「アヴドゥル…いよいよインドを横断するわけじゃが、その…ちょいと心配なんじゃ……いや、敵幽波紋使いや伊月 竹刀の事はもちろんだが、ワシは実はインドという国は初めてなんだ。インドという国は乞食とか泥棒ばかりいてカレーばかり食べていて、熱病かなんかにすぐにでもかかりそうなイメージがある」
「俺 カルチャーギャップで体調をくずさねェか心配だな……」
数日後の早朝……カルカッタの港に到着すると、ジョセフとポルナレフが船から降りる前に不安を口にする。するとアヴドゥルはそれを笑って否定した。
「フフフ、それは歪んだ情報です。心配ないです、みんな…素朴な国民のいい国です。私が保証しますよ…」
私も人口密度が高い所は嫌いだから、物乞いに囲まれるのは嫌だ。だが彼がそう言うなら信じるとするか…
「さあ!カルカッタです。出発しましょう」
アヴドゥルの先導で船を降り、一同がカルカッタの大地に足をつけた………すると…
「ねぇ…
「パクシーシ、パクシーシ」
「刺青ほらない?キレイね」
「ドルチェンジレートいいね」
「毒消しいらない?お腹壊さないよ」
船を降りた瞬間、ボロい服を着た子供や大人が群がってくる。金を稼ごうと必死なのか、ほとんどが「
「………限界だ……」
船を降りてそう呟き、私は懐から札を2枚取り出す。
そして高らかにソレを頭上に掲げて注目を集めた。
「早い者勝ちだ‼︎ 欲しければ取ってみろ‼︎」
そう言って指先の力を緩めると、物乞いの群衆を引き連れて札は風に飛ばされて彼方に消えて行った。
「さ、今のうちだ…」
「アヴドゥル、これがインドか?」
「えぇ…これが良いんですよ、これが」
もう少しインド風の歓迎を楽しみたかったのか、アヴドゥルは少し残念そうだった。
その後我々はレストランに移動して、朝食を兼ねて一息つく事にした。
「要は慣れですよ。慣れればこの国の懐の深さがわかります」
「なかなか気に入った、良い所だぜ」
「マジか承太郎!マジで言ってんの?お前」
順にアヴドゥル、承太郎、ジョセフ……今回ばかりはジョセフに同感。アヴドゥルには悪いが、人混みが嫌いな私には理解出来なかった。
そんな中ポルナレフは席を立ち手洗いに向かう。その時何故か店員から木の棒を受け取っていたが、トイレに入ってから1分も経たぬうちに、ポルナレフは悲鳴を上げて出てきた。
「おい、ズボンをちゃんと履け。少女が旅人にいることを忘れるな」
隣に座っていた礼神の眼前に手を翳してそう言うが、礼神は悲鳴を聞いた時点で明後日の方向を無表情で見つめていた。原作でもこの展開があったのか………
「い、いやでもよォ‼︎」
そう言ってポルナレフはトイレを指差す。座ったまま身体を傾けて中を覗くと、便器から豚が顔を出しているのが見える。
「だからですねーこれを使うんですよ。どれ…貸して下さい」
悲鳴を聞いて飛んできた店員がポルナレフから棒を受け取り、顔を出していた豚に突きを食らわせる。
「怯んでる間に用を足してください」
………私はおそらく、一生インドの風習に馴染めないな。
ポルナレフもそう思ったらしく、用をたすのをホテルまで我慢することにして手洗いだけ済ましている。
「はぁ……私はインドの風習には馴染めないな。このチャイは気に入ったが…」
チャイと呼ばれる飲み物を喉に通すと、トイレの方でまたポルナレフが何か騒いでいる。すると………
「
彼がスタンドの名を叫ぶと同時に、ガラスが割れるような甲高い音が響く。
何事かとポルナレフに聞こうとするが、彼は脇目も振らずに外へ飛び出す。ポルナレフを追いかけようと、我々も急いで席を立った。
「どうしたポルナレフ。何事だ?」
ジョセフの問いにポルナレフは振り向く。額から脂汗を垂らしている。
「幽波紋使いだ!近くに幽波紋使いがいる‼︎」
「なんだと⁉︎ 何を見たんだ‼︎」
「鏡だ‼︎ 奴は鏡にだけ映っていた‼︎」
花京院が質問を言い終わると同時に、ポルナレフは慌てた様子で答える。攻撃できた手応えを感じなかったらしく、それで本能が危険だと判断したのだろう。
「鏡のスタンドだとよ。葎崎、出番だ…オイ、どうした?」
早速情報を礼神から聞き出そうとする承太郎だが、礼神が静かに困惑したような表情を浮かべるので質問を棚上げした。
「どうしたんじゃ礼神」
「ひ…ひとまず、場所変えよっか……」
そう言うので我々は適当な店に入った。先程の店は鏡が割れて小さな騒動が起きてるので別の店だ。
ー
ーー
ーーー
そっか…ラバーソウルから聞き出した情報は伊月の情報……他の敵スタンドの情報は聞いてなかったんだ。だから
