今回ばかりは死ぬと思った。
あれが柱の男か……前世の記憶が正しければ、石仮面とエイジャの赤石で究極生物となり更に強くなる……そうなれば誰も勝てない……確率が低いが、そうなったら火山噴火などで地球外に放り出すしかないな。
「さて……お前達は今回の戦いでどう思った?」
私は今スピードワゴン財団が有する病院の一室で仁王立ちしている。そこにはジョセフとシーザーがベッドに横たわり、リサリサは腰を下ろしている。
「どうって……」
「…実力不足だと私は思う」
口籠るジョセフを見かねて私が言う。
まさかリサリサまでやられるとは思わなかったが、相手がカーズだとあり得るのか。
「冷静に対処しようとしていたリサリサも、奴らを見てそれに勘付いて焦っていた……光の目眩しがあっても、私がプレゼントした波紋探知機の役割をするマフラーで気付けたはずだ」
不甲斐ないとばかりにリサリサが俯向く。もちろんシーザーも無力感を感じたのか歯を食いしばっている。
「そこでリサリサ…サプレーナ島に戻り再び二人の修行の面倒を見てくれ。それもハードなやつ…一ヶ月以内に奴らを倒せるくらい、それこそしごき殺す勢いでな」
「オウ ノォーーー!またあそこで修行すんのかよ!俺は嫌だぜ!」
私に抗議するジョセフを見て、私はある事を告げる……奴らが私を逃しても問題なかったわけ…それはいずれ出会う確信があったからだ。
「奴がやすやすと逃がしたわけ…それはジョセフ、シーザー……お前達二人の今の状況が人質と同じだからだ」
「人質?いったいどういうことですか?」
私は二人の体内に猛毒の入った指輪を引っ掛けられていることを教えてやる。
「二人は奴らに指輪のようなリングを埋め込まれたんじゃないのか?」
私の問いに、二人は一度顔を見合わせてから頷く。
「それを奴らは死の結婚指輪と呼んでいた。リングの中には毒が入っていて三十三日後に外郭が溶ける。そして毒が全身に回る前に、リングをつけた本人を倒して解毒薬を飲まなければ君達は死ぬ」
淡々と私は事実を告げる。すると私以外は絶望にあふれた表情を浮かべる。至極当然の反応だ。
「君達に告げることは以上だ。精々死ぬ気で死ぬまで修行しろ…さもなければ、三十三日後に死ぬ。わかったな?」
そう言って私が荷物を持って病室を出ようとした時、ジョセフが私に話し掛けてきた。
「へっ……また保護者面か」
「……何か言ったか?」
聞こえているがあえて聞き直す。
「血も繋がってねぇテメェに保護者面される筋合いはねぇ!つってんだよ!」
怪我した身体を持ち上げて私の胸倉を掴む。かなり苛立っているな…
「やめなさいジョジョ!」
「テメェは仮面被って楽に力手に入れて、敵わない敵は波紋使い任せで楽な立場だよなホント!部外者はすっこんでろ‼︎」
ジョセフに手品や手先の器用さを教えたのは私だ……だがジョセフはそれで私に勝ったことがない。
当時は幼かったからそれが気に食わなくて私は毛嫌いされたが、その名残で事あるごとに突っかかってくるのだ。
「要するに……修行するかは貴様の勝手……私の命令を聞く義務はないと?」
私だって仏ではない。目の底に怒りを込めて微笑むと、ジョセフは少し後込みながらも肯定してくる。
そうか………見損なった。
「ッ!」
「ジョジョ‼︎」
私は支障が出ない程度にジョセフを殴り飛ばす。私はジョジョとの約束を果たすべく貴様の助けをしている。ジョジョの孫だからであってジョセフだからではない。
「なら修行しなくていい。貴様はいつも通りサボって怠けてエリナの側で私の帰りを待っていろ。ジョジョとの約束の為に助けてやる」
私を睨むジョセフには目もくれず、部屋を出る途中にシーザーの肩に手を置く。
「私もやれる事はやる……共に戦ってくれるか?」
「………はい」
重い空気の中シーザーが答える。
「ケッ。カッコつけやがって…吸血鬼のテメェに何ができんだか」
「それ以上私に見損なわせるな。まったく…ジョジョと似てるのは身体付きだけか……」
そう言って担いでいた荷物の中から特製のガラスケースを取り出す。
「なっ!それは!」
「ワムウの右腕だ。波紋が無くとも、これぐらいの事は出来る。今のジョセフよりは万倍役に立つさ。リサリサ…私は例のプロジェクトを進めてくる」
そこで私は話を止めて部屋を出た。後ろでジョセフが騒いでいるが、あんな奴と話しているだけ時間の無駄だ。
「…まったく……貴様の孫はいつまでガキなんだ?」
ロケットを握りしめ、私は独り言を呟いた。
ー
ーー
ーーー
「コォォォォオ!」
アレから数日たったある日…リサリサはレオンに言われた通り、波紋の指導に力を入れていた。その場にはシーザーとは別にジョセフの姿もある。
