ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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10.メキシコに吹く熱風

 ジョセフとシーザーが波紋の修行を行っているある日、私はエア・サプレーナ島と言う修行場所で、彼等の修行風景を眺めながらワイングラスを傾けていた。

 

「どうだ…二人の調子は」

 

「二人とも競争心のおかげで、みるみるうちに力をつけているよ」

 

 日の入らぬ室内にスピードがやってくる。今日は大事な話があり、ここへ来たらしい。

 

「それで…話というのは?」

 

 事前に用意したワインボトルとグラスを取り出し、私は彼の分を注ぐ。

 

「話…というより相談だな。レオンの考えを聞きたくてな」

 

 そう言ってワインを一口飲み、本題を話し始めた。

 

「四人目の柱の男を見つけた」

 

 サンタナか……いや、アレの名を付けたのはドイツ軍人…まだ名前は無いか。

 

「そうか……残り三体はナチスがローマで保管しているのだったな」

 

「新たに見つけた柱の男は、我が財団が遺跡ごと確保している……のだが」

 

「……のだが…なんだ?」

 

 歯切りが悪そうに言葉を止めて喉にワインを通す。

 

「……ある軍の男が柱の男を渡すように交渉してきた」

 

「なるほど……ナチスの軍人か」

 

 渡すべきか渡さぬべきか……それが相談の本筋だな。だとすれば……

 

「渡すべきだな。できることなら更に協定を結んで欲しい」

 

「……ドイツ軍人に任せた上で、財団とナチスで協力する。それがお前の意見か?」

 

「あぁ…次会うのはいつだ?」

 

 奴らの科学力なら我々に出来ぬことも可能だろう。

 

「その交渉の答えを今日の夜に出すという約束だ」

 

「なら今すぐ行こう。私もついていく」

 

 それを聞いて窓の外へ視線を戻す。既に太陽は沈みつつあるが、念の為に仮面と帽子と傘は持って行こう。

 

「そう言うと思ったよ」

 

 そして私達は部屋を出て、待ち合わせ場所へ向かった。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 島を出て数十分……待ち合わせの場所はホテルの一室とのことだ。

 特に問題もなくその部屋に私達はたどり着く。

 

「失礼する」

 

 そう言って中に入ると、軍服を着た男が五人……そのうちの一人はソファーに座り、あとの四人は銃を持ち後ろに立っている。

 

「貴様がスピードワゴンの話に聞くレオン・ブランドー…いや、レオン・ジョースターと呼ぶべきかな?」

 

 言葉を発するたびに大なり小なりアクションをつけるこの男は、ルドル・フォン・シュトロハイム。波紋を身につけずに武装のみで柱の男に立ち向かう軍人だ。

 

「姓は捨てた。レオンでいい」

 

「そうか、ならば遠慮なく呼ばせてもらおう。ひとまず座りたまえ」

 

 そう言われ、私とスピードは向かいのソファーに座る。すると彼の後ろに立っていた男が二人、私達の後ろに回りこむ。

 

「では早速だがスピードワゴン…答えを聞こうか?」

 

「……今回の件は全て彼に任せている」

 

 スピードは顎で私を指す。当の私は傘と帽子を軍の男に託して壁に置いといてもらう。

 オイオイ…私は話がどう転じるか知りたくて付いてきたんだ。急に私に全責任を押し付けるなよ…

 

「随分と信用されているじゃないか。ではレオン…君の決断を聞こう」

 

 足を組み直して腕を組み、見下すように私を見てくる。私は一度スピードに目を向けると、彼の表情からは決してふざけて責任を押し付けたわけではない事がわかる。

 昔から変わらないあの眼差しを向けて、私が口を開くのを黙って待っている。

 

「ハァ……その前に聞きたいことがある。念の為に聞くが盗聴は?」

 

「もぉちろん‼︎心配せんでいい」

 

 少し驚く発音で自信満々に答えてくれる。ならば私も質問しよう。

 

「柱の男…吸血鬼…石仮面……どこまで理解している?」

 

 大前提として柱の男達の危険性を十分把握していないととても困る。私は真剣な眼差しでシュトロハイムの答えを待つ。

 

「それを貴様に言う必要が……何故ある?」

 

 そう言う彼は私を警戒する。無理もないか………

 

「我々は柱の男を倒す準備を進めている。それは君達も同じだろう?日光と波紋…その他の弱点を知るために、四体の中で最も弱い柱の男を手に入れようとしている」

 