……でもそのお陰でポルナレフはまだ別行動を取っていない。
「…じゃあ……鏡のスタンドについて教えるね………」
僕がそう言うと、テーブルを囲む皆の視線が集まる。
ここで僕が何を言うかで運命が変わる……まずは、釘を刺しとくべきかな。
「このスタンドはとても強い……ある条件下が揃えば勝つチャンスもあるけど、無敵と言ってもいいほどに強い」
「焦れったいな。早く言えよ、こうしてる間に襲われるかもしんねぇだろ?」
「慌てないで…特にポルナレフ、君は…」
「死に急ぐな……とでも言いたいのか?」
「ッ⁉︎」
ポルナレフは言葉こそ違うが、僕が伝えようとした意味を先に口走った。驚きから僕は一瞬、言葉を詰まらせる。
「やっぱりな。なんか様子がおかしく歯切りが悪いと思ったぜ………あのスタンドの本体は両手が右手なんだろ」
プールサイドで見せたあの眼光で僕を睨んでくる。だがこれ以上怯むわけにはいかない。
「そうだよ…死に急がないでポルナレフ。ちゃんと僕の指示に従って」
一瞬静寂が流れてから、ポルナレフは席を立ち店の出口に向かう。やっぱり1人で行こうとしているのだ。
「俺はここで別行動をとる。誰もついてくるなよ?」
「待ってポルナレフ‼︎ 僕がホテルで言ったこと忘れたの⁉︎」
「忘れてねぇさ………自分の周りで死なれるのは迷惑だぜ、俺は………」
そう言い残して立ち去ろうとするが、その肩をアヴドゥルさんが掴む。
「待て!これはミイラ取りがミイラになるぞ‼︎」
「……オメー、俺が負けると言いたいのか?」
「そうだ‼︎ 奴は貴様を一人にするために攻撃してきたとまだわからんのか⁉︎」
ポルナレフは込み上げる怒りを止めようともせず、皮肉を混じえて言葉を浴びせる。しかもアヴドゥルさんの言うことに耳を傾けてはいない。
「触んな、香港で運良く俺に勝ったくらいで俺に説教は止めな」
「なんだと……貴様ァ……‼︎」
自分の肩を掴む手をポルナレフは振り払い、アヴドゥルさんがヒートアップして殴りかかろうとした。すると……
「ふむ………やはり美味い。作り方も簡単だし、インドを離れてもコレだけは味わいたいな」
「……………」
ポルナレフとアヴドゥルさんの口喧嘩なんて何処吹く風で、レオンさんはチャイを飲んで口元を緩めていた。
あまりの空気の差で、逆に皆の視線がレオンさんに集まる。
「………なんだ?飲みたいなら皆も頼めば良いじゃないか」
「レオンさん………なんの冗談ですか?」
あまりの態度に花京院が口を挟む。静かな口調だがどこか怒りを覚えている話し方だった。
「冗談も何もない……ポルナレフ、ひとまず落ち着け。能力も聞かずに飛び出すほどのバカではないだろ」
「…………」
レオンさんはチャイを飲み干して席を立ち、ポルナレフの肩に手を置いた。ポルナレフはそんなレオンさんにも、殺気を帯びた視線を投げ掛けている。
「レオン…コレは俺の復讐劇なんだ。関わらないでくれ…」
「自分の妹を殺した犯人への復讐……今の貴様の行動の理由はそれだけか………
「……なんだと?………たったそれだけ………そう今言ったのか⁉︎貴様はァァァア‼︎‼︎」
シルバーチャリオッツがレオンさんに切り掛かる。しかしレイピアは片手で受け止められてしまう。
W-Refは斬撃も吸収するのか………
「ポルナレフ………今の貴様では勝てない。無駄な事をさせないでくれ」
「ウルセェ‼︎ 俺は妹の……シェリーを弔うために戦っ………ッ⁉︎」
あれだけ滾らせていた殺気と怒りが、ポルナレフの瞳から一気に失せた。どうしたのかと思ったが、僕もある異変に気付いて理解した………その変化に僕は、意味も無く恐怖した。
「弔う……ため?」
レオンさんの赤い
レオンさんのそれは、人の持つ闇そのものの様だった。
「…………ッ離せ‼︎」
気がつくと数秒が立っていた。
過度の緊張感からかポルナレフは、強引に逃れる様に手を払い除けて飛び出した。
「……ハッ、待てポルナレフ‼︎……クソッ」
呆気に取られてから花京院が呼び止めるが既に遅し……そんな花京院の肩をレオンさんが掴む。
「止めはしたのだが仕方ない…………行くぞ。ポルナレフを見失う」
「………は?」
「……だから、ポルナレフを追いかけると言ったんだ。まさか貴様らは奴に「誰もついてくるな」と言われてその通りにするつもりか? 我々の気持ちを踏みにじった奴の気持ちを踏みにじるつもりだぞ私は………文句あるか?」
「………それもそうだね。カッとなって追い出してから追い掛けるより、こっちの方が効率がいいや」
なんか僕が望んだ形じゃないけど……まぁ良いのかな?
