ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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14.熱を操る流法

「いきなり喰らえ!怪焔王の流法!」

 

 エシディシの指の爪が剥がれ、中から血管が伸びてきた。先端は注射器の針のようになっている。

 

「単調な攻撃だな」

 

 射程外に飛び退いてそれを避けると、エシディシがまた不敵に笑いバク転する。

 

「油断したなバカめ!」

 

 バク転により更に距離を詰め、足の指からも血管が出てくる。両手合わせて合計二十本の血管針が私に伸びる。

 避けれないと判断した私は髪の毛をイトノコギリのように使い、血管針に押し当てて切断を試みる。しかし血管は切れず、血管針が私に突き刺さる。

 

「ぐっ…髪が燃えた」

 

「ほう……髪の毛を一本一本精密に動かすか。器用なことをするのだな」

 

 突き刺さった血管をどうにかしようと抵抗するが、血管は私に突き刺さったままだ。

 

「これで終わると思うなよ?……俺の熱血を送り込み‼︎」

 

 まるで蛇口に繋がったホースのように、結構な力で私に血液が流し込まれる。

 

「グゥ……!」

 

「火を灯して焼いてくれるぜぇ‼︎」

 

 血管を通して灼熱が流れ込む。内側から焼け爛れるが、気化冷凍法で冷まそうとする…あまり効果は無いようだ。

 

「吸血鬼、こんなものか?」

 

「あいにく……今はこれを耐えるしかない…な」

 

「フンッ…所詮そんなものか…」

 

 継続的に高温の血液が流れ込んでくる。しかし私も黙ってやられてるわけではない。まずは呼吸を整えないと……

 

「ほれほれ、どうした?」

 

「コッ…コォォォオ‼︎」

 

 激痛を無視しながら無理矢理波紋の呼吸をする。そして血管に波紋を食らわせると、血流に逆らって微量な波紋が奴に走る。

 

「ウボォァアアア‼︎」

 

 奴の手足の指先が根元から焼け落ち、私に伸びていた血管はチリに変わる。

 

「い…今のは……まさか!何故貴様が⁉︎」

 

「企業秘密だ」

 

 今の油断した奴への不意打ちで終わらせたかったのだが手先にしか流れていないか。やはり威力不足か…コレでは割が合わない。

 

「まずは足だな……シッ!」

 

 爪先が焼き爛れ、踏ん張りの効かない足に私の鞭が飛来する。吸血鬼の腕力では無いので奴の足を吹き飛ばすまでにはいたらなかった。が、奴は衝撃で体勢を崩す。

 

「クッ、貴様ァァア‼︎」

 

 僅かだが波紋が流れ、エシディシは苦悶の表情を浮かべる。

 

「痛いか?私の血で癒してみるか?」

 

 私から流れ出た血液を波紋で小さな水風船のように指先で掴む。そして足を振り上げ、野球のピッチャーのように血液を投げつけた。

 

「……ストライク」

 

 波紋を帯びた血液の球は、肉の内面をむき出しにしたエシディシの脛に被弾して破裂する。同時に奴の足も吹き飛んだ。

 

「これは大事に取り扱わせてもらう」

 

 ワムウの時のように、エシディシの足をカプセルに器用に入れる。

 今日来ることは予測していなかったが、ここに来ることは知っていた。ので、カプセルはそこらの岩陰に事前に隠しておいたのだ。

 

「うぬぬぅ……き、貴様ぁ〜…」

 

 片足を失ったエシディシは片手を地面につけて表情を歪ませる。すぐさま私は追撃しようとしたが、奴の次の行動を目の当たりにして思わず足を止めてしまう。

 

「ぁ…あんまりだぁ……俺の足がぁ…アァンマァリダァァア‼︎ HEEEYYYYY‼︎」

 

「…うわぁ……」

 

 あらかじめ知っていても、いざ目の当たりにするとドン引きだな。

 エシディシは突如として駄々っ子のように泣き噦り始め、玩具を取り上げられた子供のような目付きでカプセルを見つめている。

 

「………気は済んだか?」

 

「…フーーーッ。スッとしたぜ。俺はチト荒っぽい性格でな。激昂してトチ狂いそうになると泣き喚いて頭を冷静にすることにしているのだ」

 

 知ってる……が、本当にそれで冷静さを取り戻せるのか?確かに今エシディシは一仕事終えたかのようにスッキリした表情を浮かべているが、普通なら今の醜態を思い出して赤面すると思うのだが……こいつには恥じらいはあるのか?