「随分と勘が鋭いじゃないか…貴様こそどこまで知っているのだ?」

 

 一度スピードを見ると、彼は意図を察したのか頷く。好きに話していいようだ。

 

「奴らの狙い…倒し方…石仮面の用途…吸血鬼…餌…近々目覚めること…まぁこんなものか」

 

「ほう…」

 

 難しい顔をして上半身を仰け反らせる。

 

「一度話を最初に戻そう。譲る譲らないの答えを聞き、そして貴様がどうしたいのかが聞きたい」

 

 やれやれ…仕方ないな。敵ではないし全て教えてやろう。

 

「君達に譲った上でスピードワゴン財団と協力し、柱の男の研究を進めてほしい。奴を目覚めさせる実験をするならば、私がその時は立ち会う。これが条件だ……そしてこれはお願いだが、ある事を試して欲しい」

 

「ある事……だと?」

 

 この言葉にはスピードも疑問の表情を浮かべている。

 

「四人目の柱の男、仮にサンタナと呼ぼう……少し耳を貸してくれ」

 

 妖艶な笑みを浮かべて私は身を乗り出す。そして二人に私は耳打ちした。

 

「なっ!」

 

「ブゥァアアカか貴様ァ⁉︎」

 

 …その発音の仕方はやめろ…凄い唾が飛ぶ。

 

「そんなことをして何になる⁉︎貴重な実験体を無駄にするきかァ?」

 

「私のような吸血鬼では勝算が低いのだ。これが成功すれば大きな戦力となる」

 

 私がそう言うと、シュトロハイムは右手を上げる。すると四人が私に銃を構えた。

 

「貴様……今何と言った?」

 

「そうか……言い忘れていたな。私は吸血鬼だ。だがただの吸血鬼ではない…善人だ」

 

 そう言って八重歯を見せたり、気化冷凍法で腕を凍らしてみる。

 すると吸血鬼だという事を信じたのか周りの軍人の手が震える。

 

「……ひとまずサンタナは君達に譲る。条件は守ってもらうが、お願いの方はひとまず忘れてもらって構わない」

 

 そう言って立ち上がると、それに合わせて銃口が動く。しかし私がシュトロハイムに視線を下ろすと、彼はゆっくり手を下ろし銃を下げさせた。

 

「では今日は失礼する。サンタナを起こす事があればスピードを通して連絡をくれ」

 

 そう言い残して私とスピードは立ち去った。

 

「……スピード…任せるなら事前に言って欲しい」

 

「いや済まない、伝え忘れていた。私よりレオンの方が口先は切れるからな」

 

 まったく……私は自ら向かおうとしたが、スピードは最初から、私をこの場に引き摺り出す気だったのか。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 柱の男達が目覚めるまで後どれくらいだろうか……私に出来ることは少ない。

 だが逆に、少ないからこそ一つのことに集中出来るものだ。

 

「シッ!」

 

 集中して鞭を振ると、狙った的の中心に先端が被弾する。

 

「……不安だな」

 

 この鞭はスピードワゴン財団に作ってもらった私専用の武器だ。

 長さ8mの強化ワイヤーで作り、持ち手の反対側はナイフになっている。

 

「そういえば……今頃ジョセフとエリナはニューヨークか?」

 

 懐中時計を手に取り時刻を確認する。明日になればきっとスモーキーという黒人少年と知り合いになるだろう。

 

「レオン様、使い心地はどうですか?」

 

 ここはスピードが用意した練習場で、私の後ろには武器開発担当の若い男が立っている。

 

「もう少し刃を伸ばせないか?」

 

「これ以上伸ばすと動きに支障が…」

 

「仕込み刃にしてくれ。あと伸ばした分だけ刃を厚くしてくれると助かる」

 

 長さに合わせて強度を上げなければ簡単に折れてしまうかもしれない。なんせ相手は柱の男だ。

 無機物状態では効果を発揮しないが、波紋でなくともダメージは与えられるはずだ。確かサイボーグとなったシュトロハイムが、徹甲弾でダメージを与える描写があったはず。

 

「直ちに取り掛かります」

 

 私のリクエストを聞いて、青年はすぐに開発に取り掛かる。

 ひとまず鞭の方に改善点は見られないし、こっちの練習に集中するか。

 そう思った矢先に、財団の人間が一人…大急ぎで私の元へやってきた。なにやら私宛に電話がかかってきたらしい。

 

