ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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33.山道を駆け抜ける化け物

「礼神‼︎」

 

 屋根から飛び降り、私は倒れた少女の傍らにしゃがみ込む。

 すぐさま脈と呼吸を確認するが既に停止していた。そんな彼女の側には、膝をついた花京院がいた。

 

「……他の皆は?」

 

「……承太郎とポルナレフは敵を追いました。ジョセフさんとアブドゥルさんはまだ来てません」

 

「…………礼神は…」

 

「……葎崎さんは…………もう…」

 

 俯いたままそう花京院が答える…………が……

 

「……生きてる……よ〜……」

 

 瞼も開けずに、礼神の口からそんな言葉が漏れ出て来た。

 

「…………僕の涙を返せ」

 

「待……止めて……僕…重症……」

 

 どこか優しげのある手付きで花京院が礼神の胸倉を掴む。すると彼女の背中の傷が、塞がってるわけでもないのに流血が止まっている事が見てわかる。

 

「………花京院、そのまま礼神を俯せにしてくれ」

 

 私の指示を通りに花京院は、礼神に出来る限り刺激しないように…スタンドまで使って優しく俯けに寝かせた。

 

「……おかしい…刃物一つ分の深い傷だ……傷を負ってどれだけ経ったかわからないが、血が止まるにしては早過ぎる。普通ならまだ血が流れ出ているはず………しかし既に止まっているのが事実……そのお陰で失血死を間逃れているようだが……」

 

「…あのぉ……治療ぉ…」

 

「あ、あぁ。ひとまず道の端に寄せよう。日陰がいいな」

 

 すると花京院はハイエロファントの触手をハンモック状にして礼神を包み、またまた優しく移動させた。

 

「レオンさん。葎崎さんは……」

 

「安心しろ。余談だが私は医大卒だ」

 

 …と言っても遠い昔の医学がまだ発達していない時代の話だ。まぁ財団にいた時も役立つと思い、色々と医術を身につけてはいるが………

 

「レオン……さん………何する……気?」

 

「目を瞑っていた方がいいぞ? 花京院、私の姿が通行人には見えぬよう、そっち側に立ってくれ」

 

「え………ゾンビは………ヤダよ」

 

 礼神がそんな事を言ってくる。確かにゾンビにするのも助ける手だが、私の体組織の大半はサンタナ……つまり血でゾンビを量産できる吸血鬼とはかけ離れた存在だ。既にゾンビを作れる身体ではない。

 

「ゾンビにはならない安心しろ。ただこれからやる事は結構ややこしくて集中力を使う……しばらく二人共黙っていてくれ」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

(………うわー……なんかグジュグジュ音がする)

 

 俯せのままケルちゃんの能力で僕は仮死状態を保っている。

 仮死状態になるということは心拍が止まるという事…血流が停止すれば出血も止まる。保健の授業受けてれば何となく予想できることだよね。

 仮死状態で何故意識があるのか……って言われたら「そういう能力だから」としか言えないけど……

 

(うぅ……なんか背中の中で蠢いてる気がする。仮死状態で触覚も鈍ってるのかな……でも何と無く何かが蠢いてるのがわかる)

 

 一体何をしているんだか……レオンさんの行動だから信じるけどさ……

 

「……コレで絶命は免れるだろう。礼神……起きれるか?」

 

 そう言われて仮死状態を解くと背筋に激痛が走る。でも表情で察してくれたのであろうレオンさんが、すぐに波紋を流して痛みを緩和してくれた。

 

「まだ痛いし、動けば怪我が悪化しそう……ねぇ、何したの?」

 

 僕が聞くと花京院は目を逸らした。そしてレオンさんは、さも当たり前かのようにこう告げた。

 

「波紋で痛覚をある程度遮断し、振動熱で熱をもたせた私の血で輸血&細胞を僅かに破壊……そこに私の細胞を君の細胞に癒着させて代用しつつ再生を促し………」

 

「もう結構です」

 

 聞かなきゃよかった……って血⁉︎

 

「ゾンビは嫌だって言ったじゃん‼︎」

 

「ゾンビにはならない安心しなさい」

 

「本当だろうね⁉︎」

 