結果的に間に合えばいいんだ。
「じゃあ移動中に能力の説明を……」
そう言って僕が顔を向けた時、レオンさんはいつもの顔に戻っていた。さっきまでの表情が、本当に幻だったかのように…………
ー
ーー
ーーー
……弔うため……か…………
私の立場を知ったらポルナレフは……皆はどんな顔をするだろう……
親友を弔う事も出来ずに、98年の時を生きた哀れな人外を見て何を思うだろう……
「レオンさんボーッとしないで」
「あ、あぁ」
店を出た我々はすぐに追いかけたが、あまりに人が多いのでポルナレフの姿は見失ってしまった。
「すまない礼神…ポルナレフを止めれず…」
「いいよ。僕もアレは仕方ないと思う……」
礼神からスタンドの能力を聞かされた後、我々6人は二人一組でにポルナレフの探索を始めた。私と礼神、承太郎と花京院、ジョセフとアヴドゥルの3組だ。
そこまではいいが一向にポルナレフは見つからない。痺れを切らし、礼神はスタンドを呼び出した。
「上から探そう。ケルちゃん‼︎」
我々はスタンドにしがみ付く。するとスタンドは何かの建物を躊躇なく軽快に攀じ登る。凄いな……足の鉤爪が壁に食い込み、壁を走るように登って行く。
ただ壁に無数の穴が現れ、幽波紋使いではない通りすがりは目を疑っているな。
「ケルちゃんの脚力なら家の上を駆け巡るなんて容易いよ。レオンさんは視力いいから探すことに専念…「見つけた」早い‼︎」
礼神がツッコミの様にそう言っているが、ここへ来るのは遅かったらしい。既にポルナレフは、敵だと思われる者と対峙していた。
しかもそこは、我々が走っている家の列の1列隣の反対側だ。
「ケルちゃん‼︎」
300mほど先の目標を見つけた礼神は、スタンドに指示を出して後ろ足に力を込めさせる。クラウチングスタートの様な体制から跳びだすと、あまりの脚力で石で出来た民家の一部が欠けた。しかし今はそれどころではない。
「間に合え…」
道を飛び越えて反対側の屋根に着地する。その瞬間……ソレは急に現れた。
「やぁレオン・ジョースター。オジさん、会いたかったぜ」
待ち構えていたのだろう……焦りに焦った私の顔面を、白衣を着た男が膝蹴りを放つ。竹の割れるような音が鳴り、私はスタンドの背中から転げ落ちた。
気配の消し方は一級品……やれやれ、厄介な相手だな。
「レオンさん‼︎」
「行け‼︎」
一瞬迷ったようだが、礼神は伊月を無視してポルナレフの元へ向かった。屋根の上では今、私と伊月が対峙する形になっている。
「……なんだ……すんなり礼神を通してくれるんだな」
「オジさんの今回の目的は君の足止めだからね」
そう言って器用に指で挟む様に注射器を何本か片手で握る。それに対して私は腰に手を伸ばし、初撃に備えて構えをとった。
ー
ーー
ーーー
「行け‼︎」
レオンさんにそう言われ、僕はポルナレフの元へ ケルちゃんを走らせる。名前が変わった?何のこと?
