ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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31.逃した魚は猛毒

 巨大な生き物のような黒いドーム…その正体は、千を超えるであろう黒い蝶の大群だった。

 空の色を僅かに見せながら蝶達は3人を包み、ドームのように舞う蝶の隊列は、敵の術中でなければ目を奪われるほどの美しいものだった。

 

「アゲハ蝶……これが貴様のスタンドか⁉︎」

 

「そうだよ〜。いい歳したオジさんが蝶々で戦うなんて恥ずかしくてね……だから本気は出したくなかった。オジさん本当は、もっと派手な能力が欲しかったなぁ〜…」

 

 黒いカーテンの隙間から、白衣の男が外側にいるのが見える。一瞬見えたその表情は薄く笑い、照れ臭そうに頬を掻いていた。

 

「これは……幻覚なのか?……ん?何故私の衣服が濡れているんだ?」

 

「アヴドゥル、症状は幾分マシになったようだな。残念な事にコレが現実……水は気にしないでくれ、それより…こんなスタンドを見たことはあるか?」

 

「いや……ないな。本来スタンドは一人一体だと思っていた」

 

 レオンの波紋で少しは毒が緩和できたのか、アヴドゥルはぎこちない動きで立ち上がり唖然した。

 

「群体型だ」

 

「何ッ…⁉︎」

 

「葎崎から聞いたことがある……こいつは群体型のスタンド。仮に百体のスタンドを使えるとしたら、一体を倒したところで致死量ダメージの1%しか本体に与えられねぇって事だ。ヤレヤレ……なかなかヤバイ状況だぜ」

 

 流石の承太郎も冷や汗をかいて周囲に注意を払っている。

 それもそうだ…承太郎の例は百体の場合……目測でもこれは2千前後の数だ。

 さらに奴の能力は毒系統に近いものだ。彼らは今、毒の中にいると言ってもいい。

 

「2人とも口を塞げ、呼吸は最低限に……何か臭うぞ」

 

 レオンがそう言うとアヴドゥルが濡れた服で口と鼻を覆い、レオンも巻いていたスカーフで口元を強く押さえた。学ランやシャツでは口を押さえ辛いのか、承太郎だけは手で口を抑えている。

 

「承太郎…」

 

「悪い」

 

 レオンがハンカチを手渡すと素直に受け取り、承太郎は口元を抑えた。

 そこでレオンは思った……何故白衣の男はドームに入ってこない? 自身で作った毒のワクチンは作れないのか? 傷薬が作れといてそんな事があるのだろうか………それにこの匂い…

 

「まさか……ハッ‼︎」

 

 アヴドゥルが勘づくと同時に、彼らを囲っていた蝶の隙間から煙草が見えた。やがてソレは宙を舞って、我々の頭上に落ちてきていた。

 

「この甘い臭い……もしや火ヤ…」

 

 レオンが言い終えるより早く……彼らは業火に包まれた。

 大爆発により辺り一帯に煙幕が立ち込める。

 

「これやるとミカドも巻き込まれるから、あまり使いたくないんだよね」

 

 ケーブルカー乗り場前の広場で爆音が轟く。周囲の一般人はスタンドを見えないが爆発は視認できたらしく、今まで不審がって見ていた通りすがりは騒ぎ、パニックを起こしながら蜘蛛の子を散らすように退散していった。

 

「………オジさんも早く退散しようかなぁ」

 

 爆音の発信源にそう言ってから背を向け、白衣の男は歩き出した。しかし数歩進んで歩を止めて振り返る。

 

魔導師の赤(マジシャンズ・レッド)。激流を制するは静水…とはよく言ったものだな」

 

 爆煙が晴れると、そこには炎のドームに守られた3人がいた。3人は多少火傷を負っているものの、至って致命的ダメージは受けていなかった。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 私が火薬だと気付く前からアヴドゥルは気付いていたらしい。奴が煙草を投げ捨てた時には既にスタンドは出していて、煙草の火が引火すると同時に我々一人一人に炎の衣を被せてくれたのだ。そして衣を次第に広げて1つのドームを作ったわけだ。