「なってたら波紋で既に死んでいる」

 

 それもそっか……レオンさん何かと万能だけど、もう助けを借りるのやめよう。

 

「吸血鬼って万能なんだね……」

 

「スタンドも使ったけどね。私と花京院の生命エネルギーを君に分けた」

 

「………今なんて?」

 

 声のトーンを下げてレオンさんに再度目を向ける。

 

「そんな事しないでよ‼︎ ただでさえレオンさんはスタンドのせいで…ムグッ⁉︎」

 

「そこまで元気ならひとまず安心だな」

 

 僕の口を塞ぎ、レオンさんは笑顔を見せて立ち上がった。

 なんでこの人は………もっと自分を大切にしてほしいのに…

 

「なんで花京院止めてくれなかったの…」

 

「………レオンさんを心配するのと同時に、君に死んでもらいたくなかったからだ。ところで……さっきのは君のスタンド能力か?それともただの奇跡かい?」

 

 さっきの……多分心臓やらが止まっていたのに生きていた状態の事かな。出来れば詳しく話したくはないけど………

 

「ケルちゃんの能力……結論から言うと意識を保ったまま仮死状態に陥れる。擬似仮死状態中は、ケルちゃんの操作と掠れ声で会話する以外は何もできない。」

 

「……それって何の役に立つんだい?」

 

「出血多量の時とかには重宝するよ。やったの初めてだけど……詳しくは聞かないで、コレは僕のコンプレックスなの」

 

 僕の言葉に首をかしげるが、二人は言われた通りそれ以上は追求しないでくれた。優男ってイイネ。

 

「敵の事はあの二人に任せるとして、私達はジョセフ達と合流しよう」

 

「わかりました」

 

 僕は波紋で痛覚を和らげてもらわないと辛いので、問答無用でレオンさんに抱き抱えられる。

 すると花京院が何故か残念そうな表情を一瞬見せた……何故?

 

「そういえばレオンさん。伊月は?」

 

「…逃した………すまない」

 

 己の失態を悔やんでいるのか、レオンさんは重い溜息をついた。あの白衣オジさん……なんか引っかかるんだよなぁ…

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 ジョセフとアブドゥルを探す事数分…我々は無事に二人と合流することは出来た。

 私に抱き抱えられた礼神を見て、二人はまず事情を尋ねてくる。

 

「礼神が攻撃を受けた。敵は三人……1人はガンマン、1人は両右手の男、最後の1人は伊月だった」

 

「何ですと⁉︎ して、伊月は………」

 

「逃げられた……逃すことはあっても、二度も同じ奴に逃げられるとは人生初の失態だ」

 

「残りの2人は今、承太郎とポルナレフが追っています。承太郎が()()を使えるようになったので、無事帰ってくると思います」

 

「アレだと?……何のことだ?」

 

 私が礼神の元に来た時、既に承太郎はいなかった。だから私は何が起きたのかを知らなかった。

 

「葎崎さんが死んだと思ったからでしょうか…承太郎は短い間のようでしたが、時を止める事に成功していました」

 

 花京院から告げられた事に私は、思わず目を丸くする。そんな簡単に出来ることなのか?

 いや……「友の死をきっかけに」というのが理由なら、簡単な事ではないか……生きているが。

 私は礼神に視線を下す。

 

「……なぁに?」

 

「問題は君だ礼神……君は今、波紋で痛覚を鈍らせなければ日常生活もままならない状態だ。骨折こそしていないが、背骨にも僅かに傷が走っている」

 

「骨が?わーお、痛い訳だ」

 

 呑気にそんなことを言っているので、一度私は波紋を止めてみる。すると礼神は、ピキッという効果音が似合いそうな表情を浮かべる。

 

「………事の重大さがわかるか?」

 

「コレは……波紋無しじゃ辛すぎだね」

 

「その状態での旅は危険じゃ。かと言って帰国させるのも不可能……どうしたもんかのう…」

 

 そう言ってジョセフは白い顎髭を撫でて唸る。アブドゥルも同様に腕を組み目を伏せた。

 やがてアブドゥルが案を思いついたのか、人差し指を立てて口を開く。

 

