ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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35.正義を狩り殺す死神

 国境近くの町を出発してから、かれこれ数時間……

 車外はいつの間にか霧に覆われ、このままでは高確率で事故を起こしてしまうだろう。

 そう思った矢先、礼神が私に声をかけてくる。

 

「霧出てきたね……どう、レオンさん」

 

「……気持ち悪いな。巨大な生物の中にいるみたいだ」

 

 スタンドエネルギーの特徴を覚えた私は、W-Refを出していなくとも、半径1〜2m以内であればスタンドに気付けるようになっていた。しかしこれはON.OFFが無いので、現状…少し落ち着かなかったりする。

 

「霧そのものがスタンドだからか……全方向から同じエネルギーを感じる」

 

「街が見えてきたぜ」

 

 目を凝らし運転するポルナレフがそう言うと、確かに前方の崖下に僅かな明かりが見える。しかし承太郎は眉間に皺を寄せ難しい顔をする。

 

「…おい……なんかおかしいぜ」

 

「そりゃ町全体がスタンドだから……」

 

 やがて、直進する道と崖下の町に降りる道の分岐点に差し掛かる。すると…………

 

「ポルナレフ‼︎ 危ないッ⁉︎」

 

 承太郎と礼神の会話を遮りアヴドゥルがそう叫んだ。

 前方の異変に気付いたポルナレフはブレーキを踏み込む…しかしスピードを殺しきれず、突如現れた何かにぶつかり掛ける。

 

星の白金(スタープラチナ)‼︎」

 

『オラァ‼︎』ドゴン‼︎

 

 咄嗟に承太郎がスタンドを使って衝突を免れる。

 しかし星の白金(スタープラチナ)の力で殴り止めたので、ジープは慣性の法則で後ろに下がる。

 すると更に……

 

 ーーードゴン‼︎ドゴォン‼︎ーーー

 

「ポルナレフ。バック、バック‼︎」

 

「お、おぉ‼︎」

 

 響く轟音に驚きながらもジープを更に後退させる。

 爆音が止み、先程までいた場所を確認すると、そこは大岩が崩れて塞がれていた。

 

「一体何が? 新手の幽波紋使いか⁉︎」

 

「……いや…崖崩れだ。我々が通ろうとした時に偶然?……おそらく人為的なものだろう。少し調べてみる」

 

 皆にそう伝えてからジープを降り、私は崩れて来た岩に登り崖を見上げる。

 そこには幾つもの丸い大岩と人影が複数……そして直進する道には、その所為で崩れた岩がいくつも転がっていた。

 

「……なるほど…」

 

「レオン。崖の上に誰かいるぜ…大岩を今にも転がしてきそうだ」

 

「あぁ、私にも見えているよ」

 

「流石主人公と人外…この霧の中よく…」

 

 礼神がそう呟き、私は岩から降りて皆の元へ戻る。

 既に各々がジープから降り、私の口から出る説明を待っている感じだ。

 

「どうじゃった?」

 

「直進する道は塞がれている。が、町へ降りる道は残されている。恐らく岩を撤去して、下の町を無視して進もうとすれば上の連中が岩雪崩を起こしてくるのだろう」

 

「つまり誘導か」

 

「あぁ。安全に通りたくば、私を倒して行け……という意味を持った、宣戦布告のようなものだ」

 

 説明を終えると、そのタイミングでアヴドゥルが私の肩を掴んでくる。彼は何やら企んでるような笑みを浮かべている。

 

「…では…我々も挨拶代わりに」ニッ!

 

「………そうだな…なら…」

 

 「「持てる限りの…最大火力で‼︎」」

 

魔導師の赤(マジシャンズ・レッド)‼︎」

 

真珠色波紋疾走(パールホワイトオーバードライブ)‼︎」

 

 景気の良い声が2人分響き、爆炎とプラズマが狙いも付けずに放出された。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「ギャッ⁉︎」カラン カラン……

 

 同時刻…場所は変わって何処かの室内……

 明かりと呼べる物が無い暗い部屋には1人の老女がいた。そしてたった今、短く唸ってから持っていた杖を落とす。

 

「わ…わしの右手に小さな火傷が………さては、アヴドゥルの仕業じゃな⁉︎」

 