 最初からドームを作っては、内側の火薬が爆発する可能性もあるからな…皮一枚焼けたが隙間なく作る必要があったのだ。

 

「……はぁ……全盛期過ぎたオジさんには辛いな…」

 

 白衣の男はダルそうに頭を掻く。それと同時にアヴドゥルは膝をついた。

 

「アヴドゥル⁉︎」

 

「す、すみませんレオンさん……少々…無茶をしました」

 

 波紋で毒を多少緩和できたが、それは気休めにしかならない。そんな状態でスタンド能力をあれだけ細かく動かしたのだ、無理も無いだろう。

 

「脇に退いてろアヴドゥル。あとは俺がやる」

 

 指の関節を鳴らしながら承太郎が言うと、アヴドゥルは大人しくその場を離れた。

 

「困ったなぁ……オジさん本当に困っちゃうな……」

 

「今の爆発で蝶を大分散らしたみてぇだな。右腕が焼け爛れてるぜ?」

 

 そう指摘すると白衣の男は右腕をさする。だが男は大した問題ではないかの様に、不敵に笑みを零していた。

 

「まだ蝶は7割残っている。それでも正面戦闘向きじゃないから………ここは彼に任せよう」

 

 そう言うと残った蝶が十数匹、ある男の元に集まった。

 その男は首に縄状の火傷痕があり地面に寝転がっていた。

 

「マズイ‼︎ 2人とも、奴を止めろ‼︎」

 

 アヴドゥルがそう言うが時すでに遅し……倒れていた男の身体から黄色いヘドロ状の物が溢れ出てくる。

 そしてそのヘドロは複数の蝶に纏わりつき吸収した。

 

黄の節制(イエローテンパランス)‼︎」

 

 倒れていた男は上機嫌で立ち上がりアヴドゥルを指差す。

 

「幸運の女神はまだ俺に微笑んでるみてぇだぜぇ〜アヴドゥルさんよぉ‼︎」

 

「それじゃ後は頼むよぉ〜。オジさんは手札少ないから引くね〜」

 

 そう言って白衣の男はスタコラと逃げて行った。追いかけようとも思ったが、今はこいつから目を離せない。

 

「ラバーソウル…」

 

 苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、アヴドゥルは起き上がった男を睨みつける。

 

「全く幸運よのうォー俺ってさあーーっ!俺の苦手な褐色ヘナチンが再起不能…後は接近戦担当のビチグソ2人なんだからよ‼︎」

 

 口調からして完全にクズ野郎だな…汚い言葉を並べやがって……

 

「舐めるな…私はまだやれる」

 

 覚束ない足取りで構え、アヴドゥルはスタンドを出そうとする。が…

 

「毒が抜けきってねぇぜアヴドゥル‼︎ そんな状態で俺の相手ができるわけねぇだろ‼︎ このゴキブリチンポコ野郎がァ‼︎」

 

 スタンドは精神状態に強く左右される。毒が抜けきっていない今のアヴドゥルは、スタンドを上手く出すことすらできない。

 

「おい…」

 

 スタンドが出せないアヴドゥルに襲いかかろうとしたところ、ラバーソウルと呼ばれた男は承太郎の声で足を止める。

 

「何だ、先に相手してもらいてぇのか⁉︎」

 

 承太郎はラバーソウルに背を向け、白衣の男が逃げて行った方を見つめたまま口を開く。

 

「あまり汚ねぇ言葉を使うな。怒りを買うだけだぜ……気付かねぇのか? レオンが既にいない事に」

 

「は?……なっ‼︎ いつの間にか1人いねぇぞ‼︎ どこ行きやがった。あのヘナチン野郎ッ‼︎」

 

「……すでに警告したはずだぜ?………レオンはテメェみてぇな、自分大好きで周りに被害を与える奴が……この世で最も嫌いなんだよ」

 

「グッ⁉︎」

 