「止むを得ません。礼神には近くの病院に入院してもらいましょう」

 

「でも…「ただし‼︎」

 

 礼神が反論する前に、アブドゥルが口調を一瞬強める。

 

「お前はそう簡単に大人しくなってはくれない。だからレオンさん…申し訳有りませんが、入院中は貴方が彼女に付き添ってもらえますか?」

 

「私が?」

 

「入院…とは少し違いますね。貴方が宿でも取って最短で彼女を治し、完治後に我々を追いかけて来てください。礼神のスタンドと夜のレオンさんなら、すぐ追いつけるでしょう?」

 

 カルカッタからパキスタンへの国境を越え、その後はカラチの港へ向かう予定だ。その道中の移動手段は主にバスや車……確かに車での移動距離くらいなら追い付ける。

 

「今の所はそれが最善策か。礼神の傷の具合からしてそうだな………余分に時間がかかるとしても、国境を越えたあたりで追い付くだろう」

 

 私が真面目にそう推測すると、礼神は納得していない…というよりは不安そうな表情を浮かべている。

 

「何か不服でも?」

 

「…うん……ここから港までの間に何度か襲撃に遭う。毎度お馴染みバタフライ効果という不安要素があるから、先の予言はあまりしたくないんだ。その場で伝えたい。今言ってそれを頼って誤差があったら、それこそ大惨事になり兼ねないし………レオンさんが僕の記憶を肉の芽で読み取って、誰かに記憶させられない?」

 

「出来たらすでにやってる…生憎肉の芽は、私の記憶を相手にコピーさせるだけ…君自身が己の脳波を操り、電気信号を送信できない限り不可能だ」

 

「僕らを信じてください葎崎さん。相手の能力を知っているだけでも十分違うんですからね」

 

 最後の花京院の言葉で折れたのか、礼神は今後現れる予定の幽波紋使いについて幾つか説明した。

 

 

 

 

 

「それじゃあ気を付けてくれ。メモは無いが大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃ、そこまで老いとらんよ」

 

 目的に適した宿(連れ込み宿だという事は秘密にしておこう)を見つけ、私はジョセフ達に別れを告げる。彼らはこれから、承太郎達と合流し次第出発する予定だ。

 カルカッタからベナレスへ……おそらくベナレスに皆が着くのは明日の早朝だろう。

 

「じゃ、僕の予言は忘れないで…でも当てにし過ぎないでね」

 

「あぁ。それじゃあ……」

 

 伝えることも伝えてから宿に入り、背を向けると3人の足音は遠ざかっていった。

 

「お客様の部屋は二階の奥になります」

 

「ありがとう」

 

 私は受付から鍵を受け取り、礼神を抱えたまま部屋に移動する。室内は決して綺麗な部屋では無いが酷いわけでもなかった。

 

「レオンさんと泊まるの二度目だね」

 

「一度波紋を止めるが大丈夫か?」

 

「うぅ…ちょっと怖いな。擬似仮死状態になればマシかな」

 

 礼神をベットに寝かせてから、私は部屋のカーテンを締め切り日光を遮断する。扉の鍵も閉めてあるから誰かに見られることはないだろう。

 

「…始めるぞ」

 

 そう前もって言ってから私は触手を伸ばした。

 まずは応急処置で済ませていた部分を処理しなければ……足りぬ体細胞は私ので代用…数日すれば本人のものと入れ替わるだろう……

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 僕の背中の傷口から、細く長いものが何本か侵入してくる。いくらレオンさんの所作とはいえ落ち着かない……レオンさんには悪いけどね。

 

 僕は擬似仮死状態のまま、時が過ぎるのだけをただただ待っている。機能が低下した鼓膜がレオンさんの声をこもらせ、触覚は「何かが背中から侵入してる」という情報以外を与えてはくれない。

 

「…レ…カ……仮…状態…解い…くれ…」

 

 擬似仮死状態の解除を促す文が聞こえ、僕は能力を解除する。すると痛みはまだ強いが、だいぶマシになっている。

 

「どうだ?」

 

「動かない限りは問題ない」

 

「そうか…ならあとは波紋を当ててれば治るだろう」

 

