1.産まれながらの悪と…
「ここへ来い。聞こえねぇのか⁉︎ディオ、レオン……ゴホッ‼︎ゴホッ…」
不快な男の声が薄汚れた部屋に響く、隣で静かに本を読む我が弟……レオンは本を閉じて父の元へ向かう。
自分の時間を割いて行動するお前は我らの母の様だが、父の為となればその行動も不快に感じる。ひとまず私もレオンに続いて父の元へ行く。
「なんだい父さん。薬かい?」
「いや…薬はいらねぇ。ディオ…レオン……話がある」
胸を押さえながら咳き込み苦しむ我らが父、ダリオ・ブランドー。
私達が微笑んで尋ねるとその苦しげな表情が和いだ。レオンは善意から笑みを浮かべているが、私の笑みは貴様の苦しみからきているのだがな。
「お、俺はもう長いことねえ……分かるんだ。最後の気がかりはお前達兄弟だけだ……」
「そんな情けないことを言わないでください」
「レオン、お前は母親に似て良い奴だな……俺が死んだらこの手紙を出して宛名の所へ行け‼︎ 面倒は全部見てくれる。こいつは俺に恩があるんだ‼︎ ケケケ‼︎」
何の話かと煩わしく感じながらも耳を傾けると、12年前の日の事を話し始めた。父は激しい雨の日に偶然崖から落下した馬車の一行を見つけ、本性を隠そうともせずに落下した馬車の者達から金品を巻き上げたとのことだ。
その際にまだ生きていた男が何を勘違いしたのかダリオを恩人と認識した。しかもその人物は貴族の一員だという。
貴族の名はジョージ・ジョースター卿。命の恩人の頼みとあればと快諾し、我ら兄弟を養子として引き取る事を許したらしい。
「ディオ、レオンッ‼︎ 俺が死んだらジョースター家へ行けッ‼︎ お前たちは頭がいいッ‼︎ だれにも負けねえ一番の金持ちになれよ‼︎」
「「……」」
この男に心配されるなど呆れて笑えてくる。だが利用できるものは全て利用してやるさ!
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ロンドンの貧民街にある薄汚れた自宅の前へ停められた豪華な馬車…その迎えの馬車に乗り込むと、馬がゆっくりと歩を進め始め、道中は快適な移動となった。
ギャンブルやらで貯め込んでおいた資金で礼服を買い、礼儀作法を必死に学んだ。この日の為だけに財産のほとんどを使って準備してきたのだ。
「ジョースター家にはジョナサンという私達と同い年の子がいるみたいだ」
「らしいな」
我が兄、ディオ・ブランドーにそう言うと、ディオは興味無さそうに答える。まぁ予想通りだが……
実を言うと、私はこの世界の住人ではない。厳密に言うと違うが、私はこの世界の外で生きていた。ある日私は車に撥ねられ呆気なく他界したが、やがて朦朧とした意識が覚醒したのだ。そして気が付いたらコレだ……何故私が読んでいた読みかけの漫画…それも敵側の弟として生まれているのだ?
最初は夢だとも思ったが数日経てばその可能性は限りなく低い。夢というのは、見たことのない景色は鮮明に見れないものだ。しかし私がこの世界で生まれ育った貧民街はテレビ越しにも見たことのない薄汚れた所だった。それから私は現実逃避を止め…もとい、現実に戻ることを諦めて弟として過ごして来たのだ。
(ようやく本編とも言える出来事が始まる。ディオは第一部のラスボスだが兄だ……出来ることなら運命を変えたいものだな…)
そう決意すると、私は座席に座り直して楽な姿勢をとった。
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まもなく到着すると知らされ、やがて馬車が停止した。どうやら目的地に到着したらしく、ディオが勢いよく荷物を外へ放り投げて、原作通りの妙な姿勢で飛びだした。それに対し私は極普通に、ゆっくりと馬車から降りた。すると、ふと視線を感じてそちらへ目を向けてみる。質の良さそうな服を纏った少年がそこにいた。
ジョナサン・ジョースター…メタいことを言うと。第一部の主人公だ。
「君達がディオ・ブランドーとレオン・ブランドーだね?」
「そういう君はジョナサン・ジョースター」
「よろしくお願いします。ジョナサン」
「そんな畏まらなくて良いよ。あと、みんなは僕をジョジョって呼んでるよ」
「じゃあよろしく、ジョジョ」
ディオと違って、私は彼と親しくしていくつもりだ。なんせ私の前世は極普通の男子高校生だ。特に目立った点の無い、第一人称が「私」の少年……何故そんな私がブランドー家に産まれたのだろう……
ひとまず思考を切り替え、私は馬車から荷物を下ろす。すると騒がしい犬の鳴き声が辺りに響き、この家で飼われている『ダニー』と呼ばれる猟犬が走ってくる。
ジョナサンがその犬の説明をしていると、突然ディオが犬に近付く。原作を知っている私はそれより早くダニーの側に座り撫で回してやる。
私は動物が大好きだ。蹴り上げられるところなんて見たくない。
そうやって撫で回すとダニーはその場で横になり腹を見せてくる……可愛いじゃないか。
そこでディオを盗み見てみると、少し不機嫌な様子で私を眺めている。
「レオン。ばい菌が付くぞ」
「大丈夫だ、どの道手は洗う。ジョジョ、兄は犬が苦手なんだ。気にしないでくれ」
「そうなのかい? ビックリさせたのなら謝るよ」
動物愛好家ほどではないが、動物をあまり悪く言わないで欲しい。
ディオは弟に相手の方を持たれたのが癪だったのか、「フンッ」と鼻を鳴らしてソッポを向く。
「疲れたろう二人とも。ロンドンからは遠いからね、君達は今からわたしたちの家族だ」
屋敷の中へと召し使いに案内されて入ると、優しい笑みを浮かべる壮年の男性…ジョースター卿が私達を出迎えてくれた。
