ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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30.異常なイレギュラー

「W-Ref」

 

 ブーツの足裏から落下ダメージを吸収…そして…

 

「reflection」

 

 白衣男の胸倉を殴りながら放出すると、男は凄い勢いで後方に吹き飛びプールに落下した。

 

「……バックステップを踏んでダメージを流したな…」

 

「それがW-Refって奴?オジさん困っちゃうな……だって」

 

 「「君、かなり強いから(貴様、手練れだな)」」

 

 私と男のセリフがかぶる。

 すると男はプールから這い出てきて、懐から注射器を取り出した。

 

「チャリオッツのレイピアを溶かし、礼神のスタンドを麻痺させた………そんな薬品を作るのが、貴様のスタンド能力か」

 

「ご名答〜。正解者の君にはオジさんの治験対象にしてあげよう」

 

 奴は注射器片手に堂々と正面から歩いて来る。一見隙だらけに見えるがこの男……かなり異常だ…足を撃ち抜かれたのに、何故こんなに静かに歩ける?何故友人と話すかのように笑える?

 痛覚が存在してないのか?……だとしてもこんな不気味な程静かな動き………これは…

 

「……殺し屋……暗殺者か?」

 

「…どうだろね」

 

 足音も立てずに男は急接近…殺気も纏わずに注射器を振りかざしてくる。注射針の先端からは、水滴サイズの薬品が飛んで来る。

 

(注射器を派手に振り回し、水滴から注意を背けるミスディレクション……オマケに派手に振り回す割に隙がない…)

 

(このお兄さんは強敵だな……水滴の一つ一つまで見極めて避け、オジさんの注射器もチャッカリ捌いてるもんな…)

 

 両者が五分五分の攻防を繰り広げる。

 私は相手の攻撃をすべて捌けているが、相手も波紋が集まる手先には触れずに、私の攻撃を捌いている。

 しかし早くも戦いに進展が見られた。

 

「フゥーーーッ!」

 

「ッ⁉︎」

 

 口に溜めていた煙で奴は私の視界を遮った。しかし目隠し程度で遅れをとったりはしない。

 私は波紋で鍛えた肺活量を使い、息を吹いて煙を払い退ける。すると2mほど離れた場所に飛び退いた奴の姿が見えた。

 

「おぉ」

 

 注射器をクナイのように投げながら、男は私を見て少し驚く。私は姿勢を低くして躱すが、避けた進路まで予測して奴は注射器を投げていた。

 

「波紋防御ッ!」

 

「甘いねぇ」

 

 別の注射器を波紋で受け止めた注射器にぶち当ててくる。そして空中に中身が散布され、胸にソレ(中身)がかかる。

 

「弾く波紋で…」

 

 最低限にまで効果は薄められただろうが、妙な痛みが走り胸を押さえ蹲る。すると男が私に近づき、トドメを刺そうとする。

 

「ツメが甘かったねぇ…」

 

「……そちらこそ。私が蹲っている理由は苦痛のせいではない」

 

 その時…私の背後に飾られていた観葉植物の一つが破裂した。それには既に波紋を流していたのだ。

 

「サボテン……!」

 

 流石に失明は恐れたのか、男は顔面だけはガードした。その隙に足払いをして転倒させようとするが、奴は足元など見えていないのに跳躍して躱す。

 

「なーんだ。蹲ったのは猿芝居か……」

 

「液状のは防げたさ………が……いつの間に毒針まで…」

 

 私の胸に毒が掛かった時の一瞬の隙にだろう……私の身体のあちこちには毒針が刺さっていた。

 

「面白いだろう?注射一本分で馬とかを動けなくするくらい強力な麻酔だ。強力すぎる為、量の少ない毒針程度でも調子を損ねるくらいならできる。効果切れを待つ以外の治療法は無い………でも波紋なら緩和できるかな?」

 

 要するに痩せ我慢しながら戦わないといけないのか。

 動きはするが全身に痺れが走っている……

 

「と言っても…これ以上戦う意味はないけどな」

 

「…………あらら……これは流石に…」

 

 男は残念そうに両手を挙げて降伏のポーズをとった。

 その理由は、プールサイドに3人の男が駆けつけたからだ。

 

「レオン‼︎無事か⁉︎」

「葎崎さん‼︎シッカリしてくれ‼︎」

「テメェが…新手の幽波紋使いか…」

 

 順にジョセフと花京院と承太郎……私がベランダから飛び降りる前に、同室の花京院に援軍はすでに頼んでいたのだ。

 ………何故承太郎がここに?