 そう言ってレオンさんが僕の服を捲ってきた。急な事で声も出なかったが、別にいやらしい事をするつもりではないらしい。まぁレオンさんだしね…

 シンガポールのホテルでやったように、レオンさんは濡れタオルを僕の傷口に被せ波紋を流す。

 

「これは…取っても大丈夫か?」

 

「あぁ、サラシ? いいよー」

 

 僕の返事を待ってから、レオンさんが丁寧にサラシを取る。取り終えたサラシは裂け、当たり前だけど血が付いていた。

 これはもう使えないな…予備は1つしか用意してないのに。

 

「最初は少し痛いが我慢してくれ」

 

「了解で…ンッ!…………恥ずッ///」

 

 出すつもりのなかった女子の声が口から漏れる。

 メチャクチャ恥ずかしい…今の僕は俯せだけど上半裸なんだよね。

 

「……辛いなら押し殺さなくても大丈夫だぞ?」

 

 違うんですレオンさん…声を出すのが(精神的に)辛いんです。

 現在の状況は言葉によっては、R指定入りそうだからね?

 

「レオンさん。どれ位かかりそう?」

 

「そうだな…明日の朝頃だろう。国境前後で追いつける計算だ。もう少し遅らせても港までには合流できる」

 

 前後という曖昧な言葉を使ったのは、敵幽波紋使いとの遭遇を考慮してのものかな。

 

「じゃあ朝に出よう。早いに越したことは無いし」

 

「……休息はいいのか?」

 

「大丈夫だよ。少しくらい無茶したって…」

 

「少しではないだろ」

 

「うっ…」

 

 枕に顔を埋めているので表情は見えないが、きっとレオンさんは見透かした目をしてるだろう。

 

「だってさ………僕の長所って予言だけじゃん。それも最近はバタフライ効果で役に立たなくなってきてる……僕、荷物にはなりたくないよ………」

 

「………昔私は、ただの吸血鬼だった。柱の男に敵わぬ私は、付け焼き刃で力を身に付けた……結果…私の勝利と呼べる戦いなど無く、皆に心配させるだけだった。今思えば、私は出しゃばりすぎた………君はそうなってくれるな」

 

「そうはいかないよ。心配をかける事になっても、僕は僕の役目を果たす………誰も、死なせたくない」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 前々から気付いていた事だが、礼神はこの旅には向いていない。

 彼女は弱い心を無理に動かし、存在しない勇気を振りかざして旅をしているようだった。シンガポールでジョセフから聞いた…礼神が殺しをして精神的に追い詰められていた事を……

 

「君は…何故そこまで無茶ができる?」

 

 昔の私を知っていれば「お前が言うな」と言われそうな事だが、私は聞かずにはいられなかった。

 見るからに礼神は脆い存在だったからだ。

 

「……わからない」

 

「……………」

 

 私は無言を決め込んで、それを最後に治療に専念した。

 傷の具合を確認するべくタオルを少し捲ると、背中の傷口は浅くなっていて、空いた穴は赤みのある再生中の血肉で埋まりつつあった。

 

「なんで僕は付いてきたんだろ」

 

 10秒近くの静寂が流れてから、礼神が前触れも無く呟いた。口に出せる事もなく、耳だけを私は傾ける。

 

「………なんでこんな……僕はみんなと比べれば…無力なのに…なんで?…僕の予言だって……もうアヤフヤ……で…」

 

 言葉が絶え絶えになり、泣きこそしないが口調が弱々しくなる。そんな口調で伝えられる文からは、先程の決意が強がりだという事を理解させる。

 

「……原作を知ってるからって…こんな簡単に……首を突っ込んじゃ…ダメだったんだよ……………色んな意味で僕は…………みんなが怖い」

 

 共に旅をするのが怖い…それでも旅を続けるのは、一度出会ってしまった仲間を失うのが、旅より恐ろしいからだろう。

 この時私は、この少女がどれだけ弱く、一般的な女子高生なのかを理解した。

 礼神を励まそうと…元気付けようと…守ってやろうという考えがよぎる度に、私の目に映る少女は、ただの子供にしか見えなくなっていた。

 