 そんな事を考えていると、エシディシは私を指差して口を開いた。

 

「レオン!なぜとっておくかは知らんが、波紋で蒸発しなかったのは過ちだ‼︎」

 

「そうでもない。遠隔操作ができたとしても、脛から下だけを動かしてカプセルを壊すような動作は出来ない。そしてこれの融点は五百度以上…溶かすこともできない」

 

「それは……どうかな?」

 

 丁寧に説明してやると、エシディシがまたニタリと笑う。するとカプセルに入れておいた奴の足にヒビが入り、赤く滾る光源を生み出す。

 

「なるほど…この手があったのか」

 

 頭上高くにカプセルごと投げ捨てる。すると時間差でカプセルは爆発した。またアレを吸収して、基礎能力を底上げしたかったのだが……

 

「足を熱で爆裂させて溶岩弾のように肉片を弾き飛ばしたのか…」

 

「勘のいい男だ。それでは………続けようか!」

 

 奴が反撃に出る前に、今度は私から反撃に出る。波紋を使って戦っているので吸血鬼の力は発揮されないが、鞭という遠心力を使う武器は、力でなく精錬な動きが必要とされる。

 

「半径8mが私の間合いだ!」

 

 射程範囲に入ったエシディシは、苦しくも全て避ける。足の断面からは伸びた血管の束はしっかりと身体を支えていて、先程と比べて機動力はあまり落ちていない。別の攻撃手段と組み合わせなければ当たりそうにないな。

 

「こうやって時間を稼いでる間…貴様は別の攻撃手段を考えているな?」

 

「ふむ…心を読むのがうまいな」

 

 鞭を振り回しながら、脱力ほどではないが私は神経を研ぎ澄ませる。

 

「クックックッ…俺は正直嬉しいぞ。久しく好敵手がいなかったからな……確か…レオンと言ったか?」

 

「……そうだ」

 

「…レオン……仲間になる気はないのか?」

 

 私の射程外に飛び退いてエシディシは、笑みをやめて真剣な目で私を見つめてくる。

 

「………思いの外 私は、貴様達に人気のようだな………」

 

 奴らが私の実力を認めてくれるのは正直嬉しい。が、仲間を裏切る理由になる訳がない。

 

「私はそっち側には行けんよ……こっちに大事な物や者が沢山あるんだ」

 

「そうか……それは残念だな」

 

 本当に残念そうに溜息をつく。しかしすぐに切り替え再度笑みを浮かべる。

 

「ならばせめて、今繰り広げられる死闘を楽しませてもらおう!」

 

 奴は跳躍して私を頭上から攻めてくる。背中からは先程とは比べ物にならない血管針が飛び出ていた。

 

「怪焔王大車獄の流法!」

 

 灼熱の血液が雨のように降り注ぐ。そしてそんな雨の中を、エシディシは血管針を伸ばして追撃してくる。

 

「コォォォオ!」

 

 一撃一撃の力は強いが、鞭は切り返しが遅い……よって私は、反射的に鞭を手放して波紋の呼吸をする。

 

「波紋疾走連打!」

 

 動き回って血液を躱し、追尾してくる血管を波紋で蒸発させる。

 

「どうした?防戦一方だぞ!」

 

 確かにな…両手で血管を打ち払い、両足は避ける為に動かし続けている…それでも避けきれない血液に被弾すると、接触面が焼かれてしまう。

 

(吸血鬼としての再生能力は傷ならすぐ治せる……しかし細胞ごと破壊する火傷系統のダメージには使えない。血を吸えばなんとかなるが波紋を今は使っているし…………あ、波紋で治せるじゃないか)

 

 そう思いながら時間を稼ぐが、いくら経っても打開策は思いつかない。波紋より血液を摂取する方が回復できるが、幾ら何でも奴の血は御免こうむりたい。口内炎じゃ済まなそうだし……今は回復より先に、攻撃手段を考えるべきか。

 

「となると……」

 

 私は波紋の呼吸を止める。すると血管針を打ち払えず、私の身体に突き刺さる。

 

「ぬっ、諦めたか」

 

「打開策が思い付かなくてな……少し無茶をすることにした」

 

 波紋の呼吸を止めると、吸血鬼としての力が舞い戻ってくる。この間にダメージを幾つか受けるがやむを得ない…

 

「喰らえっ!」

 

 確か原作のストレイツォはスペースリバーナントカとかいう覚えにくい名前をつけていたな。

 私は目から圧縮した体液をエシディシに向けて放つ。それは避けられるが、首を横に振って血管を全て切断する。

 

「……ハァ…ハァ…」

 

 サンタナとは比べ物にならないな……やはり私より断然強い。だがそれはいつものことだ。

 

「弱肉強食…っていう言葉は知っているか?弱者は強者に良いように利用されるって意味だ」

 

