ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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34.再来と再会

「…………アレ?…ここは?」

 

 目が覚めると僕は、見知らぬ部屋の椅子に座っていた。

 確か僕は山道を走っていて……それでレオンさんが勝手に飛び出しちゃって……アレ?

 そっから先の記憶を僕の大脳は記憶していなかった。

 

「ひとまずここを出よ……う?」ギシッ

 

 立ち上がろうとしてお腹に圧がかかる。おかしく思い視線を落とすと、僕の腹部に何重にも巻かれた縄が見えた。

 どうやら僕は椅子に縛り付けられてるらしい。

 

「……何だってんだよ。ケルちゃん!」

 

 スタンドを呼び出そうとしたがケルちゃんは姿を見せない。何故かはわからない…わからなくもないけど、できれば違って欲しい。

 改めて室内に目を向けると、部屋の隅に木箱が積んでありランタンがその上に置かれている。部屋はそこまで広くなくランタン一つで十分な光源を得ていた。

 次に壁に目を向けるとソレは木材でできていて、だいぶ古いのかボロが出ている。よく見ると板の隙間から外が見える…でも何も見えないからまだ夜なんだろう。

 

(スタンドが使えない……やっぱり伊月 竹刀の仕業かな…)

 

 シンガポールで浴びた麻酔……被ってからレオンさんに直してもらうまで、僕はスタンドが出す事すらできなかったのだ。

 

「……あるぇ?でも体動くな……麻酔では無い?」

 

「お?目が覚めたかい、お嬢ちゃん」

 

 古びた扉が音を立てて開く。そしてそこからあの2人が姿を表した。

 

「やっぱりアンタの仕業かぁ〜」

 

 できれば外れて欲しかったけど、僕の予想は的中してしまった。

 

「おいおい、年上を敬いなよ。オジさんショックだぜ」

 

「どうせ知ってるだろうが自己紹介させてもらおう。俺の名はホル・ホース……ご存知帝王(エンペラー)の幽波紋使いだ」

 

 ヘラヘラと嫌な笑みを浮かべる伊月 竹刀と、形だけでも自己紹介をしてくれるホル・ホースが僕の前に立ちはだかる。

 

「……で?何の用?」

 

「実はオジさん…日本からずっとお嬢ちゃん達を安全に殺す隙を窺ってたんだよ。でも度々パートナーを変えて影から襲うたびに不審に思う事があってね………用意が万全なんだよ」

 

「……………」

 

「それで暫く探りを入れた……気づかなかったでしょ?シンガポールのホテルについてから、君の荷物に盗聴器が付いてた事」

 

「……いつの間に…」

 

「ロビーですれ違った時だよ。誰もオジさんに気付いてなかったけどね。お陰で確信が得られた……君は未来を知っている」

 

 もしかしたらいずれバレると思ってたけどバレたか…

 そこまで言うと伊月はホル・ホースに目を向ける。するとホル・ホースは背を向けて部屋を出た。

 

「……さて、ここからは1人の人間として聞きたい事がある。DIOとは無関係の質問だ」

 

「へぇ…僕らと同じ転生者なら、聞きたい事なんて早々ないと思うけどな…」

 

「……………なんだ…知ってたんだ」

 

 少し驚いた顔をして、伊月は面白そうに顎をさする。

 

「そりゃ未来知ってますから。ただのバタフライ効果の可能性もあったけど、スタンド名が「ミカド」っていう、カードでも曲名でもない名前だったからね……決定的証拠はないけど、試しに言ってみたらたった今、アッサリと肯定してくれたし…」

 

「なるほどねー、確かにオジさんが転生者って方が二次小説じゃありそうな展開だしね。コレを読んでる方々もどうせみんな気付いてたよ。画面の前の君もそう思ってただろう?」

 

「何の話?誰に言ってんの?」

 

「なんでもないよ。それじゃあ本題に入るね。まず……………()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「クソッ…完全に私の落ち度だ」

 