「……ってそんな事言ってる場合じゃないか…」
屋根から飛び降りポルナレフとホル・ホースのいる通りに着地する。あとは真っ直ぐ走れば彼らの元に辿り行ける。
「となれば全力疾走…ケルちゃん‼︎」
足腰に力が入り、ケルちゃんは一気に加速した。小回りは効かないが、直線的な速さならかなり自信がある。
「甘く見たなポルナレフ、やはりテメェーの負けだ‼︎」
そう叫ぶのは西部劇に出てきそうな服装をした男…ホル・ホース。
彼は何も持っていたなかったのに何処からか拳銃を取り出して構える。
まるで手品のように拳銃は現れたが、スタンド能力で拳銃を出したんじゃない…ホル・ホースは
「
銃弾が1発放たれる。それをポルナレフは、チャリオッツのレイピアで叩き落そうとする。
「なっ⁉︎」
「弾丸だってスタンドなんだぜ?」
しかしエンペラーが放った銃弾はレイピアを避けるように、小さくカーブしてポルナレフの額に迫った。
……何故僕はここまで精密に脳内実況できているんだろう…全てがスローモーションに見える……理由はわからないけどお陰で間に合いそうだ。
「ポルナレフゥーー‼︎」
「何ッ⁉︎ 礼神‼︎」
ケルちゃんに乗っていた僕は、走るケルちゃんの背中からダイレクトでポルナレフに飛びついた。
ほぼ頭突きをする形になったが、彼を弾き飛ばしたお陰で銃弾はポルナレフから外れた。
「な、何で来やがった‼︎」
「店で僕はホテルで言ったことを忘れたか聞いた……それをポルナレフは結果の事……誰かが死ぬことだと思って返答した。僕が確認したかったセリフは約束の方だよ」
「……約束?」
「………必ず復讐は遂げさせてあげる…ってね」
突き飛ばして尻もちをついたままの僕達の頭上には、ケルちゃんが唸りながらも勇ましく立っていた。
「ヒューーッ、カッコいいねぇ。だが嬢ちゃん……あんたにゃぁポルナレフは守れねぇよ」
ホル・ホースは拳銃型のスタンド…
「退きな嬢ちゃん。怪我したくなければな……」
「退かないって言ったら? 僕を……女性を撃てるの?」
「…………」
僕の言葉を聞いて口を固く閉ざす。しかし鋭い眼光は、僕を見据えるように捉えている。そして諦めたかのような表情を浮かべると、銃口をポルナレフに向けて発砲した。
「舐めるな……俺のエンペラーなら、嬢ちゃんの脇を縫って撃つぐらい容易いことよ…」
銃弾もスタンド…要するに発砲後にある程度操作できるということだ。それでも限界はある。例えば………
「何ッ⁉︎」
「礼神‼︎」
ポルナレフを隠すように、銃弾の軌道上に立って両手を広げる。すると弾は、僕の頬ギリギリの所を擦る様にカーブして店のガラスに被弾する。
僕を撃ちたくないから銃弾を急カーブさせた…だがカーブさせた角度が急すぎた為、そこからポルナレフに当てるほどに銃弾は再度曲がれなかった。
「………オイオイ嬢ちゃん……あんたイカれてんのか⁉︎ まだ若いのに死に急ぐ真似すんじゃねぇ‼︎」
本当に身を挺して守るとは思わなかったのか、流石に銃を降ろしてホル・ホースは僕を吠える様に叱った。
「敵に叱られる筋合いねぇっての……それはポルナレフ…あんたもだからね」
ポルナレフはすでに立ち上がり右手を振り上げていた。恐らくその手で僕を引っ叩くつもりだったのだろう……しかし彼は僕に睨まれる事で動きを止めた。
「心配させといて心配してんじゃないよ。あんたにそんな資格は無……危ないッ‼︎」
僕は右手を横に振るった。するとケルちゃんも連動して前足を振り、ポルナレフを道脇に弾き飛ばした。
『…チッ…仕留め損ねたか…』
地面の水溜りに映るミイラがそう言った。
アレが
いや……弱点がある時点で無敵ではないか…
ひとまず当初の目的は達成した……ポルナレフを連れて一旦下がらないと……そう思ってケルちゃんに跨がろうとする。しかし………
「………あれ?…」
背中が熱い……正確には内側が焼けるように痛い。ケルちゃんに跨がろうとして踏ん張った足は急に力が抜け、僕は必然的に後ろ向きに倒れてしまった。
その時僕は「ピチャリ」という音を聞いた……まさかと思って力の入らない腕を持ち上げると、地面に触れた部分には夥しい量の血液が付着していた。
「礼神‼︎」
『哀れだなポルナレフ…餓鬼に世話焼かれ、自分のせいでそいつが死ぬんだ』