 老婆の名はエンヤ婆。正義の暗示を持つ正義(ジャスティス)の幽波紋使い……

 いくら彼女のスタンドが霧だからと言って、いかなる攻撃も効かないわけではない。

 霧とは即ち水蒸気……水であればもちろん熱を持ち、霧のスタンドであれば、炎のスタンドで熱することが可能。

 

「ジャスティスは墓地中に拡散しておる……じゃから一部を熱されても ちぃーさな火傷で済んだ。じゃが何度も繰り返されて眼を焼かれたりしては敵わん……止むを得ん…ジョースターどもからは霧を引いておくかの。霧で触れるのは傷を負ってからで構わん」

 

 そう言って火傷を負った部分を摩り、エンヤは杖を拾い上げる。すると手が僅かに痙攣し、杖を拾うのに一瞬苦労する。

 

「火傷は間違いなくアヴドゥル……じゃがこの痺れは?…電気を使うスタンド…そんなもんジョースター共にはおらんかったはずじゃが…………なるほど…波紋じゃな?」

 

 その痺れの正体は波紋……

 波紋は水中をより強く伝わる……ならば波紋の規模さえ大きければ、雨雲から落ちる落雷のように、空気中の水分を伝い駆け巡るのだ。

 もっとも水中と違い、水分の間隔も均等でない空気中では、波紋は明後日の方向に飛んで言ってしまう。

 

「ジョセフは老ぼれ。そんな波紋は練れぬ……ならばレオン様じゃな。ヒヒッ‼︎」

 

 不気味に笑うとエンヤは、老婆とは思えぬ脚力で部屋を飛び出して階段を駆け下りる。そして懐から注射器を取り出し、忌々しそうにそれを見つめた。

 

「おぉんのれぇ伊月ィィィ‼︎ あたしゃの息子…J・ガイルを見捨ておってからに〜〜。クキーーーッ‼︎ じゃが彼奴のスタンド能力が仇を討つ確率をグッ…と上げるのも確か。力を借りるのも虫酸が走るが我が子とDIO様の為じゃ……復讐リストの最後尾に棚下げしてやるわい‼︎」

 

 結局は殺すと決めつつ、その建物のロビーで足を止め、エンヤは己のヨボヨボの首筋に注射器を突き刺した。

 

「グゥッ……コレは………キェェェェエエーーーー‼︎‼︎」

 

 高らかに奇声を上げると、霧の密度が濃くなる。

 エンヤの頭上では髑髏を模った霧が渦巻き、扉を壊す勢いで建物を飛び出した。

 

「あたしゃの可愛いJ・ガイル…清く正しいお前が死ぬなんてきっと卑怯な手を使われたんだろうねぇ〜。今あたしゃが仇をとってやるから、待っといておくれよぉぉぉぉお⁉︎」

 

 血走り焦点の定まらない目が、遠くからジョースター達を捉える。そして今にも口が裂けそうな程に口角を吊り上げ、スタンド能力を酷使し始めた。

 

正義(ジャスティス)は勝つ‼︎」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「ん?今なんか聞こえなかったか?」

 

「なんかって……何さ?」

 

「なんていうか……蝙蝠が苦しむような、キィーって感じの」

 

「言われてみれば聞こえたような…聞こえてないような」

 

 ポルナレフがそう言うので僕が質問すると、花京院まで聞いたかもしれないと告げてくる。

 確かに僕も聞こえた気がするけど……

 

「気のせい…ではないかな。2人以上聞いてるし」

 

「それよりコレは………一体全体、どういう事だ?」

 

 先頭を歩いていたレオンさんがそう言って、前方に注意を払いながら顔だけこちらに向ける。

 

「それは僕が聞きたい。アニメでは人っぽく動いてたけどな………」

 

 ジープを置いて僕らは、エンヤ婆を倒すべく町へ降りた。霧が立ち込むその町に足を踏み入れると、そこには多くの住人……もとい、土の下で眠っていた亡者達が整列していた。

 

 そう……整列していたのだ。

 

 住人のように歩き回ったり、小声で話し合う素振りなんかも見せない………オマケにキチッと整列はしているが、個々が時折崩れ落ちたり、激しく痙攣したりしている。

 

「初見でも既に人では無いとわかりますね」

 