 別れたところまで戻ってみると、礼神のスタンド…スケルトンケルベロスの足跡が途中で途絶えていた。

 ガソリンの流れ弾を恐れて離れさせた……パートナーなどいないと決め付けるのが悪かったな…

 

周囲感知機能(アラウンドセンサー)にも引っかからない……上から見たところ人影もない……」

 

 最も高さのある場所へ登り辺りを見渡す……そこでほんの僅かな光を見つける。

 目を凝らせばそれが、風化した古小屋の壁から漏れるものだとわかる。

 

「この距離…一点感知機能(ピンポイントセンサー)なら……」

 

 W-Refを限定発動させた右手を向けると、その先から二種類のスタンドエネルギーを感じる。1人は礼神…もう1人は恐らく伊月 竹刀だろう……

 それを感じすぐさま私は駆け出した。

 

 

 ーーーードォン‼︎ーーーー

 

 

 ……W-Refの感知機能(センサー)は2つある…

 既にわかると思うが、周囲感知機能(アラウンドセンサー)は自分を半径に10mの距離を…一点感知機能(ピンポイントセンサー)は手先100〜200メートル先の直線上を感知できる。

 

 周囲感知機能(アラウンドセンサー)の弱点は、距離とW-Refを完全発動させないといけない事………一点感知能力(ピンポイントセンサー)の弱点は、一部発動だけで使えるが直線上しか感知できない事………

 

 だから私は死角から何かで右足で撃ち抜かれてしまった。

 

「銃声⁉︎」バッ

 

 すぐさま撃たれた方向にセンサーを向けるが何の反応も無い。それを理解すると同時に、別の方向から更に数発 足を撃たれる。

 

「W-Ref、周囲感知機能(アラウンドセンサー)‼︎」

 

 感知能力(センサー)の種類を変えて周囲に気を配る。

 範囲内に特別大きなスタンドエネルギーは無い……だが小さなエネルギー体が4つ………花京院のエメラルドのような、遠距離系の何かが飛んでいる…

 そんな事はどうでもいい……問題は四方から同時に迫っていることだな。

 

「だが…」

 

 W-Refで銃弾を2つ摘み取り、後ろから迫る残りは回し蹴りの要領で蹴り消す。スタンドエネルギーである事には変わりなく、触れると同時にソレは吸収された。

 

(遠距離攻撃…小さなエネルギー体…ホーミング弾幕…噂に聞くホル・ホースか?)

 

 銃声は何度か聞こえていたが、聞こえてくる方向がおかしい……右からと思えば左……前と思えば後ろから聞こえる…しかも銃声にしては妙に反響している。

 

「吸血鬼対策を講じているな……どんな仕掛けかは粗方想像つくが、どうするか……」

 

 一点感知能力(ピンポイントセンサー)でしらみ潰しに探すには、発砲の間隔があまり無いので厳しい。

 やがてまた銃声が数度聞こえる…しかし銃弾は同時に私を襲う。おそらく無駄に銃弾カーブさせ、タイムラグの帳尻合わせをしているのだろう。

 

(周囲感知機能(アラウンドセンサー)で身を守る事は容易い……普段ならだが…)

 

 最初足に数発貰ったからだろう。

 私は化け物……日常生活に差し支えはないが、戦闘中となれば別だ。機動力はもちろん落ちるし、奴の銃弾は元々命中率が高い。

 ひとまずこの場を離れることが最善と思ったが、それと同時にW-Refが消失……私は一時の間丸腰になる。

 

「…クールタイムか……」

 

 一定で聞こえていた銃声のテンポが早くなる。クールタイム(時間切れ)を待っていたのだろう…銃弾は全て私の右足に向かっていた。

 クールタイムは5秒…素手で触れれぬ追尾銃弾……どうやって避けろと?

