ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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29.悪魔のカードと白衣

 ホテルのロビーで寛ぐレオンさんを見て僕は思った。嘘と演技が上手い人だなぁ………と。

 

「花京院さん…ちょっと来て。話がある」

 

 彼にだけ聞こえるように耳打ちすると、僕に続いて花京院は何も言わずにロビーを出た。

 

「なんだい葎崎さん」

 

「このホテルでシングルの部屋に泊まった人が幽波紋使いに襲われる。原作はポルナレフだけど、僕が女の子だから優先的にシングルに泊まるのは僕だと思う」

 

 幽波紋使いに襲われると述べた時点で、口を挟みたがっているのが表情から見て取れる。しかし時間が無いので無視して話し続ける。

 

「そこで僕はみんなに嘘の予言を話す。何故かって?僕が襲われると知ったら十中八九誰かが代わろうとするから。相手の能力のことを知れば、能力封じができるレオンさんが代わってくれる可能性もある。でもそれは避けたい。花京院さんもそうでしょ?だからハイエロファントだけでもいいから援軍よこしてっハァ‼︎……ハァ…ハァ…」

 

 呼吸を止めて一気に話したせいで肺の酸素が空にる。

 肩を上下に動かして空気を必死に取り込んでいると、それを見て「やっと意見できる」といった感じで花京院が口を開く。

 

「だったら予言なんてしなければいいんじゃないか?」

 

「バタフライ……バタフライ効果って知ってる?……原作と人数も人選も時間帯も違うから、もしかしたら1人部屋以外の部屋に現れるかもしれない……だから警戒だけしてもらうための布石……」

 

 満足に酸素がまだ吸えてなかったので、絶え絶えの答えで花京院の疑問を拭う。

 

「それと……レオンさんとツインに泊まってあげて…僕と君とジョセフさん以外の前だと、たぶんレオンさんは無理してみせるから…ゆっくり休めないと思う」

 

「………わかった。後でシングルの部屋番を教えてくれ」

 

 2人だけの作戦会議を終えて、僕らはロビーへ戻った。すると丁度ジョセフさんが部屋の鍵を持ってやって来た。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 それが数分前の出来事……あの後コッソリ部屋番を教えたから、花京院も今頃指定位置にスタンドを忍ばせているはずだ。

 

「さってと、疲れたー」

 

 そんな事を言って部屋に入る。

 ここで僕は確信した……よかった…のかわからないけど、原作通りこの部屋には幽波紋使い…呪いのデーボが潜んでいる。

 だって奇妙な人形が置いてあるもん……冷蔵庫の中身が全部出てるもん。

 

「まずはシャワーでも浴びようかな……」

 

 そんな事を言っといて、僕はケロちゃんを呼び出す。冷蔵庫ごと踏み潰せば流石に死ぬ………よね。うん……

 

 …………死んじゃうんだよね………コレで………

 

  (大丈夫……みんなの為…仲間の為…大丈夫…大丈夫…)

 

 心の中で自己暗示を呟く……ケロちゃんは既に前足を振り上げている。振り下ろせば殺せる…今ならやれる。

 

  (殺せる……………ぅ………)

 

 脳裏にあの日の光景が浮かび上がる。

 

 つん裂く悲鳴と笑い声……死神の声と奴の奇声……

 

 ………正直怖い…

 

「………お前……俺の存在に気付いているな?」

 

 僕がチンタラしてる内に、冷蔵庫から古傷塗れの男が現れる。そりゃそうだよね…「シャワー浴びよう」って言っといて物音一つしなければそうなるよ。

 

「ほう……中々強力なスタンドを持っているのだな。貴様の精神力と比例してるとは思えん程に…」

 

「ケロちゃん‼︎」

 

 ようやく僕は、骨が剥き出しになった前足を横に振るわせた。スタンドの力は精神力に依存する……殺気がなければ殺す程の力は出ない。

 デーボは前足に薙ぎ倒されただけでダメージがあまりない。しかも倒れた先はベッドの上だ。

 