 承太郎に気を取られているうちに、W-Refを限定発動した右足で蹴り飛ばす。ダメージは入らないがな。

 跳躍して上空からの奇襲。スタンドが無ければ首が折れて終わらせられたのだが……

 

「ケッ‼︎ そんなもんかレオンさんよぉ〜。俺のスタンドはエネルギーを分散させて吸収しちまうのだ‼︎ そしてテメェの右足を見ろ‼︎」

 

 言われた通り目を向けると、そこには肉片の様なものがこびりついている。W-Refのブーツの上だから、私にもダメージはこないが。

 

「テメェのその足はもう、切ることでしか助かる術はねぇんだよ‼︎ ドゥーユゥーアンダスタンンンンドゥ‼︎⁉︎」

 

「それはどうかな……」

 

「何ぃ〜?」

 

 私はまた蹴りかかる。しかしスタンドで防御され、肉片が更にこびりつく。また蹴りを入れる。肉片がつく。

 それを数度繰り返すと、奴が声を荒げて挑発してきた。

 

「ハッ!……なんか意味ありげなこと言ってたけど……やっぱり大したことねぇな‼︎…ハァ…ハァ…」

 

「…どうした?……大したことないのは貴様の様に見えるが」

 

「なん…だと……?」

 

「何故貴様は何もしていないのに、そんなに疲れているんだ?」

 

 奴はただ立っているだけなのに、肩を上下に動かして酸素を求めている。汗の量も異常……かなり疲れ果てている様だ。

 

「何故…………なっ‼︎」

 

 私の足に付着した肉片は煙を上げて蒸発…突如として肉片は跡形もなく消え失せた。ついに疲労からスタンドを保てなくなった様だ。

 スタンドは生命エネルギーが作り出すパワーある(ヴィジョン)……それが私の足にずっと付いていたのだ………エネルギーの吸収を能力とするW-Refに…

 

「貴様の生命エネルギーをスタンド越しに吸収していた。これは物理でもなんでもない……消化しようがないだろ?」

 

 案外こいつは、私と相性のいい相手だったな。

 触れている間にエネルギーを吸収する私に対して、触れ続けなければ物理的に吸収できないスタンドだからな。

 途中で1分経って2秒だけ能力を解除したが、それでも生命エネルギーがやつに帰るわけではない。

 

Do you Understand?(理解したか?)

 

「ヒィッ‼︎」

 

 私の笑みを見て奴は後ずさる…が、そんな力も残されておらず、尻餅をついて倒れる。

 

「貴様には5日……鈍痛で苦しんでもらおう」

 

 私は掌を、奴の腹部に押し当てた。

 

「や、止めてくれ……許してくれ……何でもするからよ…」

 

「何でも……ならあの男の事について話してもらおうか」

 

 承太郎が私の側に立って質問する。するとラバーソウルは「それは言えない」と首を振る。

 

「……レオン、やれ」

 

「お、思い出した‼︎ 奴の名前は伊月 竹刀(いずき しない)、日本人だ!奴は自分のスタンドをミカドと呼んでいた」

 

「能力は?」

 

「む、無数の蝶で色んな作用のある鱗粉を扱うらしい…それ以上は知らねぇ‼︎ 本当だ‼︎」

 

 ……吐くものは吐いてもらった。仕方ない……

 私は手を下ろし背を向ける。承太郎はアヴドゥルに肩を貸し、我々はホテルに戻ろうとした………が…

 

「やはりまだやる気だったか」

 

「ゲッ⁉︎」

 

 最後の力というやつだろう。

 ラバーソウルは僅かな体積だがスタンドを出し、私を攻撃しようとしてきていた。一度成功すればエネルギーを吸収し、パワーアップして元通りになる。最後に悪足掻きくらいはするとは思っていたさ。

 せっかくだからオリジナルでも食らうといい。

 

象牙色波紋疾走(アイボリーホワイト オーバードライブ)

 

 私は奴の腹部に掌を押し当て、一点から波紋を集中放射した。波紋特有のスパーク音の代わりに、「ズドン‼︎」という重い音が短く響く。

 