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「……どういう事?何の話?」

 

「………いや、何も知らないなら良いんだ。はぁ…残念…オジさんが個人的に知りたい事は、何も知らなかったか……」

 

 遠い目で小屋の壁を見つめ、伊月は本当に残念そうな表情を浮かべている。だがすぐに切り替えてまた、いつものヘラヘラとした笑顔に戻る。

 

「さて…ホル・ホースの発砲が始まったってことはレオン・ジョースターの足止めが始まったってことだ。いい加減に個人的にではなく組織的な事を聞かないとね……」

 

 そう言って僕の座る椅子の前まで移動して膝をつく。そして右手の人差し指を立てて口を開く。

 

「君の存在は厄介だ…だから君には2つの選択肢がある。1つはオジさん達の仲間になる……DIOの下につくこと。もう1つは…」

 

 間を空けて左手の人差し指を立てて、別の案を提示してくる。それを聞いて僕は目を丸くした。

 何故なら………

 

「ここでジョースター御一行と別れ帰国する」

 

「…………え?」

 

 提示された選択肢が意外だったからだ。

 仲間になるかここで死ぬか………普通はそうだと思った。

 

「さぁどうする?もちろん後者を選ぶなら日本までの安全を保証する。なんならDIOの言うこと無視してオジさんが護衛する」

 

「ちょ、ちょっと待って?何がしたいのかサッパリなんだけど……」

 

「別にいいよサッパリで。私情を話す義理はないから………うん。オジさんもフェミニストって事で納得して」

 

 ポンっと手を打って何か1人で解決させると、伊月はまたヘラヘラと笑う。

 

「ちなみにオジさんは後者を推奨するよ」

 

「…………後者を選べば安全に帰国させてくれるの?」

 

「もちろん。何事もなく君は女子高生に戻れる」

 

 何故無事に返してくれるのかはわからないが、それを聞いて僕は意を固める。

 ゆっくりと深呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻し、真っ直ぐと伊月を見据えて口を開いた。

 

 

 

「だが断る‼︎」

 

 

 

「……何?」

 

 いずれ出会う可能性のある漫画家の言葉を使い、僕はそう叫んだ。そして舌を休ませずに次々と口走る。

 

「僕はジョセフさんやレオンさんにガンガン弱音をぶちまけちゃってんだよ‼︎ でも諦めたら僕は後悔する‼︎ 絶対に‼︎ だから帰らない‼︎ 仲間にもならない‼︎ これ以上誰にも迷惑はかけたくないんだよ‼︎」

 

 ケルちゃんに縄を噛みちぎらせると、僕はケルちゃんに壁を破壊させた。これで逃げ道ができた……

 

「……オジさんが投与したのはスタンドが上手く出せなくなる幻覚作用のあるものだ……アヴドゥルみたいにダウンしないよう薄めたとはいえ、その効果を君は打ち消した………それは即ち、精神力が向上したということ……」

 

「もう迷わない」

 

「だろうね。せっかく女子高生に戻れるチャンスだったのに………そんな目をしていたらもう戻れない……君のはもう、戦える者の目だ」

 

「ハハハッ…僕は承太郎に友達(ダチ)認定された希少種女子なんだよ。女子高生でいるより僕はこっちがいい……諦めなよ……腹括った今の僕なら()()()()()()()?」

 

 僕がそう言うと、伊月は首をかしげる。

 「隠された能力があるのか」「ただのハッタリか」……そんな事を伊月は今、考えている気がする。

 そして数秒が経ち、その場に新たな人影が現れる。それに既に気付いていたのか、伊月は煙幕を使って姿を消した。

 

「………待たせたな」

 

「遅かったねレオンさん……怪我大丈夫?」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 礼神は無事に戻ってきた……が、またもや伊月を逃してしまった。ついでにホル・ホースも……

 言い訳をするわけではないが私の右足は今ズタボロだ。コレでは追いかけたところで捕まえられない。しかも2人に合流されては勝てないかもしれない。

 

「………礼神…だいぶ顔付きが変わったが何があった?」

 

「まぁちょっと色々あって。そんなに変わった?」

 

「あぁ。伊月には何かされてないのか?」

 