「やってくれたなぁ…フフッ…だが緩い…」

 

 恨みが力になる幽波紋使い……一撃で仕留めようとしたのに、むしろ逆に恨むには弱すぎる一撃を放ってしまった。

 

「ふぅ……スタンドを使うまでもないな」

 

 デーボはナイフを取り出し僕に襲いかかってきた。

 その姿は奴と類似していた……僕の家族を燃やした…あいつに。

 

「………ァ……ァ…ァァァア‼︎‼︎」

 

「ヌッ⁉︎」

 

 最初は聞こえない程の小さな怒声だった。でもあの日の事を思い出すと怒りと共に声量が上がる。

 その声量が上りきった時には既に、僕の怒りは殺意に変わっていた。

 

番犬の剣(ケロベロブレード)‼︎」

 

 ケロちゃんの尻尾を取り外し、大振りに一閃……赤黒い肉片のついた尻尾の骨は、切れ味の悪い刀の様なものだ。例えるならモン○ンのティガレッ○スで作った太刀…会心率の悪いアレだ。

 

「剣道なんて少ししか習ってない……でも避ける気がないなら、僕は思いっきり振るう」

 

 左脇腹から右肩に掛けて浮かび上がった赤い線……ブレーキをかけずに突っ込んできたので、傷口は結構深い。

 

「や、やりやがったな⁉︎ やってしまったな葎崎‼︎ ウヘヘ…痛ぇぇ‼︎痛ぇよぉぉぉぉ‼︎‼︎」

 

 恨む事に成功したデーボは、ベランダに移動して飛び降りようとする。すると……

 

「エメラルドスプラッシュ‼︎‼︎」

 

「逃走経路は把握済みだよ」

 

 ベランダには花京院のスタンド…ハイエロファントグリーンがいた。部屋から出さないようにスタンバッてもらっておいたのだ。

 無数の宝石の弾幕を全身で浴び、デーボは室内に飛んで戻ってくる。

 

「ケロちゃん、伏せ」

 

 室内だと馬サイズのケロちゃんは結構邪魔だ。だから僕は伏せをさせて、奴が飛んで来る軌道を空ける。そしてケロちゃんの頭上を通り過ぎた辺りで……

 

「チンチン‼︎」

 

 二足歩行で立ち上がらせて、頭と天井で挟み込む。内臓が潰れたのか、デーボは吐血する。

 

「テメェ……よ、良くも……エボニーデビル‼︎‼︎」

 

 タンスの上に置いてあった人形がカタカタと動き始め、鬼の形相を浮かべて襲いかかってきた。

 

「ガルルルルル‼︎‼︎タマキン食い千切ってヤルゼェ‼︎」

 

「元々無いよ‼︎」

 

 「「何?」」

 

 …………なんでそこで一番の驚き顔を見せるんだよ……しかも自分のスタンドと声まで揃えて…

 

「ハグォォォオ⁉︎」

 

 二足歩行させたケロちゃんの身長は約3m50cm…後ろ足に力を入れさせて、デーボにかかる圧力を更に上げる。

 いくら恨みが強くても……進行形で攻撃されながらだと操作もできないだろう。

 そこでケロちゃんを4足歩行に戻させ、今度は奴のスタンド…エボニーデビルに嚙みつかせる。

 

「は、離しやがれ‼︎このクソ犬が‼︎」ガンッ

 

 我がスタンドの防御力は世界一〜。恨みでパワーアップされても、僕のケロちゃんには傷一つつかない……というか、噛み付かれていて腕を上手く動かせてないね。

 咥えられて完全に拘束したことを確認すると、僕はそのまま部屋を出た。

 そしてまだ部屋の中にいる僕のスタンドに向けて心の中で命令した。

 

「ケロちゃん………………噛み砕け」

 

 さっきまでいた部屋の中で、肉が潰れて骨が砕けた様な音と、青年の奇声が一瞬だけ響いた気がした。

 防音設備が良いんだろう……多分誰も聞いてないね。そういえば原作でも、ガラスが割れたり派手な音がしたのに誰も来なかったもんね。聞こえたら普通不審がって通報するなりするだろうし。仕方ない………

