19.謎めいた少女
自分の最初の名前………残念な事に僕はそれを覚えていない。今は「
シスターというのは僕が赤子の頃、捨て犬や捨て猫の様に路地裏に放置されていた僕を拾ってくれた女性だ。
「礼神、あーそーぼー」
僕は捨て子で、今はこの孤児院「ツバメ」で生活する6歳児だ。今年小学1年生になる…院の中では年上な方で、院の二番目の古株だ。だからよく年下の面倒をシスターに頼まれる。そして勘違いされるかもしれないから言っておく。
「礼神じゃなくて、礼神
僕は女だ。
第一人称が「僕」で外見もボーイッシュだからよく間違われるけどね。
「まったく……前世からコレだけは変わらないな」
「何か言った?」
「ううん、何でもないよ」
危ない危ない…ボソッと呟いた僕の言葉にこの子は首を傾げている。聞き返してもこれは教えられないな、変な子だと思われちゃうし。
………だから秘密…僕が転生者だってことは……
僕は気が付いたら自分の生きていた時代とは違う時代にいた。しかも物心つきたての4歳児くらい……それ以前の記憶は良く覚えていないが、シスターの顔を見た瞬間 この人が僕を育ててくれたんだと理解した。
おっと…そろそろ時間かな。
「レイカ。どこへ行くんだ?」
「ちょっと外に…すぐ戻ってくるね」
僕はそう言って靴を履き外へ出る。敷地内を走って道路まで出ると、僕は心の中であの子を呼ぶ。
すると遠くからやってきた重くリズミカルな足音が僕の目の前で止まる。
「おかえり」
僕の目の前で止まった生き物にそう言うと、ソレはスゥッと消えて僕は孤児院に戻る。
散歩の出迎えを終わらせて孤児院に入る。ツバメに住む孤児の子達は僕を入れて6人…年上のお姉さんが1人と、年下の男の子3人…女の子1人。そろそろ夕食なので、皆が下の階に降りてきていた。
「何をしてたんだ?」
「散歩」
厳密に言うと散歩の出迎え……昔から僕の側にいるこの子は何故か周りの人には見えない。一時期存在を信じ込ませようとしたが相手にされなかったので、僕はこの子の存在を教える事を諦めた。
この子は普段、僕の体の中に隠れて大人しくしている。でもたまに勝手に出てきたりするので、毎日散歩を一時間許可して街中を走らせているのだ。
僕にしか見えない友達…僕の言う事は聞くけど会話はできない。だからこの子が何者なのかも僕にはさっぱりわからなかった。
ただでさえ前世の記憶のせいで混乱してるというのに……
ー
ーー
ーーー
私の名前はケライン・エーデルガルト。元ドイツ軍人で、今は孤児院で働いている。ここの子達からは「シスター」という呼称で呼ばれている。子供というのは安直だな…外人という理由だけでそう呼ぶとは………
私は軍を辞めてすぐの頃は故郷の近くの孤児院で働いていたが、日本から来た同業者…葎崎 梅という老女に頼まれて日本に移り住んだのだ。そしてその老女と共に、私は二人でこの孤児院…通称「ツバメ」を経営している。
「レイカ。どこへ行くんだ?」
「ちょっと外に…すぐ戻ってくるね」
そう言って礼神は靴を履き孤児の家を出る。
彼女は葎崎 礼神…8年前に路地裏で拾った捨て子だ……名前も生年月日もわからず、私は名前と誕生日を彼女にあげた。名字はの
「ただいま」
「おかえり」
宣言通りすぐ帰ってきた礼神……彼女は今も昔も変わらず実に不思議な子だ。ようやく言葉を話せる年になると、発音の仕方をマスターし、予め知っていたかのように難しい言葉をすぐ使うようになったのだ。そして5歳の時……彼女はいつも一人遊びをしていた…不憫に思い私が遊び相手になろうとすると「僕は今この子と遊んでるからまた今度ね」と言われてしまった。そう言って指差す先には何もいない…にもかかわらず礼神はそこにいる何かに話しかけて、ソレの頭を撫でるような動作をする。
「何をしてたんだ?」
「散歩」
外から戻ってきた礼神に何をしてたか尋ねると、毎度礼神は私に同じ答えを言う。
散歩にしては短すぎる…外に出てる時間は一分も無く、精々孤児院の前の道路にまでにしか時間的に行けない。
夜六時と七時頃に行う二回の散歩…そして彼女にしか見えない何か……
それさえ取り除けば普通の少女なのだが未だに私はよく理解していない。
ー
ーー
ーーー
数日後…僕は小学校に入学した。
前世をカウントすれば二度目の小学校生活が今日から始まる。自分のクラスに移動して自分の席を確認して座る。二度目の小学生体験ということもあって、僕はここで溜息をこぼす。
