時を遡ること、20分前
―シャワールーム―
彼女…ヨウはまるで凍ったかのように動くことができなかった……
シャワーの個室の扉を、誰かがずっと叩いているのだ。
ヨウ…そして彼女の所属する第四班の人間は、
何者かもわからない者が、扉を叩き続けているこの不気味さ……未知の恐怖
(決めた……誰だろうとぶちのめす……変態に屈してるようなあたしじゃない……)
彼女は不気味さを感じつつも、この現状を打破するために動くことにした。
「どこの誰だ―
「しゃがめ ヨウ!!!!!」
その声を聞き、彼女は咄嗟にしゃがむ。瞬時に動けたのは日頃の訓練によるものもある。
しかし一番の理由は、発せられた男の声に聞き覚えがあったからだ。
ガツンッ!!!!!
石の棍棒が彼女の胸部があった位置を通過し、扉を破壊した。
「じょうじじ」
後ろから聞こえる声は、本来この場にいるはずのない脅威
自分の背後にいる存在……本来であれば、認識した瞬間恐怖に恐れ慄いていたかもしれない。
しかし、彼女は余裕の表情をした。
それは彼女が、自分の身に降りかかった危機を脱したことを理解していたからである。
テラフォーマーが棍棒を振り上げようとした瞬間、扉の向こう側から目にも止まらぬ速さで男が持つナイフが、その黒い体の胸部を貫いた。
「じょっ」
咄嗟に反撃しようと男に摑みかかろうとするが、男は慣れた手付きでナイフを左手の平を使って深く押し込む。
決着は一瞬であった。勝敗は胸部から多量の体液を流す亡骸が物語っている。
白濁と透明の液体が混ざり合う床の上、ナイフを引き抜いた男はおもむろに言葉を発した。
「間に合った」
「…………何が間に合った、だ!!!もう少しまともな助け方はなかったのかよ!!!【
「あの状態じゃあ、ああするのが手っ取り早かったからな……万が一、お前がアイツをまともに見てたら動くのが遅れてただろうし」
「そ……それは………そうかもしれなかったけど………それでも、やり方ってものが……」
そんなヨウの様子を見て、男は何かを理解した。
「まあ、大丈夫だ。俺はそんなので欲情はしない。だから安心しろ」
「そういう問題じゃない! この馬鹿!!!!!!!!!!」
………一糸纏わぬ女に無抵抗で殴られる男の姿がそこにはあった。
「それにしてもよく
「感覚……としか言いようがない。もう体に染み付いているからな……」
着替え終わったヨウからの問いに、男はなんてことないように答える 。
「そろそろ行こう。多分、U-NASAが考えていた本来とは違うプランに変わる」
「…となると、
二人は何事もなかったかのように、
……そして時は戻る
―火星上空 アネックス1号—
艦内に侵入したテラフォーマー六体は幹部による駆除四体、乗組員による駆除一体、原因不明の死一体という形で終わった。
しかし、本艦は火星に侵入する頃には夥しい数の仲間に包囲されることとなった。
地球へ引き返すというプランも謎の圧力により絶たれた。
そのことを受け、艦長である小町小吉は乗組員全員に今後の方針を伝える。
『プランδに移行する』
プランδ 班毎に分かれてアネックス本艦を離脱する、各班がその他の班の目を離れる……
乗組員たちそれぞれが想いや覚悟、或いは不安を抱く。
それは特殊な立場にある彼らも同じであった―
・最高責任者
【小町小吉《こまち しょうきち》】
・第一班
【マイケル・メイトリクス】
(了解だ、小吉さん)
・第二班
【ビリー・アイザック】
(……なるほどなぁ)
・第三班
【メリア・ザハロフ】
(やるしかない……)
・第四班
【
(……………)
・第五班
【レイ】
(ついに…か……)
・第六班
【ロギンズ・セントルア】
【リリア・オイカワ】
(始まるのか……ミッションが)
(私たちがここに来た、その意味が)
各班に用意された高速脱出機へと、それぞれ赴く。
彼らはU-NASAによって選ばれた、火星の戦場における抑止力
小町小吉を最高責任者とする計8名の極秘チーム
各班各国の野望、裏切りを阻止し、火星探査本来のミッションを遂行するために、各班で活動が始まる……
火星における各国の監視及び抑止のためのU-NASA独自選抜チーム
Antares-アンタレス-