「仲間になるよう勧誘された。もしくは大人しく帰れって」

 

「殺すような脅しはなかったのか…良心的だな。他には?」

 

「…別に」

 

 バツが悪そうに顔を背ける。彼女は自分をバカだの言っているが、結構考える事は考えている。だから深く追求するのはやめておこう。

 

「……足……大丈夫?」

 

「あぁ、再生に時間はかかりそうだが問題ない」

 

 普通の切り傷等なら問題無いが、ホル・ホースの銃撃はなかなか威力があり被弾するたびに肉片が抉られるのだ。

 切り傷ならまだ傷口を癒着するだけだが、空いた穴を塞ぐには肉が必要…血肉を生成するには少し時間がかかる……それでも人間とは違って目に見えて再生しているが…

 

「それはそうと………礼神、すまなかった。私の独断で別行動を……」

 

「……嫌だ。許してあげない」

 

 頭を下げて謝罪すると厳しめの答えが返ってきた。しかし口調がすぐに変わり、彼女は急に懇願してきた。

 

「許して欲しいなら僕を捨てないで‼︎ 守って‼︎ 旅が終わるまで1人にしないで‼︎ 旅が終わるまでは絶対に帰らないから!」

 

 懇願する内容は非力な者がするものだが、彼女の目は力強く訴えている。

 本当に何があったのかはわからないが、私は首を縦に振るしかなかった。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 それとほぼ同時刻の山道の外れ……そこには白衣を身に纏った男が、何故か西部劇風の男を背負って歩いていた。

 

「……随分派手にやられたねぇ。ゴメンね時間稼ぎなんてやってもらっちゃって」

 

「いや……俺が自ら選んだ事だ。アフターケアも万全……何の文句もねぇよ」

 

 伊月に背負われたホル・ホースは、自分の足を見て自称気味に笑って答える。どうやら足が折れているらしく腫れが酷い。

 

「にしてもあんなバケモンをあんたは良く止めれたな。俺だったら間違いなく死んでたぜ」

 

「何言ってんの。君だって生きてるだろ〜」

 

「そりゃあんたの恩恵を得てたからな」

 

「……逆にアレで勝てないとなると、オジさんもいい加減怖く思えるな」

 

 そう言いつつもケラケラ笑い歩を進める。しかしホル・ホースは難しい顔をして問いた。

 

「……なぁ伊月の旦那よぉ…レオン・ジョースターのスタンド能力は外部から得たエネルギーの利用なんだろ?」

 

「そだよ、それが何?」

 

「…蒼黒い槍…もしくは鈍器のような物に心当たりはねぇか?」

 

 伊月は頭を捻って考えるが、それらしき物にはまったく見当がつかなかった。

 

「……サッパリだね。何だいそれ?」

 

「レオン・ジョースターに6発同時に撃ち込んだ瞬間…………腰か背中…か?その辺りから5,6本…いやもっとあったな。おそらくスタンドと思われる物が生えていた。青黒く決まった形の無い物体……最初は炎かとも思ったがそれで球を弾かれ足を折られた」

 

「はへー、そんなことが……」

 

 少し目を丸くして伊月は面白そうに耳を傾けている。

 

「笑い事じゃねぇよ‼︎ それを見た瞬間俺は敗北…死を実感し逃げ出した…だがそのスタンドは、エンペラーの射程距離ギリギリまで離れた俺を攻撃したんだぞ⁉︎ それもその場から動かずに‼︎」

 

 軽く熱弁しながらホル・ホースは騒ぐが、伊月に静かにするよう注意される。

 

「そのスタンドの持ち主が、まだ結構近くにいることを忘れないで…」

 

「わ、悪い……」

 

 ホル・ホースから告げられた事をキッカケに、伊月は面倒臭そうな表情を今度は浮かべた。

 何故なら今回、伊月は本気でレオンを仕留められると思ったからだ。

 地中には予め枝分かれしたパイプが張り巡らされており、そこにエンペラーを放てば、操作可能な銃弾なので様々な位置から狙撃ができる。しかも銃声もパイプ内を伝わって反響……本人の位置も悟られない完全に有利なフィールドだったのだ。