倒れる寸前に見た水溜りには、仕込み刃を赤い鮮血で濡らしたハングドマンが映っていた。おそらく僕は背後から刺されたんだろうな………ピチャリという音はきっと、僕が血溜まりに倒れた時の音だ。
それもそっか…ホル・ホースがフェミニストだから油断してた……完全に僕の落ち度だね。
『トドメだホル・ホース………何をしているホル・ホース、撃て!』
僕が水溜りに映らない位置に倒れたからか、ハングドマンは自らの手でトドメを刺せないようだ。だからホル・ホースに撃つよう指示した。
しかしホル・ホースは、怒りと哀れみを混ぜたような表情を浮かべ、2発水溜りに向けて発砲した。
『ッ!……何のつもりだ……⁉︎』
「何もクソもねぇ‼︎ 旦那…あんたの手癖の悪さにはつくづく思うこともあった……俺は世界中の全ての女を愛してんだ‼︎ 今回ばかりは見過ごせねぇぜ‼︎」
発砲音に驚いた僕は目を瞑る……そして二度と目を開けることはできなかった。死んだわけではない……瞼を持ち上げる気力すら無いのだ。
僕は喧嘩をしたことは多々あったし、承太郎の喧嘩に巻き込まれたこともある。
だが背中に穴を開けられるなんてもちろん人生初……気力はゴッソリとそれで削られ、今の僕の心情は「満身創痍」につきる。
「葎崎さん‼︎」
「葎…崎………」
少し遠くから若い声が聞こえる。この声は…花京院と承太郎の学生組だ。僕の姿を見てそう言ったんだろう……生憎目を瞑ってるので、こちらからは姿を確認できない。
…………でもこれって好都合なんじゃ?
このまま僕が死んだ事になれば、原作通りに進むかも……でも僕は本当に死ぬかもな……
「け…怪我をしているだけに決まっている…背中を突かれただけだ。軽い怪我ではないがすぐに……ほら…喋り出すぞ…今にきっと目を開ける………葎崎さん…そうでしょう?」
花京院の言葉が胸に突き刺さる……死力をつくして返事したいけど、生きてるとわかったら皆は、僕を庇いながら戦う事になる……それは不利だ。
「葎崎…おい起きろ………テメェ、自慢の防御力はどうした?」
そう言って承太郎のものと思われる腕が僕を抱き起こす。そして花京院が僕の首を指で軽く圧迫し、最後に口元に手を持ってきた。
「脈も……呼吸も止まっている…………」
絶望したかのような口調で花京院が言う…僕が死んだと思ってるんだね……生きてるけどね。
「野郎ォ……」
『ホル・ホース…その話は後だ』
「……チッ…今回の仕事限りでコンビは解散だ」
ー
ーー
ーーー
「シッ‼︎」
「ウオッ…と……近付かずに鱗粉で弱めてけば勝てると思ったけど…………やっぱ波紋使いに生半可な毒は効かないか」
不安定な足場の上で私は伊月と、進展のない戦いを黙々と繰り広げていた。
「いや〜速いねぇ。オジさん流石に音速の攻撃は掻い潜れないぜ」
「私もまさか、昔の愛需品を運び出す羽目になるとは思わなかった」
対柱の男用に作らせた懐かしい鞭を片手に、私は余裕の無い表情で会話する。
確かに奴は私の射程圏内には入れずにいるが、毒が塗ってあるであろう針を奴は投げてきているのだ。
「できれば注射器で直接血管に打ち込みたいけど……毒針と鱗粉じゃ、致死量まで何十分かかるか…」
「シッ‼︎」
跳躍で間合いを詰めながら、空中で鞭を飛来させる。しかし伊月は、私が距離を詰めてくるのを察したのか、鞭を放つ前にその場から離れた。
(鞭使い歴が長いのかな…とても精錬されている。それでも僅かに隙はある……問題はオジさんでもそこをつけるかどうか…)
(周囲を巡回している蝶、時折刺さる毒針…波紋で緩和してるが、動きに支障が出るのも時間の問題だな。にしても………)
いくら私が吸血鬼の力を使えないからといって、生身でここまでついてこれる人間は初めてだ。私ですら今は汗を掻いているのに、奴は涼しい顔をして笑みを浮かべている。
「ひとまず……攻めまくるか」
また跳躍して鞭を飛来させるが、伊月は先程と同じように逃げる。私はそれを見て間髪入れずにまた跳ぶ。
「シッ‼︎」
また軽々しく躱されてしまう。いくら早くとも、構えた時点で射程外に逃げられては何も出来ないのだ。
(…うん……やっぱり隙がある。タイミングがシビアだね〜、ダメージ覚悟で飛び込んで薬を打ち込むか?)