 

「………スゥ…キャァァァァァアアアア‼︎‼︎」

 

 前世合唱部の僕は、最大声量で叫んだ。

 

 

 

 

 

 あの後、僕の悲鳴を聞いて駆け付けたスタッフが部屋の中を見て悲鳴を上げた。それで近くを通っていたスタッフが来てまた悲鳴を……

 ちなみに僕は「自分の部屋に入ったら中が大惨事になっていて、怖くて外へ出て悲鳴を上げた」って言っておいた。

 僕みたいな外見少年が「骨が砕かれ四肢がバラバラになった死体を作った」だなんて普通思わないからね。

 事件は迷宮入り…ホテルから逃げる客足…お詫びとして代わりの部屋(逃げた客がチェックアウトした部屋)を用意される……そして今に至る。

 

「……と言うわけです」

 

 僕は今その部屋で正座している。僕の前では、旅の同行者の皆さんが囲むように立っています。

 

「…ごめんなさい」

 

「幽波紋使いを倒したんだ。自己防衛して己の身を守った…そこは謝ることではない。ただ、お前さんの予言が外れた…これはどういうことじゃ?」

 

 その質問…来ると思ってましたよジョセフさん。

 

「バタフライ効果って知ってます?原作と違って、人数も人選も違う……しかも原作より早いペースで旅が進んでます。そうなれば予言の多少のズレは起きて当然だったんだよ……本当にごめんなさい。次からは気をつけます」

 

「いや礼神…だから謝る事ではない。君が無事で何よりだ」

 

 アブドゥルさんが優しい……でも僕が今謝ったのは、みんなに嘘をついたことに対してだよ。予言は間違えてない。

 謝罪の意味が伝わらなくても、しないとダメだと僕は思った。

 

「さて…今日はもう休もう。礼神の部屋の代わりは3人で泊まれる部屋の様だ。念の為に1人になる事は避けた方がいい…進路の相談もあるし、礼神には悪いが我々と泊まろう」

 

「はーい」

 

 そんな訳で僕は、ジョセフさんとアヴドゥルさんペアと泊まることになった。

 

  (花京院さん、ありがとね)

 

 部屋を出てく花京院に向けて口パクすると、それに気付いたのか微笑んで軽く頷いてくれる。

 

「次の打ち合わせは明日の朝…朝食の場で話そう」

 

 そうやって皆が退出し、僕らは旅先の話を手っ取り早く済ませた。

 と言っても…僕が原作を伝えて対策を話す。そこに2人が意見して微調整するだけだけど。

 それが終わると僕は、ベッドと布団の間に滑り込んで丸くなる…………しかし、僕はある事を思い出して洗面所に向かい、自分の手を入念に洗う。

 

 …何度も………何度も……何度も…何度も何度も洗う。

 

「…………」

 

 ………何度洗っても、僕の手は綺麗にならなかった。

 目には見えないが、僕の手には夥しい量の返り血が付いている…目には見えないが、僕の全身は真っ赤に染まっている。

 

「………落ちない…」

 

 僕は今日………人を殺してしまった………

 

「……礼神…君が望むなら、帰りの飛行機を手配しよう」

 

「ッ!…ジョセフさん………いえ、結構です。僕は皆と戦いたいです。それに、ここまで来たら皆さんと離れて帰宅するのは逆に危険」

 

 洗面所の入り口に立っていたジョセフさんは、真剣な表情で僕に提案してきた。

 今の提案に頷けば僕はきっと日本に帰れる。でもそれはとても危険な行為だし、僕はまだ帰りたくない。

 

「……初めてだったんだ。殺すどころか……スタンドで攻撃すること自体、僕は初めてだったんだ」

 

 そう言いながら僕は目を瞑った。

 すると、僕の肩を包むように金属製の物体が圧をかける。次第にソレは僅かに熱を帯び、ほんのりと身体に浸透していく。

 