 ………もう私はこの子に、旅を続けようだなんて言えない。だが無理に帰れとも言えない……彼女の精神的な逃げ道は無いのだから………前へ進み解決するまで、この少女は苦しみ続けるのだ……

 

「……旅を続けても苦しみ、諦めても苦しむ…………ソレは、君を連れてきてしまった私の責任だな」

 

 彼女に触れる手とは反対の手で、私は己の服の下に隠れていた鋼色のロケットを取り出す。

 

(……ジョジョ……君なら彼女になんて声を掛ける?…教えてくれ…………)

 

 ………………もちろん答えは返ってはこない。

 

 

 

 

 

 波紋を流し続けて十数時間……日が沈みまた上がった頃、私は寝ていた礼神を起こすために声を掛ける。

 

「礼神…朝だぞ」

 

「…んぁ?…ふわぁ……はよーございます」

 

 数十時間前の絶え絶えの声は無く、いつもの女子高生に戻っていた。

 

「ふぁ〜…出発ですね」

 

「………行くんだな?」

 

「え?」

 

「なんでもない」

 

 話をはぐらかしてから私は、小さな荷物を片手にとって財布を取り出す。

 礼神もそれを見て自分の荷物を持って立ち上がる。そして上半身を捻ったりしてストレッチをする。

 

「…痛いか?」

 

「少し突っ張るだけ。大丈夫、痛くないよ」

 

「そうか…なら早く服を着ろ」

 

 そう言ってから私は部屋を出て、彼女が着替えるのを待った。聞くつもりはなかったが、部屋の中からは恥じらいを押し殺すこもった声が聞こえる。

 やがて赤面した礼神が出てきて、我々は急ぎ足でチェックアウトを済ませた。

 

「人気の無い道までは徒歩だな……」

 

「………じゃあそこから僕がまず足になりますね」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 僕とレオンさんを乗せたケルちゃんは、カルカッタからぶっ通しで人気の無い道無き道を走っていた。

 最初はスピードを落とさず疾走できていたが、流石に疲れが出始めて聖地ベナレスを過ぎた辺りで休憩する事にした。ちなみに日は沈んだまんま……みんなは今頃ホテルで熟睡中かな……クソゥ。

 

「お疲れケルちゃん」

 

 骨で形成された大型犬は口を開け、一定のリズムで頭を上下に細かく揺らしている。舌があれば垂れ出てそうな表情……この子も疲れるんだねぇ。ちなみに時間軸的には、すでにみんなは女帝(エンプレス)運命の車輪(ホウィール・オブ・フォーチュン)を倒した後だと思う。といっても、明確な日時はわからないから、まだかもしれないけど………

 軽く軽食を2人で食べて、血液ボトルから口を離してからレオンさんが声をかけてくる。

 

「さて……そろそろ行くぞ」

 

 屈伸してストレッチをするレオンさんが膝をついて背を向ける。移動中は揺れるから水も飲めないらしく、今のうちに水分を補給しておく。

 

「よっし…お願いします」

 

「あぁ」

 

 レオンさんの背中にしがみ付くと、両腕を僕のお尻の下で組んで座れるようにしてくれる………下心は無い 下心は無い。

 

「先に言っておくが乗り心地は良くはない…そこは勘弁してくれ」

 

「大丈夫。乗り物酔い強いし、ジェットコースター大好き」

 

「そうか…………それは良かった」

 

 ………僕は、今言った事をそのうち後悔することになる。

 

 

 

 

 

 

「アンギャァァァァア‼︎‼︎⁉︎」

 

「………凄い奇声だな…」

 

 女子高生のソレとは思えない声が口から飛び出て、僕はレオンさんの背中に顔を埋める。

 しかしレオンさんは長身だが承太郎のように幅があるわけでは無い。どう足掻いても視界を遮り切ることはできない。

 目を瞑れば良いんだけど、それはそれで怖い…怖すぎる。

 

「もう一度落ちるぞ」

 

「え⁉︎あ‼︎ちょっと待っ…ウギャァァァア‼︎‼︎」

 

