「やったな…ジョジョ……」
「ワムウ……」
一言で言えば原作通りの結末だった。それを知ってはいたが、ジョセフが落馬した時は流石にハラハラしたな。原作と違いジョセフは、シーザーの最後の波紋を込めた血液のシャボンに触れていない。原作より僅かばかり弱いからか、怪我が思っていたより酷い…勝てたから良かったが。
あと欲を言わせて貰えば、ワムウを爆破して倒さずに肉片を残して欲しかったな……
ワムウの身体はジョセフの策によって爆破され、断面は微量な波紋で溶けている。
「…さらばだ……ジョジョ…」
強者こそが友であると言っていたワムウは、ジョセフが解毒剤を飲んだのを確認すると、笑顔を見せてチリになった。
チリは風で舞い上がり、土煙に混じって飛んで行く。その進路の空間を、カーズはあたかもそこに何かがあるかのように掴む。長年共に生きた仲間の死の悲しみに浸っているのだろうか?
やがてカーズは目を開けて私の方へ向く。
「……残るはこのカーズただ一人か。だが…頂点に立つ者は常に一人!」
ずっと被っていた頭巾を外し、カーズの長髪が大きくなびいた。それを見つめる私の隣では、私に期待と不安を目で伝える仲間達がいる。
「……奴の思い通りにはさせないさ。行ってくる」
「信じてるわ…行ってらっしゃい」
そう言ってリサリサからエイジャの赤石の首飾りを渡される。中には確かに赤石が嵌められていた。
「レオン!」
首から赤石を提げると、我々の元にジョセフが戻ってくる。そしておもむろにシーザーから何かを分捕るように受け取り、私に見せびらかしてきた。
「…それは……」
それは鋼色に鈍く光る、不恰好なロケットだった。私の宝物を思い出すために作らせた大切な品だ。
「あんたの荷物の中にあった……よくよく考えてみれば、俺はレオンの身の上話よく知らねぇんだよな。だから終わったら聞かせてくれ。だから……戻って来てくれ」
戦いの最中に壊さないかと不安に思い置いてきたのだが、私の腕はそれを勝手に受け取って握りしめていた。
正直に言うと、カーズとの決闘の時が近づくにつれて私の身体は静かに震えていた。
強がりかもしれないが死ぬのは怖くない…死んだ後が怖いのだ……残された者は私がいなくとも大丈夫なのか?
いや……こんな死ぬ前提の話はやめよう。それに保険もあるしな。
やがて震えが止まり、私はロケットをジョセフに預かってもらった……必ず戻るという約束の言葉を添えて…
ー
ーー
ーーー
ワムウとの戦いを終えた俺は、極度の疲労を感じながらも移動した。ワムウの敗北をきっかけに吸血鬼が何人か襲ってきたが、カーズが瞬く間に吸血鬼を直接殺した。
「カーズ様?」
「ルールを破るつもりはない。その下衆らが犯した行動は……すでに殺していることからわかるはず」
(は、早ぇ!吸血鬼を一撃で…とてもじゃねぇが、反応すら出来なかった…)
だがあんな化物相手でもレオンなら勝てる……そう俺は思ってしまう。
「ついて来い。このカーズとレオンの次なる決闘場はあそこだ」
俺達を連れてカーズが向かった場所は先程の闘技場のすぐ近くにあった。
「ピッツベルリナ山神殿遺跡。かつて下の戦車戦競技場の優勝者がこの神殿で敗者の血を御神酒に混ぜて飲み干し、生命の喜びを神に感謝した場所。闘技場ではないが立体的な戦闘が楽しめよう」
立体的に入り組んだジャングルジムのような石柱の数々……機動力があれば四方八方から仕掛けられるフィールドだ。
「レオン…待ってるぜ」
「あぁ。行ってくる」
ちょっと散歩に行ってくるっといったノリで、レオンは軽々しく神殿に足を向ける。悔しいがレオンはあらゆる点で俺より遥か上にいる。だからきっと勝てる…そう思っているはずだというのに、不安からか汗が止まらない。
「それでは始めようか…カーズ…」
「ほぅ…鞭は使わんのか?」
「貴様の速さは流石に捉えきれない。気にせず始めてくれ、赤石はココだ。私を殺してから、死体の横に落ちているこれを拾うがいい」
そう言ってレオンが赤石を見せつけてから懐深くにしまう。するとその時…カーズが不敵に笑って飛び掛かり、腕から出したサーベルが眩い光を放つ。
「飛んだ!そしてき…消えた?」
「カーズがちょっとした光とともに消えたぞ。どこだ!」
俺とシーザーが驚きを顔に出していると、レオンの背後のヒビから何かが這い出てきた。
「喰らえ!輝彩滑刀の流法!」
「柱のヒビの中から!その能力があったか!」
骨格を無理やり畳み折り、カーズは柱のヒビの中を移動していたのか!
