あれから何日か過ぎ、ココの環境にまだ違和感を感じるある日……私は村の近くの草の原に来ていた。ココではボクシングの試合が行われていて、ジョジョもココでスポーツとして楽しんでいたのだ。
かく言う私も興味が有り足を運んでいる。前世では合気道を習っていたので、相手の動きを見極める観察眼は優れている。応用すればそれなりに活躍もできるだろう。
暫くして一試合が終わり次の試合が始まる。
「さぁ続いてのチャレンジャーはこちら‼︎」
「む…ジョジョか」
野次馬達の中からリングにいるジョジョを見つける。司会役がジョジョの紹介をしてから相手の紹介をしようとする。すると対戦相手が司会に耳打ちをしている。
「皆さんお静かに‼︎ 只今チャンピオンの友人が代わりに出たいのと申し出がありました」
司会がそう言って、チャンピオンのいる場所とは別の場所を指差す。そこにいたのはディオだった。
「あぁ…今日はこの日か」
ディオは既に人気があり、観客達はジョジョとディオの対戦を待ち望んでいる。やがて試合が始まり、私はそれを黙って見守る。
「………原作通りか」
数秒もしないうちにジョジョはディオの拳を顔面に食らう。しかも親指を目に差し込んで殴り抜くという非道な技まで使っている。
倒れたジョジョを尻目に、観客はディオの元に集まって行く。
「ジョジョ、大丈夫か?」
「うぐっ、レ、レオンか?」
唯一私がジョジョに話しかけると、ジョジョは悔しそうに歯を食いしばっている。
ジョジョに肩を貸そうとすると、周りの野次馬が私を悪者扱いしてくる。勝者は英雄扱いされるが、敗者の扱いはこんなものだ。
そこで私は一つ…ある行動に出てみる。
「流石は我が兄。あっという間に人気者だ」
「……そうか?」
(こいつ…一体何を考えていやがる⁉︎)
勝者を兄呼ばわりすると、周りが多少騒めく。なんせ私は名前しか名乗っていないので、ブランドーだと知る者は少ないのだ。
「そうだ。たまには身体を動かさないといけない……ディオ、相手をしてくれないか?」
「なんだと?」
ディオの額に汗が流れる。兄弟喧嘩をしたことはないが、私の実力は彼が一番知っている。
貧民街では嫌という程のトラブルに巻き込まれ、巻き込まれるたびに合気で投げ倒していたからだ。
YESかNOかをディオが言う前に、周りの観客は私達二人の戦いを望んでいる。これではディオは逃げれないだろう。
ー
ーー
ーーー
私はグローブを着けてリングに上がる。するとそこにはディオが警戒した表情で立っていた。
「悪いがこれはガキのスポーツじゃない。同じ金額をチャレンジャーは賭けてもらうが構わないか?」
ディオの賭け金は今月分の小遣い二人分(先程のジョジョとの試合で勝ち取った金額)だ。
「わかった」
私が硬貨を払うとディオは少し驚いた表情を浮かべる。私はあまり金を使わないんだ。貯金してれば二ヶ月分なんて二ヶ月で溜まる。
そしてようやく試合が始まった。
「後悔するなよレオン。お前をココで、このディオに…兄には敵わないということを覚えこませてやる‼︎」
「数秒早く生まれただけだろう。早くかかってきたらどうだ?」
そこで私は腕を後ろで組む。これは別に防御手段でも攻撃手段でも無い。こちらから攻撃しないというただの挑発だ。
「貴様ッ!」
案の定ディオは挑発に乗って殴りかかってくる。しかしどれもこれも私には当たらない。先ほども言ったように観察眼に優れているのだ。
そしてディオが大振りのパンチを放った時、私は姿勢を落としてディオの脇腹に自分の肩を入れる。すると自然とディオは私の横をすり抜け、私は彼の背後を取る。
「おのれっ……なっ⁉︎」
パンチとは言えぬほどの威力。私は拳を前に突き出して停止していただけで、振り向いたディオ自らぶつかってきたのだから当たり前だ。
「ルール上は私の勝ちだ。力無き者に負けた気分はどうだ?」
私の知る限り、合気道はこの時代だと日本の一部でしか知られていない。力無く制するその姿は実に魅力的だろう。
ー
ーー
ーーー
私がボクシングでディオを負かしてから長い月日が経った。
二人はかなり筋肉がついており、それでいて長身でスマートな体格をしている。
ジョジョもディオも、どこをどう鍛えたらあんなに丸太みたいな足や筋肉を手に入れたのだろうか…同じ環境下にいた私は未だに細身長身だぞ? 筋肉? 腹筋が多少割れ、二の腕の肉が引き締まってるだけだ…筋肉質とは言えない……自分で言うのもアレだがモデル体型だ。そういう本があれば、白髪で特徴的で案外ワンチャンあるかもしれない……話が逸れたな。
私はその月日の間にエリナと言うジョジョの友人を紹介され三人で遊ぶ事もあった。しかし原作と違い、ディオがファーストキスを奪う下りはなかった。そして愛犬のダニーが焼かれることも無かった。
これを機に改心したなら良いのだが………当時私はそう思った。
更に長い年月がたった。私を含めた3人はヒュー・ハドソン大学へと進学し、ジョジョは考古学の分野で…ディオは法律…私は医学部において優秀な成績を残した。医学を選択した理由は、前世で目指した職業が医者で、周りよりリードできていたからだ。おそらく他を選択すれば、私はきっとついていけない。
そして卒業式を終えたある日……私はジョースター卿の寝室にいた。理由はジョースター卿の病を診断する為だ。
医学でトップを取れた私はもちろん原因がわかってはいた。
「どうだったレオン」
診察を終えると、部屋の前にディオが立っていた。
「西洋で稀に発生するタチの悪い風邪だ。大丈夫。今が山場なだけでまだ熱は上がるが、その後は次第に良くなる」
「そうか………」
(本当に西洋の風邪だ…むしろ東洋では見られない………ディオは毒を盛らなかったのか?)