 聖地ベナレスを過ぎて山道に差し掛かってからの5度目の奇声……

 レオンさんは山道に入るまでは普通に道なりに沿って走っていた。だが山道に入れば道は細く、ときに「いろは坂」の様に連続カーブをして下がっていく道もある。そしてレオンさんのスペックがあると、ここで道なりに沿って走るのはただの()()()なのだ。

 

「もう落ちないでくださいお願いします死んでしまいますもう変わって下さいケルちゃん出しますから」

 

「落ち着いて話せ、良く聞き取れなかった。それに好きなんだろう?ジェットコースター………」

 

「ジェットコースター()好きですよ?でもこれはソレとは別格過ぎます」

 

 跳躍して3車線くらい飛び越えて真下に落下……かと思えば急に前進する。

 落下時にW-Refで僕にかかるエネルギーも吸収してくれてるんだろう。そのせいで身体にかかる負担は無いが、予想外の動き過ぎて虚をつかれる。

 たまに運動エネルギーをレオンさん自身に放出して、空中で方向転換するし…………それはもう止めてくれたけど…

 

「仕方ないな………む?丁度いいところに……」

 

 そんなセリフが聞こえたかと思うと、レオンさんは音も立てずに着地して僕を地面に下ろした。

 降ろされたハズなのだが身体は何故か揺れ、地面は冷たく僅かな月光を鈍く反射していた。

 

「うぇ?何これ?酔っちゃったのかな?」

 

「座りなさい。落ちるぞ」

 

 僕の疑問には答えず、肩を掴まれ僕はその場に座る。すると周りの景色が横に流れていることに気付く。

 

「………あ、コレ車の上?」

 

「そうだ。厳密にはトラック上だ……手摺なんか無いんだから気を付けろ」

 

 そう言われて差し出された手を握り、僕は一息ついた。

 移動速度は僕らに比べて遅いが、ココなら休憩中でも移動距離が稼げる。

 

「レオンさん水飲む?………レオンさん?」

 

 荷物からペットボトルを取り出して差し出すが、レオンさんは闇夜を見つめて表情を険しくさせる。

 

「………運命の車輪(ホウィール・オブ・フォーチュン)…だったか?」

 

「…何が?」

 

「車型のスタンド………まさかアレじゃ無いよな?」

 

 そう言って指差す先は暗く良く見えない。しかし、ヘッドライトがついた一台の車が、僕らと同じ道の後ろの方を走っているのは確認できた。

 

「正直ただの車か改造車みたいな外見で、パッと見 良く覚えてないんだよね。なんでアレが気になったの?」

 

 そう聞くとレオンさんは右手をその車に向ける。その手にはW-Refが限定発動していた。

 

「この旅の道中で何種かのスタンドエネルギーを吸収したのが原因だろう。スタンドによって様々だが、スタンドエネルギー共通の特徴の様なものを感じ取れる様になってな」

 

「共通の特徴?」

 

「要点を押さえて言うと…一定距離内のスタンドエネルギーに気付ける」

 

「……ッ!それって感知機能(センサー)が使えるって事?」

 

「そう解釈してもらって……「パキッ」…構わない」

 

 おもむろにレオンさんはスカーフを捲り、口に指を入れて何かを取り出す。そんな所に何を隠してたんだろう…パキッて音がしたけど……まさか?

 

「あの車、もしくは乗車してる者は幽波紋使いだ。reflection‼︎」

 

 今までの移動で吸収した落下時に発生したエネルギーだろう。その物理エネルギーを使って、レオンさんは取り出した何かを、後ろからついてくる車に撃ち込んだ。

 

 すると「バスン」という音をたてて、後方を走る車は速度を落とした。

 

「タイヤを撃ち抜いたの?もし一般人の車だったらどうするんですか?」

 

「……知らぬふりをしてればいい。尖った石でも踏んでパンクしたんだと、勝手に謎を解決してくれるさ…………それに…やはりスタンドの様だぞ?」

 

「ッ‼︎⁉︎」ドゴォン‼︎

 

 衝突音を響かせてトラックが大きく揺れる。

 いや……揺れるなんてものじゃない………

 

「う、浮いた⁉︎」

 

「掴まれ‼︎」

 