「屑は勝手に朽ち果てろ」

 

 言葉にもならない奇声を上げて狂い悶え、ラバーソウルは腹部を抑えながら地面を這いずり回り始めた。目は白目を剥き、意識は既にないだろう。

 

「……レオンさん…奴に一体何を?」

 

「宣言通り5日程苦しんでもらうことにした」

 

 アレは私が編み出した波紋の技……波紋を電気と例えるなら、あの技は滞在電流だ。

 全身に駆け巡ることはないが、放った部位に波紋が留まり鈍痛を与え続ける。ロギンスに一度食らわせた事があるが、彼は「鉄パイプで貫かれたと思ったら、内側を剣で抉り混ぜられている様な気分だ」と言っていた。5日かけて痛みは引くが、明日明後日までは苦しむ以外の動作は何もできないだろう。

 波紋の力はリサリサ(と同じくらい)だが、練度に関してなら過去未来を遡っても、私程の者はいないと断言できる。ともなれば波紋の新たな技など幾つもできるさ。

 

「にしても白衣の男……伊月 竹刀か……」

 

 逃してしまったアイツは一体何者だ?

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「葎崎さん、喉は渇いていないか?」

 

「渇いてても飲めない。何?虐め?」

 

 3人で泊まれる無駄に広い部屋のベットに横たわり、僕はレオンさん達の帰りを待っていた。ジョセフさんとポルナレフは今ベランダで一服…花京院は僕の隣のベッドに腰をかけている。

 

「いや……なんなら飲ませてあげようと…」

 

「結構です、どうせ鼻から吹き出すのがオチだよ。最悪花京院さんのせいで窒息死する可能性も…」

 

「そうか…………それと、その「花京院さん」と呼ぶのを止めてくれないか?」

 

「え?」

 

 僕は急な願いに疑問を零し、なんとか動かせる首を捻って顔を花京院の方に向ける。

 

「ほら、葎崎さんなら僕が友達を作らなかった理由を知っているだろ?せっかく出会えた仲間だし、承太郎とは親しく呼び合っているじゃないか。同じ学生の僕としては、距離の感じる呼ばれ方は嫌なんだ……」

 

 そう言ってから悲しげな目をして彼は軽く俯向いた。

 そっか……スタンドが自分にしか見えなかったせいで、今まで友人や仲間と呼べる人物は周囲に誰もいなかったんだ。

 しかも原作ではDIOに殺され、彼は青春を知らぬまま人生を終えてしまう………非常に悲しい結末だ…僕は当時そう思った。

 

「………必ず助けてあげるからね」

 

「…………?」

 

 僕の言葉の意図がわからず、花京院は目を丸くして首を傾げる。

 「呼び方を変えてくれ」と言った矢先に、「助けてあげる」とか言われたら当たり前の反応か……

 

「ゴメン…話が噛み合ってなかった。名前の話だったね」

 

「あぁ……ビックリしたな。急に可笑しな事を言うもんだから…少なくとも女性に守られるほど、僕はやわじゃない」

 

 そんな言葉も、未来を知る僕からしたら不安でしかないよ。

 それはそうと呼び名ね呼び名……

 

「呼び方ね〜。花京院さんが嫌なんだよね……じゃあ…」

 

 花京院が僕の次の言葉を聞こうと目だけをこちらに向け、飲料水を口に含んだ。

 

「典明さん」

 

「ブッ////⁉︎」

 

 からかうつもりで首を傾げ言うと、彼は僕から顔を逸らして蒸せ返る。呼吸を整えこっちに顔を戻した時は既に冷静な顔になっていた………が、それは表情の話……肌はそこそこ赤い。思ってたより恥ずかしかったのか花京院は赤面している。

 

「おー思春期だねー」

 

「からかわないでくれ‼︎」

 

「じゃあ…ノリ」

 

「……まぁそっちの方がさん付けよりマシかな…」

 

「じゃあよろしくね…海苔」

 

「…………今ニュアンスおかしくなかったか?」

 

 そんなこんなでどうでもいいやり取りをした挙句、結局呼び方は「花京院」になった。実は最初からこう呼ぶつもりだったけど、いざ目の前にすると………ねぇ?