「人に似た者ならワシも殺したよ。何度も何度も…ワシはすぐに慣れたが………お前さんは我々より常識人らしい」

 

 目を開けるとジョセフさんは、僕の肩に左手を置き優しい表情を浮かべていた。先ほどの真剣な顔つきとは違う…人を和ませる顔だ。

 

「礼神は人殺しにはなれん。それでも戦いたいと言うお前さんは とても勇気ある少女じゃ。じゃが、お前さんは1人ではない……ワシらが付いとる。守ってくれる仲間がな」

 

「…………そうだね……より信頼するためにも、レオンさんの秘密を教えてくれると嬉しいな?」

 

 最後にふざけた口調でそう言うと、ジョセフさんは歯を剥いて笑い、驚くべき事を言ってきた。

 

「いずれは教えてくれるさ。その時は礼神も……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………⁉︎」

 

 目を見開いてジョセフさんを見つめると、笑っていたはずのその老人はまた真剣な表情を見せた。

 

「誰にだって秘密はある。言えんなら言わんでいい」

 

「…………そう……だね…」

 

 そう言い残してジョセフさんは退出した。

 

 ………しかしすぐ舞い戻ってきた。

 

「すまん……歯磨きしに来たんじゃった」

 

「……プッ…もうボケちゃったの?」

 

 一度吹いて僕は笑った。

 

 

 

 

 

 翌日の朝食の場で、少食の僕は皆より早く食事を終えた。そこで皆が食事に勤しんでる間に、僕は予言込みで今後の方針を話し始める。

 

「それではこれからの動きについて説明します。まずこの後、承太郎とアヴドゥルさんには、インド行きの列車のチケット人数分を買ってきてもらいます」

 

「その人選にはよぉ、なんか意味はあるのかい?」

 

 フォークをこちらに向けながらポルナレフが質問してくる。

 行儀が悪いなぁ…

 

「もちろんあるよ。チケットを買いに行く道中で敵に襲われる…原作では花京院さんと承太郎が買いに行くんだけど、途中の何処かで花京院さんとスタンド能力で化けた偽物が入れ替わる。ケーブルカーあたりで承太郎がそれに気付き、バトルスタートって感じだった」

 

「僕の偽物?テニール船長の次は僕か……」

 

「敵の能力は、ダメージがフィードバックしない流動するスタンド……ヘドロみたいな奴で、それを身に纏い変装してる。そして恐ろしいのが、そのヘドロに触れると消化されて吸収される事だね。吸収するにつれてスタンドはパワーアップする」

 

「フィードバックしないスタンド?じゃあそれでずっと防御されたら倒せねぇじゃん」

 

「今日は冴えてるねポルナレフ、その通りだよ。そのスタンドの上から承太郎が攻撃しても、本体に衝撃は届かなかった。だからアヴドゥルさん」

 

 そう言ってアヴドゥルさんに目を向けると、僕の考えがわかったのか鼻で笑う。

 

「フッ…なるほど。私の炎の出番だな」

 

「うん。呼吸をするために穴はあると思う。だから炎で包めば………推測だけどね。何より、触れずに攻撃できるのが大きい。熱したらヘドロが飛び散るかもしれないから距離には注意。いざとなったら承太郎が力技で水中に引き込んで。呼吸をする為にスタンドを解除するから」

 

 キリよく説明を終えると、丁度いいタイミングで皆が朝食を終えた。

 

「承太郎、支度を終え次第出発しよう」

 

「おう」

 

 そう言って2人は一度、部屋に戻った。

 

 

 

 

 

「念の為にもう一度言うよ?アヴドゥルさんの炎がダメだったら、すぐに水中に叩き込むんだよ?」

 

「わかったって」

 

 承太郎とアヴドゥルさんが主発する前に釘をさすと、承太郎が呆れながらも返答する。そして2人を見送ってから、僕は部屋に戻ろうと踵を返した。

 

「…お、ポルナレフだ」

 

「よう。丁度良かった……聴きたいことがあるんだ」

 

 廊下の途中で前から、ポルナレフが手を振って歩いてきた。聞きたい事?一体なんだろう。

 

「スリーサイズはシークレットだよ」

 

「ハハハッ、そりゃ残念……ひとまず、場所変えようぜ」

 

 なにやら真剣な面構えで、ポルナレフは僕を連れてホテルのプールサイドに移った。何故プール?