 

「オジさんもミカドで鱗粉を撒いていた……更に地の利を生かしても敗北かぁ〜」

 

「レオンはパイプの仕組みも理解してたようだ。動きがそんな感じだった。俺が連射して隙を与えなければ、青黒いスタンドも使わせずに敗北していただろう……まぁ連射してスタンドを使いまくったからか、今の俺には鼻くそほじる余力もねぇがな…」

 

「マジかー……ひとまず今回は逃げよう……また隙を窺えばいい」

 

「……はぁ…」

 

「なんだい……なんか不満?」

 

 ホル・ホースの溜息を耳にし、伊月が質問する。

 

「あんた何て呼ばれてるか知らねえのか?」

 

「知らない」

 

「パートナー殺しだよ……俺はあんたを信頼してるが、あんたといると確かに死んでもおかしくない。そう今思った……」

 

「おいおいおいおい…オジさんのせいだってのかい?」

 

「いや相手が悪いだけだ。だが伊月の旦那は多くのパートナーと組んでいた。それで毎度敗北したら、評判も悪くなる……たとえ、パートナーの実力不足でもな」

 

 それを聞いて伊月は、またヘラヘラと笑みを浮かべる。

 

「確かにねぇ……灰の塔(タワーオブグレー)暗青の月(ダークブルームーン)黄の節制(イエローテンパランス)吊られた男(ハングドマン)………でもダークブルームーンは不可抗力でしょ? 到着した時には死んでたんだし……ひとまず爆弾だけ海上で付け直して逃げたけど…」

 

「なんで逃げたんだ?逃げ場の無い船上なら鱗粉で一網打尽に……飛行機内の時だってあんた、パイロットを毒殺しただけだろ?」

 

「言ってなかったっけ?オジさん乗り物酔い酷いんだぜ?移動中に何十回吐いたと思ってんの?」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 古小屋を離れた我々は地べたに座り夜食を取っていた。

 敵の奇襲を考え、今は礼神のケルベロスが周囲を巡回している。こういった簡単な命令なら自動(オート)で動くらしい。

 

「今夜中には追い付くかな…どう思う?」

 

「我々と別れた日に出発、我々が出発した頃にはベナレスにいたはず………」

 

 礼神の予言では確か、ジョセフが医者殺しの容疑をかけられてしまうらしい……あいつの事だ。国境を越えて安堵し、時間的にも国境近くのホテルで休息を取っているだろう。

 

「となると今は国境を越えたところにある町のホテルにいるはず……現在時刻は午後の11時……歩いても明日のまだ暗い早朝には追い付くだろう」

 

「朝……朝か………」

 

 目を虚ろにし、礼神が自嘲気味に笑う。

 なんだかんだで礼神も休息無し……波紋で時折疲労回復をさせているが、彼女は私と違い人間だ。ストレスや疲労感は凄まじいものだろう。

 

「……よし、君は休んでいるといい」

 

 夜食と称したパン類を食べ終え立ち上がると、礼神はウンザリといった様子で見上げる。

 どうせ私の背中では休めないとでも言いたいのだろう。

 

「……極力激しい運動は避ける。崖からも飛ばない。それでいいか?」

 

「…………うん」

 

 僅かな荷物を礼神に背負わせ、そんな礼神を私が背負う。すると礼神は私の肩に顔を乗せて脱力した。

 ……国境までそう遠くは無い……私はスピードを出さず、安定性を優先して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 国境を越えて街へ入り虱潰しにホテルを回る。

 受付でジョースターの名を聞き次のホテルへ足を運ぶ…そんな作業を数度繰り返すと、ホテル前で奇妙な物を見つける。

 

「……銀色の柱……ポルナレフか?」

 

「……ん?レオンか………怪我は大丈夫そうだな。流石は人外だ…もう追い付いたのか」

 