「だが全てお見通しだ」
レオンの波紋を帯びた回し蹴りが、カーズの顎を蹴り抜く。攻撃を食らったカーズは顔面から気化していく。
「や、ヤッタ!完璧に不意をついたようだがレオンにそんな手は通じない!」
流石レオンだぜ、後ろの師範代達も騒がずにはいられねぇようだな。
「ワムウに比べれば呆気なかったが、威張ってる奴の実力なんてあんなもんだ!」
そう俺達は歓喜したが、まだ決着は付いていなかった……喜ぶのはまだ早かった。
「…カハッ……」
レオンが膝から崩れ落ちて俯けに倒れる。その背後には血の付いたサーベルを構えるカーズがいた。
「くだらん…実にくだらんよ、一対一の決闘なんてなあ〜〜ッ。このカーズの目的はあくまでも究極生物になること。ワムウのような戦士になるつもりもなければロマンチストでもない。どんな手を使おうが最終的に……勝てばよかろうなのだァァ!」
「か、カーズが背後に!じゃあさっき波紋を食らわしたやつは?」
「あいつ…波紋で顔面が溶けるまで気づかなかったが影武者だ!レオンさんが倒したのはカーズの影武者だったんだ!」
「レオンッ!」
「残りのゴミ共を全員で始末せよーーッ!」
「カ……カーズ……許さねぇぇ!」
沸々と怒りが込み上がってくる。それは俺だけではないようでシーザー達も鬼の形相をしている。俺を含めた皆が、睨んだだけでショック死を引き起こせそうな殺気を纏っていた。
しかし意外な事に、その怒りはフッと一瞬で消え失せた。
「フフッ…フッフッ…アッハッハッハッハ‼︎‼︎」
理由は闇夜に響き渡る笑い声だった。しかしそれはカーズではなく、地に倒れたレオンのものだった。
レオンは俯けに倒れていたが、腕を使って仰向けになると何が面白いのか爆笑している。
「ジョセフ…別に発狂したわけではないから安心しなさい………言っただろカーズ………全てお見通しだと…」
そう言ってレオンは、真っ二つに切断された赤石を掲げて見せた。
ー
ーー
ーーー
私は原作を知っている……カーズがこのような行動をとることは知っていた。だからまず私は奴の目的を根本的に潰し、後悔させることにした。
「なっ!何故赤石が!」
私は懐に赤石をしまったように見せて、髪で引っ張って背中に移動させたのだ。
カーズが不意打ちを放ってくる背中にな……
「あえて……あえて切られたのか!貴様はぁぁぁあ!」
「ルールを破ったのは貴様だ。赤石を切断したのも貴様だ。私は何も悪くない………そして‼︎」
私は天に向けて目から体液を射出させる。薄気味悪く僅かな光を反射する細い柱は、やがて闇夜に消えていった……すると神殿を取り囲むように眩い光が現れる。
「レオンの合図を確認んんん!おのれらッ吸血鬼!このシュトロハイムとナチス親衛隊が相手だ!」
「我らSPW財団特別科学戦闘員もいるぞ!」
「…そして……一対一を先に止めたのも貴様だ」
何日か前にあらかじめ声を掛けておいた援軍が我々を取り囲む。財団の紫外線照射装置小型化の実現が間に合い、彼らは皆それを武器化して身に付けている。
「グァァァァ!」
「カーズ様ァァァア!」
いくら吸血鬼といえど、これだけの数の光は避けきれない。弱点である日光と同じ紫外線は、次々と吸血鬼をチリに変えていく。
「さてカーズ……まだ無駄な戦を続けたいか?」