「私だ……なんだと?」

 

 私は耳を疑った。だが何度聞き返しても返ってくる答えは同じだ。

 

「……わかった。私がなんとかする……いやエリザベス達は修行に集中させろ。もうすぐ奴らが目覚めるのに、無駄な戦いはさせられない……比較的弱い個体だ、どれくらい通用するかも確認したい」

 

 そう言って一方的に電話を切ると私はすぐさま走り出した。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 私の名前はケライン・エーデルガルト。新兵だが女である事を捨てて国の為に戦う誇り高きドイツ軍人だ。

 私は今実験体を追って民家の影から身を乗り出している。隣にはもう一人軍人がいるが頼りない…クソが!こうなったのは全部少佐のせいだ。

 レオンとかいう男どころか、スピードワゴン財団の人間にすら秘密にして実験した結果がこれだ。シュトロハイム少佐の命令でサンタナを起こしたは良いが、あいつはドイツ軍の科学力をもってして作った独房を脱走したのだ!それも軍の男一人の体内に入って……そして私は見た……日が沈みきったと同時に、男の身体は爆ぜるように千切れ、中からサンタナが現れた。

 

「日が沈んだ今、どうやってあいつを殺すというんだ?俺たちが餌になるだけじゃねぇかよ」

 

「静かにしろ…奴に見つかる」

 

 奴は今民間人を捕食しながら村のどこかを徘徊している……少佐は血眼になって追っているが手が付けられない。なす術がないにもかかわらず、我々に始末するよう命じた。

 

「時間稼ぎにも良いとこだ…これじゃ俺達の命が絶えるだけだ!」

 

「静かにしろと言ったはずだ」

 

「俺一応お前の先輩だぞ?」

 

 私は誇り高きドイツ軍だ……私は恐れない…例え死ぬとわかっていても…無駄だとわかっていたとしても。

 

「私は屈しない!必ず使命を…」

 

「五月蝿…い、と思え…ば」

 

「…………ぁ……」

 

 いつの間にか私の背後にはサンタナが立っていた。

 

「HUOHAHHHHH」

 

 独特な奇声とともに奴の手が隣に立っていた男に伸びる。触れた瞬間、男の頭は吸い付くように掌に埋まり一体化していく。

 ビクンビクンと男の首から下が大きく痙攣しているが、私は直感でもう死んでいると確信した。

 

「私は…屈しない…絶対に……」

 

 銃を持つ手が震える…ここに配属されたのも最近で、実を言うと初任務だ。訓練以外で銃を発砲するのも初めてだし、殺そうとする動作自体初めてだ。

 

「止まれ……止まれ……」

 

 ゆっくりと近づいて来る化物に……そして私の震えに対してそう言った。しかしどちらも止まらない。私がゆっくりと後退するだけだった。

 

「私は屈しない…私は屈しない…私は……ぅ」

 

 私は背中を向けて逃げ出した。銃を抱き締めるように抱えながら…自分が情け無い…軍に入った当時はあんなに殺意に満ちていたというのに、今は恐怖しか溢れてこない…

 

「逃げるの、か?」

 

 私が走り出すと奴も私を追って走り出す。

 私は足を止めずに銃をだけを後ろに構えて発砲した。被弾したかどうかは確認できない。わかるのは重い足音が次第に近づいてくることだけ…

 

「せめて…震えだけでも止まれ!屈するな!恐怖に!」

 

 サンタナを私の家族を殺した犯人だと思え…そうだ…妬め、恨め、呪え…奴が殺したんだ奴が!

 

「サンタナァァア!」

 

 振り向いて銃をしっかり構えて発砲しようとする……しかし発砲音は聞こえず、カチッ と言う情けない金属音が耳に入る。同時に…私のなけなしの勇気が空になる。

 

「弾切れ……嘘だろ…」

 

 あぁ……私はここで死ぬのか……ごめんなさい、父さん、母さん。貴方達の娘は何も達成できずにそちらにいきます。

 これが走馬灯か?嫌なものだな……私の前で両親が殺された時の映像が流れる……そう…此奴だ……此奴に私の家族は殺されたんだ。顔が中途半端に腐ったような化物に……あれ?なんで私はあの時生き残ったんだっけ?親が殺された後、確か私も襲われたはず…

 

「逃げるのは…止めたのか」

 

 そこで私は現実に引き戻される。奴の腕が私に伸びる……私もあいつみたいに吸収されるのか……

 

(大丈夫か?)