 

「これは引かざるをえないな……」

 

「そう易々と、俺達が見逃すと思うか?」

 

「………追えると思ってるの? 君達の実力(スペック)で?」

 

 白衣の男はそう言って携帯灰皿を取り出し、煙草をそれに押し付ける。

 

「なっ⁉︎ コレは‼︎」

 

 灰皿から発生した灰色の煙……恐らくこれは毒ガスか何か…どのみち吸わぬが吉だろう。

 

「グァッ‼︎」

 

「ジョセフ⁉︎」

 

 そう考えてる隙に毒針がジョセフの胸板辺りに刺さる。

 

「波紋使いの弱点は喉か肺、波紋の呼吸はしばらくできない。ジョセフ・ジョースターを見捨て追ってくるかい? ちなみに毒ガスは弱い…感染力は強いが波紋で治せる。どうするレオン・ジョースター……君なら追えるかもしれないぜ?」

 

 ……生憎私は、食らった毒針で本調子がすぐには出せない。奴のスキルに張り合うには、常人を超えた反射神経が必要だ……

 そもそも仲間を見捨てるという方法など論外だ。

 

「……クソッ‼︎ 全員一度引け‼︎」

 

「フフン、そんなもんかいレオン・ジョースター……さっき食らった毒針程度でだいぶ苦しそうだし………思ってたより弱いんだねぇ」

 

 そう言い残して白衣の男は去って行った……

 思い上がるな……むしろ感謝しろよな……

 私は今、奴の薬品で苦しんでいるんじゃない。アイツが出て来ようとしてるのを必死に止めているだけなんだよ。

 

『主よ、奴は危険だ。今すぐ殺そう』

 

「……ダメだ。仲間の救出が先だ」

 

 自己暗示のように口に出してそう呟いた。

 

 

 

 

 

 私が波紋で皆の毒を消し終わったのは、奴が逃げてから約2分後の事だった。

 

「どうじゃレオン」

 

「血液摂取と波紋で大分緩和できた。それよりもすぐに行動を起こさないと…今はアヴドゥルの身が危ない。まず承太郎…何故ここにいる」

 

「何故も何も、買いに行く準備をしてるうちにアヴドゥルに置いてかれた口だぜ」

 

 それを聞いた礼神は、ソファーに座ったまま頭を垂れ喚き始めた。

 

「マジかよぉ〜〜〜、だったらアヴドゥルさん今危なすぎ‼︎ロビーで見送った時点で承太郎が偽物だったなら、僕あの時対処法を再確認させちゃったよ⁉︎」

 

「なるほど、対処法を対処する敵本人が知っているのか……そしてアヴドゥルが今そいつと2人きり…今すぐ彼の元へ急ごう」

 

「えっ⁉︎待って‼︎……レオンさんが行くの?」

 

 体調の悪さを知っている礼神が、私を止めようと口を挟む。

 

「白衣の男……薬を使う奴の攻撃は、全て避けなければならない。それができるのは私か承太郎くらいだろう。だから私と承太郎……後は待っていてくれるか?」

 

「いえ、僕も行きます。僕のハイエロファントなら、奴の間合いに入らず遠距離から攻撃できます」

 

「だからこそ残ってくれ。礼神……君は今動けないね」

 

 礼神は首が座っていない赤子のように頭を右左と揺らす。

 私以上の量をスタンドで浴びてしまったのだろう…その麻酔は波紋の応急処置程度では全然抜けていないのだ。

 

「……うん。首から下が動かない…首ですらこの通り…」

 

「テメェらは待ってろ、向こうには既にアヴドゥルがいる。安心しろ」

 

 その言葉を言い終わる頃には、承太郎はすでに外へ向かって歩き出している。それを見た私は口元を隠していたスカーフを下げ、愛需品のボトルに残っていた血液を飲み干す。そしてまたスカーフを上げて口元を隠すと、承太郎を小走りで追いかけた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 場所は変わってケーブルカー乗り場……

 そこでは褐色肌の男性が、1人の男性の首根っこを掴んでいた。

 

「ハ、ハハハッ……じょ、冗談っすよアヴドゥルさぁん。ちょっとした、茶目っ気だよぉ〜? 身体のあちこちが炎症……大火傷してる。大人しく入院するからさぁ…あの………き、聞いてます?」

 

「あぁ聞いてるとも。今口から吐いてる言葉も…貴様が私に浴びせた罵声の数々もな!散々コケにしてくれたじゃないか……私は結構、アツくなりやすい性格でな……」

 

「え……ま、まさか……まだ痛めつけたりはしないよね……ね?」

 

魔導師の赤(マジシャンズ・レッド)は許さん。ダメだね」

 

 そう言うと同時に、アヴドゥルの手から別の生物の手が浮かび上がる。ソレは鳥の頭をした筋肉質な赤いスタンド…アヴドゥルのマジシャンズ・レッドだった。

 アヴドゥルの代わりに男性の首を掴んで持ち上げたかと思うと、男性の首回りに細い糸のような火が走る。

 

赤い荒縄(レッドバインド)‼︎」

 

 炎の縄が首に巻きつき、アヴドゥルのスタンドは縄の両端を掴んで、鳥のような高い声を発しながら男を締め上げる。

 その男は炎による熱からか…首を絞められた窒息からか…はたまた両方が原因で苦悶の表情を浮かべ、力なく意識を手放した。

 