伊月は右手に注射器を握り目を細めた。そんな顔面目掛けて私は鞭を飛来させる。もちろん伊月はそれを避ける。
すると伊月は一直線に走ってきて、注射器を掲げる。
「まだだ」
鞭の柄を引くように振るうと、鞭の先端がこちらに帰ってくる。その軌道上にいる伊月はしゃがんでそれを避ける。
「足を止めたな」
私の前方2mの所で伊月がしゃがみ込んでいる。すぐさま立ち上がろうとするが、それより早く鞭が飛んで来る。
「ミカド……」
「ッ⁉︎」ドォン‼︎
地に向けてあった伊月の手から蝶が1匹現れ、伊月はソレに向けて煙草を吐き捨てた。
もちろん煙草には火が付いていて、蝶が小さな爆発を引き起こす。ケーブルカー広場で使った鱗粉と同じ物だろう。
「爆風で無理に跳んだか…」
「ケホッ…ハハハッ、背後がガラ空きだよ」
「知ってる」ドン‼︎
昔は使うことがなかった仕込み刃が柄から射出され、切っ先が伊月の腕に突き刺さる。頭を狙ったのだが、腕でガードされてしまったようだ。
「『備えあれば憂いなし』とは、正にこのことだな」
「……反則でしょソレ…」
すぐさま刃を腕から引き抜きそう言ってくる。口調も表情もまだ余裕そうだ……しかし私はあることに気づいた。
「……貴様…鞭で顔面を狙うと機敏に反応していたな。切り返しで後頭部を狙った時もだ……そして今も頭をガードしていた」
「別に普通じゃない?」
「ホテルでサボテンを破裂させた時も、貴様はガードしていた」
「…………」
「心臓を刺されても動き続ける貴様の弱点………それは頭か」
「……君みたいな頭の切れる奴…オジさんは大嫌いだよ」
薄く伸びた口の口角が吊りあがり、伊月は不気味な笑みを浮かべる。
ところで奴は、私が右手にW-Refを限定発動してることに気付いているのか?
「W-Ref、reflection」
私は右手に限らず、両手両足にもW-Refを発動させる。
屋根や何かに被弾した時のエネルギーは、鞭の柄を伝って吸収していた……そしてそのエネルギーの全てを今、私はクラウチングスタートの体勢で両足から放出した。
「ロケットスタートってやつだ」
「早っ⁉︎」
驚きつつも奴は顔面を両腕で守る。しかし私は頭ではなく、伊月の腹部に蹴りを放った。もちろん波紋を帯びている。
更に……
「reflection」
「ウグッ……」ザシュ
蹴り飛ばされた伊月は吐血するが、数秒後に奴は平常運転に戻る。腹部には大きな傷跡が現れたが、あまり血は流れ出ていない。
「不意打ちの鳩尾は効くと思ったが……不意をついてもダメージが態度から見て取れない。ポルナレフの斬撃までオマケしたんだが…」
この男…やはりオカシイ…
「…ハハハッ……どうしようかな………ってアララ? 向こうはもう終わってるみたいだね」
「何?……なっ‼︎ 礼神⁉︎」
伊月が己の右後方を見つめるので、つい私もそちらに目を向けてしまう。もちろん伊月を視界に入れたまま。
しかし遠くに見えたものを見て、私は伊月を視界から外してしまった。
「心配だよね…じゃあオジさんは逃げるよ。お嬢ちゃんが倒れてるのに、オジさんを追いかけたりはしないよね?」
そう言って男は何かの薬品に火をつける。するとそれは「シュー」という音と共に煙を放出し、アンモニア臭を振りまき始めた。お陰で視覚は遮られ嗅覚も塞がれる……煙が発生する時の音は僅かな物だが、奴の静かな足音を消すには十分だった。
「血眼になり探せばやがて見つかる……が…時間がかかるな」
弱点を知り追い打ちをかける絶好のチャンスだ……が、それは残念な事に礼神を見捨てる理由になるわけがなかった。
この煙が原因で騒ぎが起こる前に、私はその場から身を引いて礼神の元へ急いだ。