 

「昨日礼神がデーボの野郎をやっただろ?それで気味悪がって大半の客がチェックアウトしたんだよ。おかげでココには人っ子一人いねぇ。ちょっと2人になりたかったんだよ」

 

「何それ。それで…こんな所に連れ込んで何する気?変な事したら…本気……で…………?」

 

 ポルナレフの表情を視認して僕は言葉を失った。

 彼の目付きは獣のソレに似ていて、瞳の奥では殺意を具現化したような炎が見える。

 

「正直お前の予言を、俺は信じていなかった。だが偽物の船長に続きオランウータン……デーボに関しては完璧な予言こそできなかったが、逆にそれが信憑性を得ている………礼神……お前は本当に未来の出来事を知っているのか?」

 

「ぅ、うん……」

 

「そうか……………」

 

 そう言ってポルナレフは一度目を瞑り、別の質問を投げかけてくる。

 

「なら両手が右手の男も……知ってるんだな?」

 

「ッ‼︎…それは………ッ…⁉︎」

 

 気がつくと僕の鼻頭には、銀色のレイピアが突き立てられていた。まだ刺さってはない……だが切っ先は既に、僕の皮膚と接触している。

 

「言え……そいつの名を‼︎ 能力を‼︎‼︎」

 

 再び開かれた眼の奥では、先程より炎が黒く染まっている気がした。そしてそれは彼のスタンド…銀の戦車(シルバーチャリオッツ)も同じだった。彼の精神が反映され、スタンド自体が殺気を放っている。

 今のポルナレフはいつもの彼では無い……とても怖い……女子高生に激怒する承太郎よりもずっと怖い………

 

「それは…………まだ言えない」

 

 そう言うとチャリオッツはレイピアを振り回し、僕の首筋でピタリと切っ先を止めた。

 切っ先はまた僕の皮膚……頸動脈と接触している。

 思わず僕は後ずさるが、それに合わせてポルナレフが距離を保つように近づいて来る。結果レイピアは、僕の首筋に当てられたまま離れない。

 

「…お、落ち着いてポルナレフ……僕はただみんなが無事に旅ができるように……」

 

「知ったことか‼︎ 俺がこの旅に同行してる当初の目的を忘れたか‼︎」

 

 追い詰められた僕の背中は遂に、ホテルの壁面に付いてしまった。これ以上後ずさりは出来ず逃げ場がない。

 それが逆に、僕の気持ちに拍車を掛けた……もしかしたら焦りかもしれない。僕は言うつもりのない事を口走ってしまった。

 

「死ぬよ……」

 

「俺は復讐のためなら命だって捨てれる‼︎」

 

「仲間の命も⁉︎ ポルナレフのせいで………ぅ…」

 

 みなまでは言わなかったが、ポルナレフは僕の言葉の先に勘付いたらしい……レイピアが一瞬だけ揺れて、首筋との間に隙間ができる。

 

「………目の前の事に集中して……必ず復讐は遂げさせてあげるから………だから今は待って……」

 

「……だが……俺は……」

 

 未だに彼の殺意は消えない。だが迷っている……その隙に僕は駆け出し、チャリオッツの元を離れた。

 

「…ポルナレフ……僕は君を…罪人(つみびと)にしたくない……」

 

「……何を………生意気な………」

 

 肩を震わせながらポルナレフが消えそうな声で呟くと、聞き慣れぬ男の声が隣から聞こえてきた。

 

 

 

「うーん。こういう時…男ってなんか小さく見えるよねぇ」

 

 

 

「…………えっ?」

 

「だ、誰だテメェ‼︎」

 