「…ふぅ……礼神から事前に知らされていなければ危なかった。攻撃する鎧か……恐ろしい幽波紋使いだった」

 

 攻撃をくらい喰われたのか、アヴドゥルは右手の傷口を反対の手で撫でる。すると遠くから彼の名を呼ぶ者が現れた。

 

「アヴドゥル‼︎」

 

「ん?承太郎とレオンさん……ご安心ください。敵は既に再起ふの…「逃げろ‼︎アヴドゥル‼︎」

 

 アヴドゥルの台詞を遮ってレオンは叫び、手に持っていた物を投げ付けて来た。

 訳がわからなかったアヴドゥルだが、逃げろと言われたので戸惑いながらもその場を離れようとする………すると

 

「ウッ……波紋入りか」

 

「なっ⁉︎ いつからそこにいた⁉︎」

 

 アヴドゥルとレオンの直線上のすぐ近くに、いつの間にか白衣の男が立っていた。

 

「視界には入っていた…私のすぐ目の前にいた……なのに気付かなかった……暗殺の技能か⁉︎」

 

 鳥肌を立てながらも、アヴドゥルは自身のスタンドを出して戦闘態勢に入る。

 

「あーバレちゃったか〜、オジさん困っちゃうなぁ。注射量が足りないよ…」

 

 白衣の男は困ったように頭を掻き、液体が7割程入った注射器を握っていた。

 

「…まさか………もう…既…………に………」

 

 アヴドゥルの視界が上下左右に揺れ、目に映るもの全てが二重に見え始める。

 

「これじゃ死なないだろうけど……ひとまず1人」

 

 アヴドゥルは膝から崩れ落ちた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「アヴドゥル‼︎」

 

 私が彼の元へ駆け寄ろうとすると、白衣の男が間に立ちはだかる。そこで私は、()()()用として残していたペットボトルを奴に向けてぶん投げた。

 

「波紋入りの飲料水……考えたねぇ…」

 

 ご名答…道中でくすねたものだ。

 二発目は流石に予期して避けられてしまう。

 しかし避けた先の空間目掛けて、承太郎のスタープラチナが攻撃を仕掛ける。

 

「近付くなよ承太郎!」

 

「あぁ、流星指刺(スターフィンガー)‼︎」

 

 奴は戦い慣れている……接近戦でスタンドの毒なんかを注入されては、それこそ一撃必殺なんて可能性もある。

 そう思い指示を出すと、承太郎はスタンドの指先に力を溜めて弾丸並みの速さで指を伸ばす。

 

「グッ…」

 

 スピード 精密動作、共にAの攻撃は流石に躱せず、スタンドの指は白衣の男の胸に突き刺さる。

 

「……こいつ…」

 

 怪訝な表情を浮かべ、承太郎はスタンドの指を引っ込める。

 その隙に私はアヴドゥルの元へ飛び込み、彼を担いで距離を取った。

 

「どうした承太郎……」

 

「……指は確かに心臓を貫いた………にも関わらず野郎…立ち振る舞いがまるでノーダメージだ」

 

 白衣の男は左胸の周りを抑え、傷口に薬品を大胆にかける。すると傷口はみるみるうちに塞がり、ついでと言わんばかりに右腿にもかけた。

 

「……薬は使い方で毒になる…逆も然り……」

 

「だとしても性能が良すぎる。レオン……どうする…」

 

 背負っているアヴドゥルを尻目に、私は判断を下した。

 

「逃げたところで追われる。むしろ逃したら次会った時、不意打ちで致命傷を受ける可能性もある」

 

「……やるのか…」

 

「………アヴドゥルを頼む…」

 

「いや、俺がやる」

 

 承太郎が私の前に出る。その頃白衣の男は、自分のポケットを虱潰しに軽く叩き何かを探している。終いには内側のポケットも漁り、こちらに向けて苦笑いを浮かべる。

 

「どうやら(ヤク)は作れても、()()()は有限らしいな」

 

 そう言って承太郎は、いつの間にか持っていた複数の注射器を壁に投げ付けて壊した。

 

「商売道具盗まれたらオジさん困っちゃうなぁ……本気を出さざるをえないからね」

 

「上等だ」

 

 心臓を刺した時に反対の手で奪ったのか。近づくなと言ったのだが………今回は不問にしよう。

 それに接近戦闘なら私より承太郎の方が上だ…ここは承太郎に任せるか……

 

「確かに君のスタンドは速いねぇ。でも射程は短い……近づかなければいいんだろう?オジさんも本格的にスタンド使うからね〜〜」

 

 その時……白衣の男の背後から黒い風が吹き荒れた。

 風は黒いドームとなり、我々は瞬く間に飲み込む。そして私と承太郎は、その黒い風の正体を視認した。

 

「……………蝶?」

 

 それは夥しい量のアゲハ蝶だった。

 

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