「だね花京院……でも何で?」

 

「礼神は伊月に狙われていた。おそらく向こうは、礼神が予言者だと知っているのだろう。手の内がばれているなら、わざわざ下手な芝居はしない」

 

 僕の問いにレオンさんが答えてくれる。

 でもこれからどうすればいいんだろう……現状僕らは、レオンさんとアヴドゥルさん、承太郎の3人を先頭に道を塞ぐように整列した亡者達と向き合っている。

 

 亡者達が襲って来る様子は無い……引き続き痙攣したり、崩れ落ちたり立ち上がったりを繰り返すだけだ……

 

 そんな亡者の群れの中から、突然1人の老婆が現れた。

 

 …………エンヤ婆だ…

 

「これはこれはジョースター御一行の方々…お待ちしておりましたよ?首を長ァ〜〜くしてねェッ!」

 

『オラァ‼︎』

 

「……やれやれ、最近の若いもんは…落ち着いて話もできやしない」

 

 すかさず承太郎が石ころを投擲するが、亡者達が肉盾となりエンヤを守る。

 肉盾となった亡者は、体内に石が減り込んだが相変わらずの様子だ。

 

「貴様が落ち着いて話だと?話すような事はない……そもそも話せるような心境ではなさそうだが?」

 

 見下す様にレオンさんがそう言う。

 確かにエンヤの目は血走り、常にワナワナと震えている。

 しかしエンヤは、そんな様子とは打って変わり 落ち着いた声で話しかけてきた。

 

「よくわかりましたねぇ。では…お二人を残して殺してから、ゆっくりとお話をしましょうかの。ヒッヒッヒッ!」

 

 不気味に笑うと立ち込んでいた霧が更に濃くなる。

 そして杖を振って先端をこちらに向け、エンヤは品を捨てた様子で叫んできた。

 

「ブチ殺セェェア‼︎⁉︎ 巫女とレオンの2人を残してブチ殺すのじゃぁぁあ‼︎‼︎‼︎」

 

 エンヤの叫び声と共鳴するように叫び、亡者達が数の暴力で襲い掛かって来る。

 でもやはり痙攣してた者は痙攣を止めず、人型にしては不恰好な走り方でやって来る……まるで映画に出てくる、人間性の低いゾンビみたいだ。

 

「わかってるな⁉︎承太郎‼︎」

 

「わかってるぜアヴドゥル。星の白金(スタープラチナ)‼︎ ザ・ワールド‼︎」

 

 そう承太郎が言ったかと思うと、次の瞬間…最前列で襲い掛かって来ていた亡者達が一斉に吹き飛ぶ。

 

「次はテメェの番だぜ」

 

「ヌゥン、魔導師の赤(マジシャンズ・レッド)‼︎ クロス・ファイヤー・ハリケーン……」

 

 魔導師の赤(マジシャンズ・レッド)から無数のアンチ型の炎が射出され、前方を幅広く燃やす。

 

「スペシャル‼︎」

 

 最後の言葉と同時に炎の火力が更に上がると、凄まじい熱気と火柱が亡者どもを包む。

 跡形も無く燃やしたと思い、ホッと一息つくと、炎の壁を越えて何かが飛んで来る。

 

「ジャスティスがパーティーを開きたいとさ?」

 

「な、何〜〜⁉︎ こいつら空も飛ぶのか⁉︎」

 

 飛んで来たのは亡者達だった。

 原作では術に掛かったポルナレフが天井に叩きつけられていた。穴から霧が糸のように通っているのだ……確かに飛ばすくらいなら、できる可能性が高い。

 

「僕に任せろ‼︎ 法皇の緑(ハイエロファントグリーン)‼︎」

 

 宙を飛んでくる亡者が宝石を打ち付けられ吹き飛ぶ……花京院は数撃ちゃ当たるの戦法ではなく、吹き飛ばせるだけの力を発揮できるよう、一体一体に密度の高いエメラルドをスプラッシュさせているようだ。

 

「次はこれじゃぁァァァア‼︎」

 

「うげっ⁉︎ 今度は飛び道具かよ‼︎ 銀の戦車(シルバーチャリオッツ)‼︎」

 