 僕のすぐ隣に声の主は立っていた。

 煙草をふかした白衣姿の男性……歳は30代半ば程かそれ以上だろう。

 そして僕は驚愕した……今までそこには誰もいなかったと()()()()()()()()

 しかし元からいた…前からそこに存在していた……何故それがわかるかというと、現在進行形で彼の気配を感じない…目立たない…目で直に見ているのに、背景と同化してるような雰囲気を醸し出しているのだ。

 何より今咥えている煙草……今思えば、プールサイドに来た時から煙草臭が漂っていた気がする。

 

「ごめんね、盗み聞きしちゃって。謝るからその物騒な物をこっちに向けないでくれよ」

 

「スタンドが見えている⁉︎ 新手の幽波紋使いか‼︎」

 

「うん。オジさんは幽波紋使いだよ。最近DIOって人に雇われてね」

 

「ぶった斬る‼︎」

 

 自らDIOの手下だと名乗った男は、ポルナレフが攻撃を仕掛けてきているのにヘラヘラと笑っていた。

 

「おいおいセッカチだな。オジさんまだ戦うつもりは無いぜ?」

 

 そう言い終わるが早いか、男は白衣の内側から注射器を取り出して空中に中身を打ち出した。

 そしてその液体は驚く事に、レイピアの軌道…角度に合わせて宙を舞っていた。液体は細いレイピアの8割を濡らす。

 

「っ⁉︎」

 

「まず話だけでもしようぜ。おじさんね、交渉しに来たの」

 

「交渉…?」

 

「うん。オジさんの仕事は君達を殺す事なんだけど、オジさんの独断でお嬢ちゃんを連れて行こうと思ったんだ。だから大人しく引き渡してくれるなら何もしないのよ」

 

 両手でヤレヤレといったポーズをとりながら、男は僕をジッと見ている。

 

「DIOの手下だとわかっていて……渡す訳ねぇだろ‼︎‼︎」

 

 ポルナレフがチャリオッツでまた切り掛かる。しかし今度は何もせずに男は棒立ちでこっちを見ている。

 レイピアは男に向けて振り抜かれ、レイピアの軌道内には、確かに男が入っていた……にも関わらず、男は無傷だった。

 

「何ッ⁉︎」

 

「剣をよく見なよ、剣をさぁ〜」

 

 レイピアの刀身は、ほとんどが溶けて無くなっていた。

 やばい……レイピアを失ったチャリオッツは何もできない‼︎

 

「ケロちゃん‼︎」

 

「おっと……下手に抵抗しないでくれる?」

 

 懐から瓶を取り出し僕のスタンドに投げつけてくる。瓶の蓋は開けられていて、中身がケロちゃんの骨身を濡らす。

 

「アッ……ァ……」

 

「礼神⁉︎」

 

「硬くても関係ない、塗り薬みたいな痺れ薬さ。さて……まだ続ける?これ以上は脅す術がないから、次はオジさん殺しちゃうよ?」

 

 白衣のシワを叩いて直しながら、日常会話のように男が言った。

 ………この人……本気でヤバイ……何者か知らないけど、ラスボス手前ぐらいの実力者だ……

 

「うん♪ 何もできないみたいだね。じゃあお嬢ちゃん貰ってくね……」

 

「待ちやが……ガハッ⁉︎」

 

「言い忘れてたけど、オジさん結構強いよ? 理解できたら大人しくしててね………さて、ラバーソウル君は大丈夫かな?」

 

 無謀にもポルナレフが素手で殴りかかると、男の拳が流れるようにカウンターでボディを入れる。

 ポルナレフはその場に沈み、ボディブローを放った手は僕へと伸びる。

 身体が痺れて悲鳴すら出せない…ポルナレフは動けない…絶体絶命………

 

 ーーーーーーズキュンッ‼︎ーーーーーー

 

「ウッ……覗きとは感心できないな…」

 

 ……かと思ったその時…空から紫色のレーザーが二本降り、白衣男の右腿を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中から外を眺めていただけだ」

 

 続けて空からレオンさんが降って来た。

 

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