 

 何処かで聞いたことのある声だ…これは走馬灯の続き?…そうだ、思い出した……私は仮面を被った白髪の男に助けられて……確かデビルと呼ばれてるんだっけ?まぁいい…どうせこれから死ぬんだ。どうでもいい。

 

「聞こえないのか?おい」

 

 私の顔を誰かが覗いている……そうそう…デビルの仮面も、顔を隠す事だけを目的としたような、何のデザインもない黒い仮面だったな……こんな感じの……え?

 

「お前は……デビル?」

 

 かつて私の命を救ってくれた殺し屋……その本人と思われる方に、私は今抱かれて空を跳んでいた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 やはり仮面は外して来るべきだったか?まさか殺し屋の顔を知ってる奴が軍にいたとは……住民に見られても問題無いように装着してきたのだが……

 

「貴様…吸血鬼か?」

 

 サンタナが彼女を殺そうとしていたので、私は彼女を抱いて飛んで逃げていたのだが……すぐに追いかけて来たようだな。

 

「吸血鬼……まさかお前がレオン?」

 

「君…ひとまず逃げるなり隠れるなりしていてくれ……邪魔だ」

 

 私は仮面を被りなおし、腰に下げていた試作品の鞭を手に取り構える。

 

「そんな軟弱な武器で戦うのか?無理だ!奴には銃器だって効かないんだ!」

 

 私の言ったことを無視して、軍人の女性は私に警告してくる。それに返答しようとも思ったが、サンタナが攻撃してくるので私は反撃に出る。

 

「遅いな」

 

 横に飛んでそれを躱すと、私は鞭を振り回し風を切る。特注品のコレは普通の鞭と素材が違う…仕組みが違う…そして破壊力が違う。

 軌道に合わせて鞭の芯が遠心力を先端に集めようと自動で僅かに変形するのだ。

 

「NUUUAHAA!」

 

 先端に被弾した奴の右腕が抉れる。波紋の力はもちろん備わっていないので、すぐにくっ付いてしまうだろう。

 

「この武器は軟弱じゃない……柔軟なだけだ」

 

 奴が怯んでる隙に自分で編み出した技を放つ……と言っても、計算上もっとも先端にパワーが集まる動きなだけで技とは言えない。

 

「行動に出てからダメージを与えるまで三秒かかる…戦闘中では致命的な隙だが、当たればこの通り……え」

 

 最も長い時間を必要とする最も攻撃力の高い技がサンタナの胸部に被弾する。すると奴は血液と肉片をばら撒きながら、左肩、頭、それ以外の三つに分裂する。

 

「……この通り、徹甲弾を凌ぐ威力を発揮するのだよ」

(まじか……ココまで威力あんの?)

 

 内心ビビりながらもそう言うと、彼女も驚愕している……いや…あれはショッキングな光景を見て気分を悪くしているな。む?

 

「だがコレを食らっても生き残るのが柱の男だ。一旦離れるぞ」

 

「お、お前の助けなんかいらん。私は誇り高きドイツ軍人だ」

 

 先程まで逃げ回っていたのにガンコな女性だ。

 

「いいから掴まりなさい」

 

 強引に抱き抱えると何か私に抗議しているが軽く聞き流す。顔が赤かった気がするが気のせいだろう。

 

「肉片が集まりだしたな……」

 

 ある程度距離を取ったところで振り返る。するとそこには、原型がほぼ戻ったサンタナが立っている。その表情は怒りを露わにしていて、私の方へ突進してくる。

 

「さっき私の助けはいらないと言ったな?」

 

「え?」

 

「ターゲットは私だ。幸運を祈る」

 

 私は彼女を適当な所で下ろし、急いでその場を離れる。するとサンタナはやはり私を追ってきて、女性の方には目もくれない。

 

「そうだ私を追ってこい」

 

 サンタナは全力で私を追いかけてくる。走る速さは私と同じくらいか…下手すれば追い付かれる為、私も目的地まで全力疾走だ。

 やがて街を離れ、私は視界の悪い森にやって来る。もちろん後ろにはサンタナが追ってきている…さっきよりも距離が縮まっているな。

 

「逃げれると思うな!」

 

「…そうだな…だが町から離れた。被害が出ないなら良い…ここで殺ろうか」

 