 前方とは別の位置から矢が飛んで来る。どうも伏兵が周囲を、遠くから囲んでいるらしい。

 しかしその矢は真っ二つに切断され、次々と地面に落ちる。

 

「ホル・ホースの銃弾じゃあるめえし、斬り落とせないわけが無い」

 

 甲冑を脱いだ銀の戦車(シルバーチャリオッツ)の速さは、相変わらず異常だった。

 彼のスタンドの残像が僕らの周囲を外向きに囲み、飛び道具を全て切り落としていたのだ。

 

「やるな、ポルナレフ」

 

「だがこれじゃ防戦一方だぜ⁉︎」

 

 目も向けずにそう言う。

 

「なら今度は僕が‼︎」

 

 ケルちゃんを出して暴れさせようとすると、後ろから車のエンジン音が聞こえる。

 

「あれは!ワシらのジープじゃ‼︎」

 

「ケルちゃん‼︎」

 

 攻撃させずに防御に転じ、ケルちゃんがジープに衝突……フロントバーあたりを噛んで押し返し、力比べをする形になっている。

 

「むぬぬ……あ!」

 

 運転席以外に乗っていた亡者達が立ち上がり、両手で二丁の拳銃を構える。

 トリガーを引かれ発砲音が響くと、それがジョセフさんに被弾する。

 

「ジョースターさん⁉︎」

 

「安心せい…当たったのは義手じゃ」

 

 掲げた左手の義手は、銃弾によって薬指を破損させていた。ギクシャクした動きで握る開くを繰り返してから、ジョセフさんはスタンドを出す。

 

紫の隠者(ハーミットパープル)‼︎」

 

 右腕から出た棘が、ジープに乗っていた亡者達から銃を奪う。奪い上げられ宙を舞う複数の銃……それは空中で停止し、銃口をエンヤ婆に向けたまま暴発した。

 

「え⁉︎ 何々⁉︎」

 

「……ダメだな。肉盾が邪魔だ」

 

 所々を逆立てたような髪をしたレオンさんがそう言う。

 これレオンさんがやってるの?

 

「いやはや、お見事ですじゃ。その息ピッタリな共闘…敵ながら感心しますじゃ」

 

 にこやかに笑うエンヤが何故か拍手を送っている。原作のブチ切れた態度とだいぶ違うのでそれが不気味だ……まさか、まだ何か策があるの⁉︎

 

「あたしも仲良く共闘してくれて助かっておりますじゃ……一ヶ所に固まってくれてのぉ〜〜ッ‼︎」

 

 そう言って勢い良く杖を振り上げる。

 すると今まで立っていた大地が霧散し、突如 浮遊感に襲われる。

 

「ヒャハハハ‼︎ そこには元々()があったんじゃよ‼︎ そこにジャスティスで蓋をしていただけじゃ‼︎ ヒッヒッヒッ‼︎ まんまとかかりおってぇ〜‼︎」

 

 花京院の法皇の緑(ハイエロファントグリーン)は空中を飛ぶ亡者を相手にしていたので、咄嗟に落下回避行動をとるのは不可能……

 承太郎は己を助ける術はなかったが、隣にいたアヴドゥルを星の白金(スタープラチナ)で地上へ投げる。

 レオンさんは穴の側面に腕を突き立てて静止……ジョセフさんは僕を抱え、紫の隠者(ハーミットパープル)をケルちゃんの尻尾に巻きつけて落下を回避した。

 

(お尻がぁぁぁァァァア‼︎⁉︎)

 

「承太郎‼︎ ポルナレフ‼︎」

 

「花京院‼︎ 捕まれ‼︎」

 

 承太郎とポルナレフは敢え無く落下…花京院もレオンさんに手を伸ばしたが届かずに落下してしまった。

 

「う、うわぁぁぁあーーーーッ‼︎」

 

「よ、よるな‼︎ やめろ‼︎」

 

『オラァ‼︎ オラオラオラオラ‼︎』

 

 穴の下には亡者が隙間無く、生えるように手を伸ばしていた。落下して来た3人を受け入れ揉みくちゃにされている……まさに地獄絵図だ。

 

 少しして承太郎がスタンドで押し退け助けたが、時既に遅く、3人とも怪我を少なからず負ってしまった。

 