 後ろから抱き抱えられ、僕はすぐに浮遊感に襲われた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「あの車、地中を掘り進めるのか……」

 

 礼神を抱えて跳躍すると、時間差でトラックの下から改造車が飛び出してくる。そのせいでトラックは吹き飛び横転………何が起きたかもわからず、運転手は慌てて這い出てくる。

 

「レオンさん逃げよう‼︎一旦距離を取らないと…」

 

「わかってる」

 

 岩場の側面を蹴って山道から外れ、私は敵スタンドから距離を置く。その時にまた礼神が奇声を上げたのは言うまでも無い。

 

「礼神、何故このタイミングで奴がいる⁉︎」

 

「知らないよそんなのー。ケルちゃん!」

 

 そう言って礼神はスタンドを出し、足の役割を交代する。

 ケルベロスの背中に飛び乗り礼神を下ろすと、すぐさま私は後方を確認した。

 

「車のスタンドというだけあって速いな。礼神、とばしてくれ」

 

「オーケー、振り落とされないでねッ!」

 

 ケルベロスの機動力がフルで働き、私は両足で立ち上がる。スタンドの背骨に片脚の爪先を引っ掛けているのでバランスさえ取れれば振り落とされないだろう。かなりの速さで移動してるので、引っ掛けている足を外してしまえば たちまち私は飛ばされてしまうがな。

 

「一度ショートカットしてできた距離はもう詰められている。これ以上スピードを上げられるか?」

 

「無理ィ!ヒュイッ⁉︎」パチン

 

 奴の攻撃がケルベロスの骨に被弾したらしい。

 運命の車輪(ホウィール・オブ・フォーチュン)の遠距離攻撃……それはガソリンの水滴だ。

 礼神のスタンドは防御力が高い為、屋根に打ち付けられる雨音の様な音を出したが、アレは人体を抉る程度の威力があるらしい。

 

()()に当たるのも時間の問題……牽制するぞ」パキッ

 

 スカーフの隙間から自分の八重歯を抜き取り、私はそれを指の力で撃ち出す。先ほどの様にW-Refを使って撃ちたいが、残念な事に吸収量が今は無い。

 指の力だけでは威力不足で、フロントガラスすら貫通しなかった。

 

「うへぇー、やっぱり歯だったんだ……」

 

「すぐに生え変わるさ。にしてもどうするか……これ以上抜くと再生が遅くなる…」

 

 鞭はこんな足場の悪いところでは強く打てない。

 飛び道具なら他にもあるが……正直な話、使うと道が崩れて現地の人に迷惑をかけてしまう可能性も…

 

「………仕方ないか」

 

 左目を瞑り右目に力を込めると、眼球の内側には体液が集まり圧がかかり始める。そして外膜がそれに耐えられなくなり、高圧力のかかった体液がカッターの様に射出された。

 

「お!空裂眼刺驚(スペースリパースティンギーアイズ)だ!初めて見たー」

 

「…良く覚えられるな」

 

 礼神に呆れながらも私は左目を開ける。

 すると私のその目には、蛇行運転を繰り返して崖から落ちる改造車が映った。

 射出した体液のカッターはフロントガラスを突き破り、何処かに被弾したのだろう。足場の揺れが凄いため、どこに当たったかは見当もつかない。

 

「なんで片方だけ?」

 

「この技を使った方の目が一時的に視力を落とすからだ。夜に両目を使うと、流石に不利だからな…」

 

「そんなデメリットあったんだ…」

 

「良く考えてみろ。瞳の水晶体を突き破っているんだぞ?」

 

 そう言うと納得したかの様な表情を浮かべて前を向き、私は崖の下に目を向けた。

 そこに改造車は既になく、無数の小さな穴が空いていた。

 

『危ねぇじゃねぇか‼︎ ヒャホハハハッ‼︎』

 

「こっち来たァ⁉︎」

 

 改造車のタイヤはスパイクに変わっていて、ソレは砂埃を立てながら我々の走る道の()()を走っていた。

 フロントガラスの()()()()には新たな穴が空いている。位置的に体液のカッターは身体に当たってすらないな。ビビって転落しただけか………

 