 いきなり呼び捨てなんてできないからね。承太郎の事も最初、空条さんって呼んでたし……

 

「予言といい弄りといい、君の言動には驚かされるな………言動で思い出したが葎崎さん……技名…と言っていいのかわからないが、次からは言わない方がいい」

 

「なんで? やっぱネーミングセンスない?」

 

「いや…その……尻尾の方はまだいいけど、その……デーボに襲われスタンドを……二足で立たせた…時……」

 

 歯切れ悪く花京院が言うと、僕は昨日の事を思い出す。正直それどころじゃなくて言動とか注意してなかったけど、何かいけないこと言ったっけ?

 

「……?…………ッ⁉︎…違ッ‼︎アレは芸の方の意味で‼︎」

 

 記憶を手繰り寄せてから赤面して声を荒げる。

 両腕を振って否定したいが、麻酔のせいでそれも出来ない。首を僅かに浮かせて(気持ちだけ)花京院に掴みかかる。

 

「ついでに言うとケロベロスなんて生き物は架空にもいない。正しくはケルベロスだ」

 

「なんだよ‼︎ 仕返しかよ‼︎ 僕のライフは既にゼロだよ‼︎」

 

「減りが早いんだな」

 

 ギャーギャー僕が騒いでいると部屋のチャイムが鳴る。どうやら3人が戻ってきたようだ。

 花京院はそれを出迎えに向かい僕の元を離れた。その隙にポルナレフが小走りでやって来て、「すまなかった」と短く口走ると、さっさと距離を取られてしまった。

 

「今戻った。礼神、調子は?」

 

「マネキンニアニア」

 

「……マネキンのように動けないと言いたいのか?」

 

 帰ってからの第二声が僕の心配か…レオンさんだって辛い症状抱えてるのに……

 ひとまず身体が動かない事をふざけながら伝えると、レオンさんは大量のタオルを持ってきて隣のベッドに敷き始めた。

 

「……何してるの?」

 

「ひとまず礼神の毒をできる限り緩和する」

 

 そう言って今度は僕からブレザーを脱がせ、分厚く重ねられたタオルの上に寝かされる。そして承太郎がお湯の入った桶を持ってくる。姿が見えないと思ったら風呂場にいたのかな?

 ………ってレオンさん⁉︎ 何するつもりッ‼︎⁉︎

 

「え、ちょ、待っ、ギャァァーーー‼︎」

 

 承太郎から受け取った桶をレオンさんはゆっくりと傾けて、中身のお湯を僕の顔以外に流し始めた。ある程度ワイシャツとズボンを濡らすと、その上からタオルを一枚被され またお湯を流し込まれる。そしてまたタオルをかけ、湯を流し、タオルを掛け、湯を流し……タオル…湯…タオル…湯………

 

「…………何の儀式ですか?」

 

「湯には波紋を伝わせてある。今君は全身を波紋で包まれているという事だ」

 

 へぇー……そういえばチョット全身がピリピリする。プラズマ風呂に入ってる感じ。

 リラックスしてみると極楽だ…

 

「コレで数分すれば動けるくらいにはなるだろう」

 

「私の服が濡れていたのは、レオンさんの仕業でしたか…」

 

 何があったかは知らないけど、アヴドゥルが僕を見てそう呟いた。にしても波紋って万能なんだね。

 

「それで……どこから話そうか。まず白衣の男……奴には逃げられた。代わりに奴の仲間から情報を僅かだが引き出した」

 

 極楽気分だったけど、白衣の男の話題が耳に入り表情を変える。原作に登場しなかったアイツは何者なんだ?

