ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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3.悪は闇に染まる運命

「何か言うことは?」

 

 凄みを聞かせて笑顔で質問すると、東洋人はガタガタと震えながら謝罪する。

 

「レオン……どうしたんだ…急に」

 

 怒りを覚える機会がなかっただけで、私が怒った時は大体相手は後悔する。ついでに言うと、私は自分と知り合いに対して悪事を働く奴が嫌いだ。

 私はこれが原因で、前世では「自己中な正義」と呼ばれた事もある。

 

「さて…どう落とし前をつけてもらおうか?」

 

「ひっ⁉︎」

 

 だが私は、意味なく恐怖を覚えさせてるの訳ではない。

 

「許してほしいか?」

 

「み、ミーなんでもするネ。だから許してヨ…まさかアンタがレオンだとは思わなかったのヨ」

 

 実を言うとこの男ともコンタクトは既にとっていた。昔この男に盗難にあったことがあったのだ。要するに今回で二度目なのだ。

 そして私は今の言葉を待っていた。ここで私は、この東洋人に交渉する。

 

「確か君は東洋の薬を扱っていたよね? 一番良い栄養剤を幾つか分けて欲しい。まさか騙すなんてことはないだろうけど…念の為付いてきてもらおうか」

 

「やッ⁉︎ アレは希少で……」

 

「だからこそ欲しいんだ。三割引きで買い取っても構わない」

 

「それなら……まぁ…」

 

「ついでと言ってはなんだが、東洋の薬物を色々持ってきてくれ。医学部卒業した者として興味がある」

 

 一度断らせてからハードルを下げた交渉をする。この状況では罪悪感と恐怖から二度目の交渉は高確率で成功するのだ。

 本当の目的は解毒剤を持ってジョースター家に来てもらうことだがな…これはディオが毒を盛った時の保険だ。ダリオ・ブランドーに盛った毒と同じものなら、彼と解毒剤があればどうにかなる。

 ダリオに毒を盛った時は目を瞑ったが、あの人に毒は盛らせない……ん?ダリオの時に目を瞑った理由?

 私だって虐待を受けていたし、少なかれ母を殺され恨んでいる……だから「自己中な正義」なんだよ。悪党まで助けるつもりはない。もし生き延びたらジョジョに会えないかもしれんし……

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 結局石仮面の情報は掴めず、ジョジョは頭を垂らす。馬車で帰る最中もそれがショックだったのか、時折溜息をついて東洋人の男、ワンチェンを睨んでいた。

 

「……ところでスピード、何で君は私達に付いて来ているんだ?」

 

「へっへっへ! 俺ぁお節介焼きのスピードワゴンなんでな! な〜んかあんた等二人に東洋人を任せると不幸な事が起こりそうな気がしたんでよ、勝手だが付いて来てやってるんだよ」

 

 そう言ってスピードワゴンはびしっと決め顔を見せて来た。ジョジョの事も気に入り有り難い事だが……一つ気になるな……昔からスピードワゴンの勘は当たる。私の嫌な原作混じりの推測が当たってしまいそうだ。

 

「なぁジョジョ、良いのか? 彼を屋敷に連れ込んでも」

 

「構わないよ。スピードワゴンは良い人みたいだし」

 

 そこまで言うと馬車の揺れが止まる。どうやらジョースター邸に付いたようだ。

 降りる為に扉を開けようとしたその時、私が扉に手をかける前に外部から慌ただしく開けられる。

 

「レオン様‼︎ ようやくお戻りになりましたか‼︎」

 

 それはココで働く若いメイド…リリーだった。私の帰りを待っていたようだが、一体どうしたというのだ?

 

「おや? こちらのお二人は?」

 

「それは後だ。何か私に用があるのだろう?」

 

 馬車の中に顔を突っ込み、スピードとワンチェンに目を向ける。そんな彼女の肩を掴んで外に押し戻す。そして私はその足でそのまま外へ出る。

 

「それで、どうしたんだ?」

 

「それが……ジョースター卿が…」

 

「何ッ⁉︎ 父さんがどうしたんだ⁉︎」

 

 ジョースター卿という単語に反応して、ジョジョは客人二人を押し退けて出てくる。

 まさか……だが問題無い。既に私は対策を打っている。

 

「診察だな? わかった。リリー、悪いが客人二人を私の部屋に案内してくれ……あと、もう一つ頼んでいいか?」

 

 早足で玄関に向かいながら命じていたが、私は足を止めてリリーを引き寄せ耳打ちをする。

 すると、リリーはメイド服のドレスの裾を上げUターン。馬車に戻って客人を出迎えた。

 

「ジョースター卿‼︎ 大丈夫ですか⁉︎」

 

 極力静かにしたつもりだが、少々荒々しく扉を開けてしまう。それに反省しながらも、ジョースター卿が横たわるベッドに駆け寄る。

 

「……レオンか……安心してくれ…私は大丈夫だ……」

 

「それは私が判断します。診察道具は何処だ?」

 

「こちらに…」

 

 既にベッドの隣には、私が使う道具が用意されていた。つくづくここの召使いは優秀で助かる。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 フッフッフッ……どうやらジョジョ達が帰ってきた様だ。しかしもう遅い…怨むなら、父親が病気の時に外出した自分達を怨むんだな!

