦態勢に入っているのか。

 

それは恐怖である。

 

今日この日までに訓練を重ね、誰一人準備は怠らなかった。

しかしそれはあくまで訓練である。

今、この光景は理解を超え理性を失わせるには十分だった。

 

 

 

 

絶望との初遭遇に、彼らは人間でいられなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

しかし全員が恐怖に呑まれていたわけではない

 

「皆下がれ!!!」

 

とある老人から発せられた、力強いその声にその場が大きく動いた。

非戦闘員は大きく後ろに下がり、戦闘員は冷静さを取り戻し、非戦闘員を守るように前に立ちはだかった。そして勇気あるものが班長の捜索や薬の確保に向かった。

 

好転したかにも見えたが事態は何も変わっていない。

絶望がすぐに襲い掛かることなど目に見えていた。

 

そしてこの状況を変えることのできる者も葛藤していた。

 

(ここで人為変態(うご)くか……そうすれば状況は簡単に変わる。だが、肝心な任務がばれることになる。ここでばれれば……彼らの命が……)

 

義手を握り、老人…ロギンズは背負うものによって動くことができずにいた。

 

 

 

そのとき、一人の人物があるものを抱え入ってきた。

 

「おまえら退がれぇえ!!」

 

「ボーン!? お前、そんな防犯器具で……無茶だ!!!」

 

 

彼は震えながらも、抱えていた対人用の機関銃を迫りくる絶望に向けた。

 

 

「そうだ只の防犯器具だ、人間(・・)のコソ泥対策のな……それでもやるしかねぇじゃねぇか!!!

 

来やがれ バケモノがぁあああ!!!!!」

 

 

 

雄たけびを上げながら、銃を乱射するボーン。

 

 

銃弾は確かにテラフォーマーの黒い体を貫き、後ろに仰け反らせた。

しかしそれはほんの少しの間だけだった。

 

テラフォーマーは銃弾を浴びながらも、彼の方向へ歩き始めた。

弾丸は容赦なく体を貫き続けている。体から白い体液が流れる。

しかしまるで効かないとばかりに、その歩みは止まることがない。

 

(やっぱりダメだったか……それでも、やれることはやった。俺が稼いだこの時間で、少しでも誰かが助かればそれで……)

 

遂に眼前にまで迫った絶望を見つめ、ボーンは悟った。自分自身の最期を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員伏せろ!」

 

 

 

次の瞬間、テラフォーマーの右目が弾けた。

 

何が起きたのか、右目を気にすることなく元凶を確認しようとすぐに振り向いた。

 

そして体を貫かれた。黒い体を貫いたのは先程と変わりない弾丸だった。

 

しかし、テラフォーマーは歩き出すことも襲い掛かることもなく、その場に膝をついたかと思うと白目を剥いて横たわった。

 

 

 

「慢心して自分の強度を忘れるなよ、ゴキブリ」

 

 

機関銃を肩に担ぎつつ、マイク…マイケル・メイトリクスは呟いた。

 

 

 

 

「自分の弱点に当たらないからって、その体が貫かれてる時点で殺される可能性を考えておくべきだったな。お前みたいな的なら一点狙いの狙撃も造作もない」

 

 

 

 

マイクの銃弾は、確かにテラフォーマーの弱点である食道下神経節を貫き、破裂させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

横たわるテラフォーマーの横をそのまま通り抜け、彼はボーンの元まで向かう。

 

「ボーン、助かった。お前の勇気のおかげで、仲間たちは救われた」

 

 

 

マイクの登場と彼の言葉で、その場にいた者たちは覚悟を決めた。この先に迫る恐怖と対峙する覚悟を

 

 

 

 

 

 

 

(お前らの好き勝手にできると思うなよ、ゴキブリ共)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マイケル・メイトリクス (愛称:マイク)

43歳 男性

出身国 アメリカ合衆国

 

MO手術 ■■型

マーズランキング ■■位

 

元特殊部隊隊長

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―シャワールーム―

 

水の音が延々と聞こえる個室………正確には個室であったというべきか。

その扉はひしゃげ、役割を成していない。

 

その室内は水で満たされていた。見れば水道が破裂し止めどなく水があふれ出ている。

そしてその部屋の壁には、胸元に深い刺し傷のあるテラフォーマーの亡骸が一体、寄りかかっていた。

 

 

 

 

 

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