「ヒッヒッヒッ‼︎ 全員とはいかなかったが、お前達を嵌められて満足じゃよ‼︎ 承太郎〜ポルナレフ〜〜⁉︎」

 

 猟奇的な笑みを浮かべてエンヤが見下し、スタンド能力で3人を術中にはめた……そのうちに僕らは地上に這い上がる。

 

「ぬぅん…せい‼︎」

 

(お尻がぁァァァア‼︎)

 

 ジョセフさんは僕を抱えたまま棘を手繰り寄せて上り、レオンさんは穴の側面に足を突き刺し、歩く様に這い上がってくる。

 凄い……壁歩きを生で見れるなんて……

 

「アヴドゥルは無事か⁉︎」

 

「え、えぇ…私は何とか……そっちは?」

 

「……一応大丈夫だよ」

  (お尻がぁぁぁあ゛‼︎)

 

 上りきったジョセフさんがスタンドを消し、周囲を確認すると亡者達は動きを止めていた。次に承太郎達を確認しようとすると、3人が宙を浮いて上がってくる。

 

「う、グッ……」

 

「承太郎‼︎ 花京院‼︎ ポルナレフ‼︎」

 

 心配の声をジョセフさんが上げ、レオンさんがすかさず攻撃をしようとする。

 

「レオン様‼︎ そんな怖い目をしないでくだされ…驚いて殺めかねます。ヒッヒッヒッ」

 

 「この3人は人質だ」と言わんばかりに、エンヤは3人を高い位置に移動させる。それを見てレオンさんは目に圧をかけるのを止める、エンヤはまた口を開いた。

 

「レオン様、巫女殿……もしもお二人が我々の仲間になるというなら、花京院だけは命を保証しましょう。どうなさいます?」

 

「……僕らをどうする気?」

 

 血走った目で笑いかけながら、エンヤは質問に答えてくれる。

 

「巫女殿には我々の未来を予言してもらいましょう…そしてDIO様はレオン様に興味がおありです。別に酷いことは致しませんよ?レオン様は最悪……生きてなくとも問題ありませんがのぅ」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 どうしたものか……まさかここまで強力なスタンドだとは……W-Refはスタンドエネルギーを全方位から感知していた。それでも注意深く警戒すれば、落とし穴の蓋くらい気付けたかもしれない……クソ…

 

「どうしよう、レオンさん」

 

 不安そうな目で私を見上げてくる…ジョセフ達は何も言えず歯を食いしばっている。承太郎達はというと……

 

「断れレオン‼︎ 俺たちの事はいいから早くこいつを…」

 

「黙ァットレイ、ポルナレフ‼︎」

 

 7mほどの高さからポルナレフが地面に叩きつけられ、土に塗れる。そして落ちてきたポルナレフを何度も踏付け、エンヤは高笑いしている。

 

「この婆ァ……」

 

「レオン!抑えるんじゃ‼︎ 今は……」

 

「わかっている‼︎」

 

 少しでも怪しい行動を取っては誰かが殺される……どうする? 仲間になると言っても、その途端に承太郎とポルナレフは殺されるかもしれない………

 

 

 

「…………わかりました。僕は仲間になります…」

 

 

 

「ッ⁉︎」

 

「葎崎‼︎ よせ‼︎」

 

「よすんだ葎崎さん‼︎」

 

 礼神がエンヤの目を見てそう告げると、人質組がそれを止めようとする。しかし花京院も承太郎も、ポルナレフの様に地面に叩きつけられて口をつぐむ。

 すぐさま承太郎は星の白金(スタープラチナ)を使おうとするが、霧に引っ張られて叩きつけられる。

 

「承太郎‼︎」

 

「葎崎…テメェ……ウグッ⁉︎」

 

 何か言おうとしたところを、エンヤが杖で殴りかかり黙らせる。

 

「散々息子を殴りおって…こんなもんじゃ あたしゃの気は収まらんわ」

 

 手足に空いた穴が、千切れんばかりに承太郎を引っ張る。

 墓石の角、地面、ポルナレフ、様々な物にぶつけられ出血も酷い……

 

「もう止めて‼︎ 仲間になるからさ‼︎」

 

 堪らず礼神が声を荒げ、エンヤはにんまりと笑う。

 そして人質3人をさっきの高さに戻した頃に、礼神が口を開く。

 