「面倒臭いな〜」
つい本音を零すと隣の席に誰かが座ってくる。折角だし早速友人でも作ろうと、僕は隣の席の子に目を向ける。
初めて隣の席になった子は男の子で、小学一年生にしては少しガッツリした体型をしている。将来絶対体育会系になるな。
「はじめまして。僕は葎崎 礼神、君の名前は?」
僕が話しかけると、体育会系かと思った男の子は柔らかい雰囲気を感じさせながらこちらを向いてくれる。
正面から彼の顔を見ると、僕の頭の中で何かが引っかかる。んん〜…何処かで見たような……何か凄く大事な気がする………あぁ…ここまで……ここまで出てるんだけどな…
「僕の名前は空条 承太郎。これからよろしくね」
……その時……僕は雷に打たれたような錯覚に陥る。
承太郎……ジョウタロウ?………承太郎⁉︎ 空条 承太郎⁉︎
えっ⁉︎僕が転生した世界はジョジョの奇妙な冒険なの⁉︎
「……どうかしたの?」
「あ、いやうん。なんでもないよ、よろしく」
咄嗟にそう答えて前を向き頭をフル回転させる。そして後から押し寄せてくる興奮が半端ない。だが同時に初見で承太郎に気付けないという事実がショックだ…ジョジョファンとしての一生の恥……ジョジョファンと言っても4部途中までしか知らんけども…
だがこれで一つ片付いた問題があるな……
……………僕は
幽波紋…「パワーを持った像」であり、持ち主の傍に出現して様々な超常的能力を発揮し、他人を攻撃したり持ち主を守ったりする守護霊のような存在。その姿は人間に似たものから動物や怪物のようなもの…果ては無機物まで千差万別。一言で言えば超能力が具現化したものである。
そして僕のスタンドの姿はホラー映画に出てきそうな形をしている。一言で言えばゾンビ犬……犬の皮を所々引裂き、朱色の骨が剥き出しになっている。ちょうど真上から光を当てて影になると思われる部分はほとんど骨だけだ。目は空洞で空洞の中心に群青色のビー玉みたいな光球が浮いている。オマケにサイズは馬と同じくらい……初めて見たときはもちろん泣いたよ。
そして能力……正直今までここがジョジョの世界だと知らなかったし、この子も僕に付きまとう幽霊か何かだと思っていた。だから何が出来るのか全く理解していないし、試す機会がない。ここは孤児院ツバメ…ほぼ毎日同居人の誰かが同じ空間にいる。実験できるわけがない。
だが幽波紋使い同士は惹かれあう運命にあったきがする……とにかくスタンドを持つ以上、自分のスタンドを把握しておかないと……
「ひとまず……」
帰路を急いで自分の部屋(僕だけの部屋ではないけど)に飛び込む。出てきて…と心の中で呟いてみる。すると僕のスタンドは素直に現れた。でも僕の身に危険が迫って来た訳ではないのに、勝手に現れることがあるから自我があるスタンドなんだろうな。
「君って……自分の意志ある?」
そう小声で質問すると、僕のスタンドは少し迷ってから頷く。
「能力は?…何が出来るの?」
また小声で質問すると、僕のスタンドは困った様にオドオドする。まぁ話せないから当たり前だね。でも意思はある…ならYes,Noで答えられる質問をすれば少しずつ能力を知れるかもしれないな。
「レイカ、いるか?」
次の質問を考えているとシスターがやってくる。
「何、シスター」
「買い物に行ってくる。何かあったら葎崎さんに言いなさい」
「はーい」
返事をしながら外に目を向けると、敷地内で遊ぶチビッ子達とそれの相手をする姉さんの姿がある。
「では行ってくる」
「うん」
シスターはそう言い残して街へ向かっていった。それを見送ってから僕はこの子に向き直る。
毎度この子というのもアレだし、名前も考えないとな……原作はタロットカードか洋楽の名前をモチーフにしてるんだよね………うん、両方よく知らない。
「原作通りの名前をつけないといけないわけじゃないし…それは後にしようか……じゃあ次の質問……」
ー
ーー
ーーー
私は礼神に一言言ってから買い物に行く。今年で60になるが、買い物程度の力仕事は問題ない。
にしても礼神……私が部屋に入る前に何か独り言を呟いていたな。まるでそこに誰かがいるかのように………時折頭はおかしくないか不安になる。
「あら…貴女は…」
私がスーパーに向かうと、私を見て誰かが反応する。私もソレに反応して声のする方へ向く。するとそこには、近所付き合いの多い空条 ホリィさんがいた。
30代後半とは思えない無邪気な顔付きで、私に向かって手を振っている。そんな無邪気な仕草は昔のおちゃらけた彼女の父親にも似ていると思ったりもする。
彼女はあの忌々しいナンパ師、ジョセフ・ジョースターの娘だ。日本人のミュージシャンと結婚し、数年前に日本に移り住んできたのだ。その時にレオン殿とも再会した……ついでにジョセフも……そんなわけで私達は、知り合いの身内というわけもあって仲良く近所付き合いをしているのだ。
「エーデルさんこんにちは〜」
「こんにちは、ホリィさんも買い物に?」
「えぇ、承太郎に「母さんの手料理が食べたい」なんて言われたら頑張るしかないもの」
幸せそうに「キャーッ」と笑う彼女は相変わらず元気そうだな。
「そういえばツバメの子……確か…礼神ちゃんって子がいましたわね。承太郎と同じクラスになったそうですよ」
「そうですか。初耳です。それでは承太郎君に、礼神と仲良くしてやってください、と言っておいてください」
「えぇもちろん」
そう言って私達は共に買い物を済ませ、しばらく立ち尽くしたまま世間話を決め込む。そして日が暮れた頃……私達の隣を消防車がサイレンを鳴らしながら走り去る。火事でもあったのか?
「火事かしら…最近物騒だから怖いわ」
「そうですね。未だに捕まっていない殺人犯もいる事ですし……今日はこれくらいにして帰りましょう」
私の言うことに賛同して彼女は帰路につく。そして私も孤児院に帰ろうと帰宅し始めた………しかしそれはもう遅かった…遅すぎた………
「なん……だ………これは…」
孤児院に戻ってきた私は多くの野次馬達と、その向こうで燃える孤児院を目にして立ち止まる。水を放射する消防車と衰えることを知らぬ業火が私の脳裏に焼きついた瞬間だった。警察の方々が野次馬を道路の端に寄せさせて、パトカーがその空いた道を進んで孤児院の前で止まる。
「どうかしたのこれ?」
「放火魔らしいわよ。今逃亡中の犯人と同一人物らしいわよ」
「なんでそんなことわかるのよ?」
「詳しくはわからないんだけど、さっき警察の人が放火魔の犯人をパトカーで連行して行ったのよ!指名手配書と同じ顔だったわ!何故かぐったりして気絶してたみたいだけど…」
野次馬の会話に耳を傾けたまま私は放心状態になる。そして私は買い物袋を捨て、人混みを掻き分けて進み始めた。警察が張ったテープのバリケードをくぐると警察官に止められるが、私がここの従業員だと教えると無言で通してくれた。
「葎崎さん!みんな!どこです⁉︎」
返事は返ってこない…その代わりに孤児院の建物が派手に崩れて、背後で野次馬達が「おぉ…」と無意識に声を上げる。
そしてその時…私の視界の隅に一人の少女が映った。
「レイカ‼︎」
建物から離れた地べたに彼女は蹲っていた。無表情だが彼女の頬には、重力にしたがって涙が一直線に流れている。
私は彼女に何があったのかを聞かず、力一杯抱きしめる。体温は暖かい…心臓の鼓動が肌で感じられる…彼女は呼吸をしている…彼女は生きていた。
「………シ…ター」
「何だ?」
「…シスター……」
「私ならここにいるぞ」
「シス…ゥ…ウアァァァーーッ‼︎」
「泣け……泣き終わるまで私は側にいる」
泣き崩れた彼女を支えると、彼女は私の背中に手を回してしがみ付く。それからはしばらくの間どちらも動かなかった。ただ私の耳元では、少女の悲鳴が永遠に続くかのように響いていた。
ー
ーー
ーーー
あの後…私は泣き止んだ礼神を連れて近くのホテルに泊まった。孤児院は全焼して荒地以外は何も残らなかったからだ。それは物に限らず生命も……数人の子供の焼死体と老女の焼死体が翌日見つかった……私と礼神を除いたツバメに住む住人、全ての亡骸だった。全員足が切断されていて逃げる事ができなかったようだ。
そして警察から今回の事件について知らされたが、犯人は野次馬の言う通り現在逃亡中の犯罪者だったらしい。別件の放火があった時の目撃情報では、生きたまま人が燃えるところを見て笑っていたという……そいつが孤児院に火をつけ皆を殺した。怒りのあまり私は、警官の前で殺意を持って殺してやると呟いてしまった。すると警官から驚くべきことを知らされて。
「
理由はわからない……警察も信じがたいと言っていたが、検視の結果…放火した数分後に心臓麻痺でその場に倒れたという。連行した時にはすでに死んでいたらしい。
「シスター……僕達はこれからどうなるの?」
「………」
警察が帰った後、私はホテルに延長で泊まることにして礼神に言った。
「私と暮らそう。大丈夫…安心しなさい」
火災保険や葎崎さんと子供達の医療保険でそれなりの額が口座に振り込まれている。再び孤児院を開くのは後回しにして、心苦しいが私はその金で一人の少女を育てる事にした………残された家族を失うわけにはいかないからだ。
それでも保険金はすぐに底をつくだろう……申し訳ないが、レオン殿を頼りに安定した仕事を今度紹介してもらおう。
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ーーー
アレから10年近くが経過した。アレというのは孤児院が全焼崩壊してシスターと二人暮らしを始めた日の事を指す。生活は早々に安定したけど、孤児院を再開するのは無理らしい。シスターがそう言ってしばらく落ち込んでいたのを今も覚えている。
ただ1つ気になることがある…僕らの生活を支援してくれる人の存在だ。
住居、シスターの仕事、生活費、僕の入学金、et cetera…
それを全て肩代わりしてくれる人がいたのだ。一度だけその人と会ったことがある……上等な服を着た老人が大金持ちのイメージだった僕は、その人と会って絶句した。
風邪なのかマスクをつけてたけど、その上からでもわかるほどの凄いイケメン男性……名前は聞けなかった。
表向きは「昔シスターをこき使った時のお礼」と言っていたが、昔って何?
当時のシスターは60代の高齢なんだよ?外見高校生〜大学生の人と何があったのさ…
「さっきからブツブツ何考えてやがる」
「別に〜なんでもないよー」
現在僕と承太郎は17歳…原作開始の年だ……
「ふぁ〜……今日も眠いねぇ…」
「テメェは相変わらずだらしねぇツラしてんな」
欠伸をしながら通学路を歩いていると、隣を歩く大柄な男が話しかけてくる。
裾の長い学ラン…襟元に繋がれているアクセサリーの鎖…後頭部の髪と同化したかのような錯覚に陥る学生帽…そして10年前の少年と同一人物とは思えない口調…彼が空条 承太郎だ。
「相変わらずの改造制服だね。校則違反だよ」
「テメェだって似たようなもんだろ」
「まぁね」
僕が今着ているのは セーラー服の上を現代風(2014くらい)のブレザーにアレンジした物で、ボタンを留めずにネクタイを首に巻いている。オマケに下は男子用の学生ズボン…承太郎と同じ物だ。
「女子要素を出して君の近くにいると敵視されるんだよ」
「俺のせいみたいに言うんじゃねぇぜ」
高校の門を潜ると僕らに気付いた女性陣が黄色い声を上げて近づいて来る。
「おはようジョジョ」
「おはよう」
「あ、ジョジョだ!」
「本当だ、ジョジョおはよう」
「やかましいッ!うっとおしいぞ‼︎」
「「「「キャァーーーーッ‼︎」」」」
承太郎の罵声で黄色い声援が更に濃くなる。それを見て承太郎は軽く舌打ちして歩を進める。
「やれやれ…みんなも飽きないねぇ」
「葎崎さん、おはよう」
「おはよー」
ボーイッシュだからなのか承太郎信者の女子達は、僕にも快く挨拶をしてくれる。というか、何人かは僕が男だと本気で思ってるんだろうな……現に隣のクラスの女子から告白されたことがある……百合は…チョットゴメンかな?
ー
ーー
ーーー
そして時はさらに流れて1987年の12月前半……
いつも通り学校へ通うと、僕の席の斜め前の席が空席になっていた。いつもならそこで大柄な友人が居眠りこいているのだが、今日は休みのようだ。もっとも…昨日派手に喧嘩をして留置所に入ることになったのだけどね。
(…ということは…原作スタートかな?)
第3部の原作シナリオでは、スタートは留置所の檻の中だ。主人公である空条 承太郎は、突如現れた己のスタンドを危険視して独房に入ったのだ。
まだ見ぬジョセフさんとアブドゥルさんが日本に来るのは、原作通りだと仮定すれば承太郎が留置所に入った四日後のハズ。
「……そろそろ僕も動こうかな…」
教卓に立って頭から光を放つ教師の話を聞き流し、僕は帰りに留置場を寄ろうと決めた。説得する為に僕のスタンドを見せる必要があるだろうけど、ずっと秘密にしてたわけだし彼は拗ねちゃうかな?