 

「名前は伊月 竹刀。日本人で、アゲハ蝶の群体型スタンドだった。能力は毒の鱗粉だそうだ」

 

「群体型……」

 

「葎崎、テメェ何か知らねぇのか?」

 

 承太郎が仁王立ちで聞いてくる。

 

「生憎知らないよ。3部に群体型は出てこない…バタフライ効果で現れた新たな幽波紋使いかも……」

 

「なぁ、前々から気になってたんだが、時々出てくるその バタフライ効果って何だ?」

 

「ポルナレフ、知らずに聞いてたのか」

 

 ポルナレフの疑問に花京院がキツイ口調で言う。それを見かねレオンさんが説明してくれる。

 

「一言で言うとバタフライ効果とは、ほんの僅かな現象で未来が大きく変わる事の通称だ」

 

「………?」

 

「ほっときましょうレオンさん」

 

 おぉう…花京院ってなんでポルナレフにあんなキツイんだろう。原作でもそうだった気がするけど。

 

「なぁ礼神、バタフライ効果って…」

 

「ググれカス」

 

 訂正…ポルナレフは弄られ要員。

 ポルナレフの事情は知っているけど、プールでの出来事のせいで今の僕があるので、少なからず口調に毒がつく。

 

「ところでその伊月という男について、他に何か分かったことはありませんか?」

 

「ない………だが1つ断言できることがある」

 

 レオンさんの次の言葉を皆は待つ。

 当の本人はらしくもない冷や汗をかき、多少表情からは焦りを感じる。

 

「……次奴と会った時……我々の中で相性の悪い者が戦えば、間違いなくそいつは………敗北して死ぬ」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 翌日私達は列車に乗り込んだ。

 昨日の今日もあって、皆の表情には疲れが見える。伊月という新たな敵の存在は、それだけ影響力が強いのだろう。

 今は陸路でシンガポールを横断しているが、その先はカルカッタまで海路を進む……原作では、カルカッタまで敵襲は無い。と…礼神は言っていたが、不安は誰も拭いきれていない。

 それでも休息を取らねば倒れるので、今は皆で交代しながら睡眠をとっている。

 

「……………」

 

『いつまで続ける気だ』

 

 誰かに話しかけられ周囲に目を向ける。しかし私とジョセフ以外は眠りについている。女性のように高くノイズが僅かにかかった声……もちろんジョセフではない…となると……

 

(……なんだ…貴様か………)

 

『あぁ、我だ』

 

 脳内に直接話しかけられるような感覚……こいつとの会話に良いものではないので気が滅入ってしまう。

 

『それで主よ……いつまで続ける気だ』

 

(何がだ)

 

『痩せ我慢をだ。こんな時こそ自分は堂々としなければならない。と、主は思っている……この中で最も精神的にも疲労を感じているが主だというのに』

 

(貴様が思うように従ってくれれば幾分楽なんだがな)

 

『主の指示は我の意と反する事が多い。素直に聞いては主の身が…』

 

(主を守るのが我の役目……だろ)

 

『………そうだ』

 

(……なぁ第二のスタンドよ……もし仲間が死んだ時、悲しみから私が自殺するとしたら……貴様はどうする?)

 

『……………』

 

 奴は答えない………それどころか、心の中で話しかけても応答しなくなった。

 

「………都合のいい奴だ…」

 

「ん?レオン、何か言ったか?」

 

「なんでもない」

 

 私の呟きを拾ったジョセフがそう言うが、私は窓の外に目を向けたままそう答えた。

 

(第二のスタンド……少なくとも戦闘向き…指示通り動いてくれたらどれだけいいか………)

 

 今日も私は頭を悩ませる。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 ジョースター御一行がシンガポールを横断し港に着いた頃………彼らがいずれ到着するはずのカルカッタには、DIOの刺客と思われる男が既にいた。

 一言で言えばガンマン姿……爪先から頭のてっぺんまで西部劇に出てくるソレと同じだった。

 

「……ここか」

 

 そう呟いてガンマンは歩を止めた。止まった場所は去年辺りに廃業になった酒場…多少崩れかけたその建物は、ガンマンの男を更に西部劇風に見立てる。

 