「でもまだ誰も殺さないで」

 

「……なんじゃと?」

 

「承太郎の能力は知ってる?」

 

「もちろんじゃ…DIO様と同じ、時を止めるスタンドじゃろう? 時を支配するお方はDIO様だけで十分」

 

 そこまでバレてしまったか…ホル・ホースが目撃しているのだ、無理も無い。

 

「承太郎の血はジョースター家の血……しかも同じタイプのスタンド……彼の生き血はDIOを飛躍的に強くする。そして…これから話す事が命運を分けるね……DIOの敵は僕らだけじゃない。その別勢力を倒すためには承太郎の血が必要…」

 

「なんじゃと⁉︎」

 

 我々以外に警戒する者の見当がつかなかったからか、エンヤは驚いた様子を浮かべる。

 そしてそれを事前に聞かされていない我々はある事に気付く。

 

(そんな者がいるなら、葎崎さんは事前に言ってくれているはず……)

 

(それを聞かされてねぇってことは……)

 

(礼神……策があるのか?)

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 凄いプレッシャーだ。

 ちょっと前までは普通の女子高生だった僕には少し重いかもしれない………けど、それとは裏腹に高騰している。

 不謹慎だけど……この人を倒し、役に立つ事を僕は楽しみにしている。

 腹を括った……だが気持ちだけでは足りない……実績……実績が必要なんだ。覚悟というのは退路が無くなることで初めて本領を発揮する……もう日常に戻れなくてもいい……それじゃダメだ……()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……詳しく話を聞かせてもらおうかえ?」

 

 僕とエンヤの間にいる亡者が道を開けて僕に耳を傾けてくる。

 後はなんとかして至近距離でコレを使えば……

 落とし穴に落ちる直前……宙に浮いていた拳銃は、僕らと共に落下した。その一つを僕は手に取り隠し持っている。

 

 この重いプレッシャーを今後も背負うなら、せめて気を軽くしておきたい……少しくらい吹っ切れておきたい……

 日常に戻れないように…後戻り出来ないように……僕はこれから、人としての罪を犯す……そして仲間と肩を並べる。

 

「ほれ、話してみぃ。嘘やデマカセを言うようだったら1人殺すからね」

 

  (うん……どうやって近づこう)

「……僕は完全に裏切る形になる…できればエンヤ婆以外に聞かれたくはない……耳打ちじゃダメ?」

 

 僕がそう言うと疑い深い目を向けてから笑顔を見せる。

 

「ええじゃろう。ただし……ソレは捨てなされ」

 

「…………」

 

 ソレ……拳銃の事はバレてるみたいだね。

 …う〜〜……こういう小細工はジョセフさんの得意分野だからなぁ……

 

「………はい……これで良い?」

 

 少しもたついてから、拳銃をあらぬ方向に投げ捨てる。

 本当は全弾抜いてマガジン取り出してカチャカチャ〜みたいな映画っぽい事したかった……

 

「礼……神………」

 

 不安そうに上空のポルナレフが見下ろしてくる。

 問題はあの3人だよね。高い位置で宙吊り…しかもスタンドが出せなくなるまで、さっきまで叩きつけられて重症だ。

 エンヤを今倒すと落下死するね。

 

「僕に期待しないでよ。これから僕はみんなを裏切る。そもそもケルちゃんはジープの所で待機させてるから何もできない……僕じゃ君達3人を助けられないんだから……」

 

 そう言ってからエンヤの元まで移動すると、数人の亡者が僕に拳銃を向ける。

 

「…………」

 

「怪しい動きをした時の為じゃ……何を恐れておられる?仲間になるなら何の問題もございませんじゃよ。さぁ巫女殿………」

 

 用心深いね……銃を構える亡者とは別に、ナイフを持った亡者が僕の前に立ちはだかる。

 僕は逆らう事もできずに亡者の施しを受ける……亡者は僕の腕に傷をつけようとした。

 

「…やっぱ待って!怖い‼︎」

 

「………仕方ありませんねぇ…まぁよくよく考えてみれば巫女殿も女子(おなご)。耳で勘弁しますじゃ」

 

 えぇ〜受験の内申に響くじゃんかよ馬鹿野郎。

 できれば術には嵌りたく無かったんだけど……回避できないか………

 僕は耳朶(みみたぶ)を傷つけられその部位に穴が空く。

 

 正直な感想………凄く痛い………地味に凄く痛い……

 前世でピアスホール開けたの思い出すなぁ……当時は学生で父と姉にしこたま怒られ、結局付けることはできなかったんだよね…

 

「こ……これで良い?」

 

「念には念を……」

 

 最後に亡者は僕をボディーチェックを施し、丸腰であることを確認する………何故かこの時上空から殺気を向けられた気が………気のせいかな?