ディオと共に丁寧に一礼をすると、ジョジョが早速部屋を案内してくれる。
私が自分の荷物を持ち上げると、ディオの荷物を持とうとしたジョナサンが手首をディオに捻られている光景が見えた。
「何してんだ?気やすくぼくのカバンに触るんじゃあない!」
「うあぁ! う、うっ!」
コレだからディオは……
「ディオ。手荒な真似はやめてくれ」
ディオの手首を握って私がそう言うと、ディオは荒々しく手を離す。弟である私がコレだけ冷静だと、兄として派手には動けないのだろう。
それに対してジョジョは流石に不機嫌な様子でディオを見ている。私としては仲良くして欲しいのだが……
「ディオは警戒心が強すぎる。ジョジョ、済まないけど荷物を運ぶのを手伝ってくれないか?」
気まずい雰囲気が流れる前にわたしがジョジョを頼る。
部屋に着くまでの道中を笑顔で接していると、私はジョジョと早々に親しくなれたと思う。
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全く……我が弟ながら邪魔してくれる。犬を蹴ろうとした時も、ジョジョの腕を捻り上げた時もな。
レオンは昔から甘過ぎるんだ。貧民街の頃だって、お前の身に危険が迫っていたというのに、相手に情をかけてトドメをいつも怠るんだ。
かと言って不都合な点ばかりではない。レオンは俺が怪我して帰るとどこで覚えたのか応急処置をしてくれる。あのクズのような父が病気になった時も、健全に介護していた。まるでクズの血を受け付けず、母さんの遺伝子だけを継いだような弟だった。
だが俺はジョースター家を乗っ取って財産を奪いNo. 1になる。
それを知ったらお前は邪魔するだろうが、その時はお前でも容赦しないぞ………だができることなら、お前は俺の家族のままでいて欲しい…たった一人の家族なのだから。
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快適な一人部屋を与えられた翌日…私はベッドの上で布団に包まったまま目を覚ます。
朝は苦手でこのまま三十分は包まっていたいがそうもいかない。着替えを済ませて廊下へ出ると、丁度ジョジョが通りかかる。
「おはようレオン。昨日は眠れたかい?」
「環境の変わり具合に少し違和感があるがね」
(また暖かい布団で眠れて良かった)
私は前世の生活を軽く思い出す。当時は貧しくも裕福でもない極普通の生活……故に私は貧民街もココも未知の世界だ。
「そういえば君達は、双子なのにあまり似ていないね」
それもそうだ。私の今の姿は、髪の色以外は前世と瓜二つなのだ。だが奇跡的に、目付きだけは元々ディオに似ていてロンドン育ちと言って通る顔立ちだった。
「双子だからといって似てると思ったら大間違いだぞ」
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「また間違えたぞジョジョ!同じ基本的な間違いを6回もしたのだぞ。ディオとレオンを見ろッ‼︎20問中20問正解だッ‼︎」
ジョースター卿が手に持つ棒でジョジョの手を叩く。
苦悶の表情を浮かべているが、ディオはそんな様子など気にもとめず教本の先のページを予習している。
私も前世での成績は上の中でこの位は他愛もない。故に少し助け舟を出してみよう。
「少し見せてください………ジョジョ、ここの問題はだな…」
「レオン。あまりジョジョを甘やかすな。彼の為にもならないぞ」
「知ってるかディオ。人は教える事で自分もより深く理解する生き物なんだ。それに答えを教えるわけじゃないさ」
そう言って問題の解き方をわかりやすくレクチャーする。すると最初は眉間にシワを寄せていたジョジョだが、次第に表情が明るくなる。理解できたようだ。
「そういうことか! ありがとうレオン」
「気にしないでくれ」
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その後の食事のマナーでもジョジョは失態を繰り返し、食事抜きの罰を受けることとなった。
なぜ教えられた通りに出来ないのだろう? 流石に不思議に感じるものだ。少し落ち着きを持って音を立てなければ基本大丈夫だというのに……
食事を終えると私はディオに連れられて彼の自室へと入る。心なしか苛立っているようだ。
「なんだ?」
「レオンはレオンで行動してくれて構わないがジョジョにはあまり関わるな」
やはり何もかも奪うつもりなのだろう。
「ディオは少し、ジョジョと仲良く出来ないのか?」
「ふざけた事を言うなよな。俺は養われる為に来たんじゃない…乗っ取る為にジョースター家に来たんだ。あいつから何もかも俺が奪い取り、孤独に追い詰めてふぬけにしてやるさ」
「私に明かしていいのか? そんな大事な事を…」
「構わないさ。僕は一番が好きだ。No. 1だ! 邪魔する者は弟でも容赦しない」
「そうか…それじゃ私は、ディオが改心できるように徹するよ」
その言葉を最後に、私は静かな足音でディオの部屋を出た。そして扉を閉めて耳を扉に当てる。
元々小さな足音だ。ディオは立ち止まってることに気づかないだろう。
「……やはり…か」
扉の向こうでディオが呟いた。どうやら家族の情は、まだあるらしい。
・レオン・ジョースター(ブランドー) 男
前世は男子高校生だったが事故に…転生して今に至る。
趣味は人間観察…前世の記憶は飛んでいる。
第一人称は男だが「私」。これには何か理由があったはず……
現時点では特徴の無い少年