悠々と立ち上がってカーズを見てみると、カーズは絶望を怒りで誤魔化しているかのような醜い表情を浮かべる。
「貴様ァァァア‼︎‼︎‼︎」
そう雄叫びを上げると、カーズの眉間に一筋の光線が伸びる。それは紫外線照射装置のライフル型の光だった。
射程距離を伸ばした分僅かに威力は弱まったが、カーズは苦痛から顔を両手で押さえる。
「……いい腕だ、エーデルガルト」
怯んだ隙に私は、自分の練れる最大級の波紋を流そうと腕を振り被る。原作を知っている私は、ジョセフ以上に計算塗れの策を練っていた。
カーズが進化しなくとも、現時点での一対一で私が勝つ可能性は、真面目に考えて30%前後だからだ…だから援軍を用意した。だから決定打を他人の不意打ちに任せた。
………ここまできたらトドメも他人任せにするべきだった。
次の瞬間……私はそう思った。
「ならば……ならば貴様も道連れだァァァア!」
波紋を帯びた私の手刀を無視して、カーズは私を襲ってきた。私は一瞬呆気にとられた……その行動にではない…攻撃手段にだ。
「何ッ!」
刃による輝彩滑刀ではなく、カーズは私に抱き付いてきたのだ。零距離にまで接近してくるとは思っておらず、私の手刀は上手く決まらなかった…波紋を食らわせられなかったのだ……なのにカーズは気化し始めた。
「……ま、まさか…!」
「そおうだ、波紋だよォ‼︎長年見てきた呼吸法を使えないとでも思ったか⁉︎そして貴様が究極生物でないことを教えてやろう‼︎‼︎」
流石IQ400…使えば自分が死ぬ可能性があるから使わなかっただけで、使用するのが不可能なわけではない……そしてヤバイな……カーズの言う通り、私は日光を克服しただけで究極生物ではない…私は日光を克服したただの吸血鬼なのだ。
「貴様を輝彩滑刀で即死させれる可能性は低い……が‼︎細胞ごと気化させてしまえばどうなる⁉︎貴様は耐えれるかァァァア⁉︎」
カーズの指と爪が、治りかけの背中の傷に深く突き刺さる。これは本格的にヤバイ。波紋の耐性が本来の人間より衰える私は強大なダメージを覚悟する。
「コォォォォオオオ!」
…この焼ける痛みを何度経験しただろうか……私は次の瞬間意識を手放した。
ー
ーー
ーーー
究極進化したカーズは人の身体を気化させる程の波紋を練ることができ、原作ではジョセフの波紋の四、五百倍の威力だったはずだ。
進化前と進化後の波紋にどれだけの威力の違いがあったのかはわからないが、私が食らった波紋は精々ジョセフの二百倍前後だろう……十分過ぎるその威力は、輝彩滑刀で切断するよりは私に有効な攻撃だったようだな。
「………ここは何処だ?」
気絶から覚めて決まり事のようそう呟く。この時…私は結局生き延びたのかと安堵する。が、辺りを見回して冷や汗をかく。
「…オ、オイオイオイ……本当にここは何処だ⁉︎」
助かったとなれば普通、私がいる場所は軍か財団の施設か病院だろう。だが私が今いる場所は外……それもゴツゴツとした石が転がる川沿いだ。
目の前には終わりが見えないほどに長い川が流れていて、私は流されていた最中に川沿いに上げられたような形で寝転がっていたのだ。
「まさか……俗に言う三途の川?これから私はこれを渡って死ぬ?いやッ!もう渡ってしまったのか!」
トンペティの予言でまだ私はやる事があるのだ!使命をまだ全うしていない!