 距離を取ったままそう言って僅かでも時間を稼ぐ……まだ吸血鬼としての能力は戻りきっていない……

 

「だが私は……その常識を捻じ曲げて今まで生きてきた」

 

「強肉弱食…という事か?フンッ…おかしな事を言う。さて……そろそろ能力は吸血鬼に戻ったか?」

 

「わざと時間をくれたのか……随分と優しいな」

 

「なぁに、俺にとって有利だと思っただけよ。貴様に油断などしない」

 

 吸血鬼より波紋の方がエシディシにとっては厄介のようだ…

 

「その有利だと思う常識も……今ここで捻じ曲げる」

 

「やってみろ」

 

 もうエシディシは笑わず、私を真っ直ぐと見据えている。運悪く鞭はエシディシの背後……私は即席の武器として、剣山の太い針を一つ抜き取る。

 

「いくぞ……」

 

「……来い、レオン」

 

 ロケットスタートからの全速力。私は剣山を振りかぶり、奴の顔面に振り下ろす。それをエシディシは手で受け止める。が、その時私は既に手放している。髪の毛を伸ばして鞭を手繰り寄せると、エシディシは私の髪の毛を焼き切って阻止してくる。

 

「怪焔王の流法!」

 

 一度出した血管がそのまま私に伸びてくる。

 

「ところでエシディシ……貴様の後ろに転がっているのはなんだ?」

 

 ミスディレクション。

 私が鞭に髪を伸ばした時、手を背中に回して死角からある物を投げていた。私の髪に気を取られたエシディシは、そのお陰で投げた物体に気づいていなかった。

 そして私が投げたのは、ドイツ軍に用意させた護身用の手榴弾だ。

 

「ッ!……これしき!」

 

 ダイナマイトを丸呑みして「ドモン‼︎」できる奴だ。手榴弾程度の爆発ではエシディシにダメージは通らない。しかし爆風でエシディシの体勢が崩れる。その隙に私は鞭を拾い、最速の攻撃を放つ。

 

「グォッ!」

 

 鞭を使った攻撃の中では最弱だが、先端に集まった力は十分ある。

 体勢がさらに崩れたエシディシに、私は時間を掛けて追撃する。

 

「3……2…」

 

「おのれ…だが遅い!今度こそ喰らえ!」

 

 起き上がったエシディシが血管針を伸ばしてくる。更に膝下の断面から伸びた血管は束ねられ、鞭のようにしなっている。

 

「怪焔王の流法!そして……」

 

「……1…」

 

 血管針が突き刺さる。だがその苦痛も無視する……次の一撃に集中するために……そして三秒がたった。

 

「波紋!」

 

 鞭が被弾する直前に波紋を練ると、奴の頭が木っ端微塵に吹き飛び肉片が気化する。

 しかし…声も上げずに脳が吹き飛んだエシディシの首から下は、それでも攻撃を中断することはなかった。

 

(…クソッ……満身創痍だよ バカ…)

 

 私の血が沸騰して内側から破裂する…沸点は百度以上、五百度未満のようだ。そして横から高熱の鞭が私の両足を溶断した。

 そこで私に何かがしがみついた。それがなにかを確認する間も無く、私の意識は遠退いた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 次に目が覚めた場所は、どこかの施設の隔離部屋だった。両足は何故か無事生えている……しかし血が足りないのか、頭がクラクラする。

 

「おはようレオン。随分と長い間眠っていたようだが、気分はどうかなぁ?」

 

「この独特なアクセント…シュトロハイムか」

 

「いかにも私はシュトロハイムだ。その生命力……流石は吸血鬼といったところか」

 

「なぜ足が付いている?」

 

「切断面を合わせただけだ。あとは貴様の治癒力がそうさせたのだろう」

 

 そこで私は重大なことを思い出す。シーザーはどうなった?エシディシの鼻に付いていたリング…あれが解毒剤なのだが……

 

「そう慌てるな。一つずつ説明してやる」

 

 表情で察したのか、シュトロハイムはそう言ってまず最初に、私が気絶した後のことを話してくれた。

 

「まずエシディシは脳みそだけで生きていた。そして貴様の身体をエシディシは乗っ取った。それを最初に見つけたのはシーザーらしい」

 

「……それで?」

 

「貴様の身体を使って攻撃したそうだが、本来の力を発揮できなかったエシディシはそこまで強くなかったそうだぞ。だが死骸は全て消失ロストした」

 

「要するにいいとこ取りされたか……遺体の方は……まぁ、しょうがないと諦めるしかないな」

 

 そして数日の間、私はスピードワゴン財団の医学者達の監視の中、しばらく入院することになった。

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