 

「さて…俺も下へ降りるとしよう」

 

 善人を演じる為に俺はジョースター卿の寝室に足を運ぶ。そこにはジョジョと、既に診察を終えたジョースター卿……そして我が弟、レオンがいた。

 

「レオン……父さんの具合はどうだ?」

 

「……おかしい…前診察した時と完全に症状が違う…」

 

 それもそのはずだ弟よ…ジョースター卿には東洋にしかない毒を盛った。本来は何度かに分けて定期的に摂取させなければ効果は無いが、今のジョースター卿は病で元々衰弱していた為一度だけで十分よ!

 

「父さん…どうして……」

 

「レオン! 前の診察は本当に正しかったんだろうな⁉︎」

 

 俺の邪魔をする者は弟でも容赦しない………今まではただ泳がせていただけだ! 俺の家族に対する最後の許しだ。満足に楽しめただろう? レオンよ……

 

「もし……お前の診察が正しければ…」

 

 お前の心を叩き折る為に罪悪感を煽る。お前が未熟だった事にし、お前が悪役になるのだ!

 

「よしなさいディオ……レオン、お前は悪くない…」

 

「いえ……私のせいです…」

 

 そうだレオン、お前のせいだ。さあ、このディオに絶望に染まった顔を見せてみろ。そうすれば後はジョジョを始末するだけだ。

 

「私が未熟なばかりに……私自らの手で助けることができない‼︎」

 

(……なんだレオンよ…なんだその表情は…⁉︎)

 

 確かに悔やんでいるが絶望とは程遠い。まるでジョースター卿の死を恐れてないかのよう……いや恐れていないのではない‼︎ あの顔は自信に満ちた顔だ‼︎

 

「君を連れてきてよかったよワンチェン。この東洋の病は君の持ってる解毒剤でしか治せないからね」

 

 ……絶望の顔を晒したのはレオンではない…このディオだった。

 寝室の出入り口に目をやると、そこには俺に毒を売った東洋人がいた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「ミーが売った毒と同じ症状ね。むしろ自然と発病する可能性はほぼ皆無ネ」

 

 嘘をついたところで何の得もない事を察していたのか、ワンチェンは素直に白状する。それに対してディオの表情からは焦りが見える。十中八九毒を盛ったのだろう。

 

「という事は……父さんは誰かに毒を盛られたと言うのか⁉︎」

 

「そういう事だよジョジョ……ワンチェン。教えてくれ…毒を誰に売った?」

 

「待て‼︎ そいつが毒を盛った可能性もある‼︎ レオン! そう簡単にいう事を信じるな‼︎」

 

 ワンチェンがディオを指差そうとするが、ディオの張り詰めた声でその動きを止めさせる。

 

「ディオ…正直言うと私は、既に犯人に見当がついているんだ」

 

「なんだと?」

(レオンは俺の策を見据えていたのか⁉︎)

 

「よさないかレオン! 身内で犯人探しなぞしたくはない‼︎」

 

「貴方も気付いているでしょう…ジョースター卿……貴方に薬を運んだのは誰ですか?」

 

「よしなさいと言っている‼︎…はぁ、少し席を外してくれないか? ディオ。お前は残りなさい」

 

 ……少し意外な展開だ。原作はバトル漫画なのだが、まるで王道推理漫画のようでシリアスな流れだ。まさかこのままディオを改心させるつもりか?

 ひとまず私達はディオとジョースター卿を残して寝室を出た。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 私は素直に寝室を去ると、その足で自室に向かう。その際にリリーと合流し、彼女を連れて部屋に入る。

 

「こちら……です…」

 

「間違いないな?」

 

「はい……屑籠は今朝早くに中身を捨てておきました。そして間も無くジョースター卿が薬を服用したので、屑籠に残った使用済みの包み紙は今朝のものです」

 

 私が言ったことを全て指示通りに行ってくれたようだ。本当に優秀で助かる。

 

「ありがとう、リリー。後はこの包み紙に着いた粉をワンチェンに調べさせれば……今はいいか」

 

 ジョースター卿が今ディオと話している。改心させる為かどうかはわからないが、あの人が止めろと言って話を止めた以上これ以上の詮索は一旦中止しよう。

 

「レオン様…」

 

「…ん?」

 

 ひとまず時間が過ぎるのを待とうと思い、私はベッドに腰をかける。するとそのタイミングでリリーが私の名を呼ぶ。

 

「レオン様はご兄弟であるディオ様が、ジョースター卿を毒殺すると睨んでいたのですか?」

 