修行中だというのに不機嫌で、レオンとの喧嘩に後悔しているらしい。
「リサリサ…調子はどうだ」
「レオン……!」
ちょうどこのタイミングでレオンがサプレーナ島に到着する。
ジョセフの視線を感じるがレオンは見向きもしない。
「何か用?」
「別れた日の翌日に手術を行った。結果はこの通りだ」
レオンは十メートルほど跳躍してみせる。明らかに前よりパワーアップしていた。
「…ジョセフも修行してるのだな」
「えぇ…貴方に言われた事を気にしてるようよ」
「そうか……それでリサリサ…お前の足は?」
私の質問にリサリサは俯き、申し訳無さそうに首を振る。
彼女の脹脛にはカーズにつけられた大きな傷があり、歩くと足が突っ張っているのが一目でわかった。
「そうか…なら今は、その足を治すことに専念してくれ。それと、表で二人が修行してるということは、地獄昇柱は空いているな?」
地獄昇柱(ヘルクライムピラー)
多くの波紋修行に来た者が死んでいったという塔の中にある過酷な修行場所だ。
「空いてるには空いてるけど……それがどうしたというの?」
「…私も波紋を身に付けようと思ってね。君が満足に戦えない分、私も力をつけないといけないからね」
ー
ーー
ーーー
「波紋?…レオンさん…貴方は自分が吸血鬼だというのをお忘れですか?」
修行中のシーザーが疑問に思って声を掛けてくる。それを聞いて私は右手に波紋を纏わせる……付け焼き刃でまだ未熟でジョジョやジョセフよりは遥か格下だが、ストレイツォはコレでも才能がある方だと言っていた。ちなみにジョジョの才能値を300とすれば、私の才能値は10だ……15人に一人の才能だとも言っていたな。正直微妙すぎてなんとも言えない。
「な、なんでテメェが波紋使えんだ?」
たまらずジョセフまで私に質問してくる。その驚いた顔が見れて私は満足だ。
「貴様が逃げ出すと仮定していたからな……私も波紋を身に付けようと試行錯誤を繰り返し、人間に返り咲いたのさ。それで古き友人、ストレイツォに波紋の基礎を習ってきた」
いきなりの話でリサリサ以外は付いてこれていないな……
私はまず最初にサンタナの細胞を少しずつ私に移植した。所詮吸血鬼は餌……逆に細胞に食われかけたが、私は何とかそれを取り込んだのだ。
「ローマで気分が悪かったのはそのせいだ。そしてあの時必要だったのは休息ではなくリハビリ……体を動かすたびに細胞は身体に馴染んだよ」
そして次に私はワムウの右手から細胞を移植した。流石にこれは強烈で、その日と翌日はトチ狂ったように悶えたな……日が沈むと同時に外へ飛び出し、70km程走ったところでようやく体に馴染み始めた。
「そうやって私は吸血鬼と柱の男を足して二で割ったような存在となった。そしてカーズ達の狙いであるエイジャの赤石……それもリサリサが持つものより純度の低いもので進化し、太陽を克服したのだ。他に質問がある人いるか?」
案の定……二人は口を開けて固まっている。ので私は無視して話を付け足す。
「それでも私の今の力は柱の男と比べれば十分劣る…吸血鬼としての能力は陽の光や波紋を使ってる間は皆無…それこそ人間だった頃の身体能力に近い」
「ちょ、ちょっと待て!話が急展開すぎて頭パンクしそうだ!」
「理解しなくていい。戦わない貴様には関係ないだろ?」
その言葉が癪に触ったのか…しかし何も言い返せないのか、ジョセフは修行に戻った。
「波紋も二人の才能に比べれば劣るが、そこそこはできる」
「それで波紋の修行に来たのですね?」
「あぁ…というわけで、地獄昇柱借りるぞ」
そう言って私は、塔の中にある立て抜けの空洞に飛び降りた。
底には腰まで浸かるほどのオイルで溢れ、真ん中に聳え立つ柱からはオイルが滴り落ちている。
波紋の力でこれに引っ付き上まで登る……そういう修行だ。
「ふむ…わかりやすい」
私の現在の波紋は、原作のジョセフの修行前くらいだろう……ともなれば、時間を掛ければ何とか登りきれるはず……
ー
ーー
ーーー
私がエア・サプレーナ島に来てから一週間がたった。その一週間をかけて私はようやく柱を登りきった。地獄昇柱を登りきって外へ出ると、そこには更に波紋の力を身につけていたジョセフとシーザーがいた。
「………所詮は…不完全品ということか………フゥ…」
彼らを見たところ私の波紋は、地獄昇柱こそクリアしたが彼らの3割にも満たないだろう。
そして波紋を使ってる間はやはり、吸血鬼としての能力はほぼ失われる。その為スタミナも常人並み……私は肩を上下に動かし、波紋の呼吸を乱しながら酸素を取り込む。