「…ん、どうかしたのか?」
「いや、何でもない」
私はそう言ってその場を離れた。
やる事を終えた私はひとまず自室に戻ろうとする。そこでふと、私は廊下の途中に飾られた石仮面の前で足を止める。
「最悪これを破壊するつもりだったが……大丈夫みたいだな」
「おや、レオン。何を見てるんだい?」
立ち止まっているとジョジョがやって来る。
「この仮面…実に奇妙だと思ってな」
「君も気になるのかい⁉︎ ならお互い興味を持つ者同士として、この石仮面を研究しよう‼︎」
「……ん? 研究してるのか?」
何だと? 研究して秘密を知ったとしたら、吸血鬼が世に蔓延る可能性があるじゃないか。
「そうだよ。言ってなかったかな? 見ててくれ……ッ!」
そう言ってジョジョは指を噛み切り、自分の血を仮面につける。すると仮面の裏側から数本の骨針が伸びる。
マズイ……いつの間に秘密を知っていたんだ?
「昔偶然発見したんだ‼︎」
しまった。ジョジョは好奇心旺盛な男。一度熱中すればどんどん追求してしまう性格。
私はジョジョに手を掴まれ、そのままジョジョの部屋まで連れて来られてしまった。そしてジョジョは自分のタンスの中から紙束を取り出すと、それを私に見せて来た。
「既にここまで………」
こればかりは予想外だ。ディオを警戒するあまりジョジョの行動を把握していなかった。
私の勘だが、原作と同じイベントが発生するフラグは「ディオが追い詰められる」「ディオが仮面の秘密を知る」の二つだ。この二つを満たせばディオは吸血鬼になり敵となるだろう。それを防ぐためにも、石仮面は触れずにいたかったのだが……まぁディオが毒を盛ってる訳ではないし、ディオが追い詰められる危険性は無いだろう。
「石仮面の秘密をより詳しく知る為には、より多くの情報が必要だ。そこで僕はロンドンに行こうと思う」
「………嘘だろうジョジョ…」
いや落ち着け、ジョジョがロンドンに…仮に食屍鬼街に行ったとしても、シナリオが進む事はあるのか? 東洋の解毒剤を探しに行くわけではないし、私が残りディオを見張ればいいだけじゃないか! そうだ…何の危険もない…大丈夫なはずだ。
ー
ーー
ーーー
「ここが食屍鬼街だ。ところでジョジョ…何故私はここにいるんだ?」
数日後、私はジョジョと食屍鬼街に来ていた。理由は半ば強引に協力させられたのだ。
「現地を知る君がいてくれれば心強いよ」
「確かに私もココで小遣いを稼いだことはあるが……」
「えっ? 今なんて言ったんだい?」
「確かにココは道が複雑で迷いやすいが……と言ったんだ。行こうジョジョ。あまり長居したくはない」
知られて得はない昔話だ。早々に用事を済ませ、私はジョースター家に戻りたいのだ。
理由はもちろんディオの事だ。私以外に彼を危険視する者はいない。そんなディオが今、私の代わりにジョースター卿の看病をしているのだ。もし衰弱してる今毒を盛られたら、すぐにポックリ逝ってしまうだろう。
「ところでレオン。本当に石仮面は持ってこなくて良かったのかい?」
「持って来たところで盗難に遭うのがオチだ。石仮面の写真はあるし、人に聞くときはコレで十分だ」
もし取られて吸血鬼大量発生ともなれば、世界の基盤が大きく崩壊する。それは避けなければいけない。
するとその時、先の方で人影が見えた。そしてその人影は、私達に走って近づいている。
「おい刺青! おめぇっちのナイフに任せるぜ!」
「ああ……!」
「あの身なりの良いあんちゃんの身ぐるみをはいじまいなッ‼︎」
それは街の連中だった。
だが、あの三人の中の内一人だけ、俺は確かに知っている。あの帽子と顔面の傷。あの男はスピードワゴンだ。
もちろん原作でも知っているが、俺はすでにこの人とコンタクトを取ったことがある。
「待ってくれ! 僕らは戦うつもりは…」
ジョジョの制止を無視して男達は襲い掛かってくる。この様子では彼も私の事を忘れているのだろう。八年経つのだ、無理もない。