「…あん?誰だテメェ」

 

「テメェらか?ここらで問題起こしてる輩はよぉ」

 

 ノックも無しに中に入ると、ガラの悪い男達が数人たむろしていた。

 ガンマンはその男達にそう質問した。

 

「何のことだ?証拠は何もねぇだろ?」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言って、男達は懐からナイフを取り出す。

 

「あぁ、証拠はねぇ……ただ…」

 

 そこまで言うとリーダー格の男を残し、その他の男達全員の額に風穴が空いた。

 

「殺せれば良いんだ。本来の目的じゃねぇが、ついでの仕事ってやつだ」

 

 そう言うと最後の一人の額にも風穴が空いた。

 男達は自分達の身に何が起きたかもわからず、実に呆気なく死を遂げたのだった。

 

「……やれやれっと。女を泣かせんじゃねぇよ、クソ野郎どもが……」

 

 懐から煙草を取り出し口に咥えると、ガンマンはライターで火をつけて吸い始めた。すると隣に立っていた男が煙草を咥え、首ごとガンマンの方に近付けてきた。

 

「オジさんにも火貰える?」

 

「オワッ⁉︎……って伊月の旦那じゃねぇか…相変わらずの神出鬼没だな、おい」

 

「ハハハッ、オジさんは君が仕事してる時からいたよ……で、この人達は?」

 

 白衣の男…伊月 竹刀は煙草に火をつけてもらい、額に穴が空いた死体に目を向ける。

 

「ただの悪党だ。強盗に殺人……そして強姦…多くの女を泣かせたクソ野郎共だぜ」

 

 死体に蹴りを入れてから酒場の壁に寄りかかると、ガンマンは伊月に顔を向ける。

 

「…で…何の用だ?ラバーソウルとジョースターどもを始末しに行ったんじゃねぇのか?」

 

「行ってきたよ?でもラバーソウル君が負けちゃってね」

 

「それで尻尾巻いて逃げてきたと…」

 

「そんな言い方しないでくれよ。オジさん結構頑張ったぜ?」

 

 ケラケラ笑って煙草を吹かし、ガンマンはその煙を手で払いのける。

 

「大丈夫だよホル・ホース君。これはただの煙草だよ」

 

「ホントかぁ〜? 麻酔とか毒は勘弁してくれよ?」

 

 ホル・ホースと呼ばれたガンマンは苦笑いを浮かべてから話を最初に戻す。

 

「で…何の用だ?」

 

「ラバーソウル君は相手をバカにする悪い癖が出たんだろうね。だから君達と次は組もうと思ってね」

 

 伊月がそう言うと、ホル・ホースは上を向き考え込む。

 

「確かにあんたは組むのに不足ねぇ実力者だ。だが今俺はJ・ガイルの旦那と組んでんだ。悪いが、パートナー探しなら他を当たってくれ」

 

「いやいやいやいや、話聞いてた?オジさんはね()()()組もうと思ってるんだ。ペアじゃない、パーティーだよ」

 

「……俺と、J・ガイルの旦那と、あんたでか……そんなに強敵だったのか?」

 

「あぁ…特に空条 承太郎とレオン・ジョースターってのがね」

 

 それを聞いてまた考え込む……そして結論が出たのか一度手を叩き口を開いた。

 

「いいぜ。なら俺とJ・ガイルの旦那が誰かをやってる間、あんたにはレオン・ジョースターを相手してもらおうじゃねぇか」

 

「えぇ…オジさん一人じゃ勝てないよ?」

 

「だがあんたは生きてる…負けてはねぇんだろ?」

 

「時間稼ぎかぁ〜。ま、いっか。うん、いいよ」

 

 そう伊月が承諾し、二人は酒場を後にした。

 

「そういや旦那…あんたここまでどうやって来た。移動が早すぎねぇか?」

 

「その日のうちにコッソリ無賃乗車して、港からはクルーザーと燃料盗んで来たけど?」

 

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