「おやおや〜ん?レオン、テメェ修行サボってんじゃねぇぞ」
「丁度さっき地獄昇柱を登りきったところだ…にしても…お前はいつまでたっても子供のままだな」
「んなっ…いきなりにゃにをぉ〜⁉︎」
「昔からそうだ……私と喧嘩して負かされて…叱ったらヘソ曲げて、しばらくすると忘れた素振りを見せてふざけた口調で話しかけてくる」
私がそう指摘すると、ジョセフはムッとした顔をしてソッポを向く。ちなみにアレから私とジョセフは、どちらも謝っていない。
「……で…あんたはどうするつもりだ?」
「私の波紋の成長速度は遅い。私の身体は日光を克服したが完全ではない……波紋を使ってる間、私の身体能力は弱体化する」
「それは知ってるぜ……かといって、波紋以外に奴らを倒す決定打に、心当たりあるのか?」
そこで私は立ち上がり、腰に手をかける。
「あるよ。小型で強力なとっておきがね。波紋を流せば内側から破壊できるだろう」
となると、また私は鞭の鍛錬を始めるかな。
「にしてもレオンも無茶するよな」
「誰も理解しきっていない石仮面を被り、私を捕食する者を捕食し、弱点とも言える日光にその身を投げた……何度も無茶を繰り返さないとジョースター家は守れない」
そう言い残して部屋を出ると、私はメッシーナかロギンスを探しに向かった。彼らに対人戦でも頼もうと思っての行動だ………無謀かもしれんが。
ー
ーー
ーーー
私が一人で向かったその場所は、剣山で埋められた場所があったり戦いの中で使う仕掛けでいっぱいだった。
「ロギンス、メッシーナ!……ここにもいないか……いったいどこにいるんだ?」
目的の人が見つからず、私は足に波紋を集中させて剣山の上を歩いてみる。この程度はできるのだな……そんな事をしていると、誰かが海から上がって来た。それを耳にした私は剣山から降りて警戒する。
誰かが海から上がってきた……それだけのキーワードで、私はある原作知識を思い出したからだ。
「ふぅ……やはり泳ぐのは疲れるな。この島に着くまで大分時間を使ってしまった」
島へと上陸した男は一息吐き、周りの状況を確認した。
実にタイミングが悪いな……海から上がってきた男はエシディシだった。原作ではこの地に同じように泳いできて、ロギンスを殺した後にジョセフと戦い敗北する。しかし今この場所には私以外味方はいない……かといって逃げれば誰かが殺されるかもしれないし、リハビリ中のリサリサの元に行かせるのだけは防がねばならない。
「エイジャの赤石があると情報があった島……確かエア・サプレーナ島だったか?この島のどこかの塔に赤石を持った女が住んでいるという噂だったが………貴様は……」
「泳いで来たのか…ひとまずお疲れ様、エシディシ」
私にピントを合わせ、奴は静かな足取りで近付いて来る。不意打ちでもかましたかったのだが、物陰などに隠れる前に見つかってしまったのだ……私一人でやるしかないか…
「随分と変わった島だな。そして何故貴様がここにいる?」
「ここは波紋使いを育てる闘技場を兼ねた修行場所だ。人間にしてはいいセンスだろう?今度ワムウと一戦やってみるといい…生きて帰れたらな」
私がそう挑発すると、奴は足を止めてニタリと笑って来る。不敵な笑みだが嫌いじゃない……何しろ私もおそらく同じ表情を浮かべている。負ける可能性が高くとも、戦闘狂というのは血が滾るものなのだな。
「そして遅れながらも質問の答えだが…ここで私の仲間が修行している。だから私もいる」
「という事は……この島に他の波紋使いもいるのか?」
「もちろん。一度手を引いたらどうだ?数の暴力でタダでは済まんぞ?」
「…………」
奴が目を細めて辺りを警戒する。気配でも探っているようだ。
「ココには貴様以外、誰もいないようだ……が?」
「………まぁ、バレるよな」
そう言いながら腰にかけていた鞭を取り外して構える。
「ほぉ…貴様一人で向かってくるか…」
「あぁ…貴様が楽しみに取っておいた泡使い…泡ではなくシャボン玉だが今はどうでもいいか………守れる者は守りたい。よって私で我慢してくれ……楽しませてやるからさ」
鞭で二度地面を叩き弾けるような音を出すと、またエシディシはニタリと微笑む。
「不思議な男だ、面白い!カーズが貴様を仲間にしようとしたのも今ならわかるぞ!どれ……手合わせ願おうか!」
エシディシが私の鞭をかい潜り走ってくる。
やれやれ……シーザーの命がかかっているというのに私ときたら…まったく………
「……嬉しくてたまらない…な……」
エシディシの笑顔に私も笑顔を返す。吸血鬼の遺伝子を薄めても、戦闘狂は変わらないようだ。