 

「巫女殿のスタンドはあちらにおられますね?さて、大変お手数をおかけしました。それでは予言を……」

 

「うん…にしても僕とレオンさんに敬語なんだね」

 

「客人として招くよう言われましたのでねぇ…ささ、予言を!」

 

 時間稼ぎは無理か……する必要もなないけどね……

 

「……耳かして…この情報はDIOの強化と命を左右する。そしてジョースターの方達には絶対に聞かれてはいけない」

 

 警戒心を完全に解いて耳を傾ける。

 もちろんほとんど嘘なんだけどね……みんなに絶対聞かれちゃいけないのは本当だけど。だって……

 

 

 

 もし聞かれたら全員死んじゃうし……

 

 

 

「さよなら……糞ババァ」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「…やっぱ待って!怖い‼︎」

 

「………仕方ありませんねぇ…まぁよくよく考えてみれば巫女殿も女子(おなご)。耳で勘弁しますじゃ」

 

 術にかかりたくなかったのだろう……苦し紛れの言い訳をするが、エンヤは妥協して耳に穴をあける。ピアスの穴のようだな。

 

(僕じゃ君たち3人を助けられない……か……。人数を3人に限定したという事は……おそらくエンヤを倒せても、宙吊りの承太郎達の救出はできない…という事か……)

 

 これは我々に向けたメッセージか……エンヤが倒れれば承太郎達はもちろん落下する。それを受け止めるのが我々の役目か………ん?

 

「念には念を……」

 

 亡者が礼神をボディーチェックすると、苦しそうだった花京院が鬼の形相を浮かべて亡者を睨み始める。

 ………薄々気付いてはいたが、今はそれどころではないだろう 花京院。

 

  (にしても礼神……スタンドも使わずどうやって?)

 

 やがて礼神はエンヤの耳に口を近付ける。

 口に手を当てて耳打ちする姿におかしな点は無い……と思っていると、エンヤが白目を剥いて前のめりに倒れる。

 それと同時に礼神も倒れるが、こっちはすぐに起き上がる。

 

「………は?」

 

「3人を受け止めて‼︎」

 

「は、え、あ、紫の隠者(ハーミットパープル)‼︎」

 

 呆気にとられていたジョセフが承太郎とポルナレフを受け止め、私は花京院をW-Refで受け止めた。

 

「みんな、怪我はない?」

 

 動かなくなった倒れた老婆を尻目に、礼神は我々の元に小走りでやってくる。

 

「あ…あぁ…………死んだ……のか?」

 

「きっと、高確率で、99%、おそらく……多分死んでるよ」

 

「なんだその不安を煽る言い方は……」

 

 アヴドゥルが不審に思いそう言うと、ジョセフはエンヤを見てから礼神を見た。

 

「一体どんなトリックじゃ?」

 

「………ジョセフさんの紫の隠者(ハーミットパープル)は蔓の形をしているから、棘を食い込ませてダメージを与えられる………でも能力は念写だよね?」

 

「……そうじゃが?」

 

 急にそんな事を言うので、ジョセフは肯定しながら首を傾げる。

 

「レオンさんも……W-Refは手袋とブーツだから己の身体で攻撃できる……でも能力はエネルギーの吸収と放出だよね?」

 

「そうだ…」

 

 似た事を私にも言うと少し俯き、礼神はゆっくりと説明してくれた。

 

「僕のケルちゃんも同じ……デザインの関係で 肋骨を開けたり尻尾が取れる………でも能力は別にあるんだ…」

 

 そしてエンヤの死体の方に振り向き至極簡単に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死を体験させる能力……って言うべきかな」

 

 

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