「あぁ………?」

 

 旅の仲間をホテル前で見つけ声をかけると、彼は覇気を失った雰囲気で煙草を加えていた。牙の抜けた猛犬のようで、別れる前の面影が格好以外無い。

 そして彼は煙草の火を消し、私の前に立って腰を折った……正直その頭で謝罪されても髪が邪魔だ……

 

「……すまなかった…」

 

「…………」

 

 その声は重く、低く、とても弱々しかった。

 

「一時の感情で俺は……みんなに迷惑をかけた……本当にすまない」

 

「……随分と丸くなったな。復讐を遂げて目が覚めたか」

 

「あぁ……レオン…この旅が終わったら案内してくれ……礼神の墓に………」

 

 ……ふむ…なんとなくだが話は見えた。

 ジョセフの事だ……そして相手は口の軽そうなポルナレフだ………

 おそらく適当なデマを伝えたのだろう。彼に深く反省させるためにも………いや、単なる悪戯な可能性もあるが………

 

「…私が今背負っているのが誰かわかるか?」

 

 おそらくポルナレフはこう伝えられたのだろう…

 「礼神は死んだ、レオンも重症…回復を兼ねてレオンは礼神を埋葬してから来る」……精々そんなところだろう。

 

「……………」

 

 ……うむ……たぶん当たりだ…彼の表情でそうだとわかる。

 最初は「何だソレは」程度の表情だったが、ソレが礼神だとわかった瞬間目を見開き、口を開け閉めしながら私と礼神を交互に見る。

 

「………は…………ハァァァァァァア‼︎‼︎⁇⁇、ゴッ⁉︎」

 

「五月蝿い……ほら…礼神が起きてしまった」

 

 咄嗟にポルナレフの腹部を蹴り上げて黙らせたが、ポルナレフの驚声(きょうせい)で礼神は目を覚ましてしまった。

 

「…ダ…だってよ⁉︎ なんで礼神が 「五月蝿い」 グハァ‼︎」

 

 また騒ぐかと思った瞬間、礼神が自身の右手を持ち上げ横に振るう。するとポルナレフの隣に現れたケルベロスが、ポルナレフに突進して突き飛ばした。

 

 ちなみにこの後ポルナレフは、礼神の生存を報告しようとしたが、無論…彼以外は生存を知っていたので、ポルナレフは結局、アヴドゥルに拳骨を落とされ悶絶する羽目になった。

 殴られた理由は「夜遅くに騒ぐな‼︎」とのこと………ちなみに礼神に気付くとアヴドゥルは、笑顔で「疲れただろう」「そこまで時間はないが少しでも休むといい」と言って、話を切り上げてくれる。

 

 そしてポルナレフは、自分の置かれた状態がわからないのか、混乱したまま廊下に取り残されることとなった。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 承太郎達と合流したその日……僕は布団に包まり幸せを感じていた。

 ここに来るまでは移動にばかり時間を費やし、睡眠は交代交代(レオンさんが寝た所は見てないが)…ちゃんとした休息は取れてなかったのだ。

 そんな後でベッドに横たわれば、たちまち僕は眠りに落ちる………でもそれもすぐに終わる。

 

「朝だぞ礼神」

 

「………………」

 

 まだ寝たいという気持ちをグッと抑え、僕は身体を起こした。

 

「おそらく謝罪の事だと思うが、朝食の場でポルナレフが話があると………近くのレストランに行くぞ…起きれるか?」

 

 怪我は問題無いと知っているのに、レオンさんは手を差し伸べてくれる。ありがたくその手を掴み、僕は引き上げられるように立ち上がった。

 そこで僕は気が付いた………

 

「レオンさん……もしかして寝てない?」

 

「…何故そう思う?」

 

「日本で初めてホテルに泊まった時……レオンさんの寝起きはキャラがブレてたから…」

 

「……確かに寝起きは辛いが、時と場合による。ちゃんと睡眠はとった」

 

