それではお楽しみください
落下するアネックス1号
機体の側面にはおびただしい数のテラフォーマーが張り付いている。
自分の住処を守るための行動か、それとも……
理由はともかく、その数を増していくテラフォーマーにより墜落を避けることはできない。
だが、これも想定内の事態である。
黒に染まりつつあるアネックス1号から6機の機体が射出された。
『プランδ』
アネックス1号本艦による帰還が不可能となった場合
全滅を防ぐため6班に分かれ、高速脱出機によりそれぞれ別の方向へと散開し火星へと着陸する。着陸後、各班連絡を取り合い本艦へと集合し、艦内を拠点として研究を行う……
これが緊急用の計画
高速の機体は襲い掛かるテラフォーマーを振り切り、それぞれの着地地点へと飛び立った。
――こうして火星に戦士たちが降り立った
仲間の運命を 愛する者の運命を
そして自分の運命を背負って
この地で目にするものは、希望か 絶望か――
―日米合同班第一班―
「大層なお出迎えだな……」
マルコスがため息交じりに呟くのも無理はなかった。
第一班が着陸したのはそびえる物が一切ない平野。
一見安全に見えたものの、立ちはだかるようにしてテラフォーマーの群れが前方より接近している。それも一匹二匹ではない。
「50匹…くらいか?」
「マルコスは非戦闘員の護衛を頼む。その他の戦闘員で奴らを叩く!」
班長である小町小吉の指示により、戦闘員はそれぞれの薬を手にする。
「総員、人為変態!」
次の瞬間、彼らの体が急激な変化を始めた。
手術によって埋め込まれた生物の遺伝子が発現していく。
脱皮を 羽化を 彷彿とさせる劇的な変化によって、多種多様な姿へと変化していく。
蜂の針、鳥の翼、カニやエビのような甲羅……
完全に生物の特徴が発現すること、それは戦闘の準備が整ったことを意味する。
「じょうッ!!!」
その一声が始まりの合図となった。
目にも止まらぬ速さで一頭のテラフォーマーが戦闘員たちの目の前に躍り出た。
その速さに対応できる者はおらず、一人の頭へと拳が振り下ろされた。
人間より遥かに強い腕力、そこから繰り出される打撃は一瞬にして頭部を破壊―
できなかった。
男—マイケル・メイトリクス―は攻撃を食らってなお微動だにしていなかった。
硬くざらついた皮膚からは血が僅かに流れるだけで、目立った外傷はない。
何かマズい…
テラフォーマーはここで初めて目の前の存在に対し危機感を持った。
持ったが、遅かった――
「次はこっちの番だ」
彼の拳が振り抜かれる。
鍛え抜かれた
「これで終わりか?ゴキブリ共」
今度はこちらの番と言わんばかりに戦闘員たちがテラフォーマーへと向かう。
その行動が引き金となり、テラフォーマーが一頭残らず駆け出した。
そのうちの二体がマイケルの元へ一斉に襲い掛かる。
圧倒的な力で左右から殴りつけられるが、何てことないように彼は片手でそれぞれのテラフォーマーの喉に爪を立てて握る。
二頭が焦って暴れようとも鋭い爪が逃走を許すことはなく、それぞれの喉が変形する頃にはどちらも動かなくなっていた。
白目を剥くテラフォーマーはマイケルの手から離れると、力なく地面に倒れた。
無力に倒された二頭ではあったが、時間稼ぎには成功していた。
突如として頭のないテラフォーマーが起き上がり、両腕をマイケルの方に向けたのだ。
何かする——それに気付いた非戦闘員たちは叫び、マルコスは駆け出す。
しかしある程度離れた場所での戦闘、そしてマイケルとテラフォーマーは至近距離
人為変態後のマルコスでも間に合わないことは明らかだった。
「マイケル!危ないッ!!!」
次の瞬間、煙によってマイケルの姿が消えた。
「マイケルッ!!!」
「大丈夫だ、安心しろ」
煙が晴れると無傷のマイケルが現れた。そして、先ほどまでいた首なしテラフォーマーは少し離れた場所で死骸として横たわっていた。その体には何か硬い物で打たれたようなひび割れた跡ができていた。
その跡を生み出したのは、テラフォーマーが初めて遭遇する存在だった。
爬虫類の持つ筋肉質で発達した尻尾である。
その生物はトカゲの仲間において最大の種である。
頑丈な鱗、その下に広がる皮骨と呼ばれる鎧、鋭い鉤爪、尻尾…様々な武器と3メートルにもなる巨体から繰り出されるパワーによって、彼らは生息地の生態系における頂点に君臨している。
島に生息するシカや水牛、かつて生息していた小型のゾウですら捕食する姿は、竜そのものである。
マイケル・メイトリクス
43歳 男性
出身国:アメリカ合衆国
マーズランキング:9位
MO手術:爬虫類型
コモドドラゴン
「来いよ、ゴキブリ共…その拳だけでかかって来い!」
解き放たれし竜による蹂躙が今、始まる