「速度を上げろ‼︎」

 

「無理ですよッ‼︎ヒァッ⁉︎」

 

 頭を下げて礼神は蹲り、それを見習って私も姿勢を落とす。またガソリンを飛ばして来たのだ。

 

「数百メートル先で待っててくれ」

 

  「何する気?」

 

「カーチェイスは分が悪い。ケリをつける…」

 

 制止の声が聞こえるが、無視して私は改造車に飛び付く。

 フロントガラスを蹴り割るつもりだったが、思いの外硬く、ヒビが入っただけだった。

 しかし視界を覆われて慌てたのか、また蛇行運転に切り替わる。

 

「少しドライブデートに付き合え」

 

 何度も殴りつけてガラスを破ろうとすると、私を振り下ろそうと運転が荒くなる。そこで私はフロントガラスの縁にしがみ付き、右目に力を込める。

 

『またアレか⁉︎』

 

 何をしようとしたのか分かったのか、奴はドリフトを繰り返して崖から自ら転落した。そして山道の側面にスパイクを差し込み回転…落下速度を更に加速させる。

 

『だがシブく無いね!地面にキスしなァ‼︎ヒャホハハァ‼︎』

 

「ふむ、流石に無事では済まない………とでも思ったか?」

 

 W-Refを発動…両手で車をしっかりと掴み、両足を地面へと向ける。やがて私は地面と接触した。

 

「落下エネルギーを両手足から吸収……」

 

『ヘァッ⁉︎』

 

 ステータスに関しては最低ランクのW-Ref(ダブルレフ)。これは力の無いスタンドなのではない……()()()()()()()()スタンドのだ。

 

「重力加速度を吸収しただけで、重さは変わらない…だが重力エネルギーまで吸収してしまえば、何トンあろうと風船と同様………」

 

 地面に繋がれてでもない限り、私に持ち上げられない物は基本的に無い。

 改造車を地面に叩きつけ、私は奴の腕あたりに狙いをつける。奴はまだ抗おうとタイヤを回転させるが、既に圧をかけ終えた右目からすぐさま体液が飛び出る。

 

『ギニャァァァァア⁉︎』

 

 ようやくフロントガラスは砕け散り、腕を押さえる男を引き摺り出す。

 そして用済みになった改造車は、手足から吸収した落下エネルギーを放って遥か彼方に吹き飛ばす。

 

「バ、化け物ォ‼︎」

 

「今更何を………にしても、奇怪な身体をしているんだな」

 

 腹は膨れ胸板の薄い不健康体…かと思えば腕だけは承太郎と同じくらいの筋肉を持ち合わせていた。

 

「ひぃぃぃい‼︎」

 

「逃げるな」

 

「ウゲッ⁉︎」

 

 這い蹲って逃げようとする男の背中を踏みつけ、首筋に鞭の仕込み刃を当てる。

 

「スタンドを動かしたら殺す。無駄な抵抗をしても殺す。それが嫌ならば質問に答えろ。貴様の命を奪う次の一手は、今突きつけている仕込み刃だけだと思うな」

 

 仕込み刃を握り直し、右目に圧をかけ、奴を踏む足に体重を僅かにかける。首を斬りとばす、頭骨を撃ち抜く、心の臓を踏み抜く為の予備動作を私は今終えたのだ。

 

「………あ…あ…」

 

 声にはならないが男は必死に頷いた。何通かの自分の死を感じて恐怖しているのだろう。

 

「何故我々を狙った?DIOの刺客か?」

 

「そ、そうです!オ、俺は金で雇われただけなんですーーッ!」

 

「何故我々を狙った?」

 

「で、ですから雇われて……ギィッ⁉︎」

 

 足に体重を更に傾けると、背骨が悲鳴を上げ始める。肺が圧迫され、男は呼吸もままならない。

 

「ターゲットは我々2人だけではないだろ。 何故()()()()()を襲った?」

 

「そ…それは……アイツの…趣向で……」

 

「アイツ?」

 

 話しやすいように一度足を退ける。すると這い蹲ったまま深呼吸をし、男はある人物の名前を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…伊月 竹刀ですぅ……」

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