 そう言ってレオンさんは荷物を持ち部屋を出た。それを見届けてから服を脱ぎ、僕はサラシを撒き直す。

 

「………よし行こう」

 

 

 

 

 

「おはよー」

 

 ホテルのチェックアウトを済ましてから、レオンさんに連れられて僕はレストランに向かった。

 既にそこには旅の仲間が集まっていた。

 

「葎崎さん、何事も無く合流できてよかった」

 

「背中の傷はもう大丈夫なのか?」

 

「レオンさんのおかげでね。深いから流石に跡は残るみたいだけど……」

 

「……その様子じゃやはり俺だけか……礼神の生存を知らなかったのは……」

 

 ポルナレフは額に手をやり項垂れる。しかしすぐに気を取り直し、静かに話し始めた。

 

「これで全員いるな……なら改めて謝罪させてもらう。本当にすまなかった」

 

 重苦しい声を口の隙間から漏らす…肩は僅かに震え、僕の方に頭を下げて来る。

 

「特に礼神とレオン……あんたらには酷く迷惑かけたと思う。復讐を終えた俺にはもう関係の無い事だと2人は言ってくれるかもしれねぇが、これからも旅に同行させてくれ……償いの機会を与えて欲しいんだ」

 

 レストラン内は賑やかだが、このテーブルだけは静まり返っている。その静寂を切り開く様に、まずレオンさんが口を開いた。

 

「断る。そして此方から頼もう……是非力を貸してくれ」

 

 レオンさんの妙な言い回しに一同の視線がレオンさんに集まる。

 

「償いの場は与えない……与えてしまえば貴様は、命を投げ出してまで戦ってくれるだろう。しかしそれは望まない……みんなで生きて帰る……だろう?」

 

 僕を横目にそう言うので、僕は首を縦に振り肯定した。

 

「うん……全員の生還…それが僕の当初の目的だから。それで良い? 皆さん」

 

「異論はねぇぜ」

「右に同じく」

 

 学生組に続き皆が頷いてくれたので、僕はポルナレフを見つめて彼の答えを待った。

 彼は少し驚いた様子で条件を承諾し、改めて仲間になってくれた。

 

「ヨッシャ!それじゃ早速予言に入ります‼︎」

 

「このコーナーも復活か…頼もしいな」

 

 アヴドゥルさんが鼻で笑ったのを最後に、僕は予言を始めた。

 

「次に遭遇する幽波紋使いは正義(ジャスティス)。無形の霧のスタンド…傷口に霧が触れると穴が空き、霧を糸のように通され操り人形になる。原作では承太郎のスタープラチナが吸い込んで、スタンドを押さえつけて窒息させてた」

 

「霧のスタンドか……殴れないし切れない……承太郎に相手をしてもらうか、本体を相手にするかですかね?」

 

 承太郎を見て花京院が提案すると、承太郎は座り直して話の先を呈した。

 

「本体はエンヤ婆っていう老婆。フィールドは道中にある墓場だと思う。土の下に眠っている死体は、全てジャスティスの操り人形……数の暴力でくるから、承太郎とアヴドゥルさん以外は下がった方がいいかも」

 

「それはなんでだ?」

 

「わからないのかポルナレフ。傷一つ負えない中、不死身の群衆を相手取るんだぞ⁉︎ 肉を切らせて骨を断つ勢いで奴らは襲ってくるはずだ」

 

 流石花京院、読みが鋭いね。

 

「戦闘モードになったらそうだろうね。チャリオッツで切ったところで襲われる。殴り飛ばせば距離を稼げるし、死体すら残らなければ大丈夫なはず」

 

「それで承太郎とアヴドゥルか」

 

「レオンさんも人外だからって過信しないでね?」

 

「肝に銘じておこう」

 

 そう言ってレオンさんはスカーフを巻き直して口元を隠した。食事を終えたからだろう。

 

「最初相手は宿屋を装ってホテルに案内してくる。それで部屋に案内してから確実に殺したかったんだろうね。できることなら話しかけてきた時、案内をしてる最中……とにかく卑怯でもいいから、無防備な所で沈めちゃうのがベストかな?」