「あぁ。そして私は兄の過ちを弟として正そうとしていたんだ。しかし実現できずに今に至る」

 

「ディオ様の……えっと………その」

 

 随分と言いにくそうだな……私はそんな彼女の口を、人差し指で塞ぐ。

 

「罪を何故隠そうとしないのか…兄弟なのだから味方をしてやろうとは思わなかったのか? そう聞きたいのか?」

 

 歯切れの悪いリリーの口を押さえ、私は代わりに聞きたい事を口に出してやる。

 するとリリーは驚いた様子で目を丸くする。当たりのようだ……

 

「私はディオに正しい道を歩ませれなかった。だから諦めて知らん振り……そういう訳にもいかないだろう? 私なりのケジメだ…兄弟だからと言って目を瞑る事は出来ない……それにジョースター卿の命だってかかっている」

 

 そう言うと渋々納得した表情をする。

 

「納得出来ないのか?」

 

「……レオン様は心を読むのがお得意ですね」

 

 苦笑いを浮かべる彼女とそんな話をしていると、急に下の階が騒がしくなる。一体何があったのだろう……何故だか嫌な予感がする。

 

 …………そしてその予感は的中した。

 

「父さぁぁぁあん‼︎」

 

 手摺りから身を乗り出してエントランスを覗くと、そこにはジョジョに抱かれるジョースター卿の姿がある。それを見た私は急ぐあまり、手摺りから飛び降りる。

 

「レオン‼︎ 早く処置を‼︎」

 

 そう言われて止血を始めるが、どう見ても手遅れだ。傷は心臓に達していてどうすることもできない。

 

「息子達の……腕の中で死ぬのも……悪くないぞ……」

 

「父さん。そんなこと言わないでくたさい‼︎」

 

「すまないなジョジョ……そしてレオン…お前にも謝らなければならない。私はお前の兄を助けられなかった…」

 

 貴方という人は……やはりディオの為の行動を取っていたのだな。

 私達の腕の中で生命の灯火が消えていく。それが消え切る前に私は感謝を述べた。

 

「今までありがとう…父さん」

 

 初めてジョースター卿の事を父さんと呼んだ。するとジョースター卿は満足そうに息を引き取った。

 私の隣ではジョジョが嘆いているが、私はまだ嘆いてる場合じゃない。

 

「スピード……ディオは何処だ?」

 

「ディオは…………俺が殺した」

 

「それは知ってる。君ならきっと、暴挙に出たディオからジョジョを守る為に発砲してくれる…君はそんな人だ」

 

 ディオは何かしらの武器…恐らくナイフでジョジョを刺そうとした、そしてソレを父さんが庇ったのだろう。

 冷たい表情で立ち上がると、皆は驚いた様子で私を見る。

 

「生憎私はまだ、安心して泣くことができないんだ。スピード、ディオは何処だ?」

 

 同じ質問をすると、彼は遺体の場所を聞いているのだと理解して、窓の外を指さしてくれる。

 

「そうか………ディオ。聞こえるか? いい加減出てきたらどうだ?」

 

 窓の外に向かって呼びかける。私は知っている、仮面の力を…私は知っている、ディオが仮面の力に気付いたことを……石仮面の力を知らなければ、彼はこんな無謀なことはしない。

 

「貴様……どこまでこのディオの策を見透かしているのだ?」

 

 窓からディオが姿を現す。すると周囲の者達は騒めく。

 

「こ、こいつは確かに俺が眉間を…」

 

「借りるぞ……ディオ、今回の出来事で君はもうこちらには恐らく戻れない。そもそも戻るつもりはないだろう?」

 

 スピードの懐から拳銃を引き抜く。そして私は淡々と話し掛ける。

 

「当たり前だ。こんな素晴らしい力を手に入れたというのに、何故貧弱な人間として生きる必要がある⁉︎」

 

「ディオ……私はお前を殺す。これが私のけじめだ」

 

 そう……これが父さんに甘え死に追いやってしまった私のけじめ…

 

「知っているよ…お前はそういう男だ。だが俺も!ここでくたばるわけにはいかん‼︎」

 

 悠長に会話ができたおかげで、私とディオ以外は皆外へ出た。原作と違い、ジョジョと父さんの亡骸も持ち出されている。

 

「レオンよ…私は今日気付いたよ…俺がお前に抱いていた感情に……俺は貴様に嫉妬していたのだ! 醜いことにな‼︎ 貴様は俺より優れていた! そんな貴様を守る立場として振る舞い、あたかもこのディオの存在意義を再確認していたのだ」

 

 何を言うかと思えばそんな事か…私がディオより優れている? そんな訳ないだろう。ただ十七年間だけ恵まれた環境で生きてるだけ…前世の記憶があるだけだ。

 

「死んでくれ…ディオ」

 

「我が命の糧となれ‼︎ レオン‼︎」

 

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