 鞭を構え直しサンタナと向き合う。すると奴は私に突進してくる。そのまま走り抜きながら吸収でもしようというのか?かなり単調な攻撃だぞ…

 

「あまい…」

 

「何ッ!」

 

 横に飛んで避けると、奴の脇から肋骨と思われる骨芯がとび出る。

 そしてそれは私の右腕を切り裂く。

 

「チッ…掠っただけか…」

 

「あぁ、そのようだな」

 

 掠ったと言っても、骨に達する傷が二本上腕に入っている。あまりの早さで吸収こそされなかったが、治るまで上手く動かせない。しかも傷をくっつけるために反対の手で押さえていないとな…

 

「次で決めてやろう!」

 

 先程より流暢に意気込んで、奴は私に向かって突進してくる。横に逃げたらニの舞になるし、飛び越えてもきっと同じだろう……となれば…

 

「迎え撃つ」

(これは賭けだ…これが成功すれば、今後の戦いが大きく変わる!)

 

 私は奴に向かって跳躍して顔面に蹴りを放つ。

 

「何を血迷ったか!バカムッ!」

 

 バカめ…と言いたかったのだろう。しかし私の蹴りが奴の顔面を捉え、発せられた言葉が歪む。仕方ない…代わりに言ってやろう。

 

「バカめ……」

 

 避けるなどといった考えが無かったのか蹴りを当てるのに苦労はしなかった。逆に奴は私が避けると思っての突進だったので、踏ん張ろうとするはずも無く後頭部から地面に叩きつけられる。

 

「これは嬉しい誤算だ。為になったよ」

 

「何故だ…何故吸収されん!」

 

 気化冷凍法で蹴る瞬間に、自分の足を凍らせただけだ。奴は細胞で消化液を出して吸収する……吸収する対象と細胞の間に氷があれば、吸収するのに一瞬時間が掛かる。ならば吸収スピードを上回る速さで攻撃すれば、一瞬の接触は許されるのだ。だが皮膚が僅かに吸収されている…カーズ達には恐らく通用しないな。

 

「種明かしをするつもりは…無い」

 

 抑えていた腕をゆっくり離すと、完治こそしていないが既に腕は満足に動かせた。

 

「餌の分際で…とでも言いたいのか?」

 

「餌の分際で……ハッ!」

 

「………今のは偶然だ」

 

 それはジョセフの十八番だろうと思いながらも、鞭を構え直した私は距離を取って盛大にソレを振り回す。鞭の先端は風を切る音を鳴らし、今触れれば肉片が飛び散るだろう。話に聞く限り、鞭の最高速度は音速を超えるらしい。

 

「おのれぇ……」

 

 私が鞭を振り回すと、破壊力を知っているサンタナは動きを止めて慎重になる。振り回すだけのこの行動が罠への布石だとも知らずに。

 

「今だ…やれ……」

 

「イケェ!紫外線照射装置ィィィィ!」

 

 独特な発音と共に眩い光がサンタナを四方から包んだ。すると奴は悲鳴を上げてその場を離れようとする。しかし私の鞭が足を捉え、サンタナはその場に崩れ落ちて無機物に変化する。

 

「…ふぅ……シュトロハイム。こんな事二度とゴメンだからな?私が信用出来なくとも、波紋使いに声くらいかけろ。キツイ言い方だが、貴様のせいで多くの住人が…」

 

「わかったと先程に言っただろうがァ!今回の件は酷く反省しておるわァ!」

 

 逆に半ギレする様にそう言ってくると、シュトロハイムは被っていた帽子を更に深く被り再度謝罪する。

 

「…すまん……手間取らせてしまったな」

 

 私が場所を移動した本当の意味は、私がここで紫外線照射装置を用意して待機するように軍の人間に指示したからだ。

 でなければ鞭を満足に振るえないこんな森に来たりしない。だが直線的に飛来させてあの威力か…千切れはしなかったが、肉を抉る程度の威力…ふむ。

 そうやって武器の事を考えているとシュトロハイムが姿勢を正し、こちらに向かって敬礼をする。

 

「本来ならばイギリス人との協力などゴメンだが、このシュトロハイムは勇気ある者を尊敬する。レオン……貴様が善人な吸血鬼だという事実…友人として信用しよう!」

 

 ようやく信用が得られたところだが、ひとまずサンタナを移動させなければな。光を当ててる間は大丈夫なはずだが……

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