 

 一通り話し終えて質問が無いか周りに聞くが特に質問は無いらしい。逆に知っておくべきことは他に無いか聞いてくる。

 

「そうだねぇ……あ、念の為にポルナレフは用心して」

 

「あん?そりゃどうしてだ?」

 

「エンヤ婆はJ・ガイルの母親だよ。J・ガイルを殺したポルナレフを酷く恨んでるは……ず…………どうしたの?」

 

 話の途中でポルナレフは僕から目を逸らす……というよりは承太郎に目線を移した。

 

「となると承太郎も恨まれてんのかなぁ〜って思ってよ。J・ガイルの野郎にトドメを刺したのは俺だが、ダメージを与えたのは8割承太郎だ」

 

「えっ⁉︎マジ⁉︎」

 

「そんな殴ってねぇ、7割だ」

 

 ……それでもポルナレフより多いんだね…

 ポルナレフの話を聞くと、怒りを募り募らせた承太郎は、反射物を移動する瞬間に時を止めて殴り飛ばしたそうで……

 光を殴り飛ばすってできんの?とも思ったが、できたんだからできるんだろう…ハングドマンがそこまで光の性質を持ったスタンドでは無かったって可能性もあるし。

 

「んで本体を見つけると、トドメを俺に譲るまではラッシュを連発……正直な話、妹の仇に同情することになるとは思わなかった」

 

「ご…御愁傷様だね。確かに…」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 礼神の予言と朝食を終え、我々は車に乗り込みカラチへ向かう。

 6人乗りの大型車な事もあって全員乗れるが、1列だけ3人並ばなければならないので少し狭い。

 ちなみに運転手はポルナレフ、助手席に監視を兼ねて承太郎が乗っている。真ん中の列にはジョセフとアヴドゥル…後方には小柄な礼神と、他と比べれば細身の花京院と私が乗ることになっている。

 

「まだ霧は出てねぇな。まだまだ先か?」

 

「たぶんね。ガードレールないから気を付けてよ?」

 

「わかってるって」

 

 得意げにハンドルを切って山道を安全に進む。

 そんなポルナレフの口調は前と同じで、礼神の接し方も前と何ら変わりなかった。

 

「……思いの外、礼神はすんなりと許すんだな…」

 

「え?」

 

「自分が死に掛けたというのに、何事も無かったかの様に話すからな……つい…な」

 

 アヴドゥルが振り向きそう言った。

 それは私も少し気になるところだ。

 

「あぁそゆこと…原作を読んでたからこうなる事も想定してたし、いつまでも咎めても良いことないしね」

 

「俺も気軽に話していいのかちょっと思った。ここ数日みんな冷たかったし…」

 

「ポルナレフは弄られ要員だからね」

 

「それなら仕方ない。それに葎崎さんが生きてたから良かったが、万が一の事があったら僕もポルナレフに酷い仕打ちをしたかもしれない」

 

 割と和やかに会話していると、花京院がそんな事を言うので苦笑いを浮かべ、バックミラー越しにポルナレフが質問する。

 

「おいおいマジかよ。ちなみにどうするつもりだった?」

 

「そうですね。ひとまず…………(あや)めたかもしれません」

 

 ……何故か後半のセリフが流れてる間だけ、車内に冷気が雪崩れ込んだ気がした。気のせいでなく皆もそう思ったのか、冷や汗を浮かべて花京院を見る。

 

「………ハハッ、嫌だなぁ。冗談ですよ冗談!」

 

 戯けた様子で笑ってそう言う………が

 

「………目が笑ってねぇぜ、花京院…」

 

 承太郎の台詞を最後に皆が花京院から目を逸らした。本当に花京院の目がマジな眼光だったからだ。

 そして目が笑っていないのはポルナレフも同様……花京院から目を背け、死んだ魚の様な目をして運転に専念し始めた。

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