「これでは死んでも死にきれん!どうにかして戻らねば!」
どうにかして川を渡ろうとするが、その前にココがどっち側かわからないので足を止めて頭を抱える。
「クソッ!このままではジョジョに合わせる顔もないというのに!」
「呼んだかい?」
………その柔らかく優しい声に反応し…私はゆっくりと背後に目を向ける。するとそこには、40年以上も会っていない友人の顔があった。
彼は相変わらず筋肉質の高身長で、あの日船に乗った時と同じ服装をしていた。
「ジョ……ジョ………?」
「久しぶりだねレオン」
思わず私は涙を流してジョジョに抱き着いた。そして私は懺悔を始め、情けない姿を晒す。
「すまない!私は…君を助けることができなかった!君の子孫もまだ助けきっていない……にも関わらず、私はここへ来てしまった!すまない……すまなぃ……」
あまりの取り乱しように驚いているのか、ジョジョは一瞬ポカン…とマヌケな表情を浮かべてから私の肩に手を置いて引き離した。
「何を言っているんだ!君は全力で僕の子孫を守ってくれた。そしてこれからも守ってくれると信じている!」
「だが私は…もう……」
「いいや、まだ間に合う。ここはあの世より現実側の川岸だからね」
そう言ってジョジョは川に背を向けてある一点を指差す。そこには細く狭い道があり、弱々しく淡い光が先から漏れていた。
「まだ君は死んでなんかいない…僕がそうはさせない。まだ僕は君に、借りを返し切ったと思ってないから…」
そう言ってジョジョは私を光る道に向けて突き飛ばす。
背中を押された拍子に足を踏み出すと、私とジョジョの間に亀裂が走り戻れなくなる。
「ジョジョ!待ってくれ!君も川のこっち側にいる!戻れるんだろう?」
「いいや…僕は戻れない……死と生の狭間にいるからここに居るだけなんだ」
「生と死の狭間?何を言っているんだ?」
そう言うと、ジョジョが驚くべき事を告げてきた。
「僕はあの沈没した船の中で死んだ…だがディオはそんな僕の身体を乗っ取り生きながらえている。僕の首から下は生命活動を止めていないんだ」
「なんだと⁉︎」
「今はまだ海底の底で沈んでいるが、ツェペリさんから聞いたんだ……労力を使わなければ、吸血鬼は飲み食い無しで百年生きると…」
「………となると私の使命が一つ増えたな。ジョジョをいつまでもここで彷徨わせるわけにはいかない」
「君ならそう言ってくれると思ったよ」
そう言うと亀裂の入った地面の崩落が始まり、止むを得ず私は光の先へ進んだ。
「ジョジョ!必ず約束は守るからな!」
そう言うとジョジョは一瞬微笑み、何かを思い出したかのように叫んでくる。
「エリナによろしく伝えてくれ…アッ!それと君は……」
そこで私は意識を手放した。
……いや……意識を覚醒させた。
「……ここは…ドイツ軍の施設………か?」
献血やらのチューブが繋がった上半身を起こすと、側のテーブルに輸血パックと「目覚めたら飲むといい」と書かれたメモを見つけた。
私はそれをありがたく頂くと誰かが入ってくる。
「レオン殿!やっと目覚めましたか!」
入って来たのはエーデルガルトだった。彼女は私の返事も聞かずに鏡を取り出して私に見せてくる。
「最初、レオン殿の顔は焼け爛れていたんです!どうですか?元通りに再生されてますか?」
「最初にまず顔の確認か……ひとまずは大丈夫そうだ…」
そう言って手鏡を受け取ると、彼女は私の目覚めを伝えるべく出て行った。
やれやれ…忙しい子だな。
『君は間違いなく誇り高きジョースター家の人間だ…だから僕はこれを贈る』
「ウッ………気のせいか?」
一瞬頭痛が走り何か聞こえた気がしたが、 私は気のせいだと思い込む。そして何を思ったのか私は、無意識に手鏡を後頭部まで持っていき肩を確認した。まるで誰かが私の手首を掴んで動かしたかのように………
「………ん?何故私はこんな事を?」
そう言って手鏡をテーブルに置こうと思ったが、私は鏡越しにあるものを見つける。
「なッ!こ…これは⁉︎」
肩に分厚く巻かれた包帯の隙間から、とんがった図形の角のような物が見える。咄嗟に包帯を引き裂くと私はある物を視認して絶句した。
「レオン!起きたかァ!あぁ聞かんでもよい、聞きたい事はよくわかっておぉるゥ。吸血鬼の残党どもは我々ドイツ軍が一匹残さずチリに変えてやったァ‼︎」
部屋に入ってきたシュトロハイムが一人で何か叫んでいるが、私は気にもとめずに手鏡を凝視する。
「……あぁーレオン?一体どうしたというのだ?」
流石に不審がってシュトロハイムが話しかけてくる。私は満面の笑みを彼に見せて口を開く。
「フフッ……レオンだと?一言足りないんじゃないか?」
「………は?」
訳がわからないといった表情を浮かべて首をかしげる。
「姓は捨てたとかつて言っといて悪いが、以後私の事はこう呼んでくれ。そのカルテの名前欄も変更してくれよ?」
そう言って私は高らかに宣言した。
「私はレオン・ジョースター‼︎誇り高き血統‼︎ジョースター家の人間だ‼︎‼︎」
ありがとうジョジョ…最高のプレゼントだ。君が許してくれるなら……私はジョースター家の名を使わせてもらうよ。
私の首筋には、星型のアザが違和感なく鎮座していた。