「あちょー! 中国拳法であの世に逝きなぁ‼︎」
「見え透いた動きだ。それでは私の合気は乱れない」
相手の足の側面から掴んで一歩下がる。後はなけなしの腕力で引っ張れば遠心力で投げれるのだ。
上手い具合にもう一人に投げつけると、刺青の男の鳩尾に見事頭がぶつかる。
「ちった〜やるようだな坊ちゃん! このスピードワゴンが相手になってやるぜ‼︎」
スピードワゴンは帽子の唾を叩き、刃を出現させた。
やはりあの帽子で戦うのか……八年前に対処法を見つけたというのに…
「スキだらけだぜーーー‼︎」
私の首を狙って刃が迫る。だが所詮は帽子…被るための穴にタイミング良く腕を入れれば簡単に受け止められるのだ。
その対処通りに動こうとしたその時、私の前にジョジョが現れた。
「ジョジョ⁉︎」
「うおおおおぉぉ……‼︎」
「何だこいつ〜、友達を庇って自分から攻撃を受けやがった⁉︎」
私を庇ったジョジョの腕に、帽子の刃がギャリギャリと音を響かせる。そうすれば当然ジョジョの腕からは大量の血が吹き出した。
「親友を守る為ならば、この両腕を失っても構わない!!」
「バカか君は? 帽子の穴にタイミング良く腕を入れれば、簡単に止められるのだぞ⁉︎」
帽子をジョジョの腕から外すと、私はバッグから救急箱一式を取り出す。
「治療は後だ‼︎」
「もうよせジョジョ。スピード。君も手を引いてくれ」
「アンッ?なんで俺の名前を知ってんだ?」
「何?レオン、知り合いなのかい?」
「なっ…お前レオン・ブランドーか⁉︎ デカくなったじゃねえか‼︎」
ジョジョが私の名を呼ぶと、スピードワゴンは笑顔を浮かべて近づいて来る。何を隠そう、彼は昔私が命を救った男だ。
「話は長くなるが要約するとだな! レオンは俺が大怪我した時に自分の衣服を包帯代わりに止血してくれたんだよ‼︎ あの時お前がいなけりゃ、俺は出血多量で間違いなく死んでたぜ‼︎」
「そ、そんな事が…」
「それはともあれスピード…私の親友に何してくれているんだ?」
笑みを浮かべて静かに怒ってみると、彼はわかりやすくオドオドしている。命の恩人の親友の腕を切断しかけた……恩を仇で返してしまったのだ。
「ほ、本当にすまねぇ‼︎ このスピードワゴン‼︎ 今回の失態は命に代えても償わせてもらう‼︎」
計算通りだ……死神のノートを手にした殺人鬼ばりの笑みを、私は心の内で浮かべる。
「では早速協力してください。この写真の仮面について調べてるんです」
「仮面?……はて、生憎この仮面を見たことはない。が‼︎ 俺はお節介焼きスピードワゴン‼︎ 全力で調査に協力するぜ‼︎」
「え、悪いよ。君は無関係だというのに」
「ジョジョ、ここは甘えよう。彼はこの街の親玉だ…ココの情報網を最も握っているのは彼だ」
私がそう言うと、遠慮しつつもジョジョは改めて頭を下げた。
「それよりジョジョ……お前はまず止血をしろ」
「………あっ…」
その腕の怪我を忘れていたのか? 鈍感すぎるぞジョジョ。
「違うよレオン。あれ!」
ジョジョに言われて振り向くと、そこには小柄な老人が私の救急一式を詰めたバッグを持っていた。
「ヒッヒッヒ。石仮面は貰ったね!」
あの男は…原作でディオに毒を売った東洋人じゃないか……待て、今石仮面と言ったのか?
「あの東洋人、僕に石仮面の情報源を教えてくれた男だ‼︎」
……なるほど…話が見えた。
「そういう事か……」
「な、何がだい?」
「あの男は石仮面を狙っていたんだ。ジョジョにガセネタを掴ませ、調査の為にココは来た時に仮面を持ってくると思ったんだろう」
「なるほどな。それであのバッグに仮面があると勝手に思い込んだのか…」
「救急一式は結構金がかかる。どのみち奪い返しに行こうか」
スピードに案内を任せ、我々は東洋人の住処に向かった。
現在でのレオン情報
・合気